10.14狭山差別裁判の再審めざす荒川集会

来年の正念場に向け、今から闘いを
緊急署名運動を全力で取り組もう

 10月14日、東京・荒川区の「サンパール荒川」で、「狭山差別裁判の再審を勝ちとろう!」と訴える集会が開催された。主催は部落解放荒川区民共闘会議。集会は主催団体の年次総会も兼ね、会員ら約50人が集まった。
 狭山事件発生からすでに59年、無実を訴え続ける石川一雄さんは83歳になった。去る8月29日、狭山弁護団は11人の鑑定人尋問(証人尋問)と万年筆のインキについての鑑定を求める「事実取調べ請求書」を東京高裁(大野勝則裁判長)に提出した。
 同会幹事会の高羽圭子さんが司会を務めた。最初に議長の坂本繁夫さんが、第7回総会としての基調提起を行った。「私たち区民共闘会議は、狭山再審を求め昨年9月から『狭山23デー』を復活させ毎月1回、駅頭などで情宣活動を行ってきた」。
 「『事実調べなくして、再審なし』を合言葉に、新署名運動を大きく広げ、東京高裁に事実調べを求める声を認識させましょう」と訴えた。この1年間の活動報告では、「23デー」はじめ、各地で開かれる狭山集会や情宣に精力的に参加したことが確認された。
 石川一雄さん、佐智子さんからのビデオメッセージの上映が始まった。

石川一雄さ
んの発言
 今日はリモートですが自分の元気な姿を見てほしい。弁護団は8月29日に申請を出した。最後の闘いではないか。この石川一雄は50年近く無実を訴えてきた。警察がいかにねつ造したか。今回申請したインキの鑑定を職権でやってもらえれば、私の無実が明らかになる。裁判所は弁護団の証拠を精査して鑑定人尋問をやってほしい。裁判官が判断しない限り、「殺人者」というレッテルを剥がすことはできない。証拠開示で取り調べの際の録音テープが出されたが、とぎれとぎれの断片であり、私が長谷部警視(当時)に誘導された部分が録音されていない。
 来年初めにも裁判所は結論を出すだろう。やっとこれだけの証拠を開示させたのだから、裁判官は多くの傍聴人の前で勇気ある決断をしてほしい。来年は84歳になる。
 私が元気な間に無罪を勝ち取るように、職権で鑑定をしてほしい。全国の皆さまの今まで以上のご支援を心から願っています。

石川佐智子
さんの発言
 狭山闘争59年の闘いもいよいよ大詰めだ。9月1日に51回目の3者協議があった。その後の記者会見の中で「何としても鑑定人尋問をしてほしい」と訴えた。今年9月から11月の闘いがこれからを決定づける。
 来年は事件から60年、勝負をかける時だ。皆さんにこれ以上お願いするのは心苦しいが、これからが本当の正念場だ。細心の注意で闘っていく。11月下旬には52回目の3者協議が予定されている。10月29日の日比谷野音集会に参加してください。心からご支援をお願いします。ありがとうございました。

 河村さんの

的確な講演
 狭山弁護団の河村健夫弁護士の講演が始まった。河村弁護士は持参したパソコンにスライドを写し、請求した鑑定人尋問の内容について、かなり詳細な解説を加えた。(別掲参照)
 河村弁護士は東京多摩地区の生まれ。2000年に弁護士登録をし、当初は労働事件、刑事事件、ホームレス支援などを手掛けた。後に福祉関係の事件にも係わる。この分野で大正大学非常勤講師も勤めている。狭山弁護団には第3次再審請求から加わった。
 講演の後に、会場からの質問を受けつけた。「死斑の問題が出たが、それによって被害者の死亡時刻が明らかになり、石川さんの犯行だとする矛盾が突けないか」。
 「石川さんの体格体力では、被害者を運べないのではないか」。また、「支援者による現調や検分で無実を確信することが重要だ」等の意見が出された。

地域からの
  アピール
 共闘団体からのアピールが始まった。「平和憲法を守る荒川の会」の森本孝子さんは、「私たちも先月、年次総会を開いた。そこで発言された解放同盟荒川支部の小野崎篤さんの発言に強い熱意を感じた」。「いま憲法がズタズタだ。戦争は最大の人権侵害だ。何とか戦争を止める運動を、皆さんと共にやっていきたい」。
 「ほしのいえ」の三上一雄さんは、「ほしのいえは山谷で平らな関係をめざして活動している。今日先生の話を聞いて学習は必要だと感じた。みんなで力を合わせていきましょう。12月7日にはムーブ町屋でコンサートをやります」と話した。
 「脱原発オール荒川アクション」の久保清隆さんは、「原発稼働ルールの廃止や新原発の開発を、岸田首相は突然言い出した。これは『原発回帰』どころの話ではない。この暴走をいかに止めるか。いま私たちが抱えていることを地道に続けるしかない」。

  街の風景に
溶けこむ闘い
 集会も終盤にさしかかり、三井峰雄さんが行動提起をした。
 まず、「狭山事件の再審を求める市民の会」(鎌田慧事務局長)が決定した「事実調べ鑑定人尋問を求める緊急署名」の取り組みだ。10月26日(中央本部必着)が第1次集約となる。さらにこれまで同様、東京高裁宛のハガキ運動も呼びかけた。「私たちの毎月のスタンディングは街の風景に溶け込み慣れてくる。毎年毎年『正念場だ』と言っているが、今が本当の山場だ」と三井さんは語った。
 解放同盟荒川支部の小野崎篤さんが閉会のあいさつをした。「今日はわかりやすい話だった。特に支部員の皆さん、そして共闘関係の皆さん。あと一歩だ」。「権力は我々が隙を見せると、必ず悪い方向に向かう。来春と言わず今日から、今から闘っていきましょう。今日は本当にありがとうございました」。

権力犯罪を絶
対に許さない
 河村弁護士の今回の講演には、とても熱がこもっており、詳細で精緻な内容だった。紙面の都合で省略する部分も多くあった。再審実現への闘いは身近なところで頻繁に行われている。
 世論の非難をかわすために、警察と国家のメンツのために、1人の青年が殺人犯に仕立てあげられた。厳しい差別によって学習の機会を奪われ、極貧の生活に耐えた家族たちは、温かい心で一体になっていた。刑事たちはそんな石川家に容赦なく踏み込み、一雄さんを連れ去っていった。見せかけの釈放の直後に再逮捕し収監した川越分室は、一雄さんのためだけに造られた。読み書きもろくに習得していない青年の青春は、国家権力による差別と偏見によって奪われた。こうした仕打ちを絶対に許してはならない。
 圧倒的な支援の輪で、東京高裁を包囲しよう。石川さんの無罪を一刻も早く勝ちとろう。   (佐藤隆)

 来春といわず今日から、と闘いが呼びかけられた(10.14)

河村弁護士の講演
「いよいよ大詰め 狭山第3次再審請求~鑑定人尋問を実施させるために~」

1 狭山事件と再審請求

 被害者が誘拐された日は、彼女の誕生日だった。これは偶然ではないと私は思う。
 警察は身代金を取りに来た犯人を取り逃がした。当時東京で起きた「吉展ちゃん誘拐事件」でも、警察は犯人を取り逃がす大失態を演じ、世論の厳しい非難を浴びていた。手錠をかけたままの取調べなど現在なら違法であり、その自白は裁判所で採用されない。再逮捕で拘束された「川越分室」は、石川さんのためだけに急いで造られた物だ。逮捕当時、面会のすべては検察が決めていた。これは弁護士の闘いで止めさせた。今では考えられない人権無視が横行し当たり前に行われていた。
 法律上「事実調べ」は、再審開始の要件ではない。開始の際に必要な手続的要件は、「請求人と検察官からの意見を聞くこと」だけだ。ところが事実上、過去の事例では「事実調べ」が再審開始の要件になっている。
 ①11人の鑑定人尋問と、②1件の鑑定請求をした。
 ①は、寺尾確定判決の認定した証拠構造に沿って、11人の専門家証人の尋問を請求した。専門家の11の鑑定は以下のA~K。
 
A・識字能力、B・筆跡、C・指紋、D・足跡、E・血液型、F・土壌(スコッ
プ)、G・面通し、H・耳撃、I・インク、J・供述、K・法医学

 たとえば、Cの指紋。石川さんの指紋はどこからも検出されていない。Eの血液型。血液型判定では希釈した試薬で検査をしたため、かなりいい加減な結果が出るものだった。Gの面通しは「単独面通し」で、被疑者1人の顔しか見せていない。現在は複数人の中から目撃者自身に選ばせる方法を採っており、警察の暗示にかかりにくくなっている。Kの法医学では、死体には「両側性死斑が出ており、それは死後8─10時間経過後と特定され、寺尾確定判決と矛盾する。また死因が「扼殺」ではなく「絞殺」の傷が残っていることも、前鑑定が間違っていると言える。
 ②は、被害者が使っていた万年筆のインキから(その筆跡から)クロムが検出されるか。これは下山第二鑑定で立証済み。石川宅から発見された万年筆のインキからクロムが検出されなかった事実である。
 次回の三者協議は11月に実施予定。検察は100%事実調べを拒否するだろう。このやりとりは「3回ルール」があり「主張、反論、再反論」以後は裁判所が判断する。本件では、2023年の春以降が攻防の山場になる。事実調べの実施が最大の課題だ。
 裁判所は世論に左右される。カルロス・ゴーンが釈放されたのは国際的な注目=視線があったからだ。つまり裁判に対する「世間の目」が重要で、来年の山場に向け、緊急署名などで人々の関心を集めることだ。私は事務所の本棚に狭山の本を並べている。別件の依頼者が見つけて関心を引くようにそうしている。こうして支援者の層を厚くしていきたい。
 石川さんは裁判所にひどい目に遭った。それでも裁判所に働きかけ期待するしかないのだ。みなさんと一緒に、今後も頑張りたい。
 (以上要旨。文責・編集部)

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