「少数民族の抹殺~ウクライナ戦争で見えてきたもの」
~ブリヤート、チェルケス、チェチェン、ダゲスタン、バシキールほか~
講師:林 克明(ノンフィクション・ライター)
【東京】9月23日午後2時から、雑司ヶ谷地域文化創造館会議室で、「少数民族の抹殺~ウクライナ戦争で見えてきたもの」~ブリヤート、チェルケス、チェチェン、ダゲスタン、バシキールほか~講演会が開かれた。講師は林克明さん(ノンフィクション・ライター)。林さんはロシアによるチェチェン戦争を早くから取材し、ロシアの残虐な行動を非難してた。今回、ウクライナ戦争がウクライナの抵抗によってロシアにとって厳しい局面に立たされる中、ウクライナの戦況とロシア内における少数民族の抵抗闘争の動きがロシア帝国の「崩壊」をも作り出す可能性に言及している。ウクライナ戦争、プーチン・ロシア帝国を考える上で、貴重な講演だった。 (M)
モスクワの72倍の戦死
ウクライナ戦争でロシア軍12万人ぐらいが死んでいる。そのうちロシア国内に住んでいる少数民族、ウクライナの戦争を利用してロシアは少数民族の抹殺まで計っているのではないか。ロシアは世界でも屈指の植民地帝国で17世紀くらいから武力で現地の住民を支配し大帝国を築いた。1917年のロシア革命によっても、変わらなかった。現在のロシアも植民地帝国を引きずっている。それがウクライナ戦争でますます明らかになっている。
侵略に動員されている「ロシア兵」と言っても、全体の民族構成比率に比べ「非ロシア人」が多い。
昨年9月、30万人の動員をロシア政府が発表してから各地で反対運動が起き、大量のロシア国籍者が外国に逃れたのは周知のとおり。
その中でも、チェチェンの東となりのダゲスタン共和国でかなりの反対運動が起きていた。
今年4月6日時点で、モスクワの戦死率よりブリヤートの戦死率が71・5倍。モスクワの人が1人死んだらブリヤートで72人死ぬ計算だ。
このほかドゥバ人、バシキール人、チェチェン人など、少数民族の戦死はロシア人戦死にくらべて、とてつもなく多い。
特に、シベリアにあるブリヤード共和国の人たちがすごく死んでいる。複数のイスラム系少数民族が約9割を占めるダゲスタン共和国の人たちの割合が一番だ。
ロシア連邦は83の共和国や州からなっていて180の民族がいる。98万の人口のブリヤードはモンゴルに隣接している所で、風貌は東アジアの人々と同じだ。戦死率が48倍くらいと高い。
ロシア革命が起きたが、独立運動が起き、弾圧・強制収容所に送られ、ブリヤード語を禁止された。今は一応ブリヤード語を話すことは許されている。ユネスコの話だと20年後にはブリヤード語はなくなってしまう、文化的危機だと言っている。
ロシアで2010年学校でロシア正教の勉強をさせるようになった。プーチンが権力を握ってからロシア連邦の中に共和国があっても中央政府の支配が強まった。
去年の夏、プーチンは部分的動員令を出して、人口の10%のモスクワは1%しか動員されなかった。チェチェン人は別の所から連行したり、カチール首長の私兵を連れてきたりで高い率の動員になった。チェチェン人の亡命政府はかつてはロンドンにあったが今はウクライナにある。
ウクライナ戦争は最初のロシアの思惑とは違って、ウクライナががんばって抵抗し反転攻勢を進めている。ロシア内の被害者が少数民族の中でも何とかしようという動きも少しずつ出てきている。これまで水面下でもあったが以前よりもはるかに活発化している。
ポストロシアの自由な民族フォーラム
去年5月、ワルシャワで少数民族の集まり、ポストロシアの自由な民族フォーラムができた。ロシア連邦内の諸民族の現状分析、ロシア帝国主義・植民地主義に反対し、ロシア帝国主義からの諸民族の解放を目指す目的で創設。またロシアの再建、市民的権利の確立などを目的にしている。これを主導した創設者はウクライナ人オレグ・マガレツキー、チェチェン人亡命政府首長マフメド・ザカーエフ、ロシア自由軍幹部イリア・ポノマリョフが主導している。ワルシャワやアメリカでも会議が行われた。この前、日本でも今年8月東京で会議が行われた。つい2年前だと考えられないことだ。ロシア連邦内での戦い、ウクライナの戦い、ロシアの反体制派の人たちも参加している。
少数民族が勝手に独立してしまったら、政治的不安定になって大混乱を起こすのではないかという人が一杯いる。それは違うという人が何人もいる。ドイツのシンクタンクが言っていたこと。1990年、ソ連邦の解体の時、核の拡散など大混乱に陥るのではないかと危惧されたが起こらなかった。しかし、ロシア連邦になり、ロシアを大きくすることで重大な危機が生じている。例えば、モルドバ紛争、アブハジア、南オセチア、チェチェン、ドネツク、ルガンスクなどロシア人の「未承認国家」を悪用して軍事介入する。
ロシアの今後。①プリゴジンの反乱(極右)②ロシア自由軍(中道保守)③左翼の反乱、列車転覆、徴兵所の焼き討ち④少数民族の反乱の動きがある。ウクライナの戦争が影響する。ウクライナが勝てば勝つほど、ロシア国内の動きも活発化する。特に注目したいのは少数民族の動き。ウクライナが攻勢を強め、クリミヤの攻撃。
北コーカサス連邦とチェチェン
北コーカサスは18~19世紀にかけて北コーカサス諸民族が植民地化されるのはいやだと徹底的に戦ってきた重要な地域だ。最終的には全部ロシア軍に敗けてロシア帝国に含まれてしまった。北コーカサス民族連合を作ろうという考えがある。ロシア革命期の1918年に北コーカサスの山岳民族共和国独立宣言が出された。これをウクライナ、トルコ、オーストリア、ハンガリー、ドイツ、ブルガリア、ポーランド、ジョージア、アゼルバイジャンが承認した。
「山岳民」という新たなアイデンティティ(民族・宗教・言語を超える連合)が作られている。2023年5月、北コーカサス民族共和国独立105周年記念国際会議がウクライナのキーウで開かれ、10月25日、北コーカサス連邦亡命政府宣言を欧州議会庁舎で予定している。
その亡命政府の北コーカサス連邦軍がウクライナの中で作られ始めている。中核になるのはチェチェン人など。2014年ドンバス戦争の時、義勇兵としてチェチェン人部隊が作られ、現在1000人。他の民族がチェチェン人に訓練してもらって北コーカサス軍になっていく。
今後どうなるのか。ウクライナがクリミアを奪還もしくは主導権を持つようになった場合、ロシア連邦が崩壊してウクライナ戦争が終われるのか、そうしたことが起こるかもしれない。(発言要旨とレジメを参考にした、文責編集部)
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