投稿 坂本龍一さんの死

マスメディアはどう扱ったのか
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 ◦3月30日・木曜日の 『日刊スポーツ』に「イチョウ並木を守れ 坂本龍一 神宮外苑再開発に反対します 小池都知事らに手紙送付  がんと闘いながら訴える理由」という見出しのA3よりも大きな記事が掲載された。記事(共同通信インタビュー全文)の中で坂本龍一さんはのべている。
 「現存する貴重な自然である樹木を伐採することなく開発する方策を検討していただきたいと思っています。そのために、いったん現在の計画を中断し、再開発計画全体を持続可能で、地域でこれまで育まれた生物多様性を生かすよう見直してほしいと思っています」……「……市民一人一人がこの問題を知り、直視し、将来はどのような姿であってほしいのか、それぞれが声を上げるべきだと思います。……」(2023年3月30日・木曜日『日刊スポーツ』21面)

 ◦「政界地獄耳」欄以外は『産経新聞』などとどこが違うのか。偏見かもしれないが、私は『日刊スポーツ』のことをそう思っていた。だが「今回はがんばっているな」。そう思った。 だが坂本龍一さんは『日刊スポーツ』に記事が掲載された3月30日・木曜日の2日前3月28日・火曜日に亡くなっていた。

 ◦音楽ユニット「イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)」のメンバーで、世界的に活躍した音楽家・坂本龍一(さかもと・りゅういち)さんが三月二十八日死去した。七十一歳。東京都出身。二〇一四年七月に中咽頭がんを、二一年一月に直腸がんを公表し、闘病を続けていた。……自ら出演、音楽を担当した日英合作映画「戦場のメリークリスマス」(八三年)で英国アカデミー賞音楽賞などを受賞。中国・清朝最後の皇帝溥儀の生涯を描いた英伊中の合作映画「ラストエンペラー」(八七年)の音楽で、日本人初のアカデミー賞作曲賞やグラミー賞などを受賞した。……一二年に開かれた「さようなら原発十万人集会」では、呼びかけ人に名を連ねた(2023年4月3日・月曜日『東京新聞』朝刊 1面)。

 ◦脱原発運動や東日本大震災の復興支援にも長年取り組み、反戦平和・政治への関心も高く、その活動は音楽家の枠にとどまらなかった (2023年4月3日・月曜日『毎日新聞』夕刊7面、寺田剛・村田拓也・井川加菜美)。

 ◦脱原発や憲法9条改正反対を掲げるなど政治的な意見表明も臆さなかった。……問題意識は沖縄の基地問題や特定秘密保護法、安全保障法制、東京・明治神宮外苑地区の再開発に伴う樹木の伐採にも及び、政府や自治体のあり方を厳しく問い続けた(2023年4月4日・火曜日『毎日新聞』朝刊23面、伊藤遥。ただし「脱原発や憲法9条改正反対を掲げるなど政治的な意見表明も臆さなかった。」の部分も伊藤遥さんによる文章かどうかはSMには判断できなかった)。

 ◦ロシアが軍事侵攻して2ヶ月、坂本龍一さんは自身のラジオ番組でこう話していた。

 ロシアがウクライナに侵攻して以来ね、毎日本当に寝ても覚めてもウクライナのことが心配でね。散見するにリベラルとか左翼的な方はね、「アメリカ帝国主義憎し」っていう積年の恨みでね、「アメリカが悪い」「アメリカのせいだ」みたいなことを言う人がみられるんですよね。でぼくは「アメリカが善でロシアが悪だ」なんていう単純な二元論はとらないしその主権国家を武力で侵攻する・侵略するっていうのはどこの国だろうと許されないわけで。それでまあアフガニスタンにアメリカが侵攻したときもイラクに侵攻したときもぼくは反対を表明したし、ニューヨークでデモにも参加したんですけど。 同じようにどこの国でもだめなものはだめだという態度を貫きたいんですが(2023年4月8日・土曜日『報道特集』)。

 ◦声を上げるアーティストとして発信を続けてきた坂本さん。時代の空気の変化を感じ取り、こんな言葉を残していた。

 何で日本はこんなに言いたいことが言えない国になっちゃったのかってことなんですよ。何が怖くてみんな言いたいことを言えないんだろうかって思うんだよね。みんなもっと言いたいことを言いましょうよ。個人もミュージシャンもメディアもみんなそうですよ (TBSラジオ2009年12月29日放送、2023年4月8日・土曜日 「報道特集」)。

 ◦ただ一方で坂本さんが発信してこられた原発の問題だったり環境だったり、あるいはその戦争っていうのが、いまだにこの社会の中で 積み残された課題なので、じゃあバトンを受け取った私は、あなたはじゃあその非戦のためにどう具体的に行動するっていうことがいまあらためて問われているんじゃないかなとは思います(安田菜津紀さん 認定NPO法人Dialogue for People フォトジャーナリスト 海外、日本で貧困や災害、難民問題を取材、2023年4月9日・日曜日「サンデーモーニング」)。

 ◦社会的な関心だって、ニューヨーク同時多発テロや東日本大震災があったから、芽生えたわけではない。高名な音楽家として、アイコンとしてみているとわかりにくいが、配信や著作権、環境や気候変動についての発言もずっと行ってきた(2023年4月4日・火曜日『東京新聞』朝刊 20面、小沼純一・早大文学学術院教授)。

 ◦「教授」という愛称で親しまれたが、僕は90年代~2000年代にかけて幾度となく取材やプライベートで会いながら、この呼称は決して使わなかった。彼は、自身が権威化することは望んでいなかったし、彼の音楽的背景には東京芸大でのアカデミックな作曲教育があるけれど、やはり学を修めるというよりは、自分の世界を築く独学者に近かったと思う。権威やメインストリームに対し、別の道を提示することに、強い欲望を持った人だった(2023年4月4日・火曜日 『朝日新聞』朝刊23面、著述家・佐々木敦さんに聞く、構成・定塚遼)。

 ◦坂本龍一さんは、中核派だ。または中核派だった。私はそう思っていた。だが、坂本龍一さんは、それを否定している。

 ―― では坂本さんイコール中核派の伝説は誤りと。
 違いますね(都立新宿高校PTA 坂本龍一氏インタビュー(同窓会シリーズ第77回 ウェブ版)、2011年12月28日 ヤマハ銀座サロンにて インタビュアー:松浦まみ(広報))。

 ◦私は図書館で『東京新聞』『日刊スポーツ』『毎日新聞』『朝日新聞』『日本経済新聞』『読売新聞』『産経新聞』『神奈川新聞』の坂本さんに関する報道をみくらべてみた。
 『産経新聞』は坂本龍一さんが「岩手の被災家族と交流」したことを載せている(2023年4月5日・水曜日『産経新聞』24面)以外は、坂本さんの音楽と映画以外の活動にほとんどふれていなかった。
 『神奈川新聞』は坂本さんの音楽と映画以外の活動にまったくふれていなかった。
 『東京新聞』が1番すぐれている。『神奈川新聞』が1番ダメだ。「新署長です」のように右翼的なところもあるが、「石橋 学さんらの反差別・反ヘイトの記事」のように進歩的なところもある『神奈川新聞』が1番ダメだ。今回はそう思った。

 ◦坂本龍一さんは、革命家(革命的共産主義者)でも反天皇主義者(革命的民主主義者)でもなかったかもしれない。私には音楽のことはよくわからない。だが私なら「オリンピックの開会式で使われた音楽を作曲」することはしない。
 それでも、坂本龍一さんは「さようなら原発十万人集会」では、呼びかけ人に名を連ねた。民衆集会やデモにもしかしたら一緒に(バラバラだが同時にという意味)参加したこともあるかもしれない。私はそう思う。ナルヒトを「ラストエンペラー」にしよう。「差別も暴力もない世界」をつくりだそう。坂本龍一さん、さようなら。
  (2023年5月1日)

 【訂正】SМさんの投書の本文の中の①〈5月22日掲載〉「ユン・ソギョル」を「ユン・ソンニョル(前半の)」に、「全ての」を「すべての」に②〈5月1日掲載〉の「保護者」を「保護司」に訂正します。(編集部)

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