5.26アジア連帯講座 公開講座開催
「『ウクライナ2014~2022 大ロシア主義と戦うウクライナとロシア・ベラルーシの人々』を読む」
何よりも当地民衆の戦いと向き合う
ウクライナでの戦争が左翼に突きつけるもの
5月26日、アジア連帯講座は、「『ウクライナ2014~2022 大ロシア主義と戦うウクライナとロシア・ベラルーシの人々』を読む」をテーマに公開講座を全水道会館・小会議室で行った。
「ウクライナ2014~2022」(柘植書房新社)を制作した国際問題研究会は、「ウクライナの自決と人民主権を守るために戦いと抵抗を続けるウクライナの人々を無条件に支援し、連帯することこそが、全世界的に台頭してきている極右とファシスト勢力による世界支配と新たな戦争への道を阻止する立場」から本書を編集した。
ウクライナの現実理解に向け
本書の冒頭の「はじめに」でポイントを以下のように紹介している。
第一部は、「ロシア軍の侵略と戦うウクライナ、ロシア、ベラルーシの左翼、労働者、フェミニストたちの抵抗活動と生の声を紹介することであった。また軍事侵攻前のそれぞれの国内の政治状況を少しでも理解するのに役立つだろうと、『ウクライナの多様性と民族自決権』、『(ロシア)共産党の躍進と新しい運動』、『ベラルーシ革命の『熱い春』に向けて』を掲載した。
第一部の後半には、日本を含む世界からのプーチン侵略への抗議とウクライナ人民の抵抗への連帯を訴える声明や論文を掲載した。『ウクライナの抵抗を支援し化石資本を無力化しよう』というウクライナを含む欧州15人の知識人の声明は、この戦争の構図を理解し、ウクライナ勝利にむけた具体的な支援をめぐる議論を紹介するとともに、『気候戦争』ともいえる今回の戦争を乗り越えるエコ社会主義に向けた展望を提示している。
また第一部の最後に、22年12月に書かれたウクライナ左翼による『和平交渉の展望に関する左派の見解』を滑り込ませることができた」。
第二部は、「今回の戦争の導火線となった2014年のいわゆるマイダン革命とその後の情勢をめぐるウクライナの独立左翼の論考を編集した」。
なぜならば「ウクライナ左派のマイダンでの奮闘からドンバス内戦はもちろん、2019年のゼレンスキー大統領の誕生にいたるまで、厳しいウクライナ、そして全体主義に覆われるロシアの状況については、ほとんどフォローしてこなかった」、「ウクライナ侵略を巡って、日本の反戦平和運動の多くは『ロシアの侵略反対』『ウクライナに平和を』の立場を当初から堅持してきたが、ごく一部の論者らによる『ウクライナにも非がある』という不当な主張に対して、ウクライナ民衆の声を根拠とした説得力のある反論を、即座に提示することができなかった」からだと述べ、今後の方向性をたぐり寄せていくための貴重な材料として共有していきたい、と提起している。
そのうえで故・湯川順夫さん(翻訳家)の「民族問題の歴史からウクライナ問題を考える」(2022年6月)を引用し、「当面集中すべきは、まず何よりもプーチン政権の軍事侵略を阻止し、それを挫折させ、ロシア軍のウクライナからの撤退を勝ち取ることであり、これをウクライナの民衆とロシア国内の戦争に反対する勢力、全世界の民衆の力を結集して、この点を勝ち取ることだ。その点を明確にせず、欧米日の西側大国に責任があるとだけしか言わないのは、何に集中して闘うべきか、その焦点を曖昧にすることになるだろう」と結論付けている。
いずれにしても本書を研究材料にしながらウクライナ戦争の本質と課題を探求していこう。
国民国家形成への苦難の過程
国際問題研究会の吉鶴憲二さんは「総論」として以下のように提起した。
1年前のプーチンによる軍事侵攻だけに焦点をあてるのではなく、2013年~14年のマイダン革命で親ロシア政権が打倒され、3月にはプーチンがクリミアのロシア編入を宣言したが、実はウクライナに対する戦争は、この時点から始まっていた。
第一部は、ロシアの侵略に対してウクライナの人達やロシアの左翼の人達、ベラルーシの労働者の闘いなどを紹介しながら、9年間の流れについてしっかりとおさえておく必要があると設定した。
1991年12月にソ連邦が崩壊するが、ウクライナは1991年8月にはソ連邦から独立を宣言していた。ウクライナは、多民族国家だが、そのアイデンティティーを30年間で作れるのか。
ウクライナは、かつてソ連邦の一部としてあった。だからプーチンが軍事占領している南東部の工業地帯ドンバスでは、ほとんどロシア語が喋られていた。
帝政ロシアの時代に石炭が発見され、工場を作ろうという動きに対して労働者として入ったのはロシア人だった。これがソ連邦の時代まで続き、主要な労働者階級はロシア人だった。
今回プーチンが軍事占領しようとしたドニエプル川東岸地域も圧倒的にロシア語が使われていた。北部のほうはまだウクライナ語が使われていたが、農民がほとんどだった。これは帝政ロシア時代からソ連邦時代にかけて、地主はポーランド人、ロシア人、ユダヤ人が圧倒的だった。労働者はロシア人だった。
ウクライナ人は8割が農民だった。大きな地主はいなかった。ウクライナ語を喋る人々は細々と営みを続けてきた。
資本の蓄積は部分的であり、南東部の工業地帯にあったが、ドニエプル東側の穀倉地帯には肥沃な麦畑が作られていた。東部と南部の文化が作られてきた過程が違っていた。西部ではポーランドの影響が強かった。ウクライナ人は、地主が多かったポーランドに対してあまり好感を持っていなかった。ポーランド人もウクライナ人を嫌っていた。
今回、ウクライナが国民国家として形成されていないなかでプーチンが攻め込んでいった。とりわけロシア語が多く使われているドニエプル川の東岸についてはプーチンは容易く占領できると考えたと思う。
ウクライナは独立以降、新興財閥オリガルヒが政治・経済など全部を独占してきた。2014年のマイダン革命後、親欧米派が続いた。新興財閥は税金を払わず脱税をしていた。
堕落が続きIМFから「最も貧しい国」と言われ、緊縮財政をやれと言われていた。オリガルヒは、稼いだカネをタックスヘイブンに移してしまう。政治面では官僚にカネをばら撒くというひどい政治体制が続いていた。ウクライナ共産党も庶民の側から離れていった。
マイダン革命で民族右翼が一時的に抬頭する。この体制もすぐにいきづまった。そういう状況の中でそれまで政治経験がなかったゼレンスキーが出てきた。プーチンは、ゼレンスキーをすぐにつぶせるだろうと判断した。
西側もトランプの時代から主要な対抗国は中国だと意識していた。米国は西と東の戦線を形成する力を持っていなかったから、いざこざを避けていた。このような状況でロシア軍のウクライナ侵攻が強行された。
「5 世界からの抗議と連帯、われわれのとるべき立場」の中で私の論考が収録されている。
プーチンはNATOが東側に拡大してきたから許せん、ウクライナはNATOに渡さないと言っていた。だからロシアがウクライナに攻め込んだのもNATOにも責任があるんじゃないかという主張がある。プーチンは、帝政ロシア時代も含めてウクライナが分離したり、独立したり、ウクライナ民族が存在すること自体がありえないんだという大ロシア主義に陥っていた。
ウクライナもロシア革命の前までは小ロシアと言われていた。ロシアの一部という歴史があった。プーチンはロシア語を使っている地域は、すぐに奪取できるだろうと考えていた。
今回のロシアの軍事侵略によってウクライナの国民的アイデンティティがようやく、不幸な過程をたどっているが、できつつあるのかもしれない。ロシア語を喋っている人々の80%以上が領土を渡さないと言っている。これはマイダン革命の時と比べると対ロシアとの関係では変化している。
ロシアから独立した東欧諸国の人々は、ロシアが没落しても、かならずのし上がってくるだろうと考えていた。自分たちのほうに矛先を向けてくるだろうと考えていた。そのために軍事的なシェルターとしてはNATOしかなかったということを、例えば、チェコの左翼の人たちが言っていた。
だからNATOが軍事侵略するようなことがあれば闘うだろう、ただしロシアから自分たちを守るためにNATOに接近するしか選択がなかったと言っていた。
ロシアによる帝国主義的な侵略戦争であるが、他方でウクライナの民族的アイデンティティを獲得し、ひとつの多民族国家としてウクライナが真の独立を果たしていくための戦争になっている。
アメリカ、NATOから見た場合、ウクライナがこれほど戦うとは思っていなかった。ウクライナを使ってロシアを弱体化させるというねらいがある。アメリカ兵の血を流さずにロシアを弱体化させたいという戦略をとっている。ウクライナの独立戦争とNATOの利害関係が一致している。
ウクライナは、軍事占領されてきたクリミアをはじめもとに戻す闘いを支持し、ウクライナの人々が求める武器についてもできる限り、武器を輸出できる国はすべきだ。
ウクライナの女性兵士の比率が高い。靴、防弾チョッキ、ヘルメットも男サイズだという苦情が出ている。女性のサイズの援助を要求している。人道的援助を強めていくべきだ。
左派とウクライナ現地結ぶ試み
続いて稲垣豊さん(国際問題研究会)は、『ウクライナ2014~2022」に掲載されたウクライナ社会運動関連文書、世界各国の支援団体、現地運動の映像などを紹介しながら「ウクライナ民衆連帯募金」の取り組みについて報告した。
「加藤直樹さん(ノンフィクション作家)、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク)、鈴木剛さん(労働運動家)が呼びかけて、ウクライナ現地の人々とつながって支援を行おうと取り組みが始まった。今年2月24日から3ケ月の期間限定だ。募金の対象は、ウクライナ社会運動で本書の中でも取り上げられている。マイダン革命ではナショナリストが目立っていたが、他方で左翼が頑張り2014年から16年にかけて作った団体だ」。
「加藤さんが『西側左翼へのキエフからの手紙』/ロシア社会主義運動の声明(ビロウス)の手紙が掲載された『週刊かけはし』を読み、独立系ジャーナリストの集団であるアジアプレス・インターナショナルのネット媒体に、「ウクライナの知識人から届いた手紙――小国が侵略されない世界を」を寄稿した。それらを通して取り組みが始まった。募金を送りお礼の手紙も届いている。日本の左派がなかなかウクライナ現地と結びついていないなかこのようなアプローチは重要だ」。
「ウクライナにこだわりつつ、私たちの主戦場であるアジアにおいて似たような状況が出てくる可能性がある。G7にゼレンスキーが参加し、NATOがアジアにも力を入れている。沖縄の人たち、台湾の人たち、中国の中の人たちの厳しい状況を受け止めながら社会変革を共にやっていく必要がある。今後もウクライナの闘いに学び、現地の人々と交流しながら歩んでいきたい」と問題提起した。
戦後復興も見すえた左翼の課題
松本和史さん(国際問題研究会)は、「本書製作に参加して問われたことがあった。一つはプーチンが、レーニンの民族自決について批判し、ナチスに反対するために攻めていくんだと言っていた。この論理に対してどのように批判していくのか問われた。さらに2014年のマイダン革命の運動がどういう性格だったのか。その成果をウクライナ民衆がどのように継承していったのか、ということだった。この問題意識を深めていくために第二部は『2014年マイダン革命、クリミア併合、ドンバス内戦、そしてゼレンスキーの登場』 と設定し、『1 マイダン蜂起とドンバス内戦に関する第四インターナショナルの三つの決議』、『2 マイダンの意義と矛盾 左翼の奮闘、極右の積極的関与』などの文書を収録した。とりわけ右翼の抬頭の中で左翼の苦闘がどのような状況だったのかを全体像ではないが部分的に迫ることができる」と紹介した。
とりわけ「『ウクライナについての疑問に答える/ダリア・サブロワ』論文の『1、クリミア併合からドンバス戦争まで/2、2014年から2022年までのウクライナの政治的および社会的生活』の中の『極右の問題』、『戦争に直面するウクライナ左翼』」について浮き彫りにしていると指摘。
最後に、「戦争後のウクライナ民衆の生活、復興はどうなるのか。帝国主義諸国がいかに介入するのか、厳しく監視していく必要がある。債務問題について本書では、エリック・トゥーサン(不当債務帳消し委員会)が『なぜウクライナの債務を帳消しにしなければならないのか』について答えている。債務帳消し運動の取り組みは重要である」ことを明らかにした。(Y)
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