1.22「原発汚染水はなぜ流してならないか」

「命の源」守るために
三春町で小出裕章さん講演

 【福島】原発汚染水の海洋放出が今秋から夏にかけて強行されると報じられる中、元京都大学原子炉実験所助教の小出裕章さんの講演会が1月22日、三春町で開かれた。実行委員会が主催、県内外から350人以上が詰めかけた。
 小出さんは、命の源である海に放出させてはならないとの立場からスライドを映し出しながら次のように話した。

広島原爆の
168発分
 爆発によって壊れた原子炉建屋、溶け落ちた燃料デブリはそのままだ。災害弱者から命が奪われていった。原発とは大量の放射性物質を生みながらため込んでいく機械。広島原爆168発分の放射能が放出された。原子力緊急事態宣言は100年以上解除できない。
 被ばく許容量は科学的知見が増えるとともに規制値は下がってきたのに、東電事故後引き上げられた。放射線業務従事者と福島事故被害者の扱いは違っている。どんな病気になっても労災は認められず、因果関係も否定され、補償もない。外界と遮断されていなければならない原子炉建屋に地下水が流れ込み続けている。
 処理水と呼ばれてきた水の7割以上はトリチウムを除いても放射能汚染水だ。放射能を海に流してはいけない。できることは時間をかせぐこと。海に流さない方策はたくさんある。大型タンク、モルタル固化、地下への圧入、海の深層への注入などだ。福島原発1,2,3号機の炉心には3400兆Bqのトリチウムがあったが、10年経って1920兆Bq、タンクに780兆Bqあるという。毎年22兆Bqずつ薄めながら放出したとして減衰を考えても二〇四六年までかかる。
 今はタンクにないトリチウムを放出するまで50年以上かかる。事故の責任者も被害者も多くが死んでいる。気の遠くなる作業だ。電力会社、原子力産業、ゼネコン、学会、裁判所、マスコミがグルになって原子力を進めてきた。これら原子力マフィアを処罰する必要がある。
 原子力マフィアは、マスコミと教育を支配し、再稼働、運転延長、各新型原子炉開発と原発推進に動いている。六ケ所村の再処理工場が運転を開始すれば1年間に800トンの使用済み燃料を処理し、毎年18ペタBqのトリチウムを環境に放出することで原子力が成り立っている。福島のトリチウムを海に流していけなければ日本の原子力は崩壊する。」「日本の大人には原子力の暴走、事故を起こした責任がある。子どもたちを被曝から守るのが大人の責任。原子力マフィアに再び原発を動かさせないためにも、汚染水を流させてはいけない、と結んだ。
 「福島からの声」ということで新地町の漁師小野春雄さんと会津若松市の片岡輝美さんが登壇。小野さんは,海の大切さ、仕事場としての海、生業の歴史や海洋生物の生態系について話され、政府の放出決定や風評払拭政策に怒りの声を上げた。片岡さんは。「これ以上海を汚すな市民会議」と「モニタリングポストの継続設置を求める市民の会」の活動を紹介するとともに海洋放出問題へのとりくみが国際的な広がりを見せる中、闘いを進めて行くことを訴えた。

 小出さんは、会場から寄せられた60もの質問の中から選びだされた質問に丁寧に答え、一号機原子炉格納容器基礎のペデスタル破損によって重大危機のさなかにあることも付け加えられた。集会アンケートも100以上寄せられた。

原子力業界寄
りのメディア
 今講演会は、23団体と38個人による小出裕章講演実行委員会、11団体、57個人の賛同、三春町、同教委、ラジオ福島、朝日新聞福島総局、東京新聞、ココラジの後援によって開かれた。出自の違う団体、人々のつながりの拡大が講演会への多数参加に結び付いた。
 地元新聞2社とテレビ局の多くは後援に応じず、また途中で後援を降りたテレビ局もあった。加えて本講演会を報じた新聞は、演題も内容も「汚染水」なのに「処理水」とわざわざ言い換えた。
 報道界の多くが国、県、東電、原子力業界寄りであることがここにも表れている。しかし、本講演集会の成功は、原発事故から12年、国策がもたらした厳しい現実に向き合い闘い続ける中で、権力と資本によるプロパガンダに抗して真実を追求しようと連帯する人々の存在をはっきりと示した。この成果を礎として。福島原発刑事訴訟をはじめとする裁判の勝利、被害者救済、岸田政権による原発推進政策阻止の運動を広げて行こう。 (世田 達)

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