女川原発再稼働差止訴訟控訴審報告
原告主張を退けるためだけの屁理屈判決
避難計画の実効性について審議することに
【宮城】避難計画の実効性を争点に東北電力を相手取った女川原発再稼働差止訴訟は、今年5月24日、仙台地方裁判所が「放射性物質が異常に放出する事故が発生する具体的危険性についての主張立証がないので、原告の請求を棄却する」「避難計画の実効性が欠いていることをもって直ちに人格権侵害の具体的危険性を認めることはできない」「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもなく、運転差止めを認めることはできない」と実効性審議に全く踏み込まず、原告側が主張立証しなければ、裁判所として判断する必要はないと文字通り「門前払い」の不当判決を言い渡した。
第一審において、原告・住民側は、避難計画の不備(交通渋滞で逃げられない、バス確保困難、検査場所が開設できない等)で避難できないことを主張立証し、放射性物質の放出で、人的被害、平穏生活権(人格権)が侵害されるとして、再稼働差止を求めていた。それに対し、被告・東北電力側は、「放射性物質放出事故が発生する具体的危険性について主張立証責任は原告側にある」「原告は、それをしていないので却下せよ」という反論に終始していた。この被告主張を丸ごと受け入れた判決であった。原告側が、避難計画の不備を具体的に主張立証してきたことで、裁判所が原告主張を退けるにはこの理屈でしかなかったという判決だ。
福島第一原発事故の否定、原発事故の本質・危険性の否定、国際基準否定は許されない!
一審判決の取消しを求めて控訴
6月5日、第一審原告(控訴人)らは、「(原発の)大事故が発生することを否定できない」から第5層(避難計画)がある。一審判決は、第5層の否定であり「原告側が大事故の発生の危険性を主張立証しない限り、避難計画の不備を判断する必要がない」というのは誤りだとして、一審判決の取消しを求めて仙台高等裁判所に控訴した。
事故が起こることの主張立証は、地震、津波を予想して立証せよということと同じで、不可能であること、福一事故以降、深層防護の原則を徹底することを定められたこと、第5層の否定は、国際基準の否定であること、深層防護第1層から5層のいずれかが欠けていることを証明できれば充分であり、大事故の発生の危険性の主張立証は不要であることなどを「控訴理由」とした。
さらに控訴人らは「事故が起こることを否定出来ないこと」を、原子力規制委員長の「いくら対策を立てても事故は起こる」という国会答弁、今回改正された原子力基本法第2条第3項の追記(※「事故が起きることを想定して対策を」)したこと、東北電力が退域時検査場所に宮城県からの派遣要請を受入れ600人の社員を派遣すること、2021年3月18日の水戸判決などの判例(避難計画の不備を理由に再稼働差止めを命じている)等を示し、事故が起きることが前提であることを主張した。
被控訴人からは、控訴棄却の一点張り
9月1日に被控訴人(東北電力)から出された反論は、「原判決は正当であり、控訴人の主張は失当。控訴棄却を!」の一点張りであり、避難計画を争点とした訴訟での住民側敗訴事例を並べたあげく、控訴人らの「深層防護の解釈は曲解だ」とか、「水戸地裁判決は、観念的、抽象的に請求を容認したものだ」とか実効性審議をかわし、一審同様の門前払いを求める主張になっている。
控訴人らは、これに再反論を行い、避難計画の前提、判断要件は「大事故があり得ること」であり「大事故があり得ること」は避難計画と原子力災害対策指針に明記された「公知の事実」であり、第1層から第4層までの「防護が破られる原因」を控訴人らが明らかにする、しないに関わらず「大事故はあり得ること」だと主張した。
さらに、被控訴人らの主張は、福島第一原発事故の教訓の否定であり、原発事故の本質(危険性)の否定、原子力規制委員会前委員長の答弁の否定、深層防護の正しい理解の否定であり、第5層の防護自体の事実上の否定、原子力基本法第2条2項、3項違反であり、公知の事実の否定であるとともに安全神話の復活だと批判した。
実効性の論議回避を批判し、判断を求める〈控訴人意見陳述﹀
第1回控訴審期日が10月2日、仙台高裁で開廷し、控訴人代表の意見陳述と控訴人代理人の弁護士による意見陳述が行われた。控訴人代表は「女川原発で事故が起きれば取り返しのつかない事態になること」「原発の本質(危険性)について一審判決は全く考慮していないこと」「原子力基本法第2条第3項(大事故発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならない)に違反していること」「この避難計画では、交通渋滞を招くこと」「被控訴人が避難計画の実効性の議論から逃げていること」を指摘、仙台高等裁判所が「人権の砦」としての役割を十分に自覚し、避難計画の実効性について判断すべきであると陳述した。
次に「5層の深層防護の徹底」と「具体的危険」と題した代理人弁護士による意見陳述では、水戸地裁判決の「深層防護の第1から第5の防護レベルのいずれかが欠落し又は不十分な場合には、発電用原子炉施設が安全であるということはできず、周辺住民の生命、身体が害される具体的危険があるというべきである」という判断枠組みを本訴訟でも採用すべきと述べ、その理由として3つ、①現行原子力法規制が「5層の深層防護の徹底」を求めていること、②「5層の深層防護の徹底」は「福島原発事故の教訓」に基づくこと、③「5層の深層防護の徹底」がない原発は「安全と評価できない」ことを挙げて陳述した。
避難計画の実効性について審議することに!
口頭弁論終了後に行われた「進行協議」で裁判所は、「福島原発事故後、IAEAの深層防護の徹底を求められ、第5層が明らかに欠けているなら、1~4層に関係なく、 一定地域の住人への人格権侵害が認められる余地がある」。
「本件避難計画については、原子力防災会議で具体的合理的と確認了承されていることも踏まえ、裁判所の審理対象は、避難計画の実効性審査につき、原子力災害対策指針に照らして、看過しがたい過誤があるかを判断することとなる。このような判断枠組みは、水戸地裁判決と同じである」。
「控訴人が、本件避難計画がどのような点で、原子力防災会議での確認了承が具体性合理性を欠くのか、各控訴人がどの当たりに居住しているのか(PAZなのか、UPZなのか)等を主張立証すること」という考えを示した。
このように、控訴審では、第一審とは異なり、避難計画の実効性について審議することになることを示唆した。
女川原発2号機の再稼働を3カ月先送りすると東北電力は公表した。再稼働を差し止める勝利判決をもぎ取るための支援と注目を!
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女川原発再稼働差止訴訟控訴審報告会(10.2)
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