STOP! ロシアの侵略 ウクライナに連帯を! 7・16シンポジウム その②
ウクライナへの連帯―その核心的課題を問う
【東京】7月16日午後2時から、東京・渋谷区勤労福祉会館で、「STOP! ロシアの侵略 ウクライナに連帯を! 7・16シンポジウム」が開かれた。
青山正さん(チェチェン連絡会議代表)の講演の後に、加藤直樹さん(ウクライナ社会運動への連帯基金の呼びかけ人)、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク〔NAJAT〕)、原隆さん(ウクライナ連帯ネットワーク)、コーディネーター林克明さん(ジャーナリスト)でパネルディスカッションが行われた。 青山正さんの講演は前号に掲載。今号はパネルディスカッションを掲載する。 (M)
(発言要旨、文責編集部)
パネルディスカッション
原隆さん(ウクライナ連帯ネットワーク)
左翼が侵されている反米レトリックについて話したい。今までパレスチナ連帯に取り組んできて、パレスチナ現地には7回行っている。イラスエルの占領下はイスラエルの奴隷だ。自由と尊厳が奪われている状態で、「平和・和平」とんでもないとパレスチナ人のほとんどがそう思っている。その和平の欺瞞がウクライナをめぐっても渦巻いている。
ウクライナの人たちがなぜ徹底抗戦しているのか。またプーチンがなぜ、ウクライナの国の存在自体を認めないのか。ロシアによるウクライナの併合をも目論んで進行している。なぜ大ロシア主義に取りつかれているのか。ロシアとウクライナの支配・被支配の歴史を決してないがしろにしては理解できない問題だ。
理解を妨げている要因として反米レトリックだ。社会のあらゆる問題をアメリカのせいにする。これははっきり言ってロシアのマヌーバーだ。そうした見解を持っている左派系文化人がいる。
この前、NATOの首脳会談があった。そこで明らかになったのはバイデン政権の煮え切れなさだ。侵略を許した米欧にも責任がある。米国にとっては本音はウクライナのためにロシアとの戦争に巻き込まれたくない。今は双方の消耗を待って、停戦の仲介役を演じようとしている。クラスター爆弾、ウクライナがリスクを承知で、背に腹は代えられないと要求している。ウクライナに約束した兵器の半分しか入っていない。ウクライナ市民が毎日毎日殺されている。なぜ防空システムを送らないのか。ウクライナは西側に裏切られてきた。
ウクライナの戦争は去年からではない。2014年のクリミアを一方的に併合し、東部ドンバス地方を占領してから、ずっと続いている。1994年12月5日に、ウクライナとロシア、アメリカとイギリスの4カ国が署名したブダペスト覚書がある。ウクライナが旧ソ連から引き継いだ核兵器を放棄し、その代わりにアメリカ・イギリスなどがウクライナの安全を保障することを約束したものだ。しかし、ロシアに忖度し裏切られた。
今回行われたリトアニアでのNATO会議ではロシアを刺激しないというアメリカ、ドイツの慎重論が反映された。ウクライナのNATO加盟に道筋を示すことなく閉幕した。G7の安全保障の約束として落ち着いた。これは単なる口約束だ。ロシアに対して良くないメッセージを発した。戦争している間はNATO加盟はできない。そのためにもロシアは戦争を継続するだろう。こうした誤ったメッセージをロシアに送った。
2014年のクリミア併合の時点で、西側諸国は目を覚ますべきだった。ドイツの政権はロシアの天然ガスを2倍買うようになった。日本の安倍政権は27回もプーチンと会っている。こうした状況を見て、プーチンは西側はロシアに逆らえない、ウクライナを助けないと判断した。
NATOはロシアとの戦略的パートナーという位置づけをポーランドやバルト三国の反対がありながら、ドイツ、フランスの意見で変えなかったが、やっと作年に変えた。ロシアに融和政策を取ってきたバイデン政権はウクライナの勝利を支援するのか、あるいは停戦に持ち込もうとするのか、まだ定まっていない。
ウクライナの「自由と尊厳ほど大切なものはない」という価値観。ウクライナの火力・兵力でロシアは10倍ある。徹底抗戦し、ロシアに苦戦を強いているのはウクライナの人々の士気の高さだ。われわれはそのことを忘れてはならない。民間人だけで死者一万人を超えている。ウクライナ兵が死者一万五千人、ロシア兵は死者三万人と言われている。そうした犠牲を強いられながらも、ロシアの奴隷なんかになりたくないとウクライナ人は思っている。並外れた壮絶な戦いにわたしたちは「敬意を示す。連帯を示す」。ブチャの虐殺に怒りを覚えする。そうした共感力が大切だ。
加藤直樹さん(ウクライナ社会運動への連帯基金の呼びかけ人)
今年の2月24日から3カ月間、ウクライナの「社会運動」という名前の左翼・運動団体に連帯の募金を送ろううとグループを作って呼びかけを行った。最終的に約84万円(人数百人弱)集った。非常に成果を上げることができた。来週には送れるだろう。ウクライナ側は非常に歓迎してくれている。同様の試みは韓国の社会進歩連帯というグループもやっている。同じぐらいの額を集めたようです。イギリスなどヨーロッパの運動の中ではいろんな形で行われていて、おカネだけでなく、車を買って、組合のメンバーたちがそれに乗ってウクライナに行く。
ウクライナの社会運動に募金をというツイッターを始めたら、ガチの親ロ派の人たちがウクライナに反ロシアの左翼なんているのか、と反応を示した。「いるんだよ」、無知の上に立っていることが印象的だった。なぜ、募金を始めたのか。一つには素朴にウクライナ人が大変だという人たちの方が左翼よりいいんじゃないかという青山さんの意見があったが、私もそういう思いがあった。だんだんネットを探していくと中古の消防車を買いとって送る、医療団体では医療品を送る、毎月募金を送るという動きがあることが分かった。私たちも直接ウクライナにつながるべきだと思った。
「社会運動」は民主的社会主義を掲げている人たちで、LGBT、エコロジー、そしてさらに鉱山労働者運動などいろんな現場に繋がっている人たちた。ウクライナを代表するようなグループでほぼ若い人たち。代表の人の写真を見ると40歳くらいだ。日本からエールを送りたい。80万円の金額というよりは、大事なことはこちらの連帯の気持ちを伝えることに意義がある。
もう一つの目的は親ロ派のウクライナに左翼なんかいるのかということに答える意味がある。ロシア擁護派の人たちは本当に漫画ちっくなネオナチが徘徊闊歩している北斗の剣みたいなにしてウクライナを描いている。ロシアの侵略に反対して労働運動をやっている人たちのことを考えたこともない。ウクライナ人が歴史を持ってそんな中でいろんな判断をしながら、歩んでいった主体なんだと発想がまったくない。そんなウクライナ人がいることに気づいてほしい。
ウクライナの論文などを一年間読みあさってきた。ロシア擁護論のひどい現状に付き合ってきてうんざりだと怒りを覚える人が多いと思うが一歩進んで、ウクライナの人々の歴史を具体的に知っていく、学んでいくことをやってもいいと思っている。
ウクライナの人々のツイッターを毎日、ずっと読んできている。例えば空襲警報が鳴る中で、どんな思いで生きているのか、戦争のことは何も書かずに自分の好きなマニアックな映画の話を延々と書いているとかいろいろ様々だ。突然、アラートが入ってくる。戦争の中で暮らしている。LGBTの当事者が兵士として戦地に行って、自分がマイノリティーであることを示すバッチを縫って着けて戦っている。パートナーが戦争で亡くなった時に、同性愛の結婚制度がないから、家族として扱ってもらえない。だから、パートナーシップ制度が必要であるという運動が盛んだ。そういったことがツイッターから見えてくる。
そうしたウクライナの具体的な姿を知っていくことが大事だ。気になっているのは岸田首相が侵略は許してはなりませんと言うが、日本が靖国神社に祀っているのはあれはなんですか、という話です。侵略の定義を言ってみろという話だ。彼らとロシア人の共通しているのはウクライナに関心がないことだ。関心を持つ対象ではないと思っているのだ。右も左もそう思っている。かつてロシア、アメリカ、イギリス、日本は共通しているのは19世紀の列強だ。その時の国がまっとうであって、植民地支配から独立した国家は半人前だと思っている背景があるんだと思う。
ウクライナもロシアからの支配にもがきながら脱している。そうしたことを見てこなかった。韓国、台湾の運命に関心がなかったことが今ウクライナに投影されて、まともな国じゃないようなロシアプロバガンダを受け入れている。ウクライナの国を学ぶことは東アジアを知ることにも役立つ。グローバルサウスを理解することにもなる。
体制側からは「民主主義対専制主義の戦いなのだ」、「世界の民主主義のためにウクライナは戦っているのだ」と、へんな二元論をつくっている。ロシア擁護派の大義名分はそこにある。そんな合唱に乗る必要はもちろんない。世界の民主主義の代表みたいな戦争、そういう列強史観ではなく、ウクライナの運命をウクライナ自身に関心を持てば、西側、ロシア側の二元論にはまらずにすむ。ウクライナの歴史を具体的に学んでゆくことに意味がある。
杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク〔NAJAT〕)
「引き裂かれるを引き受ける」
「今こそ停戦を」シンポでの討論から
「今こそ停戦を」という声明が4月に出された。新聞に意見広告出したり、サミットの会場で、ジャパンタイムズに一面広告出したりした。私はツイッターなどで強い批判を出した。つい最近、その人たちが院内でシンポジウムを開いた。直接話を聞いて意見を言おうと参加した。
シンポで問題発言と思われるものを列挙する。
西谷修さん。彼は立憲デモクラシーの会などでずっといっしょに運動をやってきた人だ。その西谷さんがかなりすごいことを言った。「ウクライナ東部地区が完全に、焼野原のように、ひどい状況になっている。ゼレンスキーはむしろそれを良しとしている。なぜかと言えば、そこから親ロ派の人たちがロシアへ避難民として逃げているから、親ロ派はいなくなっている。だから、そこは荒れれば荒れるほど、ゼレンスキーにとっては民族浄化ができる」と発言した。そこまで言うとヘイトスピーチだと思うので根拠を示せと言った。
他にも「ウクライナは西側とロシアの餌場になった」「侵略戦争ではない。戦争は複雑であって、こっちが悪い、あっちが悪いと言ったら物事を見誤る」と言っていた。私は反対の意見を言ったが西谷さんは結局民族浄化の根拠は示さないまま持論を繰り返した。
和田春樹さん。自分たちの声明は、徹底抗戦して戦いたいという人もいるけれど、戦争したくない人もいる。自分たちは「戦争したくない」人々の側に立ってこういう声明運動をやっている。
羽場久美子さんは「侵略した側とか侵略された側と言っているが、戦争で両方が殺されているからそういうふうに整理するのは間違いだ」、と言いたいのだろう。『社会民主』6月号で、「とくかく西側が悪い。ウクライナ国民の命と国土を犠牲にして、ロシアを弱体化し、プーチン体制を崩壊させようとしている。結局ウクライナの人々の選択がない。西側の犠牲者として戦わされて殺されている」。そういう図式の中に当てはめるしかない。そこがそもそもおかしいと私は思う。
姜尚中さん。「『西側二重基準』でイラク戦争やったではないか」と言っているだけ。非常に薄っぺらな意見。
マエキタミヤコさん。「国境線は時代によって変わりうる、ロシアが撤退するのは難しい」。中国ですら侵略を批判しているのに、そのはるか後ろにいるということで、批判したがまったく答えになっていなかった。
現状追認ではない連帯とは
遠藤乾さん。「反撃こそが唯一の安全保証に」(7月13日、東京新聞夕刊)「この段階で現状固定による停戦を説くのであれば、将来においてウクライナが侵略を受けないという保証の道筋を提示する義務がある。それをNATOも含めて提示できていない以上、ウクライナの今の反転攻勢は是とせざるをえない」としている。現状の追認でしかないともいえるが、停戦や撤退を求める展望をきちんと運動なりに出していかないと議論にならないと改めて思った。即時停戦はロシアを利する。ウクライナに非常に大きな譲歩を迫ることにしかならない。
渋谷敦志さん。現場に入ったジャーナリストの立場。彼も停戦の立場で行ったが、現場を見てウクライナの人たちの抵抗に触れて、「非常に考え方を揺さぶられた。あまりにもロシア側が悪すぎて、ウクライナ側の悪がよく見えてしまう。双方の死者を減らすには短期でガッと終らせるしかない。(22年10月21日、毎日夕刊)」と。これがウクライナのリアルな現状だと思う。実際平和主義の立場に立ってどういう言葉がそこで通用するのか、単純に私たちは武装抵抗を賛成して終わりとはならない。私たちが言う地点で撤退をどういうふうに実現するか、もっと早くウクライナの人たちが殺されなくてすむような、命をかけなくてすむような現状をどうやってつくるか、私たちの課題としてある。どう主張をするのかが改めて問われている。
「良心的軍事拒否国家」というモデル
よくネットで「日本の武器輸出に反対しているのに、西側の武器輸出は否定していない。二重基準である」とよく言われる。確かにそうかもしれないと思うのですが、問題は論理的一貫性にこだわることではない。現実に即して物事を考えていくしかない。
日本の武器輸出になぜ反対するのか、そこは「良心的軍事拒否国家」という小田実さんなんかが使っていた言葉を使っているが、軍事的な奉仕活動はしないけれども、それ以外の徹底した行動をする。そこは開き直るしかない。
そのことによってむしろ、西側がロシアに武器輸出していたことを止めさせていく。そうした本質的な解決にどういうふうに力を尽くすのか、考えるのが日本の市民のポジションだ。腰を据えてさまざまな主張をしていくしかない。
左から原隆さん、青山正さん、加藤直樹さん、杉原浩司さん(7.16)
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