理解と合意なき汚染水の海洋放出をやめ、代替案の検討を求める要請書

2023年8月18日

内閣総理大臣原子力災害対策本部本部長 岸田 文雄 様
東京電力ホールデングス(株)代表執行役社長 小早川 智明 様

 政府は、「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」において、「海洋放出の時期は、本年春から夏頃」とし、福島第一原発事故により発生したタンク貯蔵汚染水を「ALPS処理水」として、この夏、海洋放出を強行しようとしています。
 これは、『関係者の理解なしには如何なる処分も行わない』という政府と東京電力の福島県漁連や全漁連に対する2015年の文書約束を破るもので、あってはならないことです。
 政府は、IAEA包括報告書を盾にして強行突破を図ろうとしていますが、そもそもIAEA包括報告書は、「処理水の放出は、日本政府による 国家的決定であり、この報告書はその方針を推奨するものでも支持するものでもない」としています。IAEA包括報告書は、汚染水の海洋放出の科学的根拠とはならず、海洋放出を正当化できないのです。
 福島第一原発事故から12年、依然、原子力緊急事態宣言は解除されず、30〜40年で廃炉とする「1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」による燃料デブリ取り出しも不確実で、廃止措置の完了形態も法的に定められていない現状にあり、「復興と廃炉の両立」の美名のもと、汚染水の海洋放出のみを強行することは無理があります。
 タンク貯蔵汚染水を、年間22兆ベクレルを上限に30年を超えて放出する計画は、トリチウムや炭素14を含めた核種を、告示濃度限度以下にして流すものですが、海水で薄めても放射性核種の総量は同じで、放出水に含まれる全ての放射性核種の定量確認もないまま、多量の放射性核種を福島の海から流せば、太平洋に広がり海洋環境が汚染されていきます。
 また、被害の発生を前提にした「風評対策」は、廃炉を優先して復興を犠牲にするもので、多くの福島県民が不信感を抱いています。7月26日には、全国知事会が新たに「国内外の理解が十分に得られている状況にあるとは言えず、新たな風評を生じさせる懸念がある」と指摘した政府への提言を議決しました。海洋放出ありきで理解を求める政府の硬直した理解活動や不都合な事実を無視して世論を誘導するコミュニケーションのあり方は反省すべきです。
 漁業者はじめ福島県内農林水産業・消費者の協同組合や福島県内自治体議会の海洋放出反対・慎重の意見書、宮城県など周辺自治体の反対意見、全国知事会などの国内の声、アジアの近隣諸国はじめ太平洋諸島フォーラムや全米海洋研究所協会などの安全性への懸念、世界の声を軽視してはなりません。
 福島県漁連はじめ漁業者は反対を堅持しており、全国で2015年の文書約束を守れという国民の声も広がり、近隣諸国の反発は外交問題化しています。ことは簡単ではありません。福島県漁連等との文書約束を守ることは、福島第一原発事故対策を進める政府の責任であり、このまま強引に放出を強行すれば将来に大きな禍根を残します。
 ふるさとの海、日本の海、世界の海を放射能でこれ以上汚してはなりません。
 政府は、一旦立ち止まり、理解と合意なき海洋放出をやめ、代替案の検討を行うよう強く要請し、8月31日までに誠意ある回答を求めます。 

  記

1、海洋放出について、海洋放出の強行は、廃炉や被害回復を妨げ、漁業者や福島県民をはじめあらゆる関係者に不利益をもたらす恐れがあることから、一旦立ち止まり、2015年の福島県漁連等との文書約束を守って、汚染水の海洋放出はやめること。
2、地下水の止水と代替案の検討について、増加する汚染水の原因である地下水の抜本的な止水対策を行い、漁業者はじめ関係者と環境に影響を与える海洋放出にかわる代替案として、大型タンク長期保管案やモルタル固化保管案等の再検討を行うこと。
3、情報公開と放射線影響評価の見直しについて、放出水に含まれる全放射性核種の濃度、総量など全情報の速やかな公開を行い、海底土や海浜砂、生物への吸着・濃縮による放射能の蓄積とフィードバックの再評価を行うこと。
4、説明・公聴会について、2018年以来、公開の場で一般市民を対象とする政府主催の公聴会等は一度も開催されていないことから、一般市民を対象に広く公開した説明・公聴会を全国で開催すること。
 以上

これ以上海を汚すな!市民会議  
共同代表 織田千代 佐藤和良
さようなら原発1000万人アクション実行委員会
呼びかけ人 鎌田 慧

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