6.11ウォールデン・ベローさん講演集会

米中双方とフィリピンの関係解説

横須賀からは自衛隊の変化も詳説

 【神奈川】6月11日、横浜市でウォールデン・ベローさん講演集会がおこなわれた。主催はG7いらない!首都圏ネットワーク。ベローさんはG7広島への対抗デモでも発言し、10日まで沖縄の反基地運動などとの交流、講演をおこない、この日の日中は横須賀基地の見学をすませた。

日本の安保政策
も客観的に概観
 ベローさんは半年余り日本に滞在中だが、まず日本の防衛拡大を外交、経済、憲法の面から概観した。憲法9条改悪への動きを加速させかねないこと、国家債務負担の増大につながることも触れた。横須賀にある米海軍第7艦隊が中国を圧迫する大きな存在の一つであること、財政ひっ迫と対外債務、軍事的緊張が深まるにつれ自衛隊がその能力を破綻させていることにも言及した。自衛隊員の募集、新規隊員の定着困難が、緊張を増す自衛隊「業務」の増大についていけない、という悪循環のことであろう。そして、米中双方とフィリピンの関係について、軍事面に焦点をあてて参加者とともに振り返った。

フィリピンでは
米軍は諸々変遷
 アーサー・マッカーサー元帥(ダグラスの父)による「フィリピンは戦略的要衝として素晴らしい」という発言が示すように、アメリカ軍政のもとにあったフィリピンだが、1989年フィリピン憲法とピナトゥボ火山噴火の影響にもとづきスービック、クラーク両基地からの米軍撤退(1992年までに)の後、訪問米軍地位協定(V
FA)締結(1998年エストラダ政権時)、防衛協力強化協定(EDCA)(2014年ノイノイ・アキノ政権時)など変遷をたどっている。ドゥテルテ政権下で訪問米軍地位協定離脱が表明されたことは、その「超法規的殺人」政権の性格にもかかわらず(一定)評価するが、後半のドゥテルテは米軍と密接な関係にあるフィリピン軍の圧力にさらされ、対米姿勢は融和的なものに後退しているという。
 また、その節目には中国軍がフィリピン近海で徐々に拠点を構築するなどしている背景もある。すなわち、九段線の主張、フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内にあるミスチーフ礁占領(1995年)、スカボロー礁の奪取(2012年)などである。同時に1995年~96年の台湾海峡での軍事的緊張もあった。中国軍のミサイル演習開始、対抗して米第7艦隊から空母インディペンデンス、空母ミニッツが急派されて中国軍が抑え込まれたことは、その後の中国軍の海洋進出などの戦略を決定したと言えなくもない。いわゆる、人民解放軍による、接近阻止、領域拒否戦略である。
 米軍のマイケル・ミニハン空軍大将が「2025年にも戦争になる」という「予言」(2021年の内部メモ)をはじめ、台湾海峡をめぐる米軍関係者の発言は相次いでいる。

米中の緊張には
中立貫徹を主張
 ベローさんの話からは、緊張を生み出す主は中国なのか、米国なのか、様々なニュアンスを感じることもできるが、強調するところは、ベトナムをはじめとした東南アジア諸国のように、戦争には巻き込まれまいとし、あくまで中立を貫く立場を、日本もフィリピンもとるべきだという点であり、これはベローさんがG7広島に抗議する集会で力説していたことでもある。
 2014年、下院議員としてベトナムを訪問した際にベトナム政府から「チキンレースに参加するのか」と言われたりもしたこともある。グエン・チュオン書記長は習近平に4つのNOを約束した。どちらかに軍事的に肩入れしないというものである。
 マルコス現大統領は、既存の5つの米軍拠点に新たに4つを加えることを表明したが、質疑の中でベローさんの印象では、限られた区域で、基地と言えない規模のものも含まれているという。また、89年憲法は効力を持っているので、米軍はフィリピン国内の拠点を使用しつつも、そのあと去りまたやってきて使用しているに過ぎないと言い張るが、明らかに詭弁だということも言っていた。
 この日は、木元茂夫さん(すべての軍事基地にNO!ファイト神奈川)もスライドを使って、バリカタン演習他、米軍とフィリピンとのかかわりで日本の自衛隊がどう変化しているか、などを詳述した。
 参加者は神奈川で反基地運動をしている人も多く、変化するフィリピン近海、フィリピン人民を通して、日本でとるべき運動は何かについて考える機会になった。

参考文献
「ドゥテルテ」 石山永一郎 (角川新書)

 新刊ではないが、フィリピンの最近の情勢を書いた本は文庫本ではあまりない気がする。
 帯などにうたっているのは超法規的殺人など人権無視、ポピュリスト大統領の素顔は、国民皆保険政策導入など、左派リベラリストとしての側面も無視できない、というもの。
 超法規的殺人については具体例も紹介しており、個々の事例について否定しないが、全体に、麻薬捜査に対する麻薬組織側の末端関与者殺人と警察内内通者による殺人などがはびこってきた中で、ドゥテルテはそういう腐敗をなくすために努力している方ではないか、という調子で紹介している。事実として麻薬犯罪、タクシーの不当請求など腐敗は減っていて、それが景気上昇に結び付いているという。国民の高い支持率、に直結している、というところが論旨である。
 共産党シソン派・新人民軍(NPA)との関係についてもページを割いている。シソンの教え子でもあるドゥテルテだが、計画的に共産党を切り捨てたという解釈ではないように見受ける。ただその過程で生じた弾圧、殺人については個別紹介していない気もする。
 ドゥテルテ型破りという点では、日本における、田中角栄に「無頼派(セクハラ派でもある)」自民党議員をくっつけたような印象。
 ほかに、読んでいてつかれるのは、安倍が州知事時代にドゥテルテの生家を訪ねた話、ドゥテルテは反米だが、日本の天皇は好きである話、という小話などを随所に挟んでいるところだ。
 石山という人は柘植書房新社から著作を出しているようだ。
 この本の中にマルコスの「開発崩れ独裁」を解説するところなどはウォルデン・ベロー(ワルデン・ベリョ)を参考文献に挙げている。    (海田 昇)
 

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