汚染水海洋放出反対の運動を
巨利むさぼる電通と大企業
1・18東電刑事裁判控訴審判決に集まろう
原発推進に転じた岸田政権
原子力災害は国や東京電力が引き起こした重大事故による大人災である。その被害が継続中であるにもかかわらず、経済産業省原子力小委員会は、岸田首相の指示を受けて検討してきた原発活用行動計画案を提示し、岸田政権として原発再稼動や原発運転期間延長、次世代型原子炉開発など新規の原発建設を推進するなど「原発回帰」を表明、さらには、環境相が除染土の再利用を東京新宿御苑、埼玉県所沢市、茨城県つくば市で実施する計画を発表した。事故後の原発依存度の低減を掲げてきたエネルギー政策の大転換だ。その無責任さは歴代政権を引き継ぐものだが、あまりに唐突で、かつ事故後の状況と原発が抱えている問題などについてなんらの対応を示さないという点で最悪のものだ。
ペデスタル溶融、原子炉倒壊の恐れ
福島原発は今も緊急事態宣言下にある。溶け落ちた燃料デブリの回収撤去と称してロボット開発と壊れた原子炉への投入など無駄な実験に金とエネルギーを費やしているが、何ら進捗していない。しかし、一方2022年5月に、1号機格納容器内調査で原子炉を支えるペデスタルの基礎が溶融しコンクリートが溶け鉄筋と鉄骨がむき出しになっている写真が公開された。建築の地震評価からすると外観だけで全壊と判断できるという。この上にある原子炉とともにペデスタルが地震によって倒壊する恐れがあると、四国電力伊方原発などで原子炉の据え付け責任者などを歴任し、現在「福島原発事故対策検討会」代表の森重晴雄さんは警鐘を乱打している。福島沖での地震が頻発し、破損は進み倒壊の危険性が高まっていると考えられるが、国も東電も対策を急ごうとはしていない。
汚染水海洋放出をめぐる攻防
政府と東京電力が躍起となっているのは、「ALPS処理水」の海洋放出だ。その条件整備として漁業関係者への説得工作を強化し、新たな基金を創設した。またIAEAなど国際機関の権威の利用や新聞折り込み、高校生を対象にした説明会の開催や各省庁を挙げプロパガンダを行っている。
これを担っているのが2020東京五輪汚職・談合で暗躍した広告最大手「電通」だ。電通は、国と電力資本の意を受けて原発事故後の世論誘導を担い、各省庁、県、自治体と結託し、「放射能安全神話づくり」「安心安全キャンペーン」に深くかかわってきた。事故直後には「放射線健康リスク管理アドバイザー」に山下俊一らの就任に関与したのを手始めに「心の除染」「県産農林水産物PR」「風評払拭リスクコミュニケーション」などの事業に参画し2011年~2018年の7年間に国や県から240億円を得たという。これは地元の福島テレビ、福島中央テレビの4年分の売り上げに匹敵する。
この事実はマスコミによってではなく、福島県、環境・経産・農水省と電通との契約書などの情報公開請求を続けてきた野池元基さん(長野在住、“産直泥付きマガジン”「たぁくらたぁ」の発行人)の粘り強い取り組みで明らかにされた。
そして今、「ALPS処理水に係る地域対応・国民理解醸成活動等事業」が進行中で、新聞各紙にテレビCMに繰り返し(各選挙の投票日にまで)折り込み、広告掲載が行われている。巨利をむさぼる電通などの業界にとっては、「福島はおいしい!」状態が続き、この金がTV・新聞各社に回り、報道姿勢を縛り、今では、海洋放出に疑問を呈する報道は稀となり、風評払拭の取材報道が大半を占める。
にもかかわらず、海洋放出の理解は進んでいないとする県民世論が多数を占め、放出強行の歯止めになってきた。県漁連・全漁連・近隣県漁連は断固反対の姿勢を崩さず、「これ以上海を汚すな!市民会議」が、「一人一人が関係者」であるとして県知事及び立地の双葉と大熊町長に対してハガキを送る運動を展開しているのをはじめ、各団体がとりくみを継続している。
トンネル工事が遅れ、海洋放出開始は9月にずれ込むと報じられている。この時間を活用し、今後、国と東京電力に対して、公開の説明会開催を福島県内各地と隣接の宮城、茨城県などで開催させ、海洋放出の問題点を深く住民・県民に広げていくことが必要だ。2022年10月の福島県知事選において、共産を除くオール与党体制が崩れ、汚染水放出反対を掲げた草野候補には共産に緑の党やれいわサポーターと脱原発市民運動が加わり得票数を倍加させ、内堀知事の票を大幅に減らした。ここに表現された統一戦線の萌芽を育てて大きくしていくことが求められている。
進んでいない復旧・復興
原発事故以来、被災住民が直面してきたのは、被ばく受忍が求められる中での帰還不安、健康破壊、震災関連死、高齢比率と要介護者増、生活習慣病増、甲状腺検査縮小の動きであり、除染の打ち止め、医療費支援縮小、避難県民の公営住宅からの追い出しであった。膨大な復興予算が福島県内、浜通り地方に投下されてきたはずであるが、膨大な面積の地域が除染されておらず「白地地区」とされ、小・中・高校が次々と廃校になってきたことに典型的に示されるように元々の住民生活、地域社会の復旧・復興にはつながることはなかった。
「イノベーション・コースト構想」で住民の入れ替え
その一方で強力に進められているのが、原発事故前の状態に戻すのではなく「創造的復興」を実現するための「イノベーション・コースト構想」「国際研究拠点建設」「移住推進」「高付加価値産地展開支援」事業である。2017年に国家プロジェクトに位置付けられ、福島県は、研究施設や道路の整備、企業誘致などのための補助金制度など関連事業に5年で4000億円もの予算を計上、ドローンなどの実証実験を行う「ロボットテストフィールド」をはじめエネルギー関連及び先端技術などの新産業創出、国際産学連携拠点の整備等を進めてきた。富岡町には、廃炉国際共同センター、大熊町にはデブリ等研究分析センター、楢葉町には遠隔技術開発センターなどを設置した。これらは、廃炉に向けた準備が進んでいるかの幻想を印象づける事業と言っていいだろう。その主役は大企業であり、復興特別所得税を原資とする公的資金がその懐を膨らませている。そして関連事業の従業者等が新住民となることで、いわば住民の入れ替えが行われることになるが、人口増や地域社会の再興は望めない。
国・東電の責任回避を許さない
東電旧経営陣に対する刑事裁判控訴審の判決は1月18日に行われる。東電株主代表訴訟では、本刑事裁判とほぼ同じ証拠に基づいて役員に13兆円賠償を命じたが、同様に有罪となるとは限らない。岸田の原発回帰と大軍拡路線と対決していくためにも、あくまで責任追及・刑事罰要求の闘いを進め、汚染水海洋放出反対の運動を展開し続けて行かなければならない。判決公判に結集しよう。
(世田 達)
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