横浜で「アイゴー展」開催される
投書 SМ
8月16日・水曜日~20日・日曜日に、「横浜市民ギャラリーあざみ野B2(2F)」で「関東大震災、100年ぶりの慟哭 アイゴー展」がおこなわれた。主催は「関東大震災、100年ぶりの慟哭 アイゴー展実行委員会」だ。内容は、関東大震災で虐殺された朝鮮人・中国人・日本人を追悼する韓国人・在日コリアン・日本人アーティスト約40名による作品展だ。
展示物の中から、印象に残った文章をいくつか紹介したい。
―― うやむやなまま100年が過ぎた。関東大震災とともにジェノサイドが起きて1世紀が過ぎたが、変わったことは何もない。今も荒川の川辺で、横浜の工場跡で、川崎の街で関東大震災当時、虐殺された朝鮮人や中国人、日本人たちの遺骨探しは終わっていない。毎年9月1日、東京都知事は、朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文を、6年連続で送らない意向を示し、事実を否定しようとしている。行き先を失い漂う魂たちは、一世紀が過ぎた今日も責任ある権力者の追慕どころか、謝罪や反省も受けられず、川辺で、竹林で、焼けた納屋の跡地でさまよい続けている。どんなに苦しかったことか。どれだけ恐ろしく残酷なことだったか。100年近くもさまよう殺された朝鮮人、中国人、日本人を追悼するため、韓国人・在日コリアン・日本人アーティスト約40名が集まった。死者に対する、生きている者として、忘れないために(関東大震災、100年ぶりの慟哭 アイゴー展実行委員会)。
アイゴー展が横浜で開催される意味はどこにあるのか。横浜・神奈川にも虐殺犠牲者はいるのか。いる!権力の弾圧にも屈せず「在日本関東地方罹災朝鮮同胞慰問班」が調査し『独立新聞』(1923年11月5日)に掲載した報告によると、虐殺された朝鮮人は6661人で、そのうち神奈川で殺された人は4000人を超える。全体の約3分の2だ。その後、この調査団の報告をもとに再計算した歴史学者の山田昭次さんによると、虐殺されたのは群馬県34人、栃木県8人、埼玉県488人、茨城県5人、東京都1781人、千葉県329人、神奈川県3999人だという。アイゴー展が横浜で開催される意味は、これだけではない。横浜の中学生向き副読本事件を忘れてはならない。発端は、自民党の横山正人市議による批判で、市議は軍隊・警察の虐殺への関与と「虐殺」という記述に疑義を呈したという。
官憲の関与は数々の歴史研究で明らかだ。「虐殺」は歴史教科書でも使用されている。しかし!横浜市教委は改訂を約束し、回収した約600箱(1箱=A4 500枚)を溶解処分にした‼横浜市教委によって中学生向け副読本から軍隊・警察の関与を記した文章は削除、「虐殺」は「殺害」に書き換えられ、その後、中学生の副読本は絶版にされたという(アイゴー展のパネルをもとに文章を作成した。この部分は引用ではない)。
―― 関東大震災直後朝鮮人虐殺は国家権力が主犯し、民衆が従犯した民族的大犯罪である ――― 時務歴史学者 姜徳相(キム・ソギョン、作品「関東大震災、そして歴史学者姜徳相と弁護士の布施辰治1・2」日本語訳文、訳:池允学)
―― 千九百二十三年九月一日午前十一時関東大震災が起きました。百万余人の罹災民が発生し、市民たちから無能な政府と評価を受けていた日本政府は、朝鮮人が火を放った、朝鮮人が井戸に毒を投げたという流言飛語が瞬く間に広がり強制動員で連れてこられた朝鮮人たちをはじめ、中国人、更には抑揚が似ている日本人たちにまで殺害を行い、そうして殺害された数字は六千人をこえる。「関東大震災百年ぶりの慟哭 アイゴー展」は歴史の記録であり、真実との闘いだ。
韓国と在日同胞、そして日本の作家たちが集まり、犠牲者たちを追悼し、歴史の真実を記憶・記録するために集まったのであり、この行動と記録が、韓日両国が真実と和解の道へと進む第一歩になる事を心の底から希望します。二千二十三年夏日「関東大震災、百年ぶりの慟哭 アイゴー展」を記念するために。章川キム・ソンテ書 章川 大韓人(キム・ソンテ、作品「関東大虐殺」日本語訳文、訳:池允学)
アイゴー展の図録の中から、印象に残った文章をいくつか紹介したい。――
うやむやなまま100年が過ぎた。関東大震災とともに虐殺が起きてから1世紀が経ったが、変わったことはない。日本の良心的な市民たちは今も東京の荒川川辺で、横浜の工場跡で、川崎の街で関東大虐殺当時に犠牲になった朝鮮人と中国人、日本人の遺骨を探している。関東大虐殺を否定する東京都知事は、毎年9月1日に行われる朝鮮人追悼碑の参拝も拒否する。弔花さえ送っておらず、むしろ歴史的事実措置を否定している。100年近く経った今も、九泉をさまよう魂たちは、責任ある日本政府の追悼どころか、謝罪や反省の挨拶も受けていない。どんなに痛かったんだろう!どんなに苦しいんだろう!どんなに恐ろしく残酷だったのだろう!まだ木の下に、畑の真ん中に埋められ、川底に収蔵された哀れな魂を慰めるために韓国、在日コリアン、日本の芸術家たちが日本と韓国を行き来しながら恨(ハン)を解く場をひらく。この展覧会は誰を恨むことも、誰を責めることも、誰を狙った展示でもない。死者に対する生きている者の基本的な道理であり礼儀である(展示を開催するにあたって、2023・8・1 関東大震災、100年ぶりの慟哭 アイゴー展 参加作家を代表 高慶日(コ・ギョンイル)、図録2~3ページ)。
―― 虐殺のキーワードは「不逞鮮人」。そもそもは植民地の日本人官憲がつくった造語であり、「不平をいだき、反逆をたくらむ、けしからぬ朝鮮人」を意味するに至った。今では決して使ってはいけないこのヘイトスピーチは、100年前の日本で流行し、一般の日本人も平気で使った。これが「投毒」「放火」「暴動」のデマを生み、日本の軍・警察・民衆に よる虐殺につながる思想的土壌となった。デマのなかに「強かん」もあった。朝鮮人は被害者なのに犯罪者にされ、ジェノサイドが正当化されたのだ。100年たった今、過去のものとなったのだろうか。日本政府による追悼も、真相究明も、謝罪も、記憶の継承も、植民地主義の清算もなされないまま、忘却だけが強いられる日本社会で、虐殺された記憶をもつ私たち在日朝鮮人はその痛みから自由になることはない。韓国人・在日朝鮮人・日本人のアーティストが集まった〈アイゴー展〉は、アートを通じて各人各様に隠された記憶と痛みを表現してくれるだろう(金 富子(Kim Puja)(植民地朝鮮ジェンダー史研究)、図録8ページ)。
―― 関東大震災で多くの朝鮮人が虐殺されました。殺された者の中には、中国人や日本人もいました。震災を記録する画家はいましたが、虐殺の場面を描いた作品はあまり残されていません。それは虐殺がなかったことを意味するのではなく、震災体験者にとっても罪なき人々を殺めたことは恥ずべきこと、凄惨な殺戮の現場を描くことは憚られてきたためです。しかし、当時の社会に瀰漫していた偏見や差別が引き起こした災禍に対して、いまの私たちが真摯に目を向けようとしなければ、同じ過ちをくり返す恐れがあります。東アジアにおける平和と人権を考えるためには、ここから出発しなければなりません。大虐殺の百年後、当時の画家たちが描くことができなかった場面をこそ想像し、失われた一人ひとりの尊い命に想いを馳せることが求められているのです。現代の芸術家がその歴史の闇に向きあって生み出した作品は、観る者一人ひとりに未来を考えさせるきっかけを与えてくれることでしょう(武居利史(美術評論家)、図録9ページ)。
新聞記事の中から、印象に残った文章を紹介したい。
―─ アイゴー展という名称が印象的だ。「企画展名はいろいろな候補があったが、私が『アイゴー』を提案した。この言葉には二つの意味がある。自分自身が間違った時にびっくりして口にするのと、他の人が傷ついたり、事故に遭ったりした時に『あなたの痛みに共感する』という思いで使う。この企画展にふさわしいと思った」……
―─ 日本では、横浜でかつて歴史の副読本から虐殺に関する記述を削除したり、東京都の小池百合子知事が虐殺の被害者への追悼文送付を取りやめたりするなど、教育や政治の分野でも歴史を否定する動きが見られる。「真実は隠しても隠せないし、人間には良心というものがあり、なかったことにしようとしても、どこかに残るものだ。……歴史はきちんと教えない限り、問題がずっと続く。特に隠したりすれば、なおさらだ。『これ以上言わないでください』『それはこのぐらいで終わりましょう』と言い出すのは、加害者ではなく被害者であるべきだ。加害者は本当のことを話し、謝ることがあれば謝らねばならない。それなのに加害者が真実を否定しながら、『韓国との交流を続けたい』『明るい世代をつくろう』というのは、全部うそだ」
―─ 100年たっても、日本では虐殺の全容解明すら進んでいない。どうすべきか。「加害者の立場から被害者の立場を理解してほしいし、そのことを教科書などに載せてほしい。今のようになかったことにしようとしたり、『過去は過去』という姿勢を続けたりすれば、私たちは101年目、102年目にも、展覧会を続けるかもしれない。ユネスコ(国連教育科学文化機関)などでも開催しようと思っている。……」「…… 駄目な国で『友達もいない』と思っているなら、何も関わらず、何もせず、興味も持たない。でも本当に日本のことが心配で、友達もいる。今後はこうしていくべきだ、こうなってほしいと思うからこそ、やっている。…… 」(2023年8月3日・日曜日『神奈川新聞』19面、「論説・特報」欄、時代の正体 朝鮮人・中国人虐殺100年 アイゴー展を企画 高慶日さん、構成・柏尾 安希子)
死者をよみがえらせることは出来ない。残されたものに出来ることは2つある。1つは、死者を2度3度と死なせることだ。殺したものを殺し続けることだ。小池百合子や「そよ風」らがやっているのは、そういうことだ。もう1つは、死者を想い、記憶の中で「よみがえらせようとする」ことだ。「復活」させようとすることだ。「アイゴー展」は後者の試みの一つだと思う。「アイゴー展」を見学出来て良かった。私はそう思う。
(2023年8月25日)
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