「全国一律で1500円」求め、地域最賃審議での闘いを

最賃の地域格差はやめろ!
最賃目安 全国加重平均で1002円(39道県は1千円未満、17県は800円台)

1000円では低すぎる

中央最低賃金審議会は7月28日、今年の最低賃金について「全国平均の時給で41円引き上げる」とする「目安」を決めた。これまでで最も大きな引上げ額となり、「全国平均で時給1002円」と報道された。
 岸田首相は様々な場で「平均1000円超」という数字をあげてきた。この額は安倍政権も「早期達成」としてきたものだ。実質賃金の低下が続き、しかも急激な物価上昇によって昨年の最賃引き上げ効果が失われていたなかでは、1000円では低すぎる。それが低所得労働者たちの実感だ。
 問題とされてきた最賃の地域格差についても、抜本的な改善は見送られた。新しい3つの目安ランクでは東京などAランクが41円引き上げ、Bランクで40円、Cランクで39円。日弁連会長声明(*資料「要請文」参照)が言及していたように、Cランクが「上位ランク」を大きく上回るということでないかぎり、最賃額の格差は縮小しない。今回の「目安」は、一円ごとの差額であっても引き上げ格差を拡大させているという現実を示した。

地域最賃審議に要求をかかげよう!

 「1千円超」の報道は地域の期待とはかけ離れたものだった。目安の段階で実際に1千円を超えたのは8都府県のみだ。39道県は1千円未満、そのうち17県は800円台だ。
 宮城全労協は労働局に対して「全国一律で1500円の実現」を求めて要請を行ってきた。昨年は22道県で「目安」を上回る地域最賃が決定された。政府は「1千円」へのこだわりを示してきたが、それは「加重平均」においてであり、大半の地域では一千円を下回ることが当然視されている。そのような姿勢を改める必要がある。「全国一律で1500円」は現実的な選択肢だと強調した(参考資料/宮城全労協の要請文)。
 舞台は地域審議会に移される。この間、全労連、全労協などによる行動が取り組まれてきた。すでにいくつかの県で労働局などへの要請、申し入れがなされている。「全国一律で1500円」の実現に地域から迫ろう。

宮城合同労組が意見陳述へ

 宮城合同労組は東北全労協、宮城全労協と連携し、「目安制度の在り方に関する全員協議会」の議論に関して労働局への申し入れを重ねてきた。

 〈東京都が1072円。1ケ月の法定労働時間である173・8時間働くとすると、たとえば岩手県において、東京との間に月に37、888円の差がつく。最低賃金の地域間格差の拡大が地方の人口減少・衰退を促進する要因のひとつであることは明らかなため、近年、多くの地方議会において全国一律を求める意見がでている〉〈全国一律最低賃金制度に向けて、ランク制を廃止すべき〉(申し入れ書より)である。
 東北地方の現在の最低賃金は、秋田と青森が853円、岩手と山形が854円、福島858円(以上、これまでのDランク)、宮城883円(同じくCランク)。今回の3ランクの目安では、秋田と青森が892円、岩手と山形が893円(以上4県がCランク)、福島が898円、宮城が923円(2県がBランク)となる。 

 宮城合同労組は地域審議会での意見陳述で「最賃格差の是正」「全国一律1500円の早期実現」とともに、中小零細企業の賃上げ支援を訴える。厚労省の「業務改善助成金」は「生産性向上に資する機械設備投資」を要件とするなど、企業の賃金引き上げ原資を直接補助する制度ではない。政府は最賃引き上げに関して「ストレートな補助を中小零細企業に行うべき」だ。
  (7月30日)
仙台U・J記

参考資料

「宮城労働局への宮城全労協の要請文」(6月27日)
〈宮城県最低賃金の改定審議に関する要請〉

「全国一律で時間1500円」の実現を求めます

 昨年の最賃改定審議では物価動向に注目が集まりました。改定後、物価上昇はさらに進んで大きな社会問題となりました。低所得労働者にとって、最賃引き上げ効果は瞬く間に失われ、生活苦境はいっそう深刻なものとなりました。「一年後の最賃まで待てない」という声が広がり、最低賃金大幅引き上げキャンペーン実行委員会をはじめ、各地で「物価高騰を上回る最低賃金の再改定」を求めて労働局への要請などが行われてきました。
 食品や生活物資など物価上昇は今後も続き、電気料金値上げの深刻な影響も指摘されています。最低賃金の大幅な引き上げ改定が必要であり、「全国一律で1500円」の実現を要請します。

 以下、要請にあたっての意見とします。

◦22道県で「目安」を上回る地域最賃(昨年の最賃改定)

 昨年2022年の最賃改定では、当時の「D」「C」ランクの地域を中心にして22道県で中央審議会の「目安」を上回る額となりました。それは「最賃格差」を埋めようとする地方の声を受け、各県最賃審議会が導き出したものでした。河北新報は「人材流出 地方に危機感/(最賃の)格差縮小で引き留め狙う」と地方の実情を記事にしています(22年8月24日付)。最賃行政にはこのような動きを後押しすることが求められています。

◦実質賃金の低下が続いています

 「春闘の賃上げ率は30年ぶりの高さ」だと報じられました。「過去に経験したことのない上げ幅」とか「満額回答相次ぐ」などの文言が躍ります。しかし、岸田首相が強調していた「インフレ率を超える賃上げ」であったとは言えません。しかも、それらの数値の評価は大企業を中心にしたものです。低所得労働者、「最賃近傍」で働く労働者にとっての現実は異なります。そして、地域の最低賃金改定審議に求められるのは、そのような現実に焦点を当てることです。
 実質賃金は対前年比で低下が続いています。今春の賃上げ効果によって、今年の後半には実質賃金はプラスになるだろうとの見通しも語られていますが、仮にそうなったとしても、低所得労働者に大きな影響を与えることにはなりません。低所得労働者の賃金に直接、波及させるためには、最低賃金の大幅引き上げが必要不可欠です。

◦地域間格差を隠す「加重平均」

 岸田首相は今年の最賃改定の目標に関して「1千円」へのこだわりを示してきました。「骨太の方針」では「今夏以降は、1千円達成後の最低賃金引上げの方針についても、新しい資本主義実現会議で議論を行う」と記されています。
 ここで首相がいう「一千円」は「加重平均」においてであり、従来の「C」「D」ランクなどすべての地域で「一千円」超となることを意味してはいません。大きな地域間格差を抱えたままであるのに、「加重平均」をもって、「1千円」が実現したかのように印象づけられることは不当であり、その点でも全国一律最賃制とすべきです。

◦「4区分から3区分の変更」では抜本的改正にはなりません

 「4区分」の見直し議論では、現行の4段階区分を3段階とすることが報告されました(「目安制度の在り方に関する全員協議会」4月6日)。最賃の地域差の拡大を抑える狙いだとされています。しかし、「3ランクに減らすことで、引き上げ額の差が小さくなりやすいようにした」と報じられるなど、〈数字のマジック〉を期待しているのではないかとの疑念が消えません。
 日弁連会長声明(「低賃金労働者の生活を支えて経済を活性化するために、最低賃金額の引上げ及び全国一律最低賃金制度の実施を求める」4月14日)は「全国一律制実現に向けた提言をなすべき」と述べ、次のように指摘しています。
 「これ(目安区分の3段階への変更)ではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなどの抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めない。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきである」。

◦「全国一律で1500円」を!

 NHK時論公論は昨年8月8日、中央審議会の「目安」決定直後、「最低賃金と新しい資本主義~最大引き上げのその先は?」と題して問題提起しました。「今のペースだと2年後には政府目標の平均1000円に、ついに到達する見通し」としたうえで、「それでも生活の底上げには不十分」「海外と比べてもG7では最低レベル」だとして、今後の課題を論じる内容でした。
 最低賃金のあり方を巡って、これまでの様々な議論の一つとして、次のように「1500円の実現」に言及しています。「海外と比べてそん色ない水準であること。また、組合などが行ったアンケートで、単身者が普通に働いて暮らすためには1500円前後が必要なこと、などが理由とされています」。さらに解説委員は、地域格差も議論になっているとして、「国際的にみると、最低賃金を地域別に決めているのは実は少数派で、多くの国では全国一律」であり「このため、自民党の国会議員の中からも最低賃金の一元化を求める声が去年、出されている」と述べています。
 このような解説が示しているのは、「全国一律で1500円」の要求は現実的な選択肢だ、ということです。
 「1000円」はもはや目標額とはいえず、またその額では不十分です。「3区分」への変更も抜本的改正にはなりません。「全国一律で1500円」の実現が必要です。
以上

中央最賃審会場前では全国一律1500円要求の訴えが続けられた(7.20)

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