ロシア軍の即時撤退を求める11・26シンポジウム(上)

今こそウクライナに連帯を!

 【東京】11月26日午後2時から、東京・九段上集会室で「今こそウクライナに連帯を!ロシア軍の即時撤退を求める11・26シンポジウム」が主催:ウクライナ連帯ネットワーク、共催:ウクライナ民衆連帯募金によって行われた。
 Ⅰ部  加藤直樹さんがウクライナ社会運動への募金についての報告とウクライナの動画を上映した。そして、志葉玲さん(ジャーナリスト)が「ウクライナ現地の状況」と日本の反戦運動について、意見を述べた。
 パネルディスカッションの前に、ウクライナ連帯ネットワークの原隆さんがパレスチナ情勢について発言した。

 Ⅱ部 パネルディスカッション。林克明さん(ジャーナリスト、チェチェン連絡会議)がコーディネイターを行い、志葉玲さん、加藤直樹さん、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク「NAJAT」代表が発言した。

ウクライナ民衆連帯募金の報告 加藤直樹さん

 「ウクライナ民衆連帯募金は3月の下旬から5月の下旬の3カ月に区切って呼びかけた。約100人から84万円集まった。送金に手間がかかったがようやく11月24日に送金できた。ウクライナ社会運動というグループはウクライナの左翼。社会主義を志向する明確な左翼は少数だ。『社会運動』という人たちは歴史的に言うと、かつてソ連時代にウクライナの政権を担っていた共産党が凋落していって、マイダン革命の時に、弾圧法を支持する方にまわったりして、次第に支持を失った。共産党の外に新しい左翼を作ろうとする潮流・左翼反対派が生まれてきた。2013年~14年にかけてのマイダン革命にどう対応するかということで、参加していく側と反対する側に分かれていった。反対する側はドンバスの分離運動の中に統合されていってしまった。マイダン革命に左から介入して、その後もずっとウクライナで、ソ連とは違う民主主義的な社会主義をやろうと労働運動などの中でやっているのが、『社会運動』というグループだ」。
 「私自身の話をすると、ウクライナ戦争が始まった時に、反侵略という考えで、今まで運動してきた。ロシアの侵略を擁護する人たちがどんどん運動の中から出てくる。原則を振り捨ててしまっている。これはおかしいぞと思った時に、タラス・ビロウスというウクライナの社会運動の活動家の文章に出会った」。
 「アメリカに反対するからロシアはいいんだという立場と、民主主義の国アメリカが正しくて、民主主義のためにウクライナが戦っている。タラス・ビロウスはどちらの立場をも拒否して、ウクライナという国の自決がどう世界の民主的な国際秩序につながるか、ということを展開していた。それに感動して社会運動について調べていくと、トロツキストから様々な社会主義者にいたるまで、幅広い社会主義者・左翼が集まっている。Twitterを見ているといろんな個性ある人たちがいる。非常におもしろい。ビロウスは特にすぐれた文章を書く人だ。今日配られているパレスチナとの連帯声明もおそらくビロウスが書いたものだろう」。

ウクライナの抵抗文化


 ミュージックビデオを紹介したい。
 「ウクライナ戦争について考える時に、なぜロシア擁護やアメリカと同一化するする意見が出てくるかというと、当事者としてのウクライナ人、主体としてのウクライナ人がまったく見えなくなってしまう。われわれが余りにもウクライナという国を知らない。たいてい、ウクライナについての解説はロシア研究者がロシアの目線で解説している。ウクライナの普通の人がつぶやくTwitterやミュージックビデオとかになるべく触れようとしてきた。ウクライナ人の歴史があることを感じ取ってもらいたい。『ネオナチが徘徊し、北斗の拳みたい』にロシア側から描かれているがそんなことはまったくなくて、文化的に豊かな人びとということを理解してほしい」。
 「ソ連の下でも民族性を否定されていたものがようやく独立した。ウクライナ語が禁止されていた歴史がある。独立したウクライナがロシアの影響から逃れていく文脈がある。マイダン革命はひとつにはヤヌコヴィッチの非常に腐敗した政権に対する拒否だった。汚職や腐敗とか社会が機能しない、ソビエト体制の遺産だ。それを乗り越えたいという思いから起きている」。
 「ウクライナ戦争が始まって以降のポップスは戦意高揚的なものがとても多い。一方で悲しむ曲もたくさんある。アリーナ・パッショという歌手。最も才能を感じる人だ。ウクライナ西部の山の中から出てきた人だ。民謡的な歌唱法を使いながら、ヒップホップで出てきた。音楽性の幅が広い。汚職を糾弾するラップだったり、みんながアメリカを憧れることに対して、悪態をついていずれウクライナが世界に名をとどろかすことになると歌ったり、あるいは故郷を唄う歌だったりする」。
 「日本語に直すと『兄弟ではない人たち』というタイトルの歌。歌詞は『私たちの子どもたちが血まみれで、担架で運ばれていく時に、お前たちの子どもはベッドで安らかに寝ている。私たちが地下鉄のホームの中で爆撃を避けている時に、お前たちは警察におびえて部屋の中にうずくまっている。私たちとお前たちは兄弟民族ではない』というものだ」。
 「これは何の話をしているか分かると思う。率直なそしてたじろぐような激しい怒りをロシアに向けた曲と映像になっている。これが今のウクライナの人たちの思いだ」。
 「こういった様々なビデオを見ていると、2014年のクリミアとドンバスの件があって以降、ロシアとの間で音楽的な交流が制限されていったことが大きい。ロシアの方がウクライナよりもおカネ持ちも人口も多い。ウクライナでもロシア語が通じる。ポップスもロシアの市場をもともとあてこんだ形で発展していった。それが2014年の決裂によって出来なくなる。それまでロシアの人気歌手を呼んでいたコンサートが出来なくなったので、ウクライナの歌手にチャンスが訪れた。ウクライナの民族的なものを取り入れ、ポップスが開花していく」。

ウクライナ現地報告 志葉玲さん

 「私は戦争が始まってからウクライナに2回取材に行った。パレスチナの現地にも10回くらい行っている。パレスチナの取材をしてきたから、今ガザで起きていること本当につらい。日本のいろん所で抗議デモが起こっていることはうれしい。日本の左派・リベラルなど平和運動をやっている人たちはウクライナに冷たいというところが正直ある。開戦当初こそ、ウクライナに連帯しようだとかロシアの侵攻反対がなかったわけではないが、そういうものがどんどん規模を縮小していった。パレスチナに対するボルテージの高さとウクライナに対する冷たさがものすごい反比例している」。
 「それはなぜかと言えば、人間は感情移入ができるかできないか、で行動が決まる。パレスチナのことは蓄積があり、いろいろ知っているので、たいへんなことが起きている、こんなことは許されない。スーッと入ってくる。イスラエルがやっていることはめちゃくちゃだ。当然それに対して憤る」。
 「ウクライナはどうかと言えば、われわれがウクライナ人といって思い浮かぶのがゼレンスキーだ。日本の左派・リベラルの人の集会などでよくあるパターン。『このまま自公政権が憲法改悪の方向に進めていくと〇〇のような状況に日本もなる』。それがガザだったりウクライナだったりする。自分たちの主張の添え物、自説の補強のために、他の国の紛争を使っている。攻めこまれた時に、ウクライナの人びとは立ち上がって戦って、しかも欧米から武器をもらっている。ウクライナが徹底抗戦と言った時に、国民を徹底抗戦に巻き込むな、ということになる。そこの文化・歴史の違いから日本の反戦運動とかリベラル・左翼にとって、ウクライナは受け入れがたい。だから、ロシアだって道理があると肩を持つ。好き嫌いで戦争を見てはいけない」。

国際的な人道法の基準から見るべきだ

 「何で見るべきかといったら、一つは国連憲章、国際人道法など普遍的な原則に基づいて考えるべきだ。見えてくるものが変わってくる。ロシアのウクライナ侵攻は問題がある。リベラル・左翼が大嫌いなアメリカが行ったイラク戦争、あれは国連決議を経ない侵略戦争だった。それとロシアがやったことは同じだ。国連憲章は原則戦争ダメとなっている。どうしてもしょうがない時には、自国を攻められた時に応戦する権利だとか、ほっとくと大変なことになるからとにかく軍事介入しないといけない。それでもプロセスが大事で武力行使容認の国連安保理決議を取る。そのプロセスをすっ飛ばして、ロシアはウクライナ侵攻をやった。それを屁理屈をこねて、やれ、ウクライナではロシア系住民が弾圧されてきていると言う。だいたい出所はロシア情報だったりする」。
 「加藤さんの話でとっても良かったのはウクライナの人とのことをちゃんと見ろよということだった。私もまったくその通りだと思う。ウクライナの人は戦争に関してどう思っているか。取材を現地で重ねていた。昨年の4月と今年の2月にウクライナに行った。マイダン革命時に中心になった独立広場でいろいろな人に話を聞いた。ハルキウだけではなくより前線に近いクラマトルスクで話を聞いてきた。だいたい9割以上、みんなこう言う。『一日も早く、戦争は終わってもらいたい。だけど、ロシアに譲歩して(負けて)戦争が終わるのはいやだ』。それがウクライナ人の圧倒的多数の意見だ」。
 「なぜかというと、2014年のマイダン革命、当時の新ロシアの、プーチンの操り人形みたいだったウクライナの大統領がいて、彼が欧州との関係を強化するという公約を破った。プーチンに勝手なことをやっていると怒られたからだ。ウクライナの人たちはロシアよりはヨーロッパの方に憧れていた。自由とか民主主義とか経済的にも豊かになりたかった。そういった思いがあったので、ヨーロッパとの関係強化を望んで、キーウで50~80万人という人びとが街頭に出てデモを行った。かいらい政権とも言えるような政権は倒れて、そこからプーチンがクリミアを併合したり、ウクライナ東部のドンバスというエリアに対して、親ロシア武装勢力に兵器を渡して、現地の治安当局・軍と戦わせた。それだけでなく、親ロシア武装勢力は形成が不利になってくるとロシア軍が越境してきて、民間軍事企業・ワグネルだとかもいっしょに入っていき、ウクライナ軍を圧倒していった」。
 「そういった中で、ドイツとフランスが待てということで停戦をさせた。ウクライナにとってはものすごい不利な停戦協定だった。ロシアびいきの人はウクライナ側が停戦協定を破ったと言うけれども、そもそも停戦協定の内容自体がおかしかった。ロシア側も守るつもりはなかった。これまでのプロセスをどう解釈するかが重要になってくる」。

 ロシア占領の実態

 「なぜ、ウクライナ人はロシアに抵抗しているのか。今起きているのがひどいからだ。これは私が取材したブチャだ。たった1カ月だけロシア軍に占拠された。その後、ウクライナ軍によって解放された。400人もの人びとが殺されていた。どういう状況で殺されていたか。家の中に隠れていたら、ロシア軍が押し入ってきて、若者を連れて行って、『ウクライナ軍関係者か』と拷問して殺してしまう。人びとがシェルターなどに隠れている。水や食料が尽きてくる。それで外に出たところをいきなり撃たれる。自転車で食料を配っていたボランティアがいきなり撃ち殺された」。
 「とにかく停戦すればいいという意見がある。ブチャはロシアが占領していた。その間、ウクライナ軍はその中に入れなかった。戦闘をやってなかった。でも人びとは殺されていた。停戦することも重要だが、それ以上に現地のウクライナの人たちの命や人権が脅かされないことだ。ブチャでは遺体があっちこっちに転がっていた。ブチャだけでなく、隣のイルピンだとかロシア軍が占領していた所ではブチャみたいなことが起きていた。地下に拷問センターがあって、そこでとんでもないことをされていたという形跡があった。集団墓地があったりした」。
 「広範囲にロシア軍によるウクライナ人女性に対する性暴力があったらしくて、話を聞いているとあっちこっちの家にロシア軍の兵士が押し入った。当事者の話を聞くのは難しいことなので、戦争犯罪として確証が高い証拠とか証言があって、信頼できるケースについて現地警察が調査を行っている。子どもを人質にして、お母さんに対して強かんしたりとか、幼い4、5歳の子どもたちを強かんする恐ろしい状況があった。これも戦争犯罪だ。国連の調査チームも似たような話をしっかり調査している。実際に起きていたことと思って間違いない」。
 「ロシア軍の占領なんてお断りだという状況がある。ウクライナの子どもたちが連れ去られて、ロシアの方に送られている。ウクライナの言葉を使うことを許されず、ロシア語を話せということでウクライナの文化だとかを否定するような学校教育がロシア占領地で行われるようになっている。ロシアのパスポートを取得しないと様々な行政サービスを受けられない。ロシアのパスポートを得るとロシア国民だから徴兵すると戦争に連れていかれる。占領地域での徴兵ということも行われている。ウクライナ人同士が戦うという悲惨な状況になっている」。
 「いまウクライナ東部や南部で激しい戦闘が続いている。ドネツク州の州都の近くのアウディユーカという東部の小さな町が最激戦地になっている。ロシア軍の大規模攻勢を受けていて、それに対してウクライナ軍もそっちの方に力をいれざるを得なくなっている。ロシア軍は物量作戦で攻めてくる。今年私が取材していたバフムトと同じような状況だ」。
 「バフムトはその後、ロシア側に取られた。ロシア軍は自分たちの命なんてまるでかえりみない。とにかく物量で攻めてくる。ウクライナ側も犠牲が大きくなってきた。十分食い止めたので撤退しようということで引いた。ウクライナ側として改めてロシア軍を包囲する形でやっていたが、今度はアウディユーカが同じような状況になっている。歩兵が津波のように突撃してくる。なぜか。ロシア軍はそうしないと後ろから撃たれるからだ。ロシア軍の兵士もかわいそうだ。ロシアの方が人口が多いからできている」。

 無責任な停戦論

 「停戦論があるが、停戦して現地で行われる人権侵害だとか、あるいは欧米の武器支援がやめられた場合、ロシアが撤退することを前提に話しているが、ロシア側はウクライナ側の兵器がなくなったとキーウめがけて押し寄せてくるだとか考えてない無責任な議論だ」。
 「じゃあどうするか。『ロシアの天然ガスを買うな』ということ。ロシアは歳入の多くが天然ガス、石油、石炭の地下資源だ。それを買っているのが日本だったりする。日本の総需要の一割くらい。欧州はロシアへの依存が大きかったが、再生可能エネルギーを導入して、天然ガスの使用量を減らすとなっている。日本も脱炭素をやらなければいけないのだから、天然ガス使用を減らしていくべきだ。日本政府はやるべきことが分かっていてやらない。どうしようもない」。
 「岸田政権をなんとかしろという話だ。敵基地攻撃能力とか軍事費倍増とか、まわりまわってウクライナに取ってはいやな話だ。日本がアメリカといっしょに、中国に圧力かけると中国はロシアと組むとなる。ロシアに対する経済制裁が十分効果を発揮していないのは、中国やインドやトルコがロシアとビジネスしているからだ。まず、中国を説得しないといけないのに、軍事費倍増だとかをやって、中国をロシアの方に押しやっている。日本の納税者にとっても防衛費倍増をやめることはうれしいことだ。日本が米国・中国を仲介して、東アジアでの緊張を緩和すれば、日本にとってもいいことだ。ウクライナの平和と日本の平和を両立しよう」。

ロシアの戦争能力を断つ国際的連帯を

 「まとめとして。ガザ。これまでの取材が何だったかという程ひどい。ガザそのものを消し去るぐらいの大規模攻撃で、これまでとは桁が違う。ネタニヤフは子どもも女性もテロリストかテロリストの支持者だから全員殺せ、とは直接は言わず、旧約聖書の引用を使って言っている。こういう者に対して、欧米はどういう反応をしているかというと、イスラエルを支持すると言っている。これがウクライナにとってもよくない。ガザでダブルスタンダードを欧米がやっていたら、欧米の好き嫌いでものごと動いているのではないか。ウクライナ連帯の大義も薄れてしまう」。
 「それでなくても、アメリカが好き勝手やってきたせいで、グローバルサウスの国々の中では、ウクライナに対する連帯が弱い部分がある。ウクライナ側が軍事的に勝つためには、ものすごいたくさんの犠牲が出る。ウクライナの人びとがこれ以上死なないようにするには、平和的なアプローチが必要だ。ロシアの戦争ができる能力を断つ。そのためには幅広い国際的な連帯と共感が必要だ。普遍的な平和への共感、原則への理解と支持。ダブルスタンダードをなくすことが重要だ」。     (つづく)

左から林克明さん、杉原浩司さん、加藤直樹さん、志葉玲さん(11.26)

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