レポート:宗教右派とLGBT差別禁止法
「スーパー・グルーによる一点共闘
反ジェンダーとトランス排除」を跳ね返そう
SОGIハラを許さない
労働・生活の現場で性的マイノリティに対するSОGIハラ「性的指向・性自認に関する侮辱的言動差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体 的な嫌がらせ」などの人権侵害が拡大している。とりわけトランスジェンダーに対してネット上で差別・侮辱的な言動が深刻だ。だからこそLGBT差別禁止法の制定が必要だ。明確に差別禁止を明記していなかったLGBT「理解増進法」でさえ自民党保守派は認めなかった(2021年6月28日)。
連動してLGBT法案反対運動を展開していた統一教会などの宗教右派は反対の態度を堅持したままだ。統一教会問題は、被害者救済新法の制定(23年1月5日施行)、文科省による宗教法人法に基づく質問権の行使という局面に入り、今後の動向が注目されている。あらためてLGBT差別禁止法制定に向けて、この間の宗教右派の法案反対の姿勢、ポイントをチェックしながら現状掌握し、今後の構え方を考えてみたい。
統一教会と自民党の一体的暗躍
カルト・詐欺集団の世界平和統一家庭連合(統一教会)と自民党の一体的暗躍とその歴史が次々と暴露され、社会的世論、抗議が強まっているなかで8月31日に安倍元首相「国葬」反対!8・31国会正門前大行動(安倍元首相の『国葬』に反対する実行委員会)が行われた。
この集会で本山央子さん(アジア女性資料センター)は、「家父長制政治を葬ろう」ということで国葬させない女たちの会が国会前行動を取り組んできたことを報告したうえで「この間、『ジェンダー平等が進まないと思っていたら、それは統一教会のせいだったですね』という感想を何度か聞くことがありました」と紹介しながら「しかし、そんなに簡単なものでしょうか。カルト宗教のイデオロギーによって私たちが知らないあいだに、勝手に政治が動かされていたのでしょうか。これは単純すぎます」と疑問を提示した。
そのうえで「男性中心的な異性愛家族こそが日本の唯一の形で伝統的なあり方だ。それが健全な社会と強い国家の基盤となるのだという考え方が、もともと保守政治家の中にあったからこそ、そして人々に受け入れる基盤があったからこそ保守政治と右派宗教が手を組んできたのではないか」と解明し、「天皇を家長とし、その子どもとしての国民が一つの家族として、なんら争いもなくまとまるというものを理想としていた。そのような家族のあり方、国家のあり方を復活させたいという狙いは自民党が打ち出している憲法24条の改正案にも見てとることができる」と警鐘乱打した。
さらに「安倍さんの保守政治の巧妙さ、強さは、古い家父長制のうえに新しい衣をまとってみせることが非常に上手だったことだ。安倍さん自身が、男尊女卑のわかりやすい態度はとりませんでした。むしろ保守的なイデオロギーや歴史修正主義が国際的に通用しないとわかれば、『女性活躍』『女性が輝く社会』というスローガンを掲げてリベラル派さえも取り込む柔軟性を持っていただけだ。このようなことが一見、皆に受け入れられ、『女性にやさしい生活』などと言って、その影で慰安婦問題を抑圧し、女性に生活できる賃金を与えず、女性のリプロダクティブライツ、セクシュアルマイノリティの権利を抑圧してきた。だからこそジェンダーとセクシュアリティは右派政治、右派宗教にとって追い風になり、安倍さんはそれを非常にうまく使ってきた。安倍政治のおかげで政治的権力を得た政治家たちは、今、安倍さんの影響力を死んでも生かし続けたいと考えている。なぜならば自分たちがよってたつ権力基盤を再生産させたいからです。国葬は、安倍政治の権力基盤を維持させ、再生産させることです。だからこそ決して許してはならない。ジェンダーとセクシュアリティの抑圧、あらゆる差別を今こそ根を断ち切るためにどうしても必要なことです」と結論づけた。「統一教会と自民党の一体的暗躍の歴史」の性格を簡潔にまとめ、参加者に対して何が問われているのかと今後のテーマを明らかにした。
宗教右派の諸政策とは
筆者は、本山さんの問題提起を通して統一教会が単なる自民党議員の秘書団への潜入、選挙活動の先兵にとどまらず、政策的にも影響を与えてきた経過を含め、歴史的に総括していく必要性を痛感せざるをえなかった。以下そのためにポイントを整理した。
統一教会による自民党政治工作の開始は、統一教会創始者の文鮮明が1989年に韓国で信者に対して①自民党安倍派を中心に関係を強化し、国会議員を増やす②国会議員の秘書を輩出し、国会内に組織体制を形成する③地方議員も作り、影響力を強化するなど指令を出していた(2022年11月7日の毎日新聞)。
以降、統一教会は水面下で影響力を強め、例えば、ついに昨年の衆院選挙で自民党の斎藤洋明衆院議員(新潟3区)を推薦するために推薦確認書を提示し署名させるところまで到達していた。推薦確認書は、①憲法を改正し、安全保障体制を強化②家庭教育支援法・青少年健全育成基本法を制定③LGBT問題、同性婚合法化の慎重な扱い④「日韓トンネル」実現を推進⑤国内外の共産主義勢力の攻勢阻止などを列挙し、「以上の趣旨に賛同し、(友好団体の)平和大使協議会および世界平和議員連合に入会する」などの条件まで明記していた(時事ドットコム/22年10月20日)。
さらに旧統一教会は、自民党国会議員にとどまらず都道府県議334人(自民279人、立憲民主党7人、日本維新の会7人、公明党11人、国民民主党1人、その他2人、無所属27人)まで接点を持ち「家庭教育支援条例」制定、「家庭教育支援法」制定を促す意見書の可決を促すために圧力をかけていたことも明らかになっている(毎日新聞/22年12月5日)。
統一教会の政治工作は、鈴木エイト(ジャーナリスト)著の「自民党の統一教会汚染 追跡3000日」でリアルに取り上げられている。パートナーシップ条例、LGBT法制定に対する敵対行動などについて「第6章 50周年大会の勝共連合、教団関連組織の工作」で明らかになっている。統一教会の手法、戦術、機動戦などを描き出している。
2015年に渋谷区がパートナーシップ条例を制定したが、この取り組みに対して統一教会は、「『家庭を守る渋谷の会』名義でオンライン署名反対運動を展開した他、信者を動員して同条例制定に反対するビラ配りやポスティング、デモ行進などを行った。(公式サイトによると)『性風俗への反対運動や純潔と家庭再建の価値啓蒙運動』だという」。
そしてLGBT条例反対運動について「純潔推進運動とリンクして行われている。合同結婚式を経て家庭出発(同居生活)を始めるまで男女が互いに純潔を守るという統一教会の純潔思想は、多様な性の形を是とするLGBTとは相容れない」と指摘し、「LGBT条例反対運動と並行して散見されるのが家庭の役割を重視する『家庭教育支援法』、『青少年健全育成基本法』制定への働きかけだ」。
このように「保守政治と右派宗教」の連携が、とりわけ統一教会のイニシアチブによって具体的な諸政策へと集約されてきたことが見えてくる。
注意しなければならないのは宗教右派の政治性格について、一つに括れないことについて塚田穂高(宗教社会学)は、「令和日本の『政教問題』」(岩波書店「世界」22・12)で取り上げている。
日本会議は「皇室崇敬・靖国護持・戦争賛美・伝統重視を基軸に改憲を訴える『国家神道』『戦前回帰』『歴史修正主義』」を基軸にしているが、統一教会はこの政策は通用しない。統一教会は、「『真の家庭』や性的『純潔』を重視するため、夫婦別姓や『過激な』性教育、同性婚、LGBT理解増進法などの動きを『共産主義の策動』などとして強く批判してきた」とアプローチし、「『宗教右派』的ではあるが、必ずしも『伝統』の復古や保持とも言えない」と述べ、宗教右派と規定する場合の性格の違いを踏まえるべきだと強調している。
また、斎藤正美(社会学)は、「自民党と宗教右派の結託が阻んできたもの」(岩波書店「世界」22・12)というテーマから「自民党保守派と宗教右派の連携」について男女共同参画社会基本法をめぐる宗教右派の諸工作をクローズアップし、「2000年代、自民党は、宗教右派勢力によるバックラッシュの成果を、自民党PTの政策提言に結実させ、第二次男女共同参画基本計画(2005年)の内容を後退させることに成功した」ところまで達していたのだ。そのプロセスで活躍したのが「第三次小泉改造内閣(2005年10月)が組閣され、第二次基本計画策定に影響力を行使しうる内閣官房に安倍晋三が、内閣大臣政務官に山谷えり子が就き」、山谷は「ジェンダーフリーや過激な性教育など国民の常識に反している部分は削除しました」と公言する始末だ。
結果として、「ジェンダー平等やLGBT政策を阻止し」、「性教育は国際標準から甚だしくおくれをとり、選択的夫婦別姓制度も導入されなければ、同性婚もLGBTの差別禁止もみとめられない人権後進国になり下がっているのだ」と斎藤は述べ、現局面の限界性を踏まえつつ、次に向けていかに歩んでいくのかと問いかけるのだ。
清水提起をどのように受けとめるか
自民党右派と宗教右派の連携プレーは政策的一致を求め、目的意識的に構築してきた。その「成果」がLGBT「理解増進法」潰しとして現れ、安倍晋三と山谷えり子がフィクサーとして立ち振る舞ってきたことを浮彫りにしておかなければならない。この様相については、岩波書店「世界」21年8月号)で二階堂友紀が「これは闘争、ではない─LGBT理解増進法案見送り」「5年越しの議論を経て与野党合意にまで至っていたLGBT理解増進法の国会提出が、自民党内部の保守派の巻き返しを受けて、見送られた。いったい何が起きていたのか」というタイトルで展開している。ここでは宗教右派の工作、妨害などについては触れていないが八木秀次(麗澤大学)、繁内幸治(「LGBT理解増進会」)、櫻井よし子(国家基本問題研究所)による反対動向などを取り上げているから連動して動いていたことは確かだろう。
筆者が「週刊かけはし」(22年7月25日号)で紹介した国会議員に配布された神道政治連盟の冊子「夫婦別姓、同性婚、パートナーシップ、LGBT」は、その主張はほぼ統一教会の政策と同一だ。神政連は、日本国家の建設に向けて天皇主義を柱とし、家父長制と家族を基盤とすることを掲げている。国家を優先し、個人主義、自己決定権、多様性は絶対に認めない。統一教会と同列で扱うことはできないが、宗教右派の枠内に存在している。
「週刊東洋経済」(22年10月8日)は、「宗教 カネと政治」と題して統一教会分析を特集している。その一環として「神道政治連盟『冊子』の波紋 『LGBTたたき』で一致する統一教会と神社本庁 出自も異なる2つの宗教が不自然なほど似通う謎」という記事を掲載している。ここでも安倍晋三、山谷えり子がジェンダーバッシング、LGBT理解増進法潰しで活躍したことに触れながら「謎」そのものに迫ろうとしているが、LGBT理解増進法案を推進してきた稲田朋美衆院議員(自民党)が団体名を出さないで「落選運動をされた」と語るところで分析が終わっている。
この現象をどのように解釈すればいいのか。
そのヒントを提起するのが「トランスジェンダー問題――議論は正義のために」(ショーン・フェイ 著、 高井ゆと里翻訳/明石書店)の解説を行っている清水晶子(東京大学総合文化研究科教授)だ。
清水は、「スーパー・グルー(超強力接着剤)による一点共闘─反ジェンダー運動とトランス排除」というテーマから「日本フェミニスト文学の代表的な担い手の一人として知られてきた笙野頼子氏が、とある団体のサイトで、自分は『一点共闘で一票(中略)山谷えり子』に入れるつもりだ、と表明した」ことを取り上げている。
つまり、笙野が「保守派の大物政治家との『一点共闘』を決意したのは、後者がトランスジェンダーの権利主張を押し戻す立場をとるためであり、それが前者にとっては『メケシ』(『女消』とは、トランスの人々の権利擁護、あるいはトランスという存在自体によって女性存在が抹消される、という発想に基づく笙野氏の擁護)に抗い女性の権利を擁護するものとして理解されているためなのだ」。
「トランスの権利擁護への反対という『一点』で、フェミニストやリベラルが、道徳的、宗教的保守派との『共闘』に組み込まれていく潮流は、2020年代を迎えた現在、国境を超えて各地で観測されつつある」ことを紹介しながら批判アプローチを展開する。
「こうして、非常に巧妙に、あるいは捻じれた、状況が生み出されてきている。すなわち一方では、女性や性的マイノリティーの権利主張に対する批判(あるいは明確な敵意)と『伝統的』な家族観・ジェンダー観の擁護を媒介として、宗教的
・道徳的右派勢力と、人種主義や排外主義を打ち出す右派ポピュリズムとが、どちらも反ジェンダー運動にかかわってくる。同時に、反ジェンダー運動の中心をトランス排除に設定することで、明確に反フェミニスト的な主張や活動を繰り広げてきたこれらの運動に、フェミニストの活動家や論者の一部が組み込まれていく、空っぽの仮想敵としての『ジェンダー・イデオロギー』がイデオロギーも政治目標も異なる様々な右派勢力を結びつける接着剤の役割を果たしてきたとすれば、トランス排除は、それらの右派勢力のもっともわかりやすい共通の敵であったはずのフェミニストの一部までをもそこに吸い付けていく、いわばスーパー・グルー(超強力接着剤)なのだ」と分析しぬき、「週刊東洋経済」の「『LGBTたたき』で一致する統一教会と神社本庁」の「謎」に対する一つのヒントを提起するのだ。
そのうえで清水は、「トランス排除の『一点共闘』でフェミニストから支持を表明された山谷えり子氏は、まさにその中心的な人物である。つまり、山谷氏の側から見れば、トランス排除は『一点共闘』のポイントなどではなく、むしろまったく逆に、多様で広範な右派を巻き込む反ジェンダー運動にとってはの今のところもっとも効果的な『ジェンダー・イデオロギー』のコマのひとつにすぎない」と批判し、「日本の政治的文脈においてより使い勝手の良い他のイシューが出てくれば─それが選択的夫婦別姓であろうと、妊娠中絶の配偶者同意であろうと、婚姻平等であろうと─ターゲットはそちらに移行していくだろう」と警戒をよびかけ、再度の「国境を越えた『トランス問題』の拡散は、その最新の様態に他ならない」と強調する。
すでに統一教会をはじめ宗教右派は、LGBT差別禁止法制定阻止に向けて先取り的に、草の根的に各地で暗躍している。清水の今後の動向分析も含めて自民党保守派と宗教右派の連携プレーによる憲法改悪を射程にした運動に楔を打ち、跳ね返していこう。
(遠山裕樹)
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