ウクライナ軍へのクラスター爆弾供与に反対しよう

 バイデン政権は7月6日、ウクライナへの軍事支援としてクラスター爆弾の供与を決定した。現在米軍には約300万発の在庫備蓄があるとされており、そのなかから数十万発が提供される見通しだという。
 知っての通りクラスター爆弾は、空中で炸裂した親爆弾から数十発の子爆弾がまき散らされて、着弾することでそれぞれの起爆装置が作動して爆発する。しかし広範な面を攻撃することで、その「無差別性」や、地上に残った「不発弾」による長期的な被害が指摘されてきた。
 クラスター爆弾の製造、保有、使用を禁止するオスロ条約が2010年に発効して、日本やNATOの英独仏など111カ国が批准しているが、米露やウクライナ・イスラエルなどは加盟していない。そしてウクライナ戦争では双方が使用してきたとされている。そのなかでも悲惨だったのは、22年の春に避難するために多くの人々が殺到するウクライナの駅舎にロシアによって撃ち込まれたクラスター爆弾だった。子供多数を含む市民数十人が死傷している。またロシアはシリア内戦で反政府派が密集する市街地でも数多くのクラスター爆弾を使用してきたことは記憶に新しい。
 米国もこれまでにベトナム戦争で数億発の子爆弾を投下し、03年のイラク戦争でも使用してきたが、09年のイエメンでの対テロ戦を最後に使用していないとされている。そして17年までに4億発を廃棄してきたが、そうした動きにストップをかけたのがトランプ政権だった。バイデン政権はこれを継承してきた。そのために大量の在庫が残ったのである。そして今回その在庫をウクライナに供与するとしたのである。
 私はこのバイデン政権の決定に対して「どうしたものか」と悩んだ。第一に「非人道的」でない兵器など存在するのかという疑問である。第二にこれまでにロシアはウクライナ軍に対してばかりはでなく、病院、学校、住居、避難施設など「無差別殺人」攻撃を行ってきたからである。それならばそうした蛮行を働いてきたロシアに対して、領土奪還のための反転攻勢に出ているウクライナに、より効果的で殺傷能力の高い兵器を供与してもいいのではないかと考えたのである。
 果たしてそういう結論でいいのか! そこで読み返してみたのが『ウクライナ2014~2022』に掲載されているジルベール・アシュカルの「ウクライナ戦争に関する反帝国主義者の基本的立場について」と、「帝国主義の侵略に抵抗するウクライナ民衆への支援を」(P159~166)だった。そこで彼は「侵略の犠牲者に…無条件で防衛兵器を提供することに賛成である。…はるかに強力な侵略者と戦うための手段を供与することは、国際主義者の初歩的な義務である」としながらも、「ゼレンスキーが要求しているウクライナへの戦闘機の供与にも反対しなければならない。戦闘機は厳密には防護用の兵器ではなく、ウクライナへの供与はかえってロシアの爆撃を著しく悪化させる危険性があるからだ」と指摘している。そしてそれはまた、ウクライナ人民の正義の防衛戦争に対する国際的な権威にドロを塗りかけることになりかねないのである。
 今回私がもうひとつ参考としたのは「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版7月号」である。そこに掲載された「露兵、ドローンに命乞いの一部始終―投降までの悲惨な道のりウクライナ軍の映像に記録」は、最前線の露軍塹壕の悲惨な現実を生々しく明らかにしている。塹壕に送られた3人の新兵には4回分の食事と6本の水が渡されて、ワグネルの戦闘員から警告を受ける。「もし任務遂行を拒めば射殺される。退去を試みても銃撃される」と。塹壕には放置された遺体が何十体も転がっており、上空にはウクライナ軍の砲撃の位置を修正するためのドローンと、塹壕の兵士に直接爆弾を投下できるドローンが飛び交っている。投降に成功した兵士以外の新兵2人の命は1日ともたなかった。負傷した2人は、救出も望めないまま手榴弾と銃で自害するしかなかった。一方、場慣れしたワグネルの兵士たちは素早く身を隠したという。それでもワグネルは前線で2万人以上が戦死しているという。まさに最前線のロシア兵は「捨て駒」なのだ。最前線に露軍によって多数埋められた地雷は、ウクライナ軍の進撃を阻止するのと同時に、ロシア兵の投降を阻止するためでもある。
 民間軍事会社であるワグネルの反乱は、そうした傭兵に依拠するロシア軍崩壊の始まりなのかもしれない。こんな軍隊がいつまでも続くとは考えられないからだ。開戦以降、若者を中心にすでに100万人のロシア人が国外に脱出しているようだ。プーチンのできることは、ただ戦術的なエスカレーションだけだろう。ウクライナのクラスター爆弾による戦術の強度化は、プーチンにその口実を与えることになるだろう。バイデン政権のウクライナに対するクラスター爆弾供与に反対しよう。
(高松竜二)
 
 
  

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