9.22琉球遺骨返還訴訟 大阪高裁判決
控訴棄却、そして琉球民族は先住民族と認定
解決に向け当事者の話し合いを!
【大阪】琉球遺骨返還訴訟は、京都地裁に2018年12月4日、亀谷正子、玉城毅、照屋寛徳、金城実、松島泰勝の5人が原告となって提起された。地裁判決は2022年4月に出され、原告が敗訴した。
遺骨が祀られていた墓は沖縄県今帰仁村にある百接司墓(むむじゃなばか)であり、ここは今帰仁上りと称する沖縄県中南部地区の巡礼聖地となっていて、現在でも子孫によって毎年供養が続けられている。第1尚氏、第2尚氏の子孫・親戚だけではなく、北山豪族の子孫も参拝を続けているという。
「植民地」時代の遺骨
持出し
京都帝国大学助教授だった金関丈夫が1928~29年にこの墓から59体の遺骨を盗み持ち出した。清野謙次京都帝大教授の門下生たちが1933~34年に奄美大島・沖縄・喜界島・徳之島等から収集した遺骨は「清野コレクション」として同大学が所蔵したが、このコレクションには全体で1400体の遺骨があった。遺骨の持ち出しには、当時の警察・行政関係者の許可を得ただけであり、墓の管理や祭祀を行ってきた門中関係者や地域住民の了解を得たものではなかった。
当時の沖縄の行政機関は、上層部の大半を日本人が占めるという植民地体制下にあった。指導教授であった足立文太郎が助教授であった金関に体質人類学的研究の必要性を説いて、遺骨収集の目的で彼を沖縄に派遣したという。これには、帝国学士院から研究費の一部が補助された。
琉球の先祖崇拝と祭祀
この墓には、琉球史で北山時代から第1尚氏時代の貴族の遺骨が納められている。13世紀頃、地域集落の首長や支配者のことを接司(あじ)と呼び、多数の接司たちが葬送されていることから、この墓は百接司墓と呼ばれているという。この墓は風葬墓である。この祭祀の習慣は琉球処分(1879年)から3年がたった1882年まで存在した。琉球民族は遺骨を原野、海辺、樹上、洞穴において自然に風化させる葬法を行ってきたので、火葬が行われたのは、1951年が初めてで、久高島では1965年まで崖葬が行われていたという。
先祖の霊が宿る骨神
現在でも沖縄では、この墓にお参りする人は多数いる。各門中が今帰仁城を中心に拝所をめぐる巡礼行事が行われており、これは今帰仁上り(なきじんぬぶい)と呼ばれる。ちなみに、沖縄島の東側をめぐる巡礼を東御廻り(あがりうまーい)と呼び、共に琉球の代表的な参拝行事だという。600年前から続けられてきた祭祀である。琉球祭祀は先祖崇拝の祭祀である。死亡時に棺桶に入れた遺体は、白骨化するのを待って取り出し洗骨され、厨子甕に納めて再び墓に安置される。そして、33回忌を迎えた遺骨は骨神(ふにしん)と呼ばれ、あの世で幾多の修行を終えた霊が神となって宿るとしてあがめられているという。
傲慢な京都大学の姿勢
金関丈夫が持ち出した59体の遺骨は人骨標本として京都帝国大学に保管され、その中の33体はその後金崎丈夫が台湾の台北帝国大学に移ったときに移された。金関丈夫が持ち出した遺骨のうち26体は2004年の調査の時に、京都大学に保管されていることが確認され、情報開示請求などが行われるようになったが、京都大学はこれを拒み、存否回答しないという態度をとり続けた。
その後、2017年9月照屋寛徳衆議院議員が国政調査権を行使し文科省を経由し、京都大学に遺骨に関する照会をして初めて、同大学は遺骨をプラスチック箱に保存していることを認めた。照屋議員は、2018年3月内容証明付の公開質問状を京都大学に提出したが、京大側は、今帰仁村と遺骨に関する協議をしていることを理由に、遺骨情報と返還については回答しなかった。
一方、台湾大学に保管されていた33体の遺骨は他の遺骨30体と共に、2018年3月18日に沖縄県に返還された。しかしこの遺骨には、台湾大学から「学術資料」との返還条件がついているそうだ。沖縄県は遺骨を歴史的資料として、祭祀継承者の希望である再風葬は考えていないという。
高裁判決主文朗読
高裁判決には記者席が15確保され、傍聴席はその分だけが少なく、76席だった。被告の京都大学は欠席した。
裁判が始まり、すぐ判決の主文が朗読され(大島裁判長は退官したので、別の裁判官が代読)、「控訴棄却」。3人の裁判官は直ぐ立って退席した。傍聴していた人々は、あっけにとられ、「裁判無効」とか「認めないぞ」とか口々に怒りの言葉を飛ばした。
大島裁判長は誠実そうで、今年定年を迎えるから、良い判決が期待できそうだというのが前評判だった。その分落差が大きく、支援者は打ちひしがれてしまった。
遺骨所有権は認めない
引き続いて、弁護士会館で報告会が開かれた。司会をした「支える会・関東」の女性も、ひどい判決でショックだったと述べた。3人の若手弁護士さんが到着して、判決の解説があった。
箇条書きで整理すると、①「沖縄地方の先住民族である琉球民族に属する控訴人が請求した訴訟」であると認定した。②遺骨の所有・継承関係は明確にしなければいけない(特定の複数が管理する場合は認められるが、不特定の人が主張する遺骨の所有権は認められない。③京都大学の遺骨占有権については言うまでもない(判断していない)。結論として、控訴棄却だった。
ポイントは付言の内容
④付言の内容。•先住民族への遺骨の返還は世界の潮流になりつつある。•遺骨は語らない。しかし、遺骨は物ではない。遺骨はふるさとで静かに眠る権利があると信ずる。•持ち出した先住民の遺骨はふるさとに帰すべきだ。•日本人類学会の遺骨に関する要望者に重きを置くのは相当ではない。•訴訟には限界がある。•今後、京都大学、控訴人、沖縄県教委、今帰仁村教委で話し合い、適切な解決の道を探ることが望まれる。遺骨が持ち出されてもうすぐ100年になる。この時期に関係者が話し合って解決することを願っている。
弁護士の話しを聞いて、会場の雰囲気が違ってきて、記者会見から帰ってきた丹羽弁護士の話をきいて、さらに気分が改善されたようだった。丹羽弁護士は、「法の論理は京都地裁の論理を超えられなかった。しかし、戦後初めて、控訴人が属する琉球民族を先住民族と認定した。これはビックリするような内容だ。これを高等裁判所が認定した。遺骨(人骨ではなく)と言う言葉を使い続けた。裁判官が本当に言いたいことを付言で用意した。付言がポイント、これは法の論理を超えている。裁判で我々が突破できなかったことを裁判官の心情として述べている」と述べた。
この後、原告の5人から感想が述べられて、終わった。上告については結論的な見解は表明されなかった。 (T・T)
琉球遺骨返還訴訟、大阪高裁が控訴棄却の不当判決(9.22)
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