7.23第13回「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会

教育DXによる公教育転覆の危険性

「共につくる」教育が大事だ!

 【東京】7月23日、第13回「日の丸・君が代」問題等全国学習・交流集会が開かれ、会場の日比谷図書文化館地下ホールには首都圏・大阪などから86人が集まった。この集会は、毎年この時期に東京と大阪で交互に開催されてきたもので、今回は東京で開かれた。
 10時30分に始まった午前の部では、まず集会実行委を代表して根津公子さんが「『新たな戦前』に向けた動きに対して、『わが子を戦場に送りたくない』との保護者の願い、『教え子を戦場に送らない』という教職員の思いを今こそ広めたい」と開会あいさつをおこなった。そのあと、児美川孝一郎さん(法政大学教授・教育学)が「公教育の転覆を図る教育DX─市場化、デジタル監視、新たな戦前」と題して講演した。児美川さんは、経済産業省主導の教育DX=「未来の教室」構想は、AIによる教科学習の「個別最適化」と企業の開発した教材を用いた「STEAM学習」によって学校という枠を壊し、教育を民間企業の金儲けの場に変えていくことを目論むもので、文部科学省とのあつれきも抱えながら、現在は内閣府のもとで着々と進められていると指摘し、教育のデジタル化を通じた公教育の転覆、市場化、民営化に対する対抗軸を一緒に考えていこうと呼びかけた(講演要旨は別掲)。
 児美川さんは質疑の中でさらに「教育のICT化により、機器の操作に気を取られ考えることができなくなり、学力が下がるという調査も海外では出ている」「本当に経産省の言うような教育になれば、教員は要らなくなる。そこまでいくかは政治判断」「『個別最適化』ではなく、子どもたち一人一人を大事する教育は必要。そのための条件整備を求めるとともに、これまでの膨大な実践を基礎に考えていくべき」と指摘した。

学校や地域の
取り組み紹介
 ここで昼食休憩となり、舞台ではジョニーHさんによるライブがおこなわれた。ジョニーさんは自らが分限免職された際の体験も交えながら、歌と語りを繰り広げた。
 午後1時15分からの午後の部では、全国で展開されている裁判闘争、学校現場や地域でのとりくみなどが次々と報告された。「音楽教員免職処分取消訴訟」ふじのまいさん(免職被処分者)、「『世田谷こどもいのちのネットワーク』のとりくみ」星野弥生さん(同ネットワーク)、「東京『君が代』裁判・五次訴訟について」鈴木毅さん(五次訴訟原告)、「再任用打ち切り事前告知問題」川村佐和さん(五次訴訟原告)に続いて、大阪から、「2023年大阪での卒・入学式、裁判闘争等のとりくみ」井前弘幸さん(「日の丸・君が代」強制大阪ネット共同代表)、「『君が代』調教NO!松田処分取消裁判」松田幹雄さん(訴訟控訴人)、「『合理的配慮』無視の戒告取消裁判」奥野泰孝さん(元大阪府立高校美術教員)、「『君が代』強制の先にあった『全国学力テスト体制』」志水博子さん(子どもをテストで追いつめるな!市民の会)の報告がおこなわれた。

人権の国際的
実現が大事だ
 続いて、国際人権にかかわる特別報告として4人が発言した。まず、昨年11月に総括所見が示された国連自由権委員会第7回日本審査について、大阪の寺本勉さん(大阪ネット共同代表)、東京の花輪紅一郎さん(東京・教育の自由裁判をすすめる会)から報告があった。
 この第7回日本審査に向けては、東京と大阪から「国旗・国歌の強制の実態」についてそれぞれレポートが提出され、それを踏まえて「締約国は思想良心の自由の実質的な行使を保証し、規約18条で許容された制約の厳密な解釈を越えてその自由を制約するいかなる措置をも控えるべきである。締約国は自国の法律とその運用を規約第18条に適合させるべきである」との日本政府への画期的な勧告が出された。さらに、「国際的視点からの『日の丸・君が代』」横塚志乃さん(研究者)、「国連人権委員会UPR審査について」垣内つね子さん(言論・表現の自由を守る会)が続いた。

日比谷からの
デモを行った
 首都圏・全国からの報告、市民団体などからの発言として、次の人々が報告した。
 「千葉県立高校の卒業式と学校現場の状況」石井泉さん(千葉高教組「日の丸・君が代」対策委員)、「組合活動家排除のための『学習サポーター』不採用に対する損害賠償請求裁判」吉田晃さん(千葉学校労働者合同組合)、「神奈川:個人情報の保護と学校教育」外山喜久男さん(個人情報保護条例を活かす会)、「『日の丸・君が代』強制による学校教育支配・もの言わぬ教員作り、民族排外主義による『ウイシュマさん名古屋入管死亡事件』は『新しい戦後体制構造』と一体である」小野政美さん(憲法と教育を守る愛知の会)、「問題点は残したまま!2年目を迎えた英語スピーキングコンテスト」片桐育美さん(東京教組・特別区教職員組合委員長)、「小中学校にも浸透している自衛隊」高井さん(学校と地域をむすぶ板橋の会)、「教科書採択音声データ公開請求裁判」畑山裕さん(情報公開制度を活かす川崎市民の会)が発言した。
 集会の最後に、集会決議を根津公子さんが読み上げ、会場からの拍手で採択した。翌日の文部科学省交渉の連絡のあと、実行委の永井栄俊さんが閉会あいさつをおこない、集会を終えた。
 集会参加者はデモ行進に移った。今回は前回(一昨年)のときのような右翼による妨害もなく、宣伝カーを先頭に市民への訴えとシュプレヒコールを繰り返しながら、日比谷公園から銀座通りを紺屋橋児童公園までのデモを元気よくおこなった。      (O)

児美川孝一郎さんの講演(要旨)
「公教育の転覆を図る教育DX─市場化、デジタル監視、新たな戦前」


 タイトル通りのことが進みつつあり、放置するととんでもないことになる。教育DXは、教育基本法改正から新学習指導要領までを着実に実施するという移行期間の中で構想されたが、「Society5.0」に向けた教育改変だった。そして、文科省と経産省のせめぎ合いがあり、それを内閣府のもとでの統合へと進めているのが現在である。
 私たちの前に見える困難は、文科省の路線による「パンクする学校、過剰な学校」だが、水面下で始まる動きとして、経産省による「未来の教室」路線(公教育ではなく民間教育、過小な学校、AIによる学校のスリム化)が新たな困難になっている。これは世界的な動きでもあり、教育を成長産業にする、教育で企業が儲けるという現代資本主義のあり方だが、日本はこの動きに遅れていた。
 経産省のサイトに「GIGAスクール構想で令和の教育は劇的に変わる」とあるが、「デバイスパートナーと連携しGIGAスクール対応PCを提供」とも書かれている。つまり、「GIGAスクール」は学校におけるICT環境を整備するのではなく、パソコン・タブレット出荷増による経済効果が狙いだった。やらせたい教育を民間教育のフル活用でおこなうためには一人一台のパソコンが必要ということでもあった。この「GIGAスクール」構想(2019年)は、実は文科省の政策ではなく、経産省が推進者だった。その牽引者だった経産省の浅野大介氏によれば、消費税増税後の経済対策として、文科省を説得して一人一台のパソコンにしたとのこと。
 経産省のEdTech研究会による「『未来の教室』ビジョン」(2019年6月)と経団連による「Society5.0時代の人材育成に向けた義務教育の抜本的ICT化を求める緊急提言」(2019年11月)のあとに、「GIGAスクール」構想が打ち出された。しかし「Society5.0」の言う「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」では、日本の抱える社会的課題の解決にはならず、技術によって解決できるものだけを見ていて、直面している課題を子どもたちと一緒になって考えることはしない。経産省が、国際的に通用する「第四次産業革命」ではなく、「Society5.0」としたのは、教育を社会の全領域にまで拡張して、今まで市場化できなかった教育を市場化していこうとしたもの。これに、「アベノミクス」改革が手詰まりとなっていた政権が乗って、それに長期不況にあえいできた経済界の野望が結合した。

企業と連携し
た教育ねらう
 経産省による「未来の教室」のイメージは、AIドリルによる教科学習の「個別最適化」によって浮いた時間を探究的な学びに充て、その中心は企業と連携して開発・実施されるSTEAM教育をおこなうというもので、社会の中にいろいろな学びの場を増やしていき、学校での学びは減らしていこうとしている。その「未来の教室」の実証事業が2019年度から開始され、企業が開発した教材をデータベースに蓄積していった。学校の一斉休校でオンライン教育が注目を浴び、コロナを大きなチャンスとして、経産省は民間企業に無料での教材提供を呼びかけた。補助金を出して、多くの企業が応じた。この教育DXは教育のあり方を根本から変えるもので、教育のサービス化、公教育の市場化・民営化が推進され、子どもたちの学びと人間的成長が痩せ細ることになる。それは批判的知性を持たない、「フラット」な人材育成である。

本気で対抗を
考えやり抜く
 一方、文科省も、経産省の路線を教育的用語に直した上で追随していた。しかし、コロナによって文科省の姿勢が変わった。一斉休校によって学校の役割が再認識され、少人数学級への後ろ盾となった。そのため、経産省とは違う異なる路線=「令和の日本型学校教育」を追求することになった。「Society5.0」や「GIGAスクール」は国是のためやらざるを得ないが、伝統的な学校の形は壊せない、一斉授業を否定しない、協働的な学びも強調する、小中ではSTEAM教育は言わないというもの。すでにパンパンの状態にある学校教育にさらにICTを押し付して、最後は学校現場と教師に丸投げで条件整備はやっていない。
 教育DXの現在地はどういうものか? 部活の地域移行は、文科省ではなく経産省がはじめに言い出した。民間委託を大前提にして、部活だけではなく、学校施設の複合化による利用で儲けようとしている。「未来の教室」事業では、不登校の子どもたちの授業を民間に任せることも打ち出されている。
 文科省による教育DXでは、全国学力テストのCBT化、デジタル教科書の普及を進めている。デジタル教科書からQRコードで民間の教材や民間の学習支援ソフトに飛べるようになっている。民間の教材や民間の学習支援ソフトは検定を受けないのでやり放題で、しかも有料の場合もある。
 この二つの流れを統合して、内閣府の政策パッケージでは、「教師による一斉授業」から「子ども主体の学び」へ、「同一学年で」から「学年に関係なく」へ、「同じ教室で」から「教室以外の選択肢」へ、「教科ごと」から「教科等横断・探究・STEAM」へ、教師は「ティーチング」から「コーチング」へ、教職員組織は「同質・均質な集団」から「多様な人材・協働体制」へ、という変化のイメージ図が示されている。学校という枠をなくして、社会全体で公教育をやっていこうという枠組みであり、子どもに対する無茶苦茶な自己責任論でもある。個人情報保護よりも先行して、子ども・家庭に関する各種情報を分野横断的にデータベース化することを目指している。
 では、私たちはどうするか? 問題として、「子どもたちの学びと成長が大丈夫か?」「学びの自己責任化が格差を拡大する」「教師が分断され、脱専門職化される」「公教育の市場化、民営化へ(企業はデータを利活用)」「公教育の統治システム化へ(デジタル監視+資源動員)」による「新たな戦前とのドッキング」が挙げられる。これは人間を育てるのではなく、薄っぺらな「人材」育成という発想で、経産省には「特別活動」という考え方はない。

サービスでなく
共に作ってゆく
 AIドリルは、つまずきやすい子どもにとっては、同じような問題をできるまでやらされるので、地獄、苦役でしかない。新自由主義(市場化・民営化、デジタル社会)と国家主義(新たな戦前)は全く矛盾しないで、むしろ結びつく。
 これに対して、本気で対抗軸を考え、出していかなければならない。対抗軸の立て方として、学校は何をするところなのか、同じ場で豊かな学びを作っているはずなので、教育をサービスだと考えずに、一緒に作っていくものだという意識を学校の中で作っていくことが大事だ。

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