チェチェン戦争から見たウクライナ侵攻の今
2.4『非暴力という希望』出版記念
チェチェン連絡会パネルディスカッション
いのちを最優先する社会へ
【東京】2月4日午後2時から、千代田区富士見区民館で、『非暴力という希望――いのちを最優先する社会へ』出版記念 2・4チェチェン連絡会議パネルディスカッション「チェチェン戦争から見たウクライナ侵攻の今」が開かれた。
非暴力という
希望への挑戦
チェチェン連絡会議代表の青山正が昨年『非暴力という希望――いのちを最優先する社会へ』(同時代社刊)を出版しました。それを記念してチェチェン連絡会議主催のパネルディスカッションを行います。メインテーマはロシア軍のウクライナ侵攻です。
チェチェン連絡会議は昨年ウクライナ侵攻について2つの声明を発表しました。それは国内外で出されているウクライナ問題への誤った情報や意見をただすためでした。
長年チェチェン戦争の平和解決と人権の回復を願ってきたチェチェン連絡会議は、プーチン大統領による対外的な軍事的恫喝とロシア国内での人権及び言論への弾圧に向き合ってきました。ウクライナ侵攻の原型とも言うべきチェチェン戦争を通して、ロシア軍の侵攻が何をもたらしているのか、そして日本の私たちに何が問われているのかを、一緒に考えたいと思います。(呼びかけ文より)
チェチェンか
ら見る意味は
パネラーは青山正さん(チェチェン連絡会議代表)、林克明さん(ジャーナリスト)、常岡浩介さん(ジャーナリスト)、岡田一男さん(映像作家)。
最初に、青山さんが出版に至った経過とこれからの日本への提言を書いたと説明した。次に、林克明さんが「チェチェン戦争から見たウクライナ侵攻」について、話をした。
「1995年1月にロシアに入った。チェチェン戦争が始まった。それから10年間関わっている。チェチェンの中に入った。ロシアのウクライナ侵攻のニュースを聞いて、やっぱりついに来たという感想だ。背景にチェチェンでのロシアの戦争を見てきたからだ。27年間のチェチェンの戦争、いろんなことがある。四半世紀、ロシア世界の拡大が根底にある。当時のチェチェン大統領のドゥダーエフが、95年12月に、世界はチェチェン人の虐殺を認めているか黙ってみているが、ロシアは必ずウクライナに向かう。その時事態の深刻さに気がつくだろう、と言った。予言になっている。いま、世界が気付いた」。
「ロシアのそうした考え方は何時からか。ソビエト崩壊後についてから、話したい。1991年から3年間、混乱しガタガタになった。治安機関が混乱し、弱体化した。海外で暗殺をしなかった。息を吹き返し1994年、チェチェン戦争を始めた。さらに、1999年、プーチン政権の登場。第1次チェチェン戦争は1年8カ月で終り、チェチェンが勝った。プーチンは民主主義のせいで負けたと考えた。マスコミが自由に報道していた。デモがしょっちゅう起きていた。KGBの前に1万人の抗議デモもあった。ロシアの春と言われた。ロシア人が生中継でチェチェンで起きていることを知ってしまった。疑問を持つ人が増え、チェチェン戦争に参加した兵士の母親たちの活動が活発に行われた」。
「99年、プーチン首相の誕生。モスクワをはじめ連続爆破テロ事件を演出。第2次チェチェン戦争が始まる。収容所に入れて拷問、住民の大量虐殺、集団埋葬墓地。ウクライナ戦争では多くの国がウクライナを支援しているが、チェチェンの時には逆であった。西欧はずっとロシアを支援してきた。自由に何でも使える融資をした。チェチェンでは5人に1人が殺された。NATOの東欧拡大がいけないと言うがロシアはそれを認めてきた。ウクライナのNATO加盟にフランスなどが反対してきた。ロシアのウクライナ侵略は2014年から始まっているのに、欧米はそれを認めていた。きちんと対応しなかったから今がある。ロシアに対してきちんと対応しなければならない」。
チェチェン独
立勢力の動向
常岡さんが「ウクライナでのチェチェン独立派の動向」について、話をした。
「1999年、チェチェン戦争の取材を始めた。2005年からウクライナに7回入った。2019年にパスポートを取り上げられそれから入れない。ウクライナでのチェチェン独立派の動向。91年にイチケリアと名乗り、大統領が5代続いた。しかし、国名は承認されなかった。アラブ、トルコから援助があった。2001年のアルカイダの国際テロの時、チェチェン独立活動は国際テロに入れられてしまう。2007年、中東のイスラムの影響が強まり、過激派が強くなり、その後2016年には活動実態がなくなった。欧州に亡命したチェチェン人は欧州議会でオブザーバーが認められた」。
「イチケリア亡命政府、自由カフカス。この二つの人たちはウクライナで戦っている。欧州、トルコへ逃げた人がシリアに入った。ロシアはシリア反政府派を空爆したり、民間傭兵ワグネルを使って弾圧した。チェチェン人はイスラム神秘主義で、アルカイダやISとは敵対関係にある。チェチェン人で様々な国籍を持つ人たちが1500人ぐらいいた。ウクライナには5つの組織がある。後ろから撃たないなど美学があり、日本の神風特攻隊を高く評価している。イチケリア軍特別目的大隊がウクライナにおける公式団体。シリアで戦った部隊。資金はユダヤ人財閥などから出ている。最近、ポーランドの首相がチェチェンは独立すべきだと発言した。ウクライナ政府やバルト諸国もチェチェンは不法に占領されていると言い始めた」。
「ロシアは極端から極端にふれる。ロシア連邦の解体もありうる。ロシアの少数民族、周辺国も離れていく可能性がある。世界で一番多くの核兵器を持っているロシアの解体は避けるべきだという意見がある。私は混乱があっても解体・再編があった方が望ましいと考えている」。
ロシアの現状
と今後の行方
岡田一男さんが「ロシアの現状と今後の行方」について語った。
「ロシアで映画製作を学んだ。18歳~24歳までモスクワに住んでいた。ずっとロシアを見続けてきた。あらゆる民族を構成する民族の知り合いがいる。1990年、リトアニアのTV局がソ連軍によって接収され、数十人が殺された。ラトビアの首都でラトビア内務省をソ連の内務省の軍隊が襲撃した。ソ連の崩壊をまじかで見た。エリツィン大統領のインタビューもやった。今の状況、ソ連崩壊期に酷似してきた。ウクライナ戦争でロシアが崩壊して、ウクライナが勝つ可能性がある。昨年9月、ロシアの中で、民族別の準軍事組織が作られた。これが悪影響するのではないか。『ザインサイダー』というサイトに、SVRの将軍が毎日報告を出している。クレムリン内部の情報をリークしている。プーチンが代役を使って様々な所に出ているというのだ。うわさ話は台所でする」。
「ウクライナ国防省の戦況報告で、ロシア軍が2万人の兵士を失ったら風向きが変わるだろうと言っていた。今は12万人が死んだとしている。戦死者の数ではロシア側が上回っている。ロシアは子どもが少ない。子ども、夫、兄弟を失った場合、反戦が出てくるのではないか」。
「プーチンは専門家グループから報告を受けているが、独自に判断している。しかし、プーチンはシャーマンや予言者を重用していて、いかがわしい予言者が影響を与えているようだ。ロシア連邦の崩壊はタタールスタンから始まる。ウクライナ戦争の終結はロシアの背骨を折ることだ。非暴力という考え、戦争を解決の手段にしないことだ。憎しみの連鎖になってしまう。ナチの敗北後、西ドイツはフランスとの和解がどうしても必要だった。その時、映像がツールになった。平和主義が大事。そこに落ち着かざるをえない」。
ウクライナと
日本平和主義
青山正さんが「ウクライナ問題と日本の平和主義について」話をした。
「日本の平和主義の亀裂が深まった。ロシアの侵攻に反対するデモが起きたが、一方で従来の反戦運動の人たちがウクライナ側を批判する言動が多かった。戦っても犠牲が増える。不服従で抵抗すべきだ。信じられない。そのまま殺される。浅井基文さんはロシアが追いつめられたから侵攻した。高野孟さん、プーチンは侵略者か、米欧の責任こそが問われる。IWCAのサイト、ひどいものばかりだ。ブチャの虐殺はロシア側がやったか分からないと宣伝。マスコミでは朝日新聞がひどい記事を連発している。チェチェン連絡会では2回の声明を出した」。
「ウクライナ批判は事実に基づかないもので残念だ。プーチンの言っていることをそのまま主張をしている。驚くべきものだ。NATOの拡大が戦争の原因。マイダン革命はクーデター。アゾフ大隊はナチ。ミンスク合意をウクライナが守らなかった。こうした意見をかつての仲間が言っている。がっかりしている」。
「憲法9条だけでは平和運動の力が持てない。旗印は何なのか。日本の中だけでは突破できない。国際的につくっていく。被害者によりそうものでなくてはならない。非暴力の根本的な平和主義を作り上げたい」。
示唆に富んだ
討論の展開
この後、質疑応答があった。
元朝日新聞記者。「ウクライナ戦争を終わらせるためには、ロシアの背骨を砕くことだという岡田さんの発言はその通りだ。そこで、非暴力で解決するのか。ベトナム戦争、スペイン市民戦争では武器を持って駆けつけた。パレスチナでは抵抗闘争が戦われているが非暴力の運動はない。一定の武力が必要だ。青山さんは理想論ではないか」。
青山さん。「私の考えは矛盾している。抵抗は支持する。日本はどうなんだ。戦争を起こさせてはだめだ」。
林さん。「憲法前文は正しい。信念、めざすものだ。ウクライナは武装闘争している。正しい。理想は平和主義。しかし、侵略戦争とレジスタンスは違う。ウクライナ人、チェチェン人は憲法前文をやっている」。
岡田さん。「ガンジーを勉強したことがある。ガンジーは『相手がイギリスだから勝った。良心に訴えた』と言っていた。ヒトラーのユダヤ人大量虐殺に対して非暴力で戦えたのか。ウクライナ、国際的なボランティアが入り、食料や発電機などを送り届けている。外部のわれわれが入って非暴力で抵抗する。ウクライナ人は武装抵抗する」。
ウクライナ研究会。「ロシアの背骨を砕かなければ脅威はなくならない。血を見るのはいたしかたない。ウクライナがNATOに加盟していたら、ロシア侵攻はなかった。抑止力としての武力は必要だ。それをコントロールする人間を選ぶことができるかどうかだ」。
今回のディスカッションはチェチェン戦争などを実際に取材したジャーナリストの人たちの情報や意見だったので、知らなかったことも多く、非常に参考になった。日本の反戦運動の今後についても示唆に富んでいた。 (M)
週刊かけはし
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