1.18福島原発刑事訴訟控訴審
地裁判決につづく不当判決を許さない!
東京高裁の細田裁判長は1月18日の午後2時から行われた判決公判で、福島第一原発事故を起こし、双葉病院の入院患者など44人を死に至らせたとして強制起訴された東京電力の3人の経営者に対して無罪判決を言い渡した。全くの不当判決である。福島原発刑事訴訟支援団は判決日当日の傍聴券の取得と、判決前の高裁前のアピール行動、旗出しと支援者のスピーチ、公判との併行集会、判決後の報告集会への参加を呼びかけた。まず、1月22日までに支援団ホームページに掲載された記事などで補足しながら、判決日当日の行動を報告をまじえて今年前半の課題を考える。
三権が分立ではなく連立
東京高裁は過去の例より1時間早い午前10時から40分間、傍聴券取得のための抽選券の配布を行った。支援団は10時40分過ぎから、11時30分の結果発表までの時間を使い、福島県内をはじめ北海道や金沢から駆けつけた事故被害者や遺族、福島原発告訴団・刑事訴訟支援団弁護団が地上19階建てのビルに入る東京高裁に向かってアピール行動を行った。進行役は原子力資料情報室元スタッフの澤井正子さん。
行動は福島原発告訴団の団長で支援団副団長の武藤類子さんのあいさつではじまった。いわき市議会の公務のため高裁前に駆けつけられなかった支援団団長の佐藤和良さんのアピールを事務局長の地脇美和さんが代読、弁護団の海渡雄一弁護士、大河陽子弁護士と、前半は支援団関係者があいさつをした。河合弘之弁護士は、1月31日に開始する東海第二原発差止訴訟の控訴審で裁判長をつとめる永谷典雄判事が、法務省大臣官房訟務担当として六ケ所村にある核燃料サイクル施設や原発の差止訴訟や国家賠償訴訟などの国側の訴訟・指揮を担当してきたことから、その辞任申し入れのために遅れて参加しアピールをした。
つづいて、双葉地方原発反対同盟代表の石丸小四郎さん、支援団の山内尚子さん、西会津町の五十嵐和典さん、大熊町から水戸市に避難している菅野正克さんがあいさつをした。正克さんの父親の健蔵さんは双葉病院からの避難中に亡くなっている。
西白河郡西郷村から千歳市に避難している地脇聖孝さんは「昨年末から本当に2023年がやってくるのだろうかとの思いにかられていました」と前置きをし、世界最多の核弾頭をもつロシアはその使用をいまだ公言したままで迎えた年、卯年に起きた事故から一巡した年、さらに関東大震災から100年目で首都直下地震がいつ起きてもおかしくない年と、今年こうした判決日が阪神・淡路大震災の発生日の翌日であることを強調した。田村市都路から金沢市に避難している浅田正文さん、田村市から東京に避難している避難の協働センター世話人の熊本美彌子さんが挨拶をした。
避難をめぐっては、1月13日に福島県が「家賃を払わずに国家公務員宿舎の東雲住宅に住み続けた」として2世帯に退去や損害賠償を求めた訴訟で、福島地裁は現在も居住している1世帯に退去を命じ、約131万円と約147万円の損害賠償も命令した判決が出た。つづいてあいさつをした浪江町から福島市に避難している子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄さんは、「裁判所と闘っているようだ」と感想を述べ、「司法は独立していなければいけない。三権分立ではなく、これは三権連立だ。そんな判決を今日は出してほしくはない」と訴えた。抽選がはじまる時間が近づき行動は中断、午後の行動を確認していったん散会した。
薄くて軽い判決朗読
公判がはじまる2時が近づき、高裁前行動が再開した。判決の主文(本件各控訴を棄却する)が読み上げられたらしく、支援団の2人が建物から門前に向かって歩いてくる。門をまたいでから開いたA3のプラカードには「全員無罪/不当判決」「全員無罪/不当判決」とプリントされていた。
元朝日新聞記者で支援団HPに「傍聴記」を添田孝史さんは今回の判決に寄せて次のように報告している。――細田裁判長は2時間近くにわたって「(高い津波に)現実的な可能性がなかった」「長期評価は信頼性にかけた」と繰り返し、聞いていてうんざりし、あきれて、怒りがわいてきた。原発のような危険な施設で、役員の刑事責任はどのように判断されるべきなのか、その骨格となる論理は示されず、たんに被告側の主張をコピペしてつないだように聞こえる、薄くて軽い判決だった。閉廷後、傍聴席から「恥を知れ」とヤジが飛んだが、同じように思った人は多いだろう。
このうんざりする公判が終わり、傍聴した仲間や弁護団が参加するまでの時間を使い、東京弁護士会館の講堂で併行集会が行われた。全国各地から駆け付けた仲間として、京都の佐伯昌和さんと水戸喜世子さん、新潟の小木曽茂子さん、埼玉、千葉からの参加者が発言を行った。地脇聖孝さんは「予想された判決だった」と前置きし、「私たちが負けた判決ではない。何も悪いことをしていない私たちが負けるわけはない。今回の判決で負けたのは日本の司法、刑事司法が負けたのだと私は思っている。私たちが負けたのではなく、司法が負けたのだ」、最高裁の逆転判決や差し戻しなどの判断の可能性に期待して「検察官役の指定弁護士は今日中に上告の判断をしてほしい」と訴えた。強気の発言は、不当判決によるダメージを軽減するための準備だったように思え、被災者や避難者、被害者や遺族らと心を寄せてきた仲間に深く届くメッセージとなっただろう。
指定弁護士の4人は公判後、「本日の判決は、国の原子力政策に呼応し、長期評価の意義を軽視するもので、厳しく批判されなければなりません。我々としては、この判決内容を詳細に分析して、上告の可否等について改めて検討していきたい」とのコメントを発表している。告訴団と支援団、被害者参加代理人弁護団はそれぞれ指定弁護士に上告を求める上申書を発している。判決文などを含め、前記の情報は支援団HPに掲載されている。機会をつくって確認してほしい。https://shien-dan.org/
災害大国の軍事体制
本紙「かけはし」や、3・11を契機に「原発ゼロ」に政策転換した日本共産党は東日本大震災時の自衛隊の活動の評価をしながら、災害救助に特化した任務に転換すべきとの主張を行っただろう。暦が一巡したこんにち、安保法制の改悪、南西諸島や馬毛島に新基地や設備増強、いわゆる防衛3文書の閣議決定と併行して、GX実行会議を中軸とした原子力政策の「回帰」が進められてきた。
1944年12月8日の各紙1面トップは「いずれも昭和天皇の大きな肖像写真および戦意高揚の文章で占められている」とウィキペディアの「昭和東南海地震」の「戦時下における地震被害の隠蔽」について書かれている。この前日の12月7日の午後1時36分、熊野灘沖を震源としたプレート型大地震が起き、死者・行方不明者は1223人を数えたとされる。情報統制の影響は、大きな揺れを観測した長野県諏訪市や岡谷市で、情報統制の中、単独の「諏訪地震」とされてしまったなどの情報の混乱の原因にもなった。この地震で中島飛行機と三菱重工業の工場が倒壊し、それぞれ死者130人、60人の被害を出したという。
この東南海地震前後して、4年連続で1000人を超える死者を出した4大地震(鳥取地震、三河地震、南海地震)は情報統制と敗戦直後の混乱で限定地域でしか知られていないのが実情だろう。
中島飛行機はスバル自動車に引き継がれた。スバルは在日米軍のオスプレイの点検修理のライセンスを得た。オスプレイはイスラエルが発注したがキャンセルした機種でもある。三菱重工は社運を賭けたスペースジェットが米国審査を通過できずにとん挫したように、両社は命を軽んじた事業をいまも継続しているとみるべきだろう。本体が高額で修理が多くなる兵器が日米の軍事収益にとって好都合で、岸田政権に聞き入れやすい要望となったのだろう。
政権は3・11からの暦が一巡しないうちに地震と津波と原発事故が重なった東日本大震災の教訓、さらには歴代首相が継続する原子力非常事態宣言が継続されていることを理解していない。
GX政策をつぶそう
3・11で原子力産業界の棚にしまっていた計画案を並べたような案件がGX会議に寄せられ、年末から1月にかけパブリックコメントにかけられた。防虫剤に守られていたような過去の計画案は、陽にさらしつづければやがて虫食いになるだろう。あらゆる機会を通じて、政府に異議を突き付けることは必要だ。パブコメを経て、これらの案が2月から3月にかけて閣議決定される見通しだ。朝令暮改と評される政権らしく、繰り返されてきた失敗、災害時の人災や教訓を忘れた政権は交代させねばならない。
開会する通常国会では、2023年度予算可決後に束ね法案として提出され審議入りする見通しだ。審議入りを前後して統一自治体選挙、G7広島会議がある。
自治体では、大阪維新の組織と政策のように脱原発から岸田の政策を支持する流れもあるが、独自の脱原発やエネルギーの「地産地消」をさまざまな規模と方法で進めてきた自治体も増えてきた。自公の国政与党ばかりではなく、連立の可能性もあるとみられる野党へのゆさぶりのため、自治体選挙への立候補者への働きかけが重要だ。
岸田はG7首脳会議を広島に招致した。岸田は「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議を提唱し、昨年12月に第1回会議が広島で開催された。この座長に据えられたのが白石隆熊本県立大学理事長で、白石はエネルギー基本計画をまとめる審議会の座長であり、GX会議から政策審議を求められ、現在の基本計画を反故にする答申を行った。
3~4月の統一自治体選挙、5月のG7という国際的舞台と交差しながら国会審議が行われる。
なお、広島には、かつて読売新聞社主であった正力松太郎が初代原子力委員長を兼ねていたころ、平和資料館などを会場に「原子力平和利用博覧会」が開かれた歴史がある。岸田は世襲議員の3代目でもある。また、正力は関東大震災の際、社会主義者の扇動による暴動に備えるための警戒・取締りを指揮した。その際、「朝鮮人の暴動説を新聞記者を通じて流布させ、関東大震災朝鮮人虐殺事件の一因を作った」とウィキペディアに書かれている。2023年の課題は尽きない。 (1月23日 KJ)
資料
東電刑事裁判東京高裁不当判決に抗議する声明
本日、東京高裁第10刑事部(細田啓介裁判長)は、一審無罪判決に対する指定弁護士の控訴を棄却し、原判決を維持するとの判断を示しました。
この判決は、一審判決をそのまま、無批判に是認した判決であり、この事故によって、命と生活を奪われた被害者・遺族のみなさんの納得を到底得られない誤った判決だと思います。
推本の長期評価について、判決は、一応「国として、一線の専門家が議論して定めたものであり、見過ごすことのできない重みがある」とは述べましたが、この見解には、これを基礎づける研究成果の引用がなく、原発の運転を停止させる「現実的な可能性」を基礎づける信頼性はないとして、これに基づく、津波対策の必要性自体を否定しました。
事故対策を基礎づける科学的な知見について「現実的な可能性」を求めることは、地震学の現状からして、明らかに間違いです。このような判決は、必要な事故対策をしないことを免罪し、次の原発事故を準備する危険な論理となっていると思います。
また、判決は、地裁では判断されなかった貞観津波について、さらに検討を加え、知見が劇的に進展していると認めたにもかかわらず、津波高さは9メートル前後だとして、10メートル盤を超えていないとしました。しかし、この計算は詳細なパラメータースタディを経ない概略計算であり、詳細計算を行えば、10メートルを超えることとなったことは明らかであるのに、これを無視しました。さらに、ここでも、研究課題が残っているとして、知見の成熟性を否定しています。
延宝房総沖のモデルによる津波の試算(13・5メートル)については、被告人らが、検討を依頼した土木学会でもこのモデルで委員の意見が一致を見たにもかかわらず、これも成熟した知見と認められないとして、津波対策を基礎づけるものではないとしたことも、著しく不合理な判断です。
結果回避措置について、水密化の対策は他の対策とセットでなければ、事故の結果を避けることはできなかったと判断しましたが、そのような判断には何の根拠も示されていません。また、津波の浸水高さが高くなったと指摘もされたが、津波の水密化の対策をとるとした場合に、かなりの余裕を見込んで設計がなされたはずであり、水密化の津波対策がとられていれば、それだけで、すくなくとも過酷事故の結果は避けられた可能性が高いとの東京地裁の株代訴訟判決には、これを裏付ける東電技術者の明快な調書が存在しており、こちらの方が正しいと思います。
このような判断を確定させると、まさに次の重大な原発事故を繰り返してしまうことが危惧されます。いずれにしても、この判断を確定させてはならないと思います。指定弁護士の先生方には、ぜひ、事件を最高裁に上告していただき、昨年6月の最高裁判決との矛盾を掘り下げて、この判決を覆していただきたいと思います。
週刊かけはし
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