ロシア軍の即時撤退を求める11・26シンポジウム(下)
今こそウクライナに連帯を!
【東京】11月26日午後2時から、東京・九段上集会室で「今こそウクライナに連帯を!ロシア軍の即時撤退を求める11・26シンポジウム」が主催:ウクライナ連帯ネットワーク、共催:ウクライナ民衆連帯募金によって行われた。
Ⅰ部 加藤直樹さんがウクライナ社会運動への募金についての報告とウクライナの動画を上映した 。そして、志葉玲さん(ジャーナリスト)が「ウクライナ現地の状況」と日本の反戦運動について、意見を述べた。
今回は以下の発言を紹介する。
Ⅱ部 パネルディスカッション。林克明さん(ジャーナリスト、チェチェン連絡会議)がコーディネイターを行い、志葉玲さん、加藤直樹さん、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク「NAJAT」代表が発言した。
パレスチナ連帯闘争について 原隆さんの提起から
パネルディスカッションの前に、ウクライナ連帯ネットワークの原隆さんがパレスチナ情勢について発言した。
「ウクライナとの関係で言えば、ウクライナでの戦争は世界情勢の焦点であり続けてきた。ところがパレスチナで火の手が上がったことによって、メディアはガザ一色になっている。パレスチナ情勢の緊迫化がウクライナを侵略しているロシアにとっては世界の注目をそらすという点で好都合といえる。実際にプーチン政権は10月26日に、ハマスの幹部をモスクワに招いた。ここ数年間で5~6回ハマスの幹部をモスクワに呼んで話をしている。当然話の内容はハマス支援だ。占領に抵抗しているパレスチナ側がウクライナ侵略者であるロシアの支援を求めている」。
「ロシア軍への即時の撤退、侵略停止をせまる、そうした国際世論が弱まるようになってはならない。パレスチナ、ウクライナでの二つの戦争でのキーワードは、世界はダブルスタンダードでおおわれている。これをくつがえさなければならない。自由と尊厳を求める民族自決権だ」。
占領に抵抗する権利がある
「パレスチナについて。私はこれまでパレスチナを7回訪ねた。2002年にガザを訪ねた時、街の壁に書かれていたアラビア語で『オリーブの木が泣いている。なぜならパレスチナではこれからもまだまだ多くの人が犠牲を払うことになるだろう。そう嘆いているからだ』。まるで今のガザの状況を暗示したかのような言葉だった。オリーブの木はアラブ世界にとっては平和のシンボルだ。それから20年以上経っても、ガザの惨状を目の当たりにして、胸がふさがれる。ガザからは連日、イスラエルの無差別攻撃にさらされている人びとのうめき声が聞こえてくる。それは私たちに、ガザを見捨てないで、と訴えている悲痛な叫びだ。この声に私たちは耳をすませよう。オリーブの木が泣いている。傍観者でいてはならない」。
「ヨルダン川西岸ラマラの近郊のタイベという小さなカソリックが多数の町に書かれていた英語のメッセージ。『レジスタンス イズ ノット テロリズム』=『抵抗はテロではない』。パレスチナには国際法で認められた正当な権利としてあらゆる手段と方法で、占領に抵抗する権利、抑圧された者の抵抗権がある。抑圧された民族の解放運動ととえられているからだ。そして、自由と尊厳のための民族自決権がある。それは誰も否定することができない権利だ。アメリカや日本、G7などはパレスチナのこの権利を奪っている。イスラエルの自衛権なるものを支持している」。
「そもそも国際法に反する占領を続けているイスラエルに自衛権があるのだろうか。占領者の自衛権とはいったい何なのか。こんなもの国際法で認められているわけがない。アメリカや日本が言っていることは明らかなダブルスタンダードだ。今回のパレスナチをめぐる衝突の原因とすべての責任は占領者であるイスラエルにある。だからといって、ハマスの政治的な立場と反ユダヤ主義的な非道な行為は理が通らず、私は支持できない。イスラエルによるガザへのジェノサイド、民間人の犠牲を無視した無差別攻撃を非難する一方で、占領者であれば民間人も見境なく殺してもいいということが許されるのはダブルスタンダードだ。タイ人やネパール人などの貧しい出稼ぎ労働者やイスラエル人の平和活動家、一人の女性はハマスによって惨殺されている。もう一人の80歳過ぎの女性はいまだに拉致・拘束されている。この二人はガザで重傷者をイスラエルの病院に搬送する支援をしている平和活動家だ。こういう人たちを拉致したり、惨殺することが許されるだろうか。そういうことは正当化できない。人の命や尊厳を顧みないハマスの考えはパレスナチの解放という大義をおとしめる」。
パレスチナ連帯闘争を今こそ
「しかしながら、イスラエルのこれまでの占領政策とガザ封鎖という国際法違反そのものがハマスとの戦闘を招いたことは明白だ。国際社会は長い間イスラエルの占領とアパルトヘイト的な抑圧に対して、見て見ぬふりして傍観してきた責任を負っている。環境活動家のグレタ・トゥンベリさんもパレスチナへの連帯を表明している。今こそ自由と尊厳、解放を求めるパレスチナの人びとの抵抗の戦いに私たちはエンパシー(共感)とリスペクト(尊敬)を示す時ではないか。世界中でロンドンでパリでベルリンでジャカルタでワシントンで、即時停戦を求めるデモが広がっている。私たちも草の根からのプロテストが決して無力ではないこと、それを示すのは今だ。共に声をあげよう。フリーフリーパレスタイン。ストップストップ ジェノサイド」。
日本政府のイスラエルとの協調を断て
パネルディスカッション。
杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク「NAJAT」代表が発言した。
「今回のウクライナ侵略戦争を受けて、今のガザの事態は信じるものがなくなった。アメリカやヨーロッパは少なくとも、侵略に抵抗しているウクライナを支持することを掲げて、武器支援を含めてやっていた。そこに一定の正当性はあった。その中身が今に始まったことではないしても、イスラエルの自衛権(存在しないというのが法律的な定説)、占領している側に自衛権はない。ですがそれの自衛権を認めて、アメリカやドイツは武器支援までする。日本もそこに気を使って、国際人道法違反とすら言わない。日本は国際刑事裁判所へ最大の拠出国だ。イスラエルに組することでしかない。日本の政府や私たちがやるべきことはたくさんあるのにそれが出来ていない。私たちの責任も含めてある」。
「一時休戦の2日目。休戦が終われば再びジェノサイドが行われてしまう。この局面は大事でジェノサイドを再開させるなと恒久的な停戦をやれという、どれだけのプレッシャーをかけられるか、非常に大きい。水曜日の夕方新宿でデモが予定されているが少し遅い。ウクライナを利用して、殺傷武器の輸出を進めたり、戦闘機は日英伊で共同開発したり、いずれそれがガザやイエメン空爆のような事態に使われることが見えている。それを止めるために何ができるか。非常に大きく問われている」。
「普遍的な正義や公正さの誰も見てもおかしいことをとめさせる力を世界はつけなくてはいけない。もう一回立て直さないといけない。国際人道法や国際刑事裁判所を作ってきた。NGOや人権運動も含めて。それだけのものを作ってきたのに、これほど無残に無視されているわけだから、とりあえず良いものはあるので、それをきちっと強制させる。市民社会からどれだけの力をつけていけるか。そのためにはBDSと言われる市民レベルでのボイコット運動、市民レベルでの経済制裁を含めた強制力のある措置をどうやって、やらせるかということが重要だ」。
林克明さんがコメントした。
「キーワードはダブルスタンダード。世界中でまん延していて、しかも問題なのは政府や軍幹部だけではなくて、一般の人びともすみからすみまでダブルスタンダードだ。それがまかり通っている。ウクライナの戦争と今回のパレスナチの戦争で突きつけられている。人道にもとる行為を許してはならない。そのために何をするか。相対的に強くてでかいものが小さくて弱いものを苦しめるという構図を少しでも良くしていくべきだ。そうしたことを批判してきた人の中にもダブルスタンダードがある。侵略するロシアを許して、被害者をおとしめるとか。あるいはその逆もある。ウクライナの旗を掲げて、ロシアの侵略けしからんと言っている人がイスラエルの行為にものすごく寛容だ。それをやめさせることも重要だ」。
ウクライナ人の声
加藤直樹さんの発言から
「ゼレンスキー政権はハマスの攻撃のあった後、即座にイスラエル支持を打ち出した。それは止めてほしかったというのが正直なところだ。ゼレンスキーがネオナチだとは思わないしそれは間違いだ。今回誤った選択をした。ゼレンスキーがユダヤ人だからそうした選択をしたという人がいるがそういう単純なものではなくて、一つにはアメリカの支援をどうしても繋ぎとめておきたいという実利的なもの」。
「もう一つはロシアの支配を逃れたい、ヨーロッパに入れてほしいという力学になる。ヨーロッパ中心主義を内面化してしまう傾向がリベラルの中にもある。ウクライナの中では民族差別が渦巻いていると言う人がいるがまったく間違いだが、しかしヨーロッパ人意識、非ヨーロッパを低く見るような意識が再生される傾向がある」。
「非常に残念だと思って眺めていたら、これに対してウクライナのリベラルや左翼の間で声が出ている。その声は切実なものだ。一人は西部に住んでいるフェミニスト。自分の国がイスラエル支持と言ったことがショックで、泣きながら祖母と電話したとツイッターで書いている。『私は耐えきれない。私たちが何者かも分からなくなってしまった』。自分たちは侵略の被害を受けている人間としてこれまで声をあげてきた。ところがわが国の政府は侵略に加担している。そういう悲しみと怒りだろう」。
「別の女性。ウクライナの人を気に食わないと思う左翼は世界中にいるわけだが『ほら見ろ、ウクライナナチだよ』と嘲笑する。それを受けて彼女が書いたのは、『世界の人びとが私たちがどう対応するか見るのは当然だ。そして私は苦しい』。今日印刷して配られていた『ウクライナ人民としてパレスチナの民衆を支持する』という声明(週刊「かけはし」11月13日号7面に全文掲載)が出た。これは350人の人が連名している」。
「今、パレスチナ連帯をめぐって、新たな国際主義の芽が出ている。パレスチナ問題をめぐって、様々な国の人のツイートを見ている。例えば台湾の女性でずっとウクライナ連帯をやっていた人が、毎週のようにパレスチナ連帯のデモを組織している。彼女は『われわれはパレスナチではない。しかし私の家族は日本の支配下でジェノサイドを経験し、国民党政権下で弾圧を経験してきた。それを生き延びてきた末裔として私はパレスナチ人であると言える』と書いている。世界各国で流行っているようだ。パレスチナ人ではないが、○○人だが、だがしかし○○でパレスチナ人だ。ニューヨークに住んでいるチベット人の人がフリーガザと掲げていた」。
「この事態が起きる前に、ウクライナ連帯を掲げるパレスチナ人のツイートも結構見ていた。アメリカが悪いからロシアを支持するとか、ロシアが悪いからアメリカを支持するとか、そういう二重基準を超えた国際主義をどう作るかが生まれ始めている」。
「タラス・ビロウスはウクライナ人の主体性を無視した西側の左翼に強く抗議しながら、私たちはこういった侵略が起きない民主的な国際秩序をどう作るか、そういう課題を共有しているんだと文章で書いていた。パレスチナの侵略は認められないし、ウクライナに対する侵略も認められないという新しい国際主義の目があったからビロウスの文章に感動した。パレスチナ連帯を通じて、世界の人びとが様々に自分の地域の経験を投影しながら、ここに新しい国際主義の芽がある。どうやって作っていけるのかの出発点に立っている」。
日本のマスコミの報道姿勢を問う 志葉玲さん
「世論を喚起する上で報道が重要になる。日本の報道はレベルが低い。パレスチナ問題についてはそれなりに取り上げている。病院が攻撃されたとか国連管理の学校が攻撃された。ただひどいですねというコメントでお茶を濁してしまっている。ひどいことは今までも起きてきた。残念ながら今起こっていることは本当にひどいが、これが最悪・最後だとは必ずしも限らない。それはなぜかと言ったら、イスラエルという国のあり方が暴力と支配に基づいた国である。病院への攻撃は国際人道法違反だ。ちゃんとスタジオで解説しろということだ。軍事オタクが淡々と評論しているだけ。日本との関係、他人事ではなく自分事として考えることが必要だ。日本のメディアの中に非常に希薄だ。殺人ドローンを作っているイスラエルの企業が日本とつるんでビジネスやろうとしている」。
そして、志葉さんはTBSの金平茂紀さんや田中優子さん(元法政大総長)、伊勢崎賢治のウクライナ問題での姿勢を批判した。連帯運動を何とか立て直す動きをしていきたいと訴えた。
停戦論について
林さんは「ロシアの戦争、チェチェンについてはリアルタイムで見てきた。占領下にもずっといた。大規模な戦闘が終わった後に弾圧と虐殺があった。強調していっておきたい。ただ、ウクライナの停戦とパレスチナの停戦の結果がまったく違う」と提起した。
杉原さん。「パレスチナはただちに停戦させて、賠償や復興、封鎖と占領も含めてどう終結まで繋がるか。停戦というよりは虐殺を止めるという意味での停戦だ。ロシアがやっている占領の既成事実化や占領中の虐殺とは全然異なる。一緒にはできない」。
加藤さん。「ウクライナの停戦論について、かみ合わないと思っている。ウクライナという他国の話。停戦がいいのか、このまま抗戦を続けるのか、簡単ではない。停戦するということは今占領されている地域について、作戦境界に人びとをそのまま残すことだ。占領下において拷問や拉致がすごく横行している。それだけじゃなくて、ウクライナ国民としてのアイデンティティを持って生きている人たちがそれを奪われる。ロシアの方がいいという人もいるでしょう。その度合いというのが、2014年のウクライナが最も混乱していた時期でさえ、今占領されているヘルソン州などではロシアとウクライナが単一の国であった方がいいと言っている人が十数パーセントだ。その後、ウクライナ人意識が高まってきたから、この戦争で占領された地域に限って言えば、ほとんどの人がウクライナ人として生きたかった人たちだ」。
「ロシアによって強制的に主権を奪われている。ヘルソンが解放された時に、地元の人たちが歓迎していたが、あれは率直な感情だ。つまり、ここで停戦して占領下に人びとをおいてきぼりにするのか、それとも戦争を続けることによって、これ以上血を流すのかは本当に究極の選択だ。その時に外からああすべきだ、こうすべきだとはそう簡単に言えることではないはずだ。市民運動で言えることは原則的立場だけだ。どう選択するかは高度にウクライナの人びとだ」。
「今日本で起きている停戦論で、憂慮する歴史の会が立ち上がった。それを引き継いだ形で運動が続いている。おかしいと思ったことが二つある。一つは憂慮する歴史の会が停戦を呼びかける行動を始めた時に、ロシア大使館に行ってそれから中国とインドの大使館に接触しようとした。世界に呼びかけると言って、ロシア語と英語とスペイン語と韓国語に声明を翻訳して、サイトに載せた。ところが当事者であるウクライナ人に自分たちの立場を理解してもらうためにウクライナ語に訳すことがない。シンポジウムで和田春樹さんが言っていたのは、われわれはロシアに向けて言っているからだと。それは本当ではないでしょう」。
「もう一つは、停戦声明のサイトにこう書いてある。『なぜ撤退と言わないんですかという質問に対して、撤退というのはある線があって、その線より後ろに下がるという意味を含んでいる』。国境線は歴史によって変わるものだから、私たちはここがその線だと言えませんという内容だ。ロシアとウクライナでの間で、どこに国境線があるのか、われわれは認めないのだと言うんですね。撤退に向けた停戦ができれば一番いい。しかし、憂慮する会の声明にはそういうものがなかった。二度目の声明はもっとひどかった。ついには、そもそも国境線はないんだと。侵略でないと言っているのと等しい。ところが国境線はある。聞こえてくるいろんな停戦論はロシアの目線の話だ。ブチャの虐殺も怪しいと言っていた。ちょっと考えられない話しだ」。
志葉玲さんが「停戦するかしないかを決めるのはウクライナ人だ。われわれがどうこう言うことではない。占領というのがどういうものかまったく考えないで、ムダな抵抗をやめればいいじゃないかというようなものだ。ロシアのプーチンが戦争ができない状況を作り出すことだ。私たちがロシアの暴挙をどのように止めるかだ」と発言した。
杉原さんは「ウクライナ人を矢面に立てたG7の対ロシア弱体化戦争をやめろと掲げてG7外相会談に反対する行動を行った、戦争・治安・総行動の人たちのスローガンの一つだ。やめたらどうなるか。武器輸出をやめろと言っている。じゃあどうなるのか。ウクライナの人がどうなるのかどうでもいい。どうやって立て直すか。ガザのことで人権・人道を掲げる国・欧米の二重基準が問われている。いろんな所に希望もある。日本の主権者であるわれわれは日本の政府を動かして、イスラエルのガザの暴挙を止めさせることだ。ネタニヤフの逮捕状を日本は国際刑事裁判所に提訴すべきだ」と話した。
今回のシンポジウムは、新たにパレスチナ戦争の勃発のなかで、「ダブルスタンダード」が大きく問題になっている。このことに焦点を当てながら、ウクライナ戦争をどうとらえ、どう支援運動を作っていくのかで、大事な論点が整理されたのではなかろうか。有意義なシンポジウムだった。
(M)
パレスチナ情勢について話す原隆さん。写真一番左(11.26)
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社