秘密保護法の大改悪を許さない!
『死の商人国家』とするセキュリティ束ね法案に反対する9・15市民大集会
【東京】9月15日、秘密保護法対策弁護団と経済安保法に異議ありキャンペーンの共催で「秘密保護法の大改悪を許さない! 日本を『死の商人国家』とするセキュリティ束ね法案に反対する9・15市民大集会」が文京区民センターで行われた。
岸田政権の軍事大国化政策が加速しつつある。防衛生産基盤強化法(6月7日)は、自民・公明・維新・立憲が賛成、反対(共産、れいわ、沖縄の風/社民は棄権)で短時間の審議で成立した。この法の内容は、「自国での防衛装備品の研究開発・生産・調達の安定的な確保のため」(自民)と称して軍需産業を税金で支え、実質的に戦争のための「軍需産業強化法」だ。
この悪法に続いて秋の臨時国会に経済安全保障の分野で機密情報にアクセスできる人を決めるセキュリティー・クリアランス(SC/適格性評価)制度法案の成立を狙っている。この法は、経済分野の4分野①特定重要物資(抗生物質・肥料原料・レアメタルなど)のサプライチェーンの強化 ②外部からの攻撃に備えた基幹インフラの事前審査 ③先端的な重要技術の研究開発官民協力 ④原子力や高度な武器技術の特許非公開を特定秘密保護法の中に取り込むことを計画し、同時にサプライチェーンや基幹インフラに関与する多数の民間業者、先端的な重要技術の研究開発に関与する研究者・技術者とその家族や友人などがプライバシーチェック対象となってしまうのだ。SC法の制定を許してはならない。
SC法案の成立
を阻止しよう
基調報告を井原聡さん(東北大名誉教授)が「セキュリティ・クリアランス有識者会議中間論点整理を読み解く」というテーマで報告。
井原さんは、中間論点整理の細部に渡って批判し、①政府は経済制裁的対応を前面に出しているが、本当は軍事転用可能な先端技術開発に係る企業の要望に沿ったもの ②SC法の制定は、知る権利の侵害、報道の自由、研究・発表の自由の規制、基本的人権の侵害等が必至だ ③SC制度は、米国の軍需産業の保全プログラムとそのマニュアルに見習い、国家による管理・統制強化という「防衛力の基盤整備」を押し進め産業の軍事化の強化でしかない─などを指摘し、SC法案の実態と危険性を社会的に明らかにし、成立を阻止していこうと呼びかけた。
続いて海渡双葉さん(秘密保護法対策弁護団)が「セキュリティ・クリアランス束ね法案は秘密保護法を経済安保4分野に拡大する!」、三宅弘さん(日弁連秘密保護法・共謀罪対策本部長代行)が「個人情報保護、労働法、公文書管理制度、原子炉等規制法、不正競争防止法、特許非公開、輸出管理制度までが改悪される!」、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク代表)が「武器産業を中核に、日本版『軍産学複合体』=死の商人国家が現実に!」について報告した。
リモートで海渡雄一さん(秘密保護法対策弁護団・経済安保法に異議ありキャンペーン)は、「秘密保護法の大幅な拡大をもたらし、日本を『死の商人国家』とするセキュリティー・クリアランス束ね法案(拡大秘密保護法)に強く反対する」というテーマで報告した(要旨別掲)。
5人の報告を受け、参加者とともに、この一連のプロセスからSC法案による経済安全保障分野への特定秘密保護法並みの厳罰化の構築に反対し、「死の商人国家」を許さない取り組みの土台作りのための論議を開始していくことを確認した。 (Y)
海渡雄一さん(秘密保護法対策弁護団・経済安保法に異議ありキャンペーン)の講演から
「秘密保護法の大幅な拡大をもたらし、日本を「死の商人国家」とするセキュリティ・クリアランス束ね法案(拡大秘密保護法案)に強く反対する」
経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス(以下、「SC」と言う)に関する有識者会議の中間論点整理
(1)経済安全保障分野におけるSC制度等に関する有識者会議の中間論点整理(略)
(2)経済安全保障分野における情報漏洩を厳罰によって取り締まる法制度が準備されている
(a)中間論点整理における提案
(略)
(b)予測される法改正内容について
一つの可能性は、経済安全保障の四分野(①特定重要物資(抗生物質・肥料原料・レアメタルなど)の安定的な供給(サプライチェーン)の強化、② 外部からの攻撃に備えた基幹インフラ役務の重要設備の導入・維持管理等の委託の事前審査、③先端的な重要技術の研究開発の官民協力、④原子力や高度な武器に関する技術の特許非公開)について、特定秘密保護法の中に取り込む方法が考えられる。
有識者会議では、経済安全保障分野の情報は政府と民間にまたがり、4つの分野の広範な情報を含むが、このような広範な情報をどのように区別し、どのようなレベルの秘密保護法制度の対象とするかが、包括的に検討されたことがわかる。
第二回に提案された第一回の議論の整理と題する報告の中では、肝は「相手国から信頼されるに足る実効性のある制度」という点。米国を始め諸外国に信頼されないと意味がない。国家安全保障戦略に、産業界のニーズのみでなく、「主要国の情報保全の在り方を踏まえる」との言葉が入っていることは非常に重要。
(略)
このように、経済安全保障分野についても、厳罰が必要であることが合意内容にされていることがわかる。
(略)
(c)経済安全保障に関する最新の日米合意
2022年7月 29 日、アントニー・ブリンケン米国国務長官及びジーナ・レモンド米国商務長官は、林芳正日本国外務大臣及び萩生田光一日本国経済産業大臣を迎え、第1回日米経済政策協議委員会閣僚会合を共催し、「日米経済政策協議委員会共同声明 経済安全保障とルールに基づく秩序の強化」を合意した。
……
このSC法の提案は、この日米合意に基づいて進められているものである。
このような経過を見れば、経済安全保障分野にSCを全面的に導入するという法制では、経済安全保障分野の秘密の漏洩を特定秘密保護法の適用対象とするかどうかに関わらず、2022年に経済安全保障法で定められたばかりの秘密漏洩の罰則を最高10年の拘禁刑に引き上げることが計画されていると見て間違いない。
(3)民間へのSCの大規模な拡大
サプライチェーンや基幹インフラに関与する多数の民間事業者、先端的な軍民デュアルユースに関連する重要技術の研究開発に関与する大学・研究機関・民間事業者の研究者・技術者・実務者とその家族や友人・同居人などの膨大な数の人々がSCのためのプライバシーチェックの対象とされることとなる。
(4)改正の対象とされる可能性のある法律は多方面に及んでいる
特定秘密保護法あるいは新たな秘密保護法制に前記の経済安全保障の四分野を対象とした法規制を強化することは必須とされている。さらに、サイバー脅威情報とその防御策、宇宙サイバーの国際共同開発なども、このような新たな秘密保護法制の対象とすることが検討されている(間論点整理2~5頁)。
(5)秘密法制を単層から複層化することが目指されている
また、日本の法制のもとでは、「特定秘密」と国家公務員法上の守秘義務の対象とされる秘密には「秘」しかないが、秘密指定の多段階化が宣言されている。トップシークレット(機密)・シークレット(極秘)・コンフィデンシャル(秘)の三段階化が検討されており、現状で「取り扱い注意」とされていた情報も、罰則付きのコンフィデンシャル情報とされる可能性がある (中間論点整理5頁)。この場合に、漏洩された際の罰則も三段階化されるものとみられ、コンフィデンシャル情報漏洩を拘禁一年以下とされ、極秘情報と機密情報の漏洩の法定刑が、さらに厳罰化される可能性がある。
(6)民間企業に組織的な秘密保護制度・計画を導入することが計画されている
また、情報保全の対象となる産業は軍需産業にとどまらないため、民間企業が政府との間で順守すべき事項を包括的に規定するために、アメリカの「国家産業保全計画」及びその運用マニュアルの導入も検討するという。
(7)多くの関連法が改正されようとしている
さらに、民間までを含めた、ポータビリティ(可搬性)のあるセキュリティ信頼性の確認手続きの導入も目指されている(論点整理6頁)。そして、信頼性確認に関する調査とプライバシーの保護、労働法令との関連の整理も行うとされ、個人情報保護、労働分野の法令の改廃も予定されている(論点整理7~8頁)。
論点整理の最後には、今後の法的課題として、公文書管理に関わる諸制度、原子炉等規制法、営業秘密制度(不正競争防止法)、特許出願非公開制度、輸出管理制度も検討対象とすると宣言されており、極めて多数の法制度を改定する大規模な束ね法案となる可能性が高い(論点整理8頁)。
3 SCの法制化は「拡大秘密保護法」そのもの!
中間論点整理が想定している法制度の改変がもたらす問題点は、以下のとおりである。
最大の問題は、国や軍需産業だけでなく、デュアルユース研究まで、厚い秘密のベールで覆う、膨大な束ね法案=「拡大秘密保護法案」となるということである。これにより、日本経済の国家統制が強化され、軍産学共同の軍事国家化が進むことになり、産業の自由な発展が阻害される。
広汎な分野の情報が秘密とされ、それを監視するシステムが構築され、監視社会の出現とともに、さまざまな問題を公に議論の対象とすることが難しくなり、知る権利や表現の自由、発表の自由が侵害されることが危惧される。原子炉等規制法も対象とされており、次世代革新炉の研究開発などが秘密のベールに覆われて、その批判が難しくなる。
また、サプライチェーンや基幹インフラのような、膨大な産業分野で働く労働者(研究者・技術者、実務担当者等)及びその家族・友人・同居人・隣人等が、SCの対象とされ、適性評価(信頼性の確認)を受けることになる。秘密情報を取り扱う担当者ばかりでなく、関連する広範な人々までがプライバシーを侵害されることが危惧される。適性評価は「任意」とされるが、拒めば、会社が取り組む情報保全の部署から外されたり、退職を迫られたりする可能性がある。
この守秘義務は、部署を離れても、退職しても機密が解除されるまでは一生続く。研究者や技術者の場合、自らの専門分野を活かした転職は難しくなり、研究発表や研究交流、特許取得も難しくなる環境下で、軍事に関連する分野で働き続けるしかなくなることが危惧される。
4 秘密保護法制の拡大が止まらなくなる恐れがある
(略)
5 特定秘密保護法の構造的欠陥は残されたまま
(略)
秘密保護法には根本的な欠陥があり、何が秘密に指定されるかが限定されず、政府の違法行為を秘密に指定してはならないことも明記されていない。
公務員だけでなく、ジャーナリストや市民も、独立教唆・共謀・煽動の段階から処罰される可能性がある。最高刑は懲役10年の厳罰である。政府の違法行為を暴いた内部告発者、市民活動家を守る仕組みも含まれていないし、政府から独立した「第三者機関」も存在しない。
特定秘密の2021年末時点での指定件数は659件で、防衛省の指定件数が最も多く、375件に及ぶ。同時点での特定秘密が記録された行政文書数で見ると、防衛省は20万5454件という膨大な数に上る。特定秘密の取扱いの業務を行うことができる者の数は、全体が13万4297人のところ、防衛省が突出して多く、12万3234人で、90%を超えている(2022年6月付け政府報告参照)。秘密指定の基準を示さず、防衛省が特定秘密の指定を乱発し、秘密の範囲が拡大し、かえって秘密の管理が困難になっていることが予想される。
中間論点整理では、上記のような秘密保護法の問題点を払拭しようという視点は全くなく、秘密保護法の構造的欠陥はいずれも残されたままである。
6 日本を「死の商人国家」としてはならない
……
「防衛省が調達する装備品等の開発及び生産のための基盤の強化に関する法律」は「企業版秘密保護法」でもあり、防衛相が「装備品等秘密」を指定し、契約を結んだ企業の従業員に守秘義務を課し、漏らした場合の刑事罰も規定している。装備品等秘密の要件はあいまいで、特定秘密保護法と同様の問題を抱えている。秘密保護法対策弁護団は、同法が国の特定秘密保護制度を軍需産業従事者にまで拡大するものであって、「企業版秘密保護法」を制定しようとするものにほかならないと批判してきた。
同法での刑事罰は、拘禁刑上限1年とされているが、SC法案によって、特定秘密保護法レベルの上限10年に引き上げられる可能性がある。
7 結論
現時点では法案そのものは上程されていない。しかし、中間論点整理からは、秘密保護法の経済安保分野への大幅な拡大をもたらすセキュリティ・クリアランス束ね法案、すなわち拡大秘密保護法案が出てくることは容易に想定でき、このような法案が、2042年の通常国会に提出されることは確実である。
そして、そのような法案は、日本経済の軍事化につながる。日本を「死の商人国家」にしてはならない。
私たちは、SC法案の名のもとに、経済安全保障の分野を、特定秘密保護法の適用対象に盛り込むか、あるいは経済安全保障法の罰則の法定刑を特定秘密保護法並みに上げるなど、その法形式の如何を問わず、経済安全保障分野などに特定秘密保護法並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する。
(発言要旨、文責編集部)
★海渡雄一さんのレジュメ全文は、「経済安保に異議ありキャンペーン」HPに掲載されています。https://keizaianpoigi.wixsite.com/com-com

リモートでSC法案の成立の阻止を訴える海渡雄一弁護士 (9.15)
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