リニア中央新幹線
6.9静岡県内工事差止請求事件
第10回口頭弁論
【静岡】6月9日、リニア中央新幹線南アルプストンネル工事の県内区間(10・7km)の工事差し止めを求めた訴訟の第10回口頭弁論が静岡地裁で行われ原告・サポーター・弁護団60名が参加した。
八木大輔さんの陳述(大井川流域の藤枝市)
ヤマトイワナを絶滅させない
幼いころから自営業を営む父親に連れられ山菜取りや鮎釣り、カブトやクワガタ捕りなど日が暮れるまで野山を駆け回って遊んだことが楽しい思い出であり、なかでも大井川の中下流部である川根本町の地名(じな)、島田市の鵜網(うあみ)での毛鉤を使った鮎釣りは家族で楽しみ、今でも母を連れて鮎釣りに出かける。鮎釣りからやがて渓流釣りを始め、大井川源流部をホームグラウンドとする源流釣りに夢中になる。そんな折に、JR東海によるリニア中央新幹線トンネル工事の調査において「ヤマトイワナは確認されませんでした」という新聞記事を目にしたのを機にリニア新幹線に関心を持つようになった。
釣り師にとり
あこがれの場
リニア新幹線ルートにあたる大井川源流部の西俣、東俣は渓流釣り師にとっては憧れの「ヤマトイワナ」に会える聖地のような場所。「どんな調査の仕方をすれば、『確認できませんでした』という結論になるの!何かおかしいぞ…」と思ったと述べた。
ヤマトイワナは北極圏にルーツを持ち、氷河期と間氷期を繰り返す地球環境の劇的な変化の中で南アルプスに陸封されたイワナでありイワナ属に属する魚としては分布の南限を示すものの一つ。
ヤマトイワナは静岡県環境森林部自然保護室発行の『守りたい静岡県の野生生物-県版レッドデータブック動物編2004』で絶滅危惧種ⅠB類」に登録され、環境省のレッドリストカテゴリーでは「ⅠA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの」に属する。
土砂崩れの
危険性!
南アルプスは大陸プレートにフィリピン海プレートが沈み込むことによって隆起した付加体(楔形の断面を持つ地質帯)という非常に脆い地質構造で構成され薙・崩れといわれる崩壊地が点在する。大雨が降れば山肌が崩れ、水流が土砂を押し出し、天井をはるかに超える土砂が堆積するような環境を生き抜き、雨が降らない時期には水のある場所を求めて移動し命を繋いできた。こうした環境を生き抜いてきたヤマトイワナは、リニアトンネル工事で、山体の水が抜けてしまえば、あるいは山体崩落(壊)により河川が埋まってしまえば棲む場所を失い、息絶えてしまう。
トンネル工事により起こるであろう大小さまざまの土砂崩れにより、ヤマトイワナが産卵する“タネ沢”といわれる小さな渓流が塞がれ命を繋ぐ機会を失うことにもなる。
ヤマトイワナを指標にリニアトンネル工事がもたらす南アルプスの自然環境に及ぼす影響について述べた。静岡県自然保護課によれば工事によって動物94種、植物196種の生息環境に影響が出る可能性がある。
また2017年に静岡市が行った「南アルプスユネスコエコパークでの環境調査報告書」ではJR東海の調査では把握されなかった動植物計8種が公表されている。
環境権の否定
を許さない
リニアトンネル工事は「百害あって一利なし」。人口減少が続く日本で、また「21世紀環境立国戦略」を閣議決定している日本で、これ以上、自然環境を破壊してまで新たな交通インフラを造る必要があるとは思えない。
憲法に明示的な規定はないものの多くの学説が憲法第13条:幸福追求権、25条:生存権などを根拠として「環境権」を認めていること、日本弁護士連合会では1986年に「自然保護のための権利の確立に関する宣言」が発せられ“人間には自然を公共財として後の世代に継承すべき義務がある”と謳っていること、最近ではEUが2022年2月23日、特定の企業に対して企業活動における人権や環境への悪影響を予防・是正する義務を課す「企業持続可能性デューディリジェンス指令書」発表している。
裁判闘争を
強化しよう
口頭弁論終了の都度、原告・支援者・弁護団による報告集会が開催されてきた。
今回の審理終了後の進行協議では①被告JR東海が水道水や井戸水を利用している流域在住の原告に対して減水による権利侵害を立証する資料として「住民票」提出を求め、今回交代した裁判官がそれを認めるというとんでもないことがあった。原告は提訴時に現住所・氏名・認印の押印された委任状を提出済みである。
②減水による権利侵害についての主張反論を次回までに出せるところまで出す。裁判所は次々回までにこの点について主張反論を尽くすよう求めてきた。
③原告は主張すべきことがたくさんあること、減水問題だけでなく環境権に基づく主張の追加も準備するとしたところ、裁判所は「見通しもなく審理を続けることはできない、相応に合理的な範囲で」と主張。
交代した裁判官は①といい、この点でもいささか強引な訴訟指揮をうかがわせる人物である。今回の口頭弁論でも38名が傍聴参加したが若干の空席が目立つ。訴訟の会事務局から傍聴者拡大の訴えがなされた。
次回期日2023年9月8日(金)14:30 次々回12月8日(金)14:30 (S)
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