袴田巌さんの無罪確定へ
寄稿 いよいよ最後の闘いが始まる
袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会
袴田巌さんの無罪判決確定に向けて、早期の再審公判開始を行う申し入れが、「清水・静岡市民の会」から静岡地裁に提出された。一刻も早い勝利判決を実現させよう。(編集部)
事件と裁判の経過
1966年6月30日、味噌製造会社専務一家4人が殺害・放火事件が発生、従業員の袴田巖さんが逮捕された。長時間、小便を取調室内で行わせるなど拷問同様の中で袴田さんは自白調書に無理やり署名をさせられた。犯行着衣はパジャマ、凶器は木工作業などで使うクリ小刀とされていたがその根拠は無いに等しい状態であった。だからこそ、一日平均12時間、ひどい時には17時間近い取り調べを行うしかなかったのである。
事件から1年2ケ月を経た1967年8月31日、味噌工場の醸造タンク(縦・横・深さが約2m)から自白に存在しない5点の衣類が発見された。検察官は一審公判途中に、これこそが犯行着衣だとした。袴田さんは5点の衣類は自分のものではない、 警察が捏造したものだ、として、一貫して無実を訴え続けた。しかし、1968年9月11日静岡地裁は袴田さんの無実の訴えに耳を傾けることなく死刑判決を言い渡す。後年、(2007年2月)この死刑判決を下した元裁判官の熊本典道氏(故人)は、「無罪判決を下すべきだ」と合議で主張したが、多数決により意に反する判決を書いたと告白している。
その後1980年11月、死刑が確定した。1981年4月20日第一次再審請求。2008年3月、最高裁は第一次再審請求を棄却。その決定には「5点の衣類の発見された状態からして長期間味噌漬けにされたことは明らか」という判断が何の根拠も示すことなくされていた。
血液が付着した衣服を味噌に漬けるといういうような事は誰も経験したことはない。そこで私たちは「死刑判決の決め手となった味噌漬け衣類の状態は約15分で再現できる」との実験を弁護団と共に行い新証拠とし、2008年4月、第二次再審請求が始まった。さらに「5点の衣類を1年2カ月味噌漬けにすると発見時の写真とは全く異なる」という実験を行い新証拠として追加した。2014年3月27日、静岡地裁は再審開始を決定し袴田さんを釈放した。逮捕から48年を過ぎようとしていた。
検察官の抗告により、2018年6月東京高裁は再審開始決定を取り消す。弁護団の抗告によって、2020年12月最高裁は東京高裁に審理を差し戻した。最高裁の差し戻し理由は「味噌漬け衣類に付着した血液に赤味が残るか否か、残らないのならその原理を解明せよ」というものであった。私たちが主体となり弁護団と共に実験を重ね「どのような条件でも衣類に付着した血液は味噌に漬けると数時間からひと月程度で赤みが消える」という結論を導き出した。その原理は旭川医科大学の鑑定によって解明された。すなわち、味噌の弱酸性・高塩分濃度という環境では、赤血球が溶血によって破壊され、血液の赤み成分であるヘモグロビンがその性質を失い赤色からきわめて黒色に近い状態に変化していくというものであった。血液が酸の影響で黒く変化していく原理は医療関係者の一般的な知識であり従来から知られている常識であった。そのため、検察官は一切反論することができなかった。
私たちは救援会結成当初より、味噌漬け実験を繰り返し再審請求で新証拠の形成に貢献してきた。事件発生から57年余り、長い歳月を積み重ね、ようやく袴田巖さんの無罪につながる光明となった。
再審公判に向けて
4月10日静岡地裁で、弁護団・裁判所・検察官による最初の協議が開催された。これまでこの協議に出席できなかった袴田巖さんの姉・ひで子さんも出席が可能となった。検察官は立証方針を決定するまで3ヶ月間を要求し、裁判所もそれを認めてしまった。弁護団はあらかじめ、再審公判進行についての意見書を提出しており、袴田巖さんを「一刻も早い無罪判決を得て」「死刑囚の地位から解放させること」「捏造証拠による冤罪であること」を目的とした再審公判であり、検察官にその目的に協力するように要請する内容であった。また、釈放されて9年を経て今なお拘禁反応が続いており「袴田さんの出廷を免除する」ことも要請していた。
私たちはは4月18日、静岡地検に対し、早期の再審公判を開くことに協力し有罪立証をしないことと証拠の全面開示を求める要請を行った。また、弁護団は4月20日、東京高検と最高検に早期の再審公判開始を求め協力するように申し入れを行った。弁護団・裁判所・検察官による三者協議の進行と再審公判の期日がいつ決定されるのか、今後の報道を注視して欲しい。
今後の課題
そもそも、この事件は清水警察署や静岡県警が根拠を示すことなく当初から袴田さんを犯人だと決めつけていた。そのためでっち上げ証拠や袴田さんに対する違法行為が多くあり、今後は捜査関係者の責任追及の闘いも控えている。また、袴田事件だけではなく多くの再審事件は検察官の上訴によって妨害されてきた。冤罪を隠そうとする検察に抗する闘いもまた私たちには求められている。そして、無実の罪によっていつ処刑されるかわからない恐怖の日々を過ごしてきた袴田巖さんは、なお重い拘禁反応が続く。袴田巖さんの再審は、再審制度の不備や警察の捜査の在り方、死刑制度の存廃や死刑囚の獄中処遇の在り方など多くの課題を顕在化させた。これらの課題を解決する追い風としたい。
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