2.11楢木貴美子さんの講演集会
「北方領土」はそもそもあるのか
アイヌ文化からの視点
【東京】2月11日の「建国記念の日」に、「アイヌ文化から北方諸島の問題を考える実行委」の主催で、樺太アイヌ協会副会長の楢木貴美子さんの講演集会が開催された。
「日本政府は毎年2月7日を『北方領土の日』と主張し、エトロフ以南の千島4島を『日本固有の領土』と主張し、ロシアに対して『返還』を求めてきました。しかし、昨年からはロシアはウクライナ侵略戦争に手を染め、日ロが『領土交渉』を行うどころの状況ではなくなっています」。
「千島(クリル)列島にはアイヌ民族が居住していたので、北方4島は日本『固有の領土』だとは言えません。先住民族アイヌは現在の北海道、千島列島、樺太(サハリン)、東北北部に住んでいました。日露両国はアイヌ民族の先住権、自治を具体化すべきで、アイヌ民族から一方的に島々を奪っておいて互いに自分のものだと言い争うのはおかしな話です」(集会チラシより)。
楢木さんはお母さんが樺太アイヌ(エンチウ)。刺繍をはじめとした伝統工芸では数々の受賞歴がある。歴史と文化の語りや、北大構内のツアーガイドやアイヌ民族文化財団の文化活動アドバイザーなどで多様な活動を行っている、とのこと。
近現代史において、樺太(サハリン)は日本とロシアの間の目まぐるしい対立・抗争の舞台となり、先住民族としての樺太アイヌの社会は両国間の外交的・軍事的交渉の道具として踏みにじられ、破壊された。この日の集会は、その生きた歴史を焦点に据えて先住民族・樺太アイヌが受けた差別と抑圧を明らかにしていこうとするものだった。
集会資料では、「自称エンチウ」「他称樺太アイヌ」としての自分を紹介する形での田澤守さんの証言が取り上げられている。
「『北方領土』という領土は本当にあるのでしょうか。『北方領土』があるといえば『北海道領土』『サハリン領土』です。これは日本政府がアイヌを日本人化して勝手につくった領土です。千島を『北方領土』と書いていること自体が間違いです」。
「1945年、樺太がロシアに攻められ、40数万人ぐらいの人が日本に移った。私たちは移住で、日本人は引き上げです。引き上げと移住は大きな違いです。引き上げはもともと自分たちの領土ではないから」。
「なぜ千島だけ『北方領土』というのか。だったら戦争して取り上げたあの南樺太は何だったのか。勝手に領土を取り合いして、勝手に見捨てる日本政府は信じられない」。
楢木さんのお話は、自称としての「エンチウ」、他称としての「樺太アイヌ」という自己アイデンティティをベースに、その中での自らの立場(2013年2月7日の田澤守さん講演「北方諸島とりわけサハリン(樺太)について考える」(当日配布されたパンフより)の立場を貫こうとするものであった、と思われる。
1855年の日露通好条約以後、歴史の前面に押し出され、日本とロシアという軍事大国間の抗争に自らの生活・文化・社会を支配・抑圧されてきたアイヌなど先住民族の文化・生活・権利のためにともに闘おう。
(K)
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