久保田さんの逮捕状況と歩んできた道

ドキュメンタリー制作者
久保田徹さんへの重刑判決許すな
ただちに、釈放せよ

 10月12日、ヤンゴンで拘束されたドキュメンタリー制作者の久保田徹さんに対してクーデターで全権を掌握したミャンマー国軍の統制下にある裁判所は入国管理法違反の罪で禁錮3年を言い渡した。久保田さんに対して電気通信に関する法律に違反した罪で禁錮7年、扇動の罪で禁錮3年がそれぞれ言い渡された。
 久保田さんはどういう状況で拘束されたのか。8月12日の東京新聞web版が詳しく報じている。以下紹介する。

 ミャンマーの最大都市ヤンゴンで7月30日、国軍への抗議デモを撮影していたドキュメンタリー映像作家、久保田徹さん(26)が拘束された事件で、デモ主催者側と連絡を取り合っていた10~20代のミャンマー人男性3人が拘束時の状況を証言した。久保田さんはデモには参加せず、距離をおいて撮影だけしていたことが明らかになった。
 デモを主催した女性の知人(26)と女性が所属する若者グループの幹部(18)、安全確認のための連絡係(17)の3人が証言した。その説明によると、30日の抗議デモは、1カ月前に逮捕された仲間の釈放を求め、10代の女性が呼びかけた。25日から具体的な計画が練られていたという……。
 抗議デモは、南ダゴン地区で午後3時に始まり、十数人が参加。「無数の不正が真実を隠している」と書いた横断幕を数十秒掲げた後、バスや徒歩で逃げる手はずになっていた。
 現場近くの交差点では、デモ主催者側の連絡係4人がミャンマー国軍の動きを警戒し、デモ隊内にいる仲間と連絡を取っていた。連絡係は「『デモ成功』の知らせを受け、すぐにその場を離れた」と話した。
 一方、治安当局者はデモ終了後、1人で歩く久保田さんをまず拘束。近くにいたデモ主催者ら3人を商用車で連行しようとしたという。この3人のうち1人はスーパーマーケットに逃げ込んだが、間もなく逮捕された。連絡係は「久保田さんは先に商用車に乗せられていた」との電話連絡があったと証言した。

 この東京新聞の報道をもとにすると、軍政下の裁判所が下した「入国管理法違反の罪」、「電気通信に関する法律に違反した罪」、「扇動の罪」などではないことがはっきりしている。久保田さんはミャンマーで何が起きているかを伝えたかっただけであり、罪に問われることは一切していない。
 
 久保田さんはどのような思いで、ドキュメント制作者になったのか。ジャーナリストの小島寛明さんが久保田さんについての経歴を詳しく報じている。長くなるが今回の事件をより詳しく理解するために、それを紹介する。

22歳、慶応大5年の映像作家が追う最大級の人道危機「ロヒンギャ問題」

 慶応義塾大法学部で政治学を学ぶ久保田さん。大学入学後に参加した学生団体は、群馬県館林市で暮らすロヒンギャの人たちと交流し、映像を記録していた。館林に通う中、久保田さんは「現地に行けば違うものが見えてくるのではないか」と考えるようになった。
 2015年、大学2年の夏休みに、仲間たちとミャンマーのヤンゴンに入った。多くのロヒンギャが暮らすラカイン州には入れなかったが、ロヒンギャの人たちが組織しているNGOなど現地の人脈もできた。
 デジタルカメラで映像も撮影したが、「映像はガタガタだし、インタビューも重要な話はぜんぜん取れてないし……」と振り返る。
 2016年のゴールデンウィークに再びミャンマーに入った。今度は、ヤンゴンで知り合ったロヒンギャの人たちのネットワークに力を借りて、ラカイン州にも入ることができた。

迫害が正しく伝わらないミャンマーの事情

 1週間ほどラカイン州に滞在し、ロヒンギャの人たちが集められているキャンプも訪れた。同い年で、英語の得意なロヒンギャの友だちもできた。
 帰国後、撮影してきた映像を編集して、22分間のドキュメンタリー作品「ライトアップロヒンギャ(Light up Rohingya)」を完成させた。2017年8月に多くのロヒンギャが難民化した後、ラカイン州への立ち入りは制限されたことで、久保田さんの最初の作品は、ロヒンギャの状況がわかる貴重な記録となった。
 大量の難民が発生し、ミャンマーとバングラデシュは世界から注目を浴びた。一方で、久保田さんは、無力感もあった。
 取材を通じて、「ミャンマーの外から、軍事政権がロヒンギャを迫害しているとどれだけ伝えても、ミャンマー人には180度違う形で伝わっている」と考えるようになった。
 ロヒンギャと仏教徒のミャンマー人との感情的な対立は根が深い。久保田さんは「ミャンマーの国内では、イスラム教徒が自分たちの土地を奪おうとしていると考えている人が多い。だから、軍事政権は、よくやってくれていると評価されている」と言う。
 久保田さんはそこで、これまでとは違うアプローチで問題を取り上げようと考えた。ミャンマー人の目から見たロヒンギャ問題を切り取る方法だ。
 ロヒンギャへの理解があるミャンマー人の団体の人たちと一緒に2018年6月、バングラデシュのコックス・バザールに入り、キャンプも訪れた。いずれ、作品としてまとめ、「もっとさまざまな立場のミャンマー人を巻き込んでいきたい」と考えている。
 取材をしながら、久保田さんはよく、ラカイン州のロヒンギャのキャンプで知り合った同い年の友達のことを考える。映像の制作を通じて、久保田さんの世界は急速に広がった。けれど、その友達はキャンプから一歩も出ることができない。「本当は、同じくらい可能性があるはずなのに、このギャップはなんだろうか」と思う。
 「作品をつくったり、記事を書いたり。実績を重ねていけばなんとかなるのかなと、少し手応えもあります。一度友だちになったら、なんだかんだで付き合いが続くように、ぼくは、ずっとミャンマーと関わっていくと思う」。

ミャンマー軍政の
暴挙を許さない
 久保田さんの「ロヒンギャ」、ミャンマーへの思いを断ち切るような、ミャンマー軍による弾圧を許してはならない。日本政府はただちに久保田さんの釈放のために、ミャンマー軍政に働きかけを行え。いっしょに逮捕されたミャンマー人もただちに釈放せよ。        (M)

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社