11.28女川原発再稼働差止訴訟が結審

原告に事故可能性の立証義務?
判決日は来年5月24日11時

 【宮城】石巻市民17人が東北電力を相手取り原発事故時における避難計画の実効性を争点として闘われてきた女川原発再稼働差止訴訟は、11月28日第5回口頭弁論期日が開催され、原告、被告双方にこれ以上の主張はないとして結審した。
 口頭弁論期日前に、裁判所から「争点確認メモ」が示された。
 「避難計画に実効性が欠けていることが独立の差し止め事由になるか」
 「避難計画の実効性が欠けていることをもって、直ちに差し止めを求められるか」
 「原発事故の具体的危険性の存在が必要か」が争点であるとし、
 「避難計画が実効性を欠き、原告らの人格権侵害の具体的危険が認められるか否か」が具体的争点だとした内容で、原告、被告双方ともに「その整理でよい」として結審したのである。
 提訴から1年半、原告が求めた「避難計画の実効性の有無についての議論」は、「原発事故が起きる具体的危険性について原告に立証責任があり、立証していないので却下せよ」という入口論に徹し、正面からの議論を避けた被告東北電力の対応で出来なかったのである。
 原子力災害も含めて、防災対策は「起きるもの」として立てなければならないのは当然で、立証など必要ないのだ。東北電力が宮城県からの派遣要請に応えて、退域時検査場所(スクリーニング)に600人の社員を派遣することを訴訟のなかでも明らかにしていることは「事故が起きるもの」を前提として認めていることに等しく、被告の主張は明らかに矛盾しているのである。
 口頭弁論期日では、原告最終意見陳述が行われ、原告団長から「避難計画の実効性は全くないと断言せざるを得ない」「避難計画には渋滞問題など多岐にわたる問題があり、被告らが言うように『改善・修正』などで対応できず、設計ミスと言わざるを得ない代物である」「検査場所も機能しないし、バスも来ない。絵に描いた餅である」と述べ、「危険な原発を扱う事業者としての責任感、避難計画の重要部分を担っている責任感があるのであれば、今からでも遅くないので、被告は私たちの主張や立証に明確に回答するべきだ」と被告を徹底批判した。
 最後に判決日が裁判長から指定され、2023年5月24日午前11時から判決の言い渡しとなった。

勝利すれば、
新たな闘いの道
 結審報告集会が口頭弁論後開催され、原告団からの報告と弁護団の3人の弁護士から、「原告団結成からこれまでの活動の報告」「訴訟の焦点」「訴訟の全国的意義」についてそれぞれ報告があった。
 原告団結成以前から「避難計画の実効性についての情報公開請求」をしてきた女性弁護士たち(ひまわりネット)の活動があり、その蓄積を原告団が引き継ぎ、この10年間、合わせて90件を超える情報公開請求を行ってきたこと、また、宮城県や石巻市への質問や、合同公開説明会の開催要請等の活動を通して得たものを本訴訟の証拠として活用したことが報告された。
 訴訟の焦点については、「退域時検査場所が機能しないこと」と「一時集合場所へのバスの確保が困難」という2点に絞った理由と背景について解説があった。避難計画が出発から瓦解しており、避難所にたどり着けず被ばくし人格権が侵害される実態を訴訟のなかで明らかにしてきたことが報告された。
 本訴訟の全国的意義については、避難計画の実効性を争点とした訴訟が勝訴すれば、全国のリーディングケースとなり、専門的論点ではなく、避難計画というより身近な論点で市民が参加しやすい訴訟が広がっていくことだろうと、その意義が示された。
 最後に、この1年半の間、原告団の闘いを支えてきた「脱原発をめざす宮城県議の会」事務局長の岸田清美県議、「女川原発の再稼働を許さない!みやぎアクション」の多々良哲さん、「原発問題住民運動宮城県連絡センター」の中嶋廉さんから連帯あいさつがあり、この訴訟をわが物として、再稼働を止める判決を勝ち取るためにこれからもそれぞれの持ち場で共同して闘いを展開していくことを確認した。

逃げられな
い避難計画
 女川原発再稼働差止訴訟原告団は、結審を終えて再稼働を許さない判決を勝ち取るための取り組みとして、差止訴訟の報告を兼ねて、12月3日、石巻市で上岡直見さんを招いて講演会を開催した。リモート参加含めて90人が話を聞いた。
 小野寺信一弁護団長から「裁判解説と今後」と題した報告があり、「この訴訟は他の訴訟と違い、防災計画の不備に絞ったもので、短期決戦が可能であること、住民の調査と常識で不備を判断できること、情報公開や公開質問書で不備を暴ける」として、約10年間で90回を超える情報公開請求の蓄積で避難計画の不備を暴き、訴訟の証拠としてきたことが報告された。そして、避難者の被ばくを検査する「検査場所が開設できないこと」「一時集合場所へのバス確保と配備ができないこと」に訴訟の焦点を絞り、避難計画が破綻していることを突きつけた。そして、勝利判決を勝ち取れば「地元同意の撤回」を求めていくとし、敗訴すれば、控訴して再稼働前に第二審での判決を求めて闘うと決意を示した。
 環境経済研究所代表で、「新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会」の委員でもある上岡直見さんによる「逃げられない避難計画」と題した講演では、原発事故のほとんどが「核反応とは関係ないところで起きていること」原子力防災の基本は「起きたものとして防災計画を行うこと」だと話された。
 現在の規制基準は「世界一厳しい」のではなく、規制委員会は「安全」すら担保しておらず「集団的無責任体制」であると語った。何が達成されたら「実効性がある」とするのかという基準もなく審査する機関もないと杜撰な体制を批判し、原子力防災会議では「具体的で合理的なものであると考えられる」と言い換えられているだけだと批判。女川原発の立地状況や原子力防災の枠組みの様々な欠陥を例示し、計画が屋内退避のように「出来るだけ住民を逃がさない」方針に転換していることを指摘した。
 複合災害による道路損傷や交通渋滞で避難が困難になることなど、本質的な問題を解決せずに【スマホアプリ】なる愚に走る動きを切り捨てた。「もともと無理なものに対して、現状以上に計画の実効性の向上は期待できない」と避難計画の現状をわかりやすく解説した。
 上岡直見さんは、差止訴訟において、東北電力の答弁書(原告訴状に対する反論書)に対する反論の意見書と補充意見書と、2回にわたり意見を添えている。(m)

現在の避難計画のデタラメを明快に示した上岡直見さん(12.3、石巻)

12.4

元福井地裁裁判長が女川で講演会
「管理できないと暴走し 日本を壊滅させる!」

 【宮城】12月4日、女川町の脱原発三町議らの呼びかけで、樋口英明元福井地裁裁判長の講演会が女川町で開催された。「私が原発を止めた理由」と題し、本当に誰でもわかる原発を止める当たり前過ぎる理由について講演した。
 原発の本質は「人間がコントロールし続けないといけないこと」「管理できないと暴走し、日本を壊滅させること」の二つにつきるとし、「原発が安全か安全でないかで判断するのは当たり前のこと」で、過酷事故は甚大な被害をもたらすこと、それ故に、事故発生確率が低いことが求められるのは当然であり、地震大国日本の原発の耐震性は極めて低く、依って運転は許されないと話した。
 福島第一原発2号機の奇跡(格納容器に穴がある欠陥機であったために、爆発が避けられたこと)や4号機の奇跡(地震で仕切りが壊れ、そこから冷却する水が使用済み核燃料プールに流れ込んでメルトダウンせずに済んだこと)がなければ東日本が壊滅したと説明した。
 地震の話では、老朽化するに従って耐震性が上がっていく日本の原発(女川原発の場合は、建設時375ガル→3・11後580ガル→現在1000ガル)の不思議さを揶揄し、原発における基準地震動が、ハウスメーカーの耐震性より低いことを指摘し、こんな危険な原発を止められない裁判はどこかおかしいとし、原発容認派の弁解を批判した。 
 700ガルを超える地震が起きれば原発の危険性は高まるのが明らかであるのに、多くの裁判長がなぜ止めないのかについて、「起きている地震に比べ原発の耐震性が高いか低いかという科学的事実に関心がなく、原発の真の危険性について審理していない」と厳しく批判し、極端な権威主義、頑迷な先例主義、科学者妄信主義によるリアリティーの欠如を指摘した。

最高裁でも勝
ち切る目標を
 そして、これからの裁判のあり方として、科学的事実の重視、理性と良識という土俵の上で、誰でも理解でき、議論に加わることができ、誰でも確信を持って積極的に訴訟に臨むことだと話した。
 「すべての裁判において最高裁でも勝ちきること」を目標として、誰もが納得する理論を裁判所だけではなく、広く社会に浸透させることにより世論形成し、最高裁をも納得させることだと話された。
 「3・11を経験して、①使用済み核燃料は処理できないこと、②原発事故は、停電しても断水しても起き、被害が甚大であること、③原発は、低い耐震性で作られていること、この事実を知ってしまったわれわれの責任は重い」として、キング牧師の言葉「究極の悲劇は、悪人の圧政や残酷さではなく、それに対する善人の沈黙である」=善人が沈黙する罪=で話を閉じ、「知ったものの責任として自分は語る」「あなたたちには聞いてしまった者の責任がある」と本気度を参加者に求める語りで講演を締めくくった。
 復興公営住宅の中にある小さな集会所に110人が集まり、リモート含めて180人が耳を傾けた。
 女川原発は、2024年2月に再稼働する計画が公表されている。来年5月24日の差止訴訟の判決を含めて、再稼働を許さない闘いが重要な局面にある。
 岸田政権の原発回帰を許さない運動が全国で展開されている。原則40年運転期間の撤廃を強行できず、今回は、休止期間を運転期間に積み上げる方法で世論の反発を削ぎ、その機を狙っているのだろう。次世代原子炉にしても反対運動で立地場所もなく、膨大な建設コストでペイできない状況はいささかも変わっていない。
 再稼働を10機許しているが、再稼働強行を止めているのは、全国の反対運動の力であることにほかならない(12・3石巻講演会:上岡直見さんの発言より)。
 政府、電力事業者のウクライナ危機と電力不足、脱炭素社会の大宣伝と再稼働の環境づくりに抗い、自信をもって再稼働を許さず声を上げ闘い抜くことが求められている。(m)

本気で原発を止めようと熱く語った樋口英明さん(12.4、女川町)

「原発のまち 50年のかお」

あの大震災を生き残った軌跡の写真集

 親子三代で反原発運動を闘ってきた女川町議阿部美紀子さんが「原発のまち 50年のかお」という写真集を出した。50年前の女川闘争の壮絶な闘いの記録だ。是非、手に取って見て頂きたい。       (m)

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