投稿 「Fuck The TERF」というプラカード

矢野 薫

 「トランスジェンダーの人権を訴える」東京トランスマーチが11月12日に行われた。マーチで参加者が「Fuck The TERF」というプラカードを掲げたことが波紋を広げている。
一参加者が掲げたプラカードだが、指摘を受けた主催者(Transgender Japan)が、「結論から先に言えば全く問題ありません。これは、特定の個人・団体・集団などへの攻撃ではなく『私たちを執拗に差別・排除しようとする思想』だからです。私たちは私たちを社会から排除しようとする行為に抵抗します。また、私たちを排除しようとする行為に抵抗する権利を有しています」と応答した。これにより一参加者の掲げたスローガンが、主催者公認のスローガンになってしまった。トランスマーチの公認スローガンが「Fuck The TERF」でいいのだろうか。いいはずがない。そこには多様性、それを保障する自由な言論空間はない。

 TERF(trans-exclusionary radical feminist)とは、「トランス排除的ラディカルフェミニスト」を意味する。TERFには明確な定義はない。女性スペースにトランス女性の進出に異議を唱える女性一般をTERFとしている。そして「世界中でTERFというトランスジェンダーという存在すら認めないフェミニストの方々がその言説を広めようと動いています。件のプラカードはそれらの行為や言説に対する抵抗であり、その抵抗をするなというのは私たちの死を意味します」と主催者は言う。
 そうなのだろうか。「私たちを執拗に差別・排除しようとする思想」というが、実態は性暴力におびえている女性たちの不安や恐怖の現れのことである。そういった女性たちの恐れに対するトランスジェンダーの回答が「Fuck」でいいのだろうか。そうであっていいはずがない。「Fuck」ではなく対話が必要だ。
 「『Fuck』というのは単なる侮蔑語でしかない」という反論が主催者シンパサイザーから発せられている。
 しかし性暴力におびえる女性に対して「Fuck」という言葉を投げつけることは絶対に許されることではない。「Fuck」とは女性をレイプして服従させるという男主義的差別があるからこそ侮蔑語になったのである。トランス女性が自らの生存を訴えるならば、まず告発する対象は女性差別であり、それを支える家父長制度であるはずだ。だからプラカードは「女性差別反対!家父長制打倒!」で、「Fuck The TERF 」ではない。
 海外では、「Fuck The TERF」のもと一部のトランス女性たちから女性たちに暴力が行使されている。「私たちを執拗に差別・排除しようとする思想」というが、実態は複雑だ。女性の権利を主張するデモンストレーションに対して、トランス活動家やその支援者らが批判やときには襲撃を行っている事件が起こっている。互いに違いを認めつつ、シスターフッドに基づいた対話、そして真の敵への統一戦線が必要ではないだろうか。
 そのためにも「Fuck」という女性へのレイプを象徴する侮蔑語スローガンと決別することが必要だろう。

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