原発汚染水の海洋投棄やめろ
6.20 福島市で200人が行動
国・東電は責任を取れ
海を汚すな! 漁業を守れ
【福島】この夏にも強行がもくろまれている東電原発の放射能汚染水の海洋放出を止めようと、県議会開会初日の6月20日、福島市で集会とデモ、スタンデイング、県知事・県議会要請が行われ200人が参加した。2014年以来、海洋放出に反対し様々な取り組みを重ねてきた「海を汚すな!市民会議」が主催した。会場には県内外からの参加者に加え、国内のみならず中国、台湾、韓国、米国からのメディアも取材に来ており、椅子が足りなくなるほどだった。はじめに、市民会議の佐藤和良共同代表が「福島の漁業は漁獲量が戻っていない。政府と東電は復興と廃炉の両立を語っているが、汚染水の放出が強行されれば、漁業者をはじめ一次産業従事者が12年かけて積み上げた努力が壊滅的な打撃を受ける。これは風評被害ではなく、実害だ。原発被災者として放出を止めたい。放出させてしまったら近隣諸国をはじめ、全世界に対してわれわれが加害者になってしまう。被害者から加害者になってはいけない。内堀知事には、県民の反対の声をしっかり受け止め、国や東電に対し、行動してほしい」とあいさつ。続いて県内の浜通り・中通り・会津の3地方からの参加者が発言した。
この魚が獲れた場所は?
南相馬市の佐藤智子さんは、同じ被災者の声を紹介するとともに、「私たちは子どもたちに美しい環境を残したい。少しでも不安があるなら流すべきではない。陸上保管で管理できる。海洋放出して欲しくないと訴え続けます」と語った。郡山市の川井ひろみさんは、原発事故の年に孫を出産した長女が誕生祝いのタイを買いに行った魚屋で店主に「この魚が獲れた場所はどこですか?」と何度も確認された話を紹介し、「我が子を守りたいという娘の必死さがやるせなかった」と振り返るとともに、「海はつながっています。汚染された水は地球を循環します。私たち日本人も、周囲を海に囲まれ海のものを食べてきた〝海の民〟。どれだけ微量でも、放射性物質は私たちの身体に蓄積されていきます。世界各国の魚屋さんの前で、娘たちが交わしたような会話をしてほしくない。放出には断固反対だ」と憤った。会津坂下町の千葉親子さん(甲状腺がん支援グループあじさいの会事務局長)は「これは浜通りだけの問題ではない。汚染水を処理水とごまかし海に捨てようとする欺瞞は許せない。原発事故の責任を誰もとっていないのに、さらに海洋投棄で取り返しのつかない被害が生じたら誰が責任を負うのか。断固反対の意思を地域からのとりくみで表していきたい」と表明した。
海に捨てれば拾い集められない
集会終了後、参加者は「汚染水を海に流すな!」「みんなの海を汚さないで!」「漁業を守れ!」などと書かれた横断幕を掲げながら、県庁へ向け市内をデモ行進し、県庁到達後は入り口に陣取りスタンディングを行い、次々とマイクをとった。
共同代表の織田千代さんは、「トリチウムは世界中で海に流されていると言うけれど、原発事故が起きた福島から流されるものとは違う。基準値以下に薄めても、何十年も流し続けたら放射性物質が海に溜まってしまう。海水浴に行って大丈夫なのか。海には境界線はないのだから福島だけの問題ではない。このような疑問にきちんと答えていない。ていねいな説明は全くされていない。」「もう決まったことなのだからとあきらめず、原発事故直後の気持ちに戻って、みんなが協力して安心できる国にして行こう、未来へ向かって元気を出していきましょう!」と口火を切った。
韓国の全国漁民会総連盟のキム・ヨンチョル執行委員長は「海にいつも感謝の気持ちを捧げながら生きてきた。韓国では海洋放出に不安を感じる人が既に海産物の消費を控えている。安全なら、農業用水でも飲料水でも日本国内で自由に使えばいいのに。汚染水の海洋放出は、私たちのような漁民の暮らしだけでなく海を滅ぼすことだ。ひとたび汚染水が海に捨てられると、再び拾い集めることはできない。私たちは沈黙しない。後悔なく最後まで叫びましょう」とのメッセージを寄せた。
福島県農民連の代表は「国と東電は2015年に福島県漁連と『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』と文書をかわして約束している。反故にすることは決して許されない。賠償金を出すから納得しろという対応は、農家の誇りを踏みにじるもので許せない。農業者として漁業者の苦しみがよくわかる、海に流さない方法を取るべき」と発言。
日音協のグループからは「トリチウム、毒は毒」という歌が披露された。浪江町の酪農家吉沢さんは、「請戸港の外側で釣りをし、魚の測定をする」と参加を呼びかけた。ちょうど県庁は昼休み、スタンディングの発言を聴いている職員の姿もあった。
最後に「理解と合意なき汚染水の海洋放出の中止を求める」要請書を読み上げ、参加者全体で確認した。
午後3時からの県知事要請行動には内堀知事は出てこず、県原子力安全対策課の伊藤繁課長が応じた。出席した30人の市民からは「県独自の放射能汚染水の核種と濃度の測定や検査はどうなっているのか」「データ改ざんを行ってきた東電が信用できるか」「宮城県知事は海洋放出以外の方法も考えるべきと西村経産大臣に迫ったが、被害当事県の内堀知事は国と東電に放出するなと言わないのか」など多くの声が出された。「意見は内堀知事に報告したい。国にも届ける」としたものの「海洋放出前提で考えているのか」「海洋放出以外に方法がないと県は考えているのか」という質問には「国の説明としては、処理水を地上に保管することが難しくなっているということ」と答え、また、タンク内の測定については「東電は、撹拌して測定する作業を開始しています。サンプルは40ℓです」と明らかにした。県当局が東電と国に顔を向けており、その方針に沿った対応を考えていることが垣間見えた。
要請書の回答は7月10日まで。福島県知事が政府当局から独立した対応をすることの望みは薄いが、以下の様々な動きと結んでいくことでその状況を変えることは不可能ではない。
全国市長会、いわき市議会の決議
6月7日、全国市長会は、「東日本大震災からの復興及び 福島第一原子力発電所事故からの復興等に関する決議」を上げた。その中で「水産業をはじめとした関係各産業への新たな風評被害を発生させないために、国が責任を持って対策を講じること」「処理水については海洋放出によらない新たな処理・保管方法を 国の責任で検討するとともに、トリチウムを分離する技術の確立に向けて積極的に検証を進め、放射性物質の測定にかかる費用については、令和6年度以降も 国の予算措置を継続すること」を謳っている。6月15日にはいわき市議会6月定例会が、「国に対する『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』との約束の履行を求める意見書」、「東京電力に対する『関係者の理解なしにいかなる処分も行わない』との約束の履行を求める決議」を全会一致で可決した。
死活問題!漁連は反対を堅持
政府は福島県や周辺地域の漁業関係者を念頭に、水産物の販路拡大の支援や処理水の放出による風評被害で需要が落ち込んだ場合に、冷凍可能な水産物を買い取る事業などにあてる300億円の基金を設置したほか、全国の漁業者を対象に長期的な事業継続に向けた漁場の開拓などの取り組みを支援するため、500億円の基金を新たに設けている。
政府はこうした支援策を打ち出しながら「理解を得られるよう丁寧に説明を続ける」として、福島県を中心に漁業関係者への説明と電通などを使った「処理水安全キャンペーン」を繰り返し行ってきたが、「理解」を得られる見通しは立ってはいない、県民世論調査でも87%が「放出されれば必ず風評被害が起こる」と答えており、6月10日の西村経産相との面談後、宮城県と福島県、茨城県の漁連は、従来通り反対を表明した。
同22日には全漁連が放出反対の特別決議を上げ、坂本会長は「処理水の放出は認められない」という立場を重ねて示した。巨額の支援基金設置などによる揺さぶり攻撃は今後も続くと思われるが、漁業者にとっては、海洋放出は「漁業の存続を左右する死活問題」であり、金で解決できるものではないと思うのは当然だ。
韓国では日本の魚介類輸入量が減り、塩田の汚染を心配して塩が店頭からなくなっているという。同様に香港政府は海洋放出されれば輸入をしない方針を示した。韓国の最大野党「共に民主党」は、国会で東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を巡る尹錫悦政権の対応への非難を強めた。朴振外相は「安全が検証されなければ放流に反対する。」と語らざるを得なかった。日本政府との協調路線をとる韓国大統領の姿勢やIAEAの評価を利用しながら海洋放出を強行しようとする岸田政権に対する国内外の目は厳しい。
進んでいない廃炉作業
西村経産相らは「福島第一原発の廃炉を進めるにあたって、処理水の海洋放出は避けて通れない課題だ。廃炉を進めながら、みなさんの漁業のなりわいを継続、両立していけるように取り組んでいきたい」と虚言を弄している。
廃炉の定義も定かではなく、肝心かなめのデブリの取り出しをはじめ廃炉作業は進捗してはいない。「処理水放出、タンクの撤去で廃炉作業敷地の確保」などというのも単なる世迷言だ。海をこれ以上汚さないための方策は、地下水の流入を防ぐ広域遮水壁や大型タンクの設置などいくらでも考えられるのに放射能汚染を広げる愚策に固執しているだけである。
岸田政権の原発推進政策と内堀県知事の「反対しない」姿勢を背景に、東京電力は、6月12日に汚染水放出設備で放射性物質を含まない真水を使用した動作確認作業を開始した。放出トンネル建設といい、動作作業といい、漁協や関係者の「理解なしにはいかなる処分も行わない」とする約束を反故にする行為を許すことはできない。
放出阻止の輪を広げよう
「これ以上海を汚すな!市民会議」は5月に東電本社前、国会前集会、院内集会、日比谷野音集会と銀座デモを延べ1200人の参加者で実施してきた、7月17日には海の日アクションを呼びかけている。また、4月22日には県市民連合に呼びかけによる福島市内デモ、5月の南相馬市を皮切りとして市民の実行委員会が求めた「国・東電説明会」が、6月4日にいわき市で開かれ、7月6日にも会津若松で予定されるなど各地域でのとりくみも活発化してきている。この動きをさらに広げ、放出阻止の運動を強化しよう。
(世田達)
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