5.24女川原発再稼働差止訴訟判決
不当判決にみなぎる怒り
避難計画の実効性について判断するまでもなく
【宮城】5月24日仙台地方裁判所は、石巻市民17人が避難計画を争点として提起した女川原発2号機の再稼働差止を求めた訴訟で「原告らの請求を棄却する」と判決し運転差止めを認めなかった。
原告ら住民は、避難計画の実効性に欠けるなかで再稼働し、放射性物質が異常に放出される事故が発生すれば人格権が侵害するとして、妨害予防請求として女川原発2号機の運転差止を求めていた。
仙台地裁齋藤充洋裁判長は、「人格権侵害の具体的危険の存在について原告側に立証責任がある」として、「女川原発2号機において放射性物質が異常に放出される事故が発生する具体的な危険性について原告らの主張立証がなく、避難計画が実効性をかけていることをもって、人格権侵害の具体的危険の存在は認めることはできない。」従って「女川原発2号機の差止請求を認めることは出来ない。」とし、「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもない」と判決理由を述べた。
司法判断を放棄して逃げた仙台地裁
原告らは、「避難計画」が住民や第三者による審議がされておらず、司法の場で実効性について判断を求めたのであるが、最大の争点に全く立ち入ることなく、裁判所は「門前払い」したのである。
原告は、「避難計画が実効性に欠ける事由」として9項目理由を提示してきたが、最終的に交通渋滞で「(被ばくをチェックする」退域時検査場所が開設できないこと」「バスの確保と手配ができないこと」に争点を絞り、避難計画が入口で破綻していることを示すために90回を超える公文書開示請求や行政、宮城県バス協会への公開質問で集めた内容を証拠として「避難計画が却って被ばくの危険性を増すこと」など実効性がないことを具体的に立証してきた。
裁判所は、そこに踏み込めば原告らの請求を退けることが出来ないためその判断を避け逃げたというしかない。
原告主張に反論しない被告主張を丸呑みした判決
「原発事故が起きる具体的危険性について原告側に立証責任がある」として、被告東北電力は、原告主張にほとんど反論することなく、原発の安全性については「十分に確認されている」と規制委員会すら言っていない見解を持ち出してきて主張し、避難計画については「国のお墨付きをもらった」として、一貫して避難計画の実効性審議に踏み込まず、裁判所に門前払いを求めて来た。
「原発事故が起きる具体的危険性についての原告立証責任」に対し、原告は、「防災対策は『事故は起きるもの』として立てなければならないもので、立証は必要ない」と反論してきた。避難計画を含めて「防災対策」は、「起こるもの」として策定・計画されるものである。「放射性物質が異常に放出する事故」を想定して避難計画は策定されている。
被告東北電力は、退域時検査場所の運営に、宮城県の派遣要請に応え600人の社員を動員するとこの訴訟のなかで明らかにした。事故が起こることを前提に派遣に応じたのであり、原告らが事故が起きる危険性を立証する必要などないことは明らかだ。
一方、裁判所も「検査場所への東北電力社員の派遣について」確認するため、原告が申立てた「調査嘱託」を採用して、その内実を明らかにさせてきた。この時点では裁判所も実効性について踏み込むかに見えた。
しかし、判決は、「調査嘱託」にも一言も触れず、原告らの主張に全く反論してこなかった被告の主張を丸呑みしただけの不当判決だった。なんのための「調査嘱託」だったのか!2年の間開催された5回の口頭弁論は何だったのか!こんな判決を書くのなら、結審(昨年11月24日)から半年の期日は必要だったのか!怒りがこみ上げてくる。
不当判決に怒り!
判決前集会には、150人を超える支援者、傍聴を求める市民が全国から結集した。傍聴は約80席、抽選に外れた市民は、裁判所前で判決を待った。
原告代表と弁護士が掲げる「不当判決」と書かれた旗を見て市民に落胆と憤りが走った。原発事故が起こるということを立証しないと裁判もできないのであれば、司法が死んだというしかない。福島第一原発事故がそれを立証しているのではないか!門前払い、肩透かしの判決に傍聴席もどよめき、足早く立ち去る裁判官らに「ふざけるな!」「どこに逃げればいいんだ!」と傍聴席から怒りの声が飛んだ。
怒りを共有し、闘う闘志があふれた報告集会
報告集会では、原告団長から「避難計画の実効性について司法判断を放棄し、深層防護の原則を否定する判決に抗議する原告団・弁護団声明」が読み上げられた。声明は、「原告らの請求を退けるためにはこの理屈しかないということで書かれた判決である。放射性物質が放出される事故の危険性について住民が具体的に主張立証することは不可能である。原発の危険性から住民を守るために深層防護第5層(避難計画)は不可欠であり、実効性の有無について仙台地裁はその判断を放棄した。控訴して、女川原発2号機の再稼働前にこの判決の取消しを迫る」と宣言した。
弁護団一人一人からの感想として小野寺弁護団長は、「争点である本当に逃げられるのかを問うているのに、放射性物質が放出することを立証しないと中身に入れないのはおかしな判決だ」として、このまま引き下がることは出来ないと述べた。甫守弁護士は「昨年の6・17最高裁判決の影響や岸田政権の原発回帰への忖度が疑われる。このような判決が続くのであれば、悲惨な事故がいつ起こるかわからない」と批判した。
そして原告からの感想が次々と述べられる。「結論ありきの判決だ。原告の主張に全く触れずに判決を書くとは日本の裁判はとんでもない」「国策に追従した保身の判決だ。避難計画が不備のまま再稼働されるのであれば人格権を否定することになる。」「こんな国や司法に次世代は託せない」と判決を批判した。
記者質問を受けた後、支援に駆けつけた脱原発弁護団全国連絡会の松田奈津子さん、こども被ばく裁判原告の今野寿美雄さん、福島原発事故に由来する放射性汚染廃棄物の焼却処分の中止を求めて闘っている大崎住民訴訟原告団長の阿部忠悦さん、原発問題住民運動宮城県連絡センターの中嶋廉さん、みやぎアクションの篠原弘典さん、最後に脱原発をめざす宮城県議の会の佐々木功悦会長から激励と支援のあいさつを受け、控訴審闘争勝利に向け団結ガンバローで集会を終えた。
翌日のマスコミ報道は、ほとんどが住民の不安を増大する仙台地裁判決を批判する内容であった。原告らの避難計画の不備に対する多くの指摘に具体性があり、その説得力がそうさせているのだろう。
原告団・弁護団は、速やかに控訴して、2024年2月再稼働前にこの判決の取消しを求めて闘う。(m)
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