3.3リニア中央新幹線差し止め訴訟

環境破壊のトンネル
工事は直ちにやめろ

　【静岡】３月３日、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の県内区間（10・７㎞）の工事差し止めを求めた訴訟の第９回口頭弁論が静岡地裁であった。口頭弁論のたびに正午から静岡市の繁華街である呉服町で街頭宣伝を行い、その後静岡地裁前で小集会を行い裁判に臨むのが通例となっている。この日、口頭弁論で陳述を行ったのは竹本幸造さん。

南アルプスの
自然を壊すな
　原告の竹本さんは、大井川支流の笹間川（一級河川）沿いの島田市川根町で生まれ育った。山岳愛好家として日本国中の山々を歩いてきた立場から、とりわけ３０００ｍを越す南アルプスの山々にはその大自然の奥深さに畏敬の念を抱いてきたこと、固有種、希少種をはじめ１９８１種もの植物が自生し雷鳥生息域の南限であること、タカネマンテマやヤマトイワナ等、氷河期由来の固有種が生息し、学術的にも貴重な価値を有しており、ユネスコエコパークにも登録（２０１４年6月）されたことなどを交え南アルプスの環境保全を訴える意見陳述を行った。
　南アルプスの高山植物が鹿による食害によって危機に瀕していることを知って、高山植物保全のための柵作りなどのボランティア活動のリーダーとして20年近く務めてきた。

地下水が抜け
砂漠化の危険
　このような竹本さんの努力を根底から覆すような計画が持ち上がった。ＪＲ東海によるリニア中央新幹線トンネル工事計画だ。ＪＲ東海が認めているように、このトンネル工事により山体の地下水が抜けて、大井川上流域では３５０ｍ以上地下水位が下がること、高山植物の消滅や砂漠化、山体そのものの崩壊すら危惧される事態となること。そのことは日本のみならず世界の宝を失うことになると述べた。
　大井川の恵みは数あれど、とりわけ大井川周辺はお茶の本場で水ぬるむ4月に起ち上がる川霧は芳醇な香りと味に欠かせないこと、その源である水がリニアトンネル工事で減水することになれば静岡にとって大きな損失になると訴えた。

ＪＲ東海は
計画断念を
　さらに去る2月21日にＪＲ東海が山梨県側から強行した「高速長尺先進ボーリング」にふれ地質や湧水量の調査を名目としているが直径２００㍉以上の穴を山体に穿つボーリング工事はどう取り繕うとも水抜きを目的としたものと指弾した。また中流部の田代ダムの取水抑制案による水量保全についてふれ、案は下流域の水量保全の方法であり、上流域の水量減少を無視したものであると厳しく批判した。
　最後に「山を愛する登山者は、森の番人として今日までその保護を受け継いできました。私にとって心の山である南アルプスは私たちの代でなし崩しにしてはならない」と述べＪＲ東海はトンネル計画を断念し、リニア新幹線計画工事中止の英断を下すことを求めて陳述を終えた。

これからの道
方向をさぐる
　竹本さんの陳述が終了したところで弁護団事務局長の西ヶ谷弁護士は「事前通告はしていないが、被告が2月21日に強行したボーリング工事に抗議する」と意見陳述し口頭弁論は終了した。口頭弁論終了後、進行協議が行われている間に被告が2月21日に強行したボーリング工事や田代ダム取水抑制案の問題点について訴訟の会共同代表の林さんからパワーポイントによる解説が行われた。
　進行協議が終了して弁護団が到着したところで原告の松谷静岡市議からボーリング工事に対する工事差し止めの「仮処分」を検討すべきとの意見が出された。西ヶ谷弁護士は「工事の進捗状況や湧水量などを見極めたうえでのこと」と答弁。伊藤弁護士は「弁護団として方向性が固まっているわけではない。仮処分の結果（成否）等も考えて慎重に検討すべき」と述べ会場からも賛否があり、意見表明にとどまった。

ＪＲ東海の「調査を目的としたボーリング」の嘘が露呈

　西ヶ谷弁護士から社団法人　土木学会　トンネル工学委員会編集のトンネルライブラリー第18号「より良い山岳トンネルの事前調査・事前設計に向けて」（平成19年5月）に投稿・掲載されたＪＲ東海職員の論文抜粋が配布された。実はこの職員は、昨年行われた県環境保全連絡会議で「あくまで地質の調査であって水抜きのためではない」と主張した人物。
　彼が投稿・掲載された論文では「長尺ノンコアボーリングは水抜きのみを目的とした場合に採用する」と書いている。
　コロナ禍による傍聴席の制限がなくなった一方で空席が目立つようになった。席を埋める傍聴参加を！　次回口頭弁論は6月9日（金）14：30
　　　　　　　　　　（Ｓ）