SОGIハラ・アウティング対策「10のポイント」について

問われるコミュニケーションルール

性的マイノリティの仲間たちとともに生きるために

 改正労働施策総合推進法(20年6月施行)は、大企業・団体・地方自治体、中小企業に対してパワーハラスメント防止の指針の中に性的マイノリティ(LGBTQ+)に対するSOGIハラ(職場における性的指向および性自認〈SexualOrientation and Gender Identity〉についてのハラスメント)とアウティング(性的指向・性自認等の個人情報を本人の同意なく暴露する)がパワーハラスメントであり防止を義務付けた。
 指針は、パワーハラスメントの言動の類型として身体的な攻撃/精神的な攻撃/人間関係からの切り離し/過大な要求/過小な要求/個の侵害を明示した。
 性的指向・性自認に対するハラスメントに関しては、①「精神的な攻撃」(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)―人格を否定するような言動を行うことを含む。②個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)―労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること―と明記した。
 さらに厚労省は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について」の通達を発出し、「相手の性的指向・性自認の如何は問わないものであること」と明記した。
 この流れの中で松岡宗嗣さん(一般社団法人fair代表理事)は、SOGIハラ・アウティング対策「10のポイント」(要旨)を以下のように整理し、実施すべきだと訴えている。企業対策を前提にしているが、SOGIハラ・アウティング対策は、性的マイノリティの仲間たちとともに生きるために大中小団体において最低限、この水準をめざすべきである。

SOGIハラ・アウティング対策


 ①ハラスメントの内容と禁止される旨を方針等に明確化し、周知・啓発する

 「SOGIハラやアウティングをしてはいけない」という前提を就業規則に明記。
 「何がSOGIハラやアウティングに該当するのか」「どうすれば防ぐことができるか」といった具体的な内容を、研修等を通じて周知啓発。(指針では、特にアウティングについての周知啓発を特記)

 ②懲戒規程等を整備し、周知・啓発する

 もしSOGIハラやアウティングが起きてしまった場合に厳正に対処されることを就業規則等に明記。
 懲戒規程には重い処分もあるため、そもそもどんな行為がSOGIハラやアウティングに該当するのかを明確にし、周知する。

 ③相談窓口を設置し、周知・啓発する

 SOGIハラやアウティングについて相談できる窓口を設置し、相談が可能なことを周知する。

 ④相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにする

 ただ相談窓口を設置するだけでなく、実際に相談がきた際に適切に対応できるようにしておく。
 例えば、相談担当者が性のあり方について適切な知識を有していなかった場合、「気にしすぎじゃない?」といった発言や、または相談者の性のあり方をさらにアウティングされるなど、相談が二次被害につながってしまうこともある。
 特に第三者へ情報共有が必要な場合は、必ず本人確認を徹底することが重要。

 ⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する

 SOGIハラやアウティングが起きてしまった際に、事実関係を正確に確認する。
 被害者が「性的マイノリティであるかどうか」ではなく、「性的指向や性自認が何であれ」それらの属性を理由としたハラスメント等が行われていたかどうかを確認することが重要。
 事実を正確に把握することはもちろん、職場のパワーバランスや性のあり方に関する差別や偏見の状況などから、相談者が適切に事情を説明できない場合もあることを念頭におき、対応する。
 相談者や行為者にカミングアウトを強制したり、または相談員がアウティングなどの二次加害を起こさないよう情報管理も注意。

 ⑥(パワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合)被害を受けた労働者に対する配慮のための措置を適正に行う

 SOGIハラやアウティングが起きてしまった場合、相談者が不利益を受けないよう適切な対応が必要。
 特にアウティング被害が生じた場合、現状どの範囲にまで広がってしまっているのか確認し、本人に共有すること、それ以上広まらないよう対処する。

 ⑦(パワーハラスメントが生じた事案が確認できた場合)行為者に対する措置を適性に行う

 もしSOGIハラやアウティング被害が実際に起きてしまった場合には、懲戒規程に該当するか、該当する場合は規定に則って適切に措置を行う。
 行為者による被害者への真摯な謝罪も必要。
 行為者が性的マイノリティの当事者である場合もあるため、被害者はもちろん、加害者のプライバシー保護も必要になることに注意が必要。

 ⑧改めて職場におけるパワーハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じる

 ⑨プライバシー保護

 パワハラ防止指針では、上記の1〜8に「併せて講ずべき措置」として、性的指向や性自認に関する情報を含むプライバシーの保護を強調。
 性的指向や性自認など、性のあり方に関する情報は、依然として「たいしたことはない」と思われがちだったり、良かれと思って悪気なく情報が共有されてしまうこともある。性的指向や性自認などは「機微な個人情報」であることを改めて周知し、社内手続きでの情報の取り扱いなどを点検することが重要。

 ⑩いわゆる「報復」の禁止

 SOGIハラやアウティング被害を相談した人などが不利益な取り扱いを受けないことを定め、周知啓発する。
 例えばSOGIハラを行った人が、その被害を訴えた被害者への報復のために、さらにアウティングをしてしまうといったことが起きないように対策する。

 松岡さんは、「SOGIハラやアウティングなどは、ただでさえよく知られておらず、近年は性の多様性に関心が集まりつつあるが、意識のある人とない人とのギャップも広がっている。だからこそ、知識や意識の有無にかかわらず、最低限の防止対策が広がることが重要だ」と強調する。
 そのうえで「もしパワハラ防止法の措置義務を守れなかった場合どうなるのか」と問題設定し、「企業が労働関連の法制度を守っているか監督する『労働基準監督署』は、定期的にランダムで調査を行っており、もし調査の対象の企業となったら、パワハラ防止法の定める対策を行っているかヒアリングされるという。
 そこで報告に応じなかったり、虚偽の報告をした場合には過料が発生する。さらに、違反が判明し、助言や指導、勧告などを受けても是正や改善などがされなかった場合、企業名が公表される可能性がある。
 今後、企業に相談窓口が設置され、SOGIハラやアウティングの問題が顕在化されていくことで、被害を受けた当事者による労働局や労基署への通報や、労災申請が増えていくことも予想されるだろう」と提起している。

「LGBTQの働き方をケアする本」


 SOGIハラ・アウティング対策をより具体的に学んでいくために参考文献の一つとして「LGBTQの働き方をケアする本」(宮川直己著 /内田和利監修/自由国民社)を紹介する。
 本書も性的マイノリティへの「対応を迫られる国内企業の管理職や人事担当者」を対象にしているが、前提起と同様に大中小団体において求められるコミュニケーションルールだ。以下のような構成となっている。
 第1章 LGBTQについての基礎知識/第2章 部下がLGBTQかも?と思った時のQ&A/第3章 カミングアウトを受けた時の対応/第4章 カミングアウトを受けた後のQ&A/第5章 LGBTQもそうでない人も働きやすい職場作り/第6章 LGBTQ部下とのコミュニケーションのコツ

 この中で注目するところは、「第4章 カミングアウトを受けた後のQ&A」の中の「トランス女性の従業員が女性トイレを使うことに、他の女性従業員が反対しています。当事者の従業員に我慢してもらいたいのですが…」(P185)の質問に対して、①性自認に基づくトイレ使用の代替手段─企業は原則として、本人の性自認に基づく施設利用を認める方向での検討及び調整を行うことが求められます。②反対意見を示している従業員に別のトイレ使用を促す。③共用個室トイレ(誰でもトイレ)を設置する、などと答え「当事者従業員に我慢させる対応は不適切です。反対意見を示す女性社員に理解を求めるための働きかけを行いましょう」と結んでいる。
 トイレ問題について松岡さんの著者「『LGBTとハラスメント』を読む」(神谷悠一、松岡 宗嗣著/集英社新書)では、「『だれでもトイレ』は万能の解決策?」というタイトルを設定し、「人目に付く場所に『だれでもトイレ』があると、それを利用することでかえって当事者と疑われるから使いづらいという声や、確かに職場に1つあるんだけど、私の席からは遠くてそう簡単には使えないなど、さまざまな声が聞かれます。結局お昼休みに駅やコンビニのお手洗いを使う、水分をひかえて脱水症状になりやすい、あるいは我慢しすぎて排泄傷害となる人も少なくないというデータも出ています」と報告している。
 問題はこれだけにとどまらず、「『トランスジェンダーがトイレに入ることを認めれば、不審者の男性が女性トイレに入ってしまうのではないか』ということもよく言われます」と述べ、「性自認に基づく施設の利用を原則において、多目的に使える施設、個室などを組み合わせた工夫など、環境調整する努力が、周囲、特に企業等の組織には求められる傾向にあるとはいえそうです」と指摘している。

トランスジェンダーとトイレ問題


 この問題に対して法的判断が現在争われている。経産省職員が性自認に基づくトイレを自由に使用させなかったことに対する訴訟で東京地裁は「女性用トイレの自由な使用を認めなかった人事院の判定を取り消し、国に132万円の賠償」(2019年12月12日)を命じた。控訴審で東京高裁は、「使用制限は適法」とする逆転敗訴の判決(21年5月27日)を出している。最高裁はどのような判断をするか注目されている。
 なおこの裁判で東京高裁は、判決の中で「トランスジェンダーが自らの性自認に基づいた性別で社会生活をおくることは、法律上保護された利益である」と明記した。つまり、自認する性別で生きることは法律上保護されると明確化させたのである。
 このようなトイレ問題などは性的マイノリティの人々にとって重大な人権問題としてあり、共に生きる社会を少しでも推し進めていくためにどのように協力しあえるのかという課題だ。LGBT差別禁止法が自民党反対派などの抵抗によって制定されない状態が続いている。いずれにしてもLGBT差別禁止法の制定も含めて長期にわたる協議が求められている。過渡的調整プロセスとして議論を積み上げていかなければならない。
       (遠山裕樹)

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社