5.5内田聖子さん(NPO法人アジア太平洋資料センター)講演会

戦争あかん!ロックアクション主催
デジタル監視社会にどう対抗するか

 【大阪】戦争あかん!ロックアクション主催の講演会が、5月5日PLP会館で開催され、「デジタル監視社会にどう対抗するか」と題して、内田聖子さん(NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)代表理事)が講演をした。以下要旨。

 内田聖子さん講演から


 監視社会に関しては、『監視資本主義 その基本的原理と問題点』が2019年に出版されたのがきっかけで問題意識が広がった。著者はショシャナ・スボフさん(ハーバード・ビジネススクール名誉教授)。

 監視資本主義の定義

 単なる「デジタル化」や技術自体とは違い、人間の経験を密かに抽出・予測・販売する商業的慣行のための無料の材料として要求する新たな経済秩序。歴史上前例のない富・知識・力の集中を特徴とする、資本主義の邪悪な変異。産業資本主義が19、20世紀の自然界にとって脅威であったように、21世紀に人間の本質にとって深刻な脅威となるもの。社会に対する支配を主張し、市場民主主義に挑戦を仕掛ける新たな道具主義の力の源。上からのクーデターとして最もよく理解される、人間の重要な権利を没収・主権を打倒するもの。
 楽観的なデジタル経済論は隘路に入り込み、すでに多くの課題・懸念が生じている。
 国際的なデジタル・知財の覇権争い(米中の争いは国際的な安全保障の脅威に)。       
 巨大IT企業による支配と独占による、プラットフォームビジネスの拡大(医療・健康・教育・スマート農業・テックフード・バイテク等の新たな技術の社会実装、スマートシティ等の都市開発、ドローン兵器等軍事技術開発。
 プライバシー・人権の課題(生体認証などの個人情報保護・プロファイアリングによる監視・インターネット空間での人身売買や児童売春・誹謗中傷・人権侵害)。
 社会問題(サイバー攻撃・公共サービスの民営化・市場化・職員減とAIよる代替・人権概念のアップデート)、等々である。

IT巨大企業の独占的支配

 巨大IT(GAFA)企業は、スマホやカード、パソコンを持つ個人から、独占的・収奪的に情報を収集する。例えばグーグルはもともと検索エンジン企業で、人々のコミュニケーションを高める目的で活動を始めたが、2000年のはじめにインターネットバブルがはじけて、資金が集められなくなったことをきっかけに、今のビジネスモデルに転換した。
 ネット検索をする、ネットで買い物をする、SMSで発信すると、膨大な個人情報が発信される。それをビッグデータとして貯めて、AI(人工知能)でその情報を処理してビジネスにする。その処理された情報を商品として売る。そのようにして莫大な利益を稼いできた。ビッグデーターをあるアルゴリズム(計算式)により処理をする。その内容はブラックボックスの中でわからない。そのような意味で、情報は非対称だ。アプリの使用料は無料だが、そのようして収集された情報がどのように使用されているかは全くわからない)。

 グーグルによる独占

 日本の場合、検索エンジン市場のシェアはグーグルが96%。スマホに限れば、99・6%だ。だから、広告主企業も圧倒的にグーグルに集中する。検索したときの順位も突然変えられるが、広告料の多少が影響しているのではないかと予想される。
 ユーザーに関する何が情報として収集されるのか。アップロードしたコンテンツ、他のユーザーから受け取ったコンテンツ、動画や投稿したコメント、広告に対する反応、音声の情報、コミュニケーションの相手やコンテンツの共有相手、購入履歴、閲覧履歴、ユーザーの現在地情報・・・。アプリケーションを無料で使用する代わりにこれらの情報を収集しビッグデータとして蓄積する。そしてこれらのデータを、「信頼できるパートナーからお客様に関する情報を収集することがあります」(グーグルの承諾書の中にある)。簡単に言うと、例えばネット上の名簿屋が求める情報をグーグルが売るのである。広告料でもうけて、さらに情報という商品販売でもうける。しかしこの領域は、ブラックボックスになっていて、外からは分からない。

支配を終わらせるのも民主主義

 リアル空間で違法なものはデジタル空間でも違法だ。「ビッグ・テックによる私たちの生活支配を終わらせることができるのは、やはり民主主義だ。私は民主的な秩序と、その秩序におけるジャーナリズムの新たな中心性が、この戦いに勝利することを信じている」(ショシャナ・ズボフ)。国際的にGAFAへの批判と規制が広がっている。日本ではEUや米国でのうごきを様子見している感じだが、それでも、公正取引委員会による独占禁止法の運用による規制がかけられ、取引条件の開示義務化、定期的な実態調査行われている。また、IT企業の国境を越えた事業に対する課税、個人情報の漏洩に対して罰金の引き上げも検討されている。

国際的に広がるGAFAへの批判と規制

 カリフォルニア州サンフランシスコ市議会は、公共機関による顔認証システムの導入を禁止する条例を可決した。この件について、日本では抵抗感がないのが不思議なくらいだ。米国でも、ブラック・ライブズ・マター運動の監視がつづけられていたが、運動側が訴訟を起こし、裁判所は監視情報の開示命令を出した。
 ヨーロッパでは顔認証、生体認証システムに対する反対運動が広がっている。「あなたの顔をとりもどせ!」。日本でも顔認証システムの導入が広がっているが、2021年7月、JR東日本は顔認識カメラを使って、刑務所出所者と仮出所者、指名手配中の容疑者、うろつくなど不審な行動をとった者を駅構内で検知する防犯対策を実施した。個人情報保護法では、前科などは要配慮個人情報とされ、本人の同意なしに取得することはできない。このJR東の対策は取りやめとなった。

グーグルのモルモットではない

 カナダのトロント市はスマートシティを導入するため、グーグル系企業と契約をしていたが、住民への説明不足と取得したデータの扱いが不明瞭のため、住民側が市と企業に説明を求め、また計画に反対する住民団体ができた。そのような経過の中で、企業側は2020年5月に突然撤退を表明した。
 またアマゾン・ドットコムはコロナ禍の中で、一兆ドル規模の巨大な企業に成長し、CEOのジェフ・ペソスは2000億ドルの個人資産を築いた。一方労働者(倉庫作業員)たちはエッセンシャルワーカーとして命の危険にさらされているにもかかわらず、適正な給料という当然の要求をしただけで脅迫や報復に逢うこともあった。アマゾン社のCO2排出量は世界のすべての国々の3分の2以上に匹敵するという(本当か?)。膨大な利益を上げながら、納税を怠っていた。ITを駆使した企業展開をしているテック企業では、従業員たちが集団行動をする動きが2001~2010年は9件、2011~15年は35件、2016~20年は305件、2021年は96件というように次第に広がりをみせ、アマゾンの根拠地で労働組合の結成に至った。この動きは他の企業にも波及している。

EU、デジタルサービス法と市場法の立法化へ

 デジタル化とサービスの拡大により生じた新たなリスクと課題を解決するため、①安全でアクセスしやすく、予測可能で信頼できるオンライン環境と②欧州連合基本権憲章で保障された基本的権利及び自由の行使を確保するため、オンラインプラットフォームの仲介サービス提供者の義務を規定することを目的に、デジタル・サービス法(DSA)が提案された。オフラインで違法なものはオンラインでも違法であるとの考えに基づき、違法な商品やサービス・コンテンツから利用者を守ることを目的にする。この法律により規制される対象事業者は、超大規模オンライン・プラットフォーム(VLOP:超大規模オンライン検索エンジン)をはじめとする仲介サービスである。     以上要旨

質疑応答で話されたいくつかの問題

▲EUはチャットGPTの開発に対して、莫大な課徴金をかけ規制を検討している。AIは善悪の判断はできないが、ものを書く、学問をする・・・となったらどうなる? AIにいずれ善悪の判断ができるようにさせるという人もいるが、そうなると人間の存在意義は? モラル・社会正義・社会的な価値など、AIが判断するのは無理だ。ここで立ち止まるべきだ。
▲「イーロン・マスクがAI開発から撤退する」というが、何を考えているのか。それは分からないが、何か別のビジネスモデルを考えているのだろう。AIは、必ず最後は軍事に使われる。ロボット兵器同士が闘うようになる。
▲小学校では生徒が全員タブレット端末を持っていて、開くときにはその都度、心の天気を入力して開く。機械の充電は各人が家庭で行う。地域によっては、故障したら全額弁償させるところもある。コロナで家庭学習が一般的になったのが契機だ、教材はよくできている。このような取り組みは企業が関係している場合が多く、広告に利用されていたケースもある。データは誰が管理しているか、関係している企業名を把握しておくべきだ。
▲規制は、プラスとマイナスの両面をよく分かって行うべきだ。EUでは、市民が問題提起をして上にあげていった。国際的人権法の確立に貢献したという自負がある。市民団体の協力もある。中国の存在を意識している面もある。日本は、技術に規制はしないという傾向がある。EUではこんな緩い規制で大丈夫かという反応だが、日本では、こんな厳しい規制で大丈夫かという反応だ。
▲日常生活で個人がやれることは少ないが、例えば、スマホの位置情報をオフにする、グーグルとは別の検索エンジンを使ってみる、写真のアップを少なくする、学校で使用されているソフトのデータ管理について聞くなどだ。
▲マイナンバーカードについては、作らないのがいいが、日本の場合は、どうしようとしているのかがよく分からない。EUと米国の動向の様子見をしているようだ。     (T・T)

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