読書案内『カルト権力』
―公安、軍事、宗教侵蝕の果てに
青木 理(ジャーナリスト)/河出書房新社/1760円(税込み)
監視・検閲を拡大させ、表現の自由を弾圧
岸田政権が引き継いだシステム
岸田政権は、日米グローバル安保体制を基軸にして戦争国家化、強搾取、増税へと加速化しつつある。政権は、当然、安倍前政権が構築してきた土台を踏襲し、新たなステップを踏み出した。岸田政権を打倒していく回路は、安倍前政権の総括ぬきに明らかにならないだろう。とりわけ戦争国家化と治安弾圧体制はセットであり、どのようなレベルまで到達していたのかを掌握しなければならない。
時評集と言われる本書の著者青木は、序章で「元首相銃殺を契機として浮上したさまざまな動きや政治的、社会的な問題を総覧し、後者からはその元首相らの執権下で数々蓄積されていた政治的、社会的な問題点」を設定したうえで「本書を最後まで通読すれば、カルト宗教に深々と浸食されていた為政者の長期執権下、この国の政治が治安機関や軍事偏重へと異様に傾倒し、それを推し進めた政権自体が一種のカルト臭さえ帯びた危険な復古性、反動性に蝕まれていたことが浮かびあがってくる」ことを明らかにする。
統一教会の何が解明されていないのか
その第一歩は、「第1章 カルト権力批判」の観点から「統一教会をめぐる2つの疑問」を提起する。
青木は、「徹底解明すべきテーマは2つ」だと強調する。
1つは、「旧統一教会=世界平和統一家庭連合という反社会的カルト教団がこれまで長きにわたって霊感商法などで数々の問題を引き起こしつつ、なぜ今日までのうのうと活動を継続してこられたのか、という疑問について。特に警察などの捜査当局は一体なぜ、実態解明のメスを徹底的に振るうことができなかったのか」。
2つは、「なぜ韓国の新興教団が岸信介や右翼の大物の懐にあっさり入りこむことができたのか。背後には、戦前・戦中から岸らと気脈を通じていた韓国軍事独裁の、60年代初頭にクーデターで政権を掌握した軍事独裁の主の意向や影響も横たわっていたのではないか」「『反共』の砦を構築しようと躍起だった米国やその情報機関などの力も働いていなかったか」。
この疑問に対して青木は、公安警察が統一教会に対して情報収集に乗り出していたが、1990年代中ごろ動きが止まり、公安警察最高幹部に問うと「政治の意向だ」とリークしていたことを明らかにしている。また、「岸が米国の『逆コース』政策に乗って復権していたことを思えば、『反共』を旗印に掲げた教団がその懐に抱かれた理由も腑に落ちなくはない」と指摘している。
つまり、統一教会と自民党の一体的暗躍の歴史は米日韓権力者の別動隊として日本の権力構造内部にまで深く食い込んできたということだ。自民党議員の秘書団への潜入、選挙活動の先兵にとどまらず、政策的にも影響を与えてきた。
事実、統一教会創始者の文鮮明は、1989年に韓国で信者に対して①自民党安倍派を中心に関係を強化し、国会議員を増やす②国会議員の秘書を輩出し、国会内に組織体制を形成する③地方議員も作り、影響力を強化するなど指令を出していた(2022年11月7日の毎日新聞)。
22年衆院選挙時、統一教会は、例えば、斎藤洋明衆院議員(新潟3区)への推薦確認書を取り交わし、①憲法を改正し、安全保障体制を強化②家庭教育支援法・青少年健全育成基本法を制定③LGBT問題、同性婚合法化の慎重な扱い④「日韓トンネル」実現を推進⑤国内外の共産主義勢力の攻勢阻止などを列挙し、「以上の趣旨に賛同し、(友好団体の)平和大使協議会および世界平和議員連合に入会する」などの条件まで明記していた(時事ドットコム/22年10月20日)。
さらに渋谷区がパートナーシップ条例(2015年)を制定したことに対して「性風俗への反対運動や純潔と家庭再建の価値啓蒙運動」と称して反対運動を展開した。
LGBT条例に対しても「合同結婚式を経て家庭出発(同居生活)を始めるまで男女が互いに純潔を守るという統一教会の純潔思想は、多様な性の形を是とするLGBTとは相容れない」などと人権否定、手前勝手な想像で反対運動を展開してきた。
公安警察の動きが止まった1990年代中ごろ以降、徐々に統一教会の動向、詐欺などの犯罪報道が落ちていった。安倍元首相銃殺事件以前は、筆者も含めて統一教会に対するリサーチは希薄だった。
同様に青木も、「各メディアが教団関連報道を続けるなか、いまだ腑に落ちないことがある。旧統一教会と政界の関わりの淵源(えんげん)について」だ。問われていることは、「旧統一教会という反社会的教団とどう対峙するかは、人権の制約というよりむしろ、歴代の政権や与党といった統治権力内に巣食った膿を摘出できるか否か、まさに権力そのもののありようと自浄能力が問われる課題」だと浮彫りにしている。
首相官邸─公安警察─メディアの一体化
青木の切り込みの第二は、「政治と警察の蜜月」などで政権と警察権力を分析、批判している。
前提として「7年8ケ月に及んだ第2次安倍政権は、経産官僚とともに警察官僚を厚く重用したのが大きな特質」「省庁の差配から官僚人事、さらには外交や防衛政策に至るまで警察官僚出身者が差配し、戦後例のない“警察政権”ともいえる態勢だった」と規定する。そのうえで具体的に上げている。
杉田和博官房副長官(警察庁警備局長、内閣情報官)は、安倍政権発足時から官房副長官(2012年12月)に就き、内閣人事局長まで上り詰めた。公安警察が与党政権を利用し、そのために情報を操作しながら警察権力を肥大化してきた。
杉田は、警察庁警備局長(1994年~)に着任したころから<I・S>(インテリジェンス・サポート(Intelligence Support)を駆使して、政権に批判的な政治家や官僚などをターゲットに行動確認、スキャンダルを摘発し、地位低下を工作してきた(青木理/「驚愕の深層レポート 新たなる公安組織<Ⅰ・S>(インテリジェンス・サポート(Intelligence Support))の全貌」(「現代ビジネスフレミアム」/2010・8・6)。
前川喜平・元文部事務次官が加計学園問題(愛媛県今治市における加計学園グループの岡山理科大学獣医学部新設計画をめぐって安倍政権が認可を優先した)に対して批判し、退任に追い込まれた事件があった(2017年1月20日)。前川の退任記者会見直前に読売新聞は、「前川の出会い系バー通い」(17年5月22日)と報じた。
前川事件について青木は、「いま、その芽を摘め」で前川が「おそらくは事務次官などに就任するにあたって警備公安部門が“身体検査”を実施し、その作業のなかで『出会い系バー通い』の情報をつかんだのだろう。前川自身、次官就任後に官房副長官の杉田から官邸に呼び出され、そうした事実を告げられると同時に警告を受けて驚いた」ことを紹介している。首相官邸─公安警察─報道の一体化が露骨に現れた事件であった。
北村滋(警備公安警察、内閣情報官)も同様だ。国家安全保障局(NSS/首相、外相、防衛相で構成)の局長に就任している(2019年9月)。
北村は、長年の諜報活動を集大成し、次に向けた指針として「情報と国家-憲政史上最長の政権を支えたインテリジェンスの原点」(中央公論新社)を出版している。さらに読売グループに天下り、政府与党寄りの報道、戦争国家化に向けた一翼を担っている。
だからこそ青木は、「NSSは首相、外相、防衛相らで構成する国家安全保障に関する外交・防衛・経済政策の基本方針・重要事項に関する企画立案・総合調整に専従する組織の実務に警備公安部門の出身者が牛耳っていたことになる。……杉田と北村は、第2次安倍政権を引き継いだ菅政権の退陣とともに官邸を去ったが、官邸が警察官僚出身者を重用する傾向は岸田政権にも一部受け継がれ、現在の官房副長官にはやはり警察庁長官などを歴任した栗生俊一が起用されている」ことをクローズアップし警察官僚が政権中枢に深く食い込んでいることに警鐘乱打する。
さらに経済安保推進法制定(22年5月)後、経済安全保障戦略会議を立ち上げ、すでに公安警察は企業に対して「過去に摘発した産業スパイやサイバー攻撃による情報窃取の手口を伝えるなどとして警戒を促す取り組みを広げる。警察の情報を積極的に活用し、民間の対策に生かす」(日経21・12・1)ための工作を開始している。
本書では公安検察と公安警察の犯罪について「第3章 ルポ・町工場vs公安警察」大川原化工機事件」で詳細に青木レポートで語っている。
まさに経済安保推進法が治安弾圧体制の強化とセットであり、その中軸システムとしてサイバー警察局を組み込んだ。サイバー犯罪対策(不正アクセス行為、コンピュータ・電磁的記録対象犯罪、不正指令電磁的記録に関する犯罪、ネットワーク経由の公序良俗に反する行為)と称して民衆監視・検閲を拡大させ、集会、結社、言論など表現の自由を弾圧するために広く網をかけていこうとしているのだ。
グローバル戦争国家体制作りを許さず、憲法9条改悪阻止の陣形をさらに構築・拡大していこう。
(遠山裕樹)
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