福岡市における自衛隊への名簿提供反対運動

2020年1月から

安倍「自治体非協力」発言以前は閲覧方式

 【福岡】福岡市における自衛隊への名簿提供反対の市民運動は2020年1月から始まった。福岡市は2019年まで自衛隊の募集名簿提供の要請に対して、名簿閲覧で対処してきた。安倍発言(19年2月10日)それに忖度した高島市長の市民局に対する名簿提出打診があるまで、市の見解は「名簿提出は法定受託事務」との立場ではなかった。

高島市長が名簿提供に転換
個人情報保護審議会に目的外利用申請

 福岡市の担当課長はこれまで名簿で提供してこなかったことの理由として「自衛隊法施行規則は具体性に欠けており、名簿提供は福岡市個人情報保護条例に抵触する」ことを挙げていた。
 市長の要請で、名簿提出は法定受託事務との見解に無理やり転換した福岡市はその転換の事実を市民の目からあいまいにするため、個人情報保護審議会に諮問した。
 市は法律上、明確に提出を義務付けている規定のあるものについては、福岡市個人情報保護条例第10条第2項第1号で提供可能であるが、紙媒体で情報提供することについては、行政事務の効率化等の観点から公益上必要があるものとして個人情報の目的外利用が認められるのかについて諮問するものとしたのである。

公益について議論しないで「認可」
 しかし諮問委員会では「公益性」についてほとんど議論していない。公益上の必要について委員から一つも意見が述べられていない。市の「国防始め被災地支援など自治体と協力関係があることと事務の効率化など公益性の必要とまではいかなくても、有益のことではないかと整理している。」という短い説明以外には「公益上の必要」については全く審議されていないのである。
 しかし部会長は「これから審議に移る。」と宣言し、審議なしのまま反対意見なしと判断して「諮問通り公益上の必要があるとして提供しても構わないとお見受けしたが、よろしいか。」と締めくくっている。
 審議会は市の諮問機関である。ここで「公益」回答を引き出し、個人条例保護制度の手続きを踏んでいる体裁を取って自衛隊への約6万人分の名簿提供を2020年市は行った。

名簿提供は自治体の国への従属

 自衛隊からの名簿提供要請は本当にポスティングのためなのか。自衛隊は一昨年、昨年提供された計6万人の名簿を何に使ったのか。自衛隊が閲覧の時は4813人しか書き写していないにもかかわらず、対象者全員の名簿を要求したということは、ポスティング以外の目的があると判断することが自然なことではないか。
 名簿一括提供は市の事務の効率化をもたらしたのではなく、自治体が自衛隊の募集業務に全面的に協力しているとのキャンペーン活動を新たにさせられたのではないか。
 行政が公然と自衛隊員募集のために名簿を提出するというキャンペーン。市民に対する「自衛隊公益」アピール。自衛隊の認知を高める市の公費によるキャンペーンである。
 このことは本来国政に従属するのではなくて、独立して住民の福祉のために働く自治体が、自衛隊の募集を率先して行っているという印象を国民に与える効果充分である。そのこと自身が安倍元首相の「自治体が自衛隊員の募集に非協力だから、自衛隊を書き込む憲法改正をしなければならない」という政治的意図に自治体が住民の福祉を実現するという自立性を捨てた時の政権への従属である。

全市的共闘で市民運動闘う

 この高島市長による若者の個人情報の自衛隊への提供に対して市民運動は全市的共闘で立ち上がった。
 個人情報諮問委員会が開かれた2月7日には約200人の市民が会場に駆け付け諮問委員会に名簿提供を認めないでと要求した。
 2月22日市民集会が開かれ、3月、7月には市議会への請願行動が行われ、提供実施に対しては6月約500人の賛同署名の抗議文を提出した。また毎月市内各所で街頭宣伝活動が行われ、20年12月には各地の自衛隊への名簿提供反対運動とも連携したシンボジウムが開かれた。21年6月には住民監査請求が起こされた。監査委員会の不当通知に対して、9月には住民訴訟を福岡地裁に提訴した。

軍事費倍増に呼応する判決

 23年3月8日の福岡地裁判決は、安倍政権による集団自衛権閣議決定、反撃能力の保持、軍事費倍増の挙国一致的世論の司法の側からの合流というような性格の判決である。一自治体である福岡市のこれまでの個人情報保護をめぐる法解釈の躊躇を超越したような判決である。
 また提供の態様によっては関係法令との関係で違法となりうる余地があると指摘しながらも、個人情報保護審議会が公益性があるとして目的外使用を是としたことを金科玉条のごとく取り扱って違法性はなしとし、態様についてただ被告の主張を羅列するだけで、全く検証していない。提供された名簿の使い方、名簿の破棄などについてただ被告の主張を鵜のみにしているだけである。望まない旨の意思表示をしたものを提供から除外することについて、これは全く形だけで、むしろ申請したもののリストを作ったりすることにより個人意志調査の危険性すらはらんでいるものを、態様についても実態を全く検証せずに評価している。
 このような軍事増強を助長する判決に対して福岡市民運動は控訴して闘い続ける。(T)

福岡市名簿提供反対訴訟に福岡地裁不当判決(3.8)

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