もう一つの「GX推進法」
「GX脱炭素電源法」案の閣議決定を許さないぞ!
2つのGX法案
2月10日に閣議決定されたのは「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」で、政府での略称「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」案だ。政府はもう一つの法案を21日に閣議決定する準備をしていたが、13日の原子力規制委員会で前提となる規制方針確認を全会一致で確認できないという異例の事態となり「見送られた」。至近の動きだけを整理してみる。
1月27日、自民党のGX実行本部が「GX推進法」案の概要をおおむね了承。条文審査、与党プロセスを経て2月10日に閣議決定された。
2月3日、自民党のGX実行本部は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(GX脱炭素電源法)」の審議を開始した(電気新聞デジタル)。この「GX脱炭素電源法」案が、21日の閣議決定を見送られたと思われる「もう一つの法案」である。
5法の「束ね法案」
「GX脱炭素電源法」案は2月8日、自民党のGX実行本部と内閣第二部会、経済産業部会、環境部会、原子力規制に関する特別委員会の5つが合同会議で関係省庁から説明を受け、本部長らに一任する形で了承した。繰り返しにもなるが、これが「GX推進法」案と同様、与党プロセス等を経て21日の閣議決定される見込みだったが、見送られたとみられる。
「束ね法案」とされたのは、原子力基本法、電気事業法、原子炉等規制法、再処理等拠出金法、再生可能エネルギー特別措置法の改正案5本。これまで「原則40年、最長60年」としてきた原発の運転期間を、原発の規制を担う原子力規制委員会が所管する原子炉等規制法から運転期間の上限規定を削除し、原発を推進する経済産業省所管の電気事業法で定めようとするものだ。
岸田首相は2月17日の閣議で、環境相と経済産業相に「新たな安全規制の具体化」と「的確な安全審査に向けた官民の体制整備」を進めるように指示、朝日新聞は18日朝刊で「原子力規制委員会で反対意見が出たため、安全への取り組みを強調することで野党などの批判をかわすねらいだ」と報じた。
注目すべきインタビュー記事がある。週刊東洋経済の2月18日号で、内閣官房の今井尚哉(たかや)参与は次のように語っている。「原発政策を前に進めてもらったことは評価している。ただ現実と結び付かないところもある。まず再稼働で安全性を示してから、リプレース(建て替え)、そして運転期間延長の議論をすべきではないか。もう一度、福島第一原発のような事故が起きたら、日本だけでなく世界の原子力産業が終わってしまう…」。
今井は第一次と第二次安倍政権で首相秘書官を務めた。第一次と二次の間にあたる2011年には資源エネルギー庁次長として民主党政権の脱原発政策を減速させた。今井は現在はキャノングローバル研究所に在籍、経産省の同期に、岸田政権の首相秘書官である嶋田隆元経産次官がいる。今井と嶋田の関係を「口をきかない、目も合わせない…安倍側近vs.岸田側近『官邸官僚バトル』が白熱中」と週刊現代は昨年11月に報じている。経産省と資源エネ庁のなかに今井派、嶋田派の官僚もいるだろう。いずれにせよ、安倍晋三に支持されて政権についた岸田文雄であり、安倍の死をはさんで経産大臣になった二人は安倍の後継を競っている。油断禁物だが、国会の会期は6月25日で、統一自治体選挙終了後でも閣議決定と法案提出は間に合う。
「束ね法案」はやめろ
昨年10月、政府は臨時国会に障害者総合支援法、精神保健福祉法、障害者雇用促進法、難病法、児童福祉法を改正する「束ね法案」を提出した。この障害関連法改正「束ね法案」に反対して、日本障害者協議会は次のような内容の緊急声明を発した。
▼8月に障害者権利条約の対日審査が行われ、9月には日本に対する総括所見(勧告)が出された。勧告では日本の障害者施策の見直しが求められ、勧告後初の法案審議となる今国会では、障害者権利条約が求める「私たちのことを私たち抜きに決めるな」という基本姿勢こそが求めらる。
▼法案は障害者権利条約の日本への勧告の反映が不十分、法案審議にも十分な時間が用意されていない。一つ一つの法案は、障害のある人の人生や暮らしに直結する大事なものであり、法案ごとに参考人質疑を行ったうえで十分な時間をとって審議されるべき。
「GX推進法」案を廃案に!
▼評価できるものと課題の残る法案を束ねて提出している「束ね法案」は、私たちの声を封じることにもなりかねない。国会での慎重な議論を強く求める。
この「束ね法案」に対し立憲民主党は「一括に審議すべきではない」と主張はしたものの、採決では賛成した。反対は日本共産党とれいわ新選組の2党だった(社民党は未確認)。
岸田は所信表明演説で日本のGXを「脱炭素と、エネルギー安定供給、そして、経済成長の三つを同時に実現する、『一石三鳥』のしたたかかな戦略」だとした。GXは世界規模の投資競争に参入し2050年カーボンニュートラル等の国際公約と産業競争力強化・経済成長の3つを同時に実現していくキーワード。今後10年間で150兆円を超える官民の投資が必要で、民の投資を誘引するために20兆円規模の「GX経済移行債の発行」などの官の仕組みを法制化することなどを基本方針とした。DX(デジタルトランスフォーメーション)、イノベーション、スタートアップ、資産所得倍増プランといった経団連などの意向に沿った投資戦略の一つである。「GX推進法」案はこの投資戦略を実現するためのもの。廃案しかない。
(2月19日 KJ)
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