与那国島・機動戦闘車走行抗議に参加して
軍事的緊張あおる
自衛隊要塞化に歯止めを!
駐屯地誘致の
結果として
11月17日、与那国島を訪れ、16式機動戦闘車(МCV)が公道を走行するのを見た。民間空港と駐屯地との間を2日間かけて1往復する移動自体が訓練だとして強行したのである。日米統合軍事演習キーンソード23と戦車走行について、週刊かけはし2741号(沖縄報告)、2740号(防衛省前行動報告)でふれられている。台湾・中国大陸に近い「日本最西端」での示威行為であり、日本政府がさらなる軍事膨張へ向けて既成事実をつくる行為でもある。琉球弧・南西諸島におけるミサイル基地化を進め、敵基地攻撃能力をあからさまに打ち出す日本政府の姿勢を批判しなければならない。
週刊かけはし2734号(2022年10月10日号)においては石垣・与那国訪問記が紹介されていて島の様子を知ることができる。2015年の住民投票を経て、陸上自衛隊与那国駐屯地が発足7年目を迎え、電子戦部隊発足を控えていることにも触れている。沿岸監視、情報収集を主とするのがこの駐屯地の主任務である。人口1600人の島に大勢の自衛隊員が赴任することの影響、所得格差、島の発展とは何なのかということの重さは分断にさらされた島の人々の発言の端々からにじみでている。
何のための演習
なのだろうか?
駐屯地の主任務と無関係としか言いようがない戦車が銃口を突き出して走行する意味、計画の詳細を、当然ながら与那国島の住民もほとんど知らされていないと実感した。11月17日12時に与那国空港に到着した陸上自衛隊C2輸送機から搬出された戦車は13時過ぎにフェンスを通して道路に出てきた。民間空港敷地を占拠した戦車が動き出すまで長かった。警備上のことなのか、国土交通省などによる搬出入物資の確認、許可の問題かは不明である。与那国空港はロビーの全長が100メートルに満たず、1日の離発着が20便以下の空港だ。反対する人々は多くないが、飛行機で30分余りに位置する石垣島からもかけつけた人もいる。ピースゆい与那国の呼びかけで集会が行われ、発言する人は集まった報道陣に対しても危機感を伝えてほしいと訴えた。空港前の車道に沿って「自衛隊が来れば米軍もくる」などの横断幕を掲げたりして、戦車を歓迎していないことを表明した。
空港ゲートから出てきた戦車は車体が大きいため横断幕に阻まれてなかなか右折できなかったが、走りだすとタイヤ走行のため速度は普通の車と変わらない。搬出時の喧騒を混乱ととらえたかどうかは知らないが、11月18日は予定を告知しないまま午前9時に駐屯地を出発したМ16は9時半には与那国空港敷地内にすべり込んだ。
当初2台走行という計画が発表されていたが、1台の走行に終わったことになる。往復とも、先導車3台に率いられていて、その有様は戦車が「行幸」を大過なく終えたというにすぎない。計画は変更されたとしても知らせず、この1台の走行でさえ住民不在ですませてしまうところに軍隊はその論理で勝手に完結するぞという姿勢を感じさせられた。この1台の走行がやがて、与那国島でもほかの地域でも、複数台が列を連ねる事態をまねき、児童をはじめ、住民がこうむる事故の怖さはやはり、多くの人が指摘している。
住民投票のときに賛成した町会議員などもこの演習に関して情報公開の粗雑さ、「予想外に」早い時期の米海兵隊の島内導入に危機感を表明せざるをえなかったくらいだ。外間守吉前町長が、自衛隊誘致を容認しながらも2007年の祖納港への米海軍掃海艦(パトリオット、ガーディアン)寄港に難色を示したりもした一方で、2021年から町長を務める糸数健一氏が与那国防衛協会の代表を務めた積極的基地容認派であることも、国防のためになりふり構わず協力する体制強化につながったとみられる。
自衛隊は住民
を守らない
住民投票の時に議論になったことの一つとして、基地を置けば攻撃される可能性が高まるが、自衛隊(軍隊)は住民を守るのかという問題がより強く意識されていて、集会で発言する人が多かった。台湾から110キロという距離にある与那国島が、その地理的要因のために軍事攻撃の目標とされた時どうするかという問いである。
国民保護法などが突き付けた矛盾の一つに、武力攻撃事態を想定した住民避難の問題がある。11月30日には与那国中学校と公民館を使用した避難訓練が行われるが、自衛隊側からすれば住民避難は一義的には役所(行政)がすることで、軍隊たるもの作戦指揮系統に従ってする行動が優先であるという軍隊の論理が透けて見える。福島で起きた原発事故と同じ棄民の論理ととらえる人もいる。
米軍と連携す
る自衛隊員
駐屯地門前で抗議行動、取材などに応接する自衛隊員は都市部の隊員と違い、一見リラックスした表情で「国民を守る」決意を表明していた。島内で自衛隊員が置かれた微妙な位置を意識してか、島内行事への積極的参加をはじめ、旧住民との融和をことさらに強調する。しかし町営住宅と向かい合った自衛隊官舎のきれいさを持ち出すまでもなく、島外からやってきた一隊員の「思い」は、島の経済発展を自衛隊誘致に託したかのような現実と見事なまでにすれ違っていると言わざるを得ない。
戦車走行をはさむ10日間の日米統合演習キーンソード23全体(九州、沖縄)では、与那国駐屯地内の体育館が主な舞台となって、自衛隊と米海兵隊が作戦すり合わせをする統括本部として機能したようだ。沖縄島では中城湾港などを舞台に大量の車両・輸送兵站展開のデモだったし、徳之島での水陸機動団の上陸訓練とこれに対する米海兵隊の指導は、仮想敵に対する攻撃機能を先行させる挑発の最たるものだと言える。市民向けには陸上自衛隊西部方面隊のツイッターなどが示すように傷病への対応などが強調されていたと思った。自衛隊の宣伝は、防衛費増大も視野に入れて硬軟おりまぜて大きく展開されたことになる。
住民の分断
と島の歴史
あらためて人々の分断を生んだ住民投票、自衛隊誘致の傷跡ということを感じずにはいられない。反対の声を公然と上げることが困難な場所で、既成事実を作る政府の手法は名護市辺野古などでおなじみだ。
沖縄島のような戦闘がなかったことを激しい反対運動不在とつなげて考える人もいる。だが知られているように八重山地域は日本軍の作戦によって住民の強制移住、マラリアによる甚大な被害をこうむっていることは与那国島も例外ではない。与那国島においても比川地区は空襲を受けている。
小さい島はまず琉球王朝、次いで薩摩藩というように権力に翻弄され、漁業、サトウキビ生産、放牧など産業構造の変遷にも大きく翻弄されて過疎への危機感を募らせてきた。そういうことすべての上に、自衛隊をすえた島の現在がある。
電磁波被害か
馬も泣いている
町に住む人から聞いた印象的な話として、与那国島で放牧されている馬のことがある。島の東側は海岸線に特徴ある断崖が並び、なだらかな丘陵地帯にそって馬が草を食んでいる様子を見ることができる。駐屯地ができた西側にも放牧馬はいたのだが、その地区の馬は目玉が飛び出ているように見えたり、不調の馬が目立つため、監視レーダーの電磁波被害を疑う人もいたという。実際には電磁波が主要な原因と言い切る証拠はないようだが、町民が取りざたしたことを気にしてか、ある時期に馬主がそういった馬を処分したことがあったという。
馬の不調の原因として考えられるのは馬同士のけんかで傷を負ったりして、蠅を追い払う力が減退したというものである。そして馬同士がけんかする原因として考えられるのは、自由に行動できず、駐屯地ならば、関連するイベントの都合で一つ場所に囲われて生活することが増えているということではないかと推測した。今回の戦車走行の前後もこの馬たちは決まった場所に囲われて餌だけをあてがわれているという。人間にとっても、軍事優先社会の弊害がどうあらわれるかということを、この一事は示しているようだ。
最西端の地と
天皇制の役割
10月22日には現天皇夫妻がおきなわ文化祭出席という名目で沖縄島を訪ねたばかりだが、与那国島には2018年3月28日に現上皇の明仁・美智子がやってきたことが記憶に新しい。与那国訪問日程が駐屯地の開所2周年にあたること、台湾情勢をのぞむ西端の地が日本の一部であることのアピールが訪問の趣旨に含まれていただろうことは指摘されてきた。ちなみに天皇が配備された自衛隊員を閲兵したかどうかの記録は確認できていない。
商業流通、戦時疎開などを含めきわめて身近だった台湾をはじめとする国際間交流の豊かさを有する与那国島は、日本という概念から自由でなければいけない。台湾などとの船舶交通の充実も米軍の行動の自由に比べると故意に貧弱にされている。日本国という縛りをかける天皇制の存在を、西崎灯台の入り口におかれた天皇行幸啓碑の前で考えさせられた。
ミサイル基地
増強STOP
与那国島から戦車が去っていった後、石垣島において急ピッチで進む駐屯地建設の現場を、上原正光さんに案内してもらい見学した。クレーンは常に4台以上が動いてる。3月に開所式が予定されているが、46ヘクタール全部の建屋、設備がそれまでに完成するとは思えない。弾薬庫の危険性に加え、実弾射撃訓練場の位置なども平面図で見るより、そのおぞましさが迫ってくる。オリンピックなど国策に向けた突貫工事のすさまじさを体感できる。
12月には宮古島・下地島空港においてブルーインパルスの展示飛行計画が明らかになり、系統的に島嶼基地拠点の構築と宣伝が進められている。島嶼拠点の刻一刻と変貌していく事態の深刻さにヤマトの方から追いつけていない。なお素朴な豊かさ失わない島々の生活をこわす軍事要塞化に歯止めをかけるために何ができるか、ヤマトからも発信と行動を増やしたい。(海田昇)
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