万博中止、IR・カジノ誘致撤回を!

破綻しつつある大阪維新の看板政策に大衆的な「NO!」を突きつけよう

大森敏三

 維新の会がIR・カジノと並ぶ看板政策として推進してきた万博開催に対して、かつてない逆風が吹いている。建設費や運営費、インフラ整備など関連費用の相次ぐ増額と負担増が報じ続けられ、各メディアの世論調査でも、万博開催への批判的回答が多数を占める状況に陥っている。万博中止を求める署名活動にも多くの賛同が寄せられ、国会内での追及も含めて、万博中止の声が急速に高まっているのだ。この機会を逸せず、万博中止、IR・カジノ誘致撤回に向けて維新を追い詰めていこう。

世論調査で見る万博批判の高まり


 これまでも一昨年のカジノ誘致の是非を問う住民投票条例制定運動をはじめ、IR・カジノに反対する闘いは一定の拡がりを見せてきた。しかし、万博については、2022年の統一自治体選挙での各政党・候補者の公約も含めて、維新反対勢力が必ずしも「中止」要求で一致しているわけではなかった。しかし、昨年途中からその流れが大きく変わり始めた。そのことは、マスコミ各社の世論調査結果を見てもはっきりしている。万博に対する批判の拡大が見てとれるのである。
 たとえば、万博開催に積極的な論調を展開している読売新聞(11月17・19日実施)の世論調査では、万博に行ってみたいと「思う」30%、「思わない」69%と万博に対する関心が低いことがわかる。大阪を含む近畿でも、万博に行ってみたいと「思う」は48%にとどまっている。また、会場建設費が当初予定の1・9倍の2350億円に増えることに「納得できない」とした人は69%で、「納得できる」は24%。誘致を主導した日本維新の会の支持層でも「納得できない」は6割もいたのである。
 より直接的に万博開催の是非を問うている時事通信(11月10~13日実施)の世論調査では、万博の開催は「必要ない」55・9%、「必要だ」20・3%、「どちらとも言えない・分からない」23・8%と万博開催に否定的な回答が半数を超えている。支持政党別にみると、自民党支持層では「必要だ」23・9%、「必要ない」49・5%、日本維新の会支持層ですら「必要だ」34・0%、「必要ない」47・2%だった。立憲民主党や公明党支持層では「必要だ」は2割に満たず、「必要」が「不要」を上回った政党はなかった。
 費用面から万博開催を問うたFNN・産経(11月11・12日実施)の世論調査では、「このまま開催」15・2%、「費用を削減して開催」56・7%、「開催中止」26・9%、「わからない・言えない」1・2%という結果だった。日本維新の会支持層でも「このまま開催」35・6%、「費用を削減して開催」46・9%、「開催中止」16・4%と、「このまま実施」は少数にとどまっている状況で、建設費や運営費、関連費用の高騰に対する批判が強いことがわかる。
 万博の不人気を示す例としては、阪神とオリックスの優勝パレードを万博の宣伝に利用しようとした大阪維新の目論見が、両チームのファンをはじめとした大きな反発にあい、撤回を余儀なくされたことにも表れている。

マスコミ論調も変わり始めている


 こうした世論調査の結果や批判の高まりを反映して、新聞各紙の論調も変化を見せている。読売、産経などは依然として従来通りの開催を支持しているが、日経でさえ「予定した施設をすべて開幕に間に合わせることにこだわらず、柔軟に軌道修正すべきである。…(海外パビリオンの)完成が開幕に間に合わなかったり、参加国が減ったりするのもやむを得ない。」(10月23日社説)と軌道修正を主張し始めた。朝日は「国民の負担増への反発は強く、開催の是非を問う声も出ている状況に真摯に向き合うべきだ。…維新と政権は過去も振り返りつつ、開催の是非を省みる責任がある。」(10月23日社説)と「開催の是非」にまで踏み込んだ。地方紙はさらに批判的で、たとえば「膨らむ万博整備費 延期、縮小の検討を求める」(京都新聞、10月28日社説)、「万博経費の膨張 安易な負担増は許されぬ」(西日本新聞、11月1日社説)、「万博建設費急騰/巨額費やす意義はどこに」(神戸新聞、11月18日社説)、「大阪・関西万博 無謀な強行は許されぬ」(神奈川新聞、12月2日社説)、「大阪万博の迷走 このままでは賛同できぬ」(信濃毎日新聞、12月4日社説)など、直近になるに従って論調の厳しさが増している。

建設費、運営費など底なしの開催費用増

 このように状況が変化してきたのは、前述のように会場建設費、運営費、インフラなどの関連費用といった万博開催経費が底なしに増えていることがある。こうした巨大イベントの費用が当初の見積もりよりも大きく膨らむのは、東京オリンピックですでに経験済みで批判の的となったが、大阪万博で繰り返されていることへの大衆的な忌避感は強いと言える。
 会場建設費はパビリオンや迎賓館、催事場などを建設する費用とされ、国、府・市、経済界が3分の1ずつ負担することになっている。大阪府は2016年10月、1200億~1300億円とする試算の原案を公表して、政府もこれを追認し、2017年9月に博覧会国際事務局(BIE)に提出した提案書には1250億円と盛り込んだ。この数字は、愛知万博を下回ることが前提だったとも言われている。
 しかし、2020年12月になって、600億円の増額が明らかになり、総額1850億円となった。この増額分には、大屋根の設計変更による170億円増が含まれていた。そして、昨年11月になって、資材費や人件費の高騰などを理由に、最大2350億円にまで膨れ上がり、当初予定額の1・9倍規模となったのである。このため、吉村洋文知事は、3年前に1回目の増額を容認した時に府議会で「今回が最後」と説明したこともあって、「管理が甘かった」と謝罪に追い込まれた。
 これに加えて、万博の運営費も当初予定の809億円から1000億円を超す見込みとなっている。この運営費も、2016年の基本構想素案では690億~740億円と見積もられていたが、2020年に出された基本計画の中で809億円と増額された経過がある。今回はさらに200億円以上の増額となった。この運営費の財源は、基本的に入場料収入が充てられるが、赤字が出た場合の処理について、すでに政府は「事業実施主体である日本国際博覧会協会が業務執行責任を負うのは大前提。国として補填することは考えていない」(12月7日、参院経済産業委員会での西村康稔経済産業相答弁)と予防線を張っている。
 国の負担はこれだけにとどまらない。日本館の建設や展示、運営、撤去などにかかる費用360億円、「要人警護」など警備費199億円、途上国の出展支援240億円、万博開催の機運醸成に向けた費用が約38億円など、計約837億円の負担が明らかになっている。しかも万博開催費用の全体像はいまだに明らかになっていない。岸田首相は「会場や周辺インフラの整備など費用の全体像を早急に示す考え」を示し、「国民の理解を得るため、透明性を持って示していくことが重要」と述べたと報じられているが、全体像が明らかになり、さらなる負担増となればさらに万博への批判が強まる可能性がある。さらに問題なのは、岸田首相や吉村知事が「これ以上の経費増はない」といくら言っても、そのことを信じる人々はほとんどおらず、開催予定日までには500日近くあることから経費増の可能性がきわめて高いことである。

大阪市民へのさらなる負担増


 これまで見てきたような万博経費高騰のツケを最も回されるのは、開催予定地の夢洲を抱える大阪市民である。大阪市は、そもそも会場建設費の3分の1にあたる783億円を大阪府と分担して負担することになっている。しかし、それ以外にも埋立地である夢洲での万博開催(そしてIR・カジノ建設)のために必要となるインフラ整備費用の多くが大阪市の負担になる。その中には、上下水道整備、メトロの延伸、夢洲大橋の片側3車線化などの道路整備が含まれる。大阪市の横山市長は、市議会での答弁において、このインフラ整備費用が1129億円の見込みで、そのうち大阪市の負担は808億円になると明らかにした。このうち、大阪メトロの延伸工事では、当初予定の250億円が346億円に増えている。横山市長は、こうしたインフラ整備について「万博があろうがなかろうが、必要な費用」と述べているが、万博でなければIR・カジノ以外には夢洲の利用予定はないのだ。
 加えて、万博へのアクセス道路となる予定だった高速道路・淀川左岸線の工事費は、当初の1162億円が2・5倍の2957億円に膨らみ、その45%が大阪市の負担である。この淀川左岸線は工事中に近隣の住宅にひび割れなどの被害が出たため、工法の変更を余儀なくされ、万博までに完成できないことが確定している、そのため、シャトルバス専用道路として仮設道路を作ることになり、その工事費用約50億円は大阪市の単独負担となる。
 IR・カジノ建設のための土壌改良費も大阪市の負担であり、その上限は788億円にのぼる。まさに維新主導の「祝宴資本主義」推進のために、大阪市の財布は空っぽにされようとしているのだ。

万博中止を求める署名に大きな手応え

 しかし、こうした底なしの経費増に対する批判の高まりは、万博反対運動に大きな弾みとなっている。「万博中止」を訴えてきた「どないする大阪の未来ネット」(どないネット)が9月中旬に開始した「『夢洲・万博』の中止を求める要請署名」はオンライン署名を含めて2カ月足らずで9万筆を超えた。11月14日の大阪万博協会への署名提出はいくつかのメディアで報道された。万博協会は、批判の高まりに恐れをなしたのか、署名提出の取材に駆けつけたマスコミに対して一貫して取材を拒否するという過剰反応を見せた。共同通信配信記事では、「万博は即刻、中止すべきだ。今中止すれば三百数十億円で済むが、決断が遅くなればなるほど費用がかさんでいく」というどないネット・馬場事務局長の話も紹介されている。
 どないネットの街頭署名活動では、1時間で40筆弱の署名が集まるなど反応は上々だという。「あちこちで立ち止まって『対話』が始まり、『万博なんかに、わしらの税金を使うな』『頑張ってや』の声や、『万博で経済効果があればよいのでは』などなど…いろいろな意見を聞くことができました。確実に万博の是非が市民的議論となってきています」(どないネットブログより)。
 また、共産党大阪府委員会は8月30日に「2025年大阪・関西万博の中止を求める声明」を発表し、従来の「万博の見直し、開催場所の変更」を求める姿勢を転換し、「命と安全が守られず多大な負担を国民に押し付ける」として万博中止を求める方向へと舵を切った。これを受けて、共産党が影響力を持つ諸団体も万博中止を求めるとりくみを開始した。10月27日には、全労連系の大阪自治労連、大阪府職労、大阪市労組が万博協会と万博推進局に対し「万博開催の見直し・中止」を求める要請をおこなうとともに、オンライン署名「大阪・関西万博にかかわる労働者の健康と命を守ってください」2万180人分を提出した(しんぶん赤旗、10月28日)。「明るい民主大阪府政をつくる会」も「2025年大阪・関西万博の中止を求める要請署名」を作成し、2月頃の提出にむけてとりくんでいるという。

破綻しつつあるIR・カジノ建設


 もう一方の維新の看板政策であるIR・カジノ建設も、当初の見込みは破綻しつつあり、果たして本当に建設されるのかも含めて、逆に維新のアキレス腱となる可能性を持っている。当初の案からは、開業時期の遅れ、IR施設の規模縮小、外国(特に中国)富裕層から国内客へのターゲットの変更、想定を超える土壌問題など大きな変更を余儀なくされているが、特に問題なのは事業者が求める条件が満たされない場合、違約金なしで撤退できる「解除権」が実施協定に盛り込まれ、その期限が万博終了後の2026年9月とされたことである。事業者としては、万博の入場者数などを見た上で、夢洲でのIR・カジノの採算性を見積もり、撤退するかどうかの判断をすることができる。その一方で、大阪市にとっては常に撤退のリスクにさらされながら、液状化対策などの土壌改良工事やインフラ整備工事を続けなければならないことを意味する。土壌改良も大阪メトロ延伸などのインフラ整備も、IR・カジノがなければ万博終了とともに無用の長物となってしまうのである。

万博中止、IR・カジノ誘致撤回に向けて、反対運動をさらに拡大しよう


 維新の看板政策だった「大阪都構想」が2回の住民投票によって潰えた後、維新にとっての目玉政策は夢洲での大阪・関西万博の成功とIR・カジノ誘致による大阪湾ベイエリア地域の再開発だった。いわば「祝宴資本主義」による大阪経済「再建」の試みである。しかし、この試みは東京オリンピックが経済成長の起爆剤とはならなかったのと同じ轍を踏もうとしている。こうした維新の目玉政策が破綻しつつある状況は万博中止、IR・カジノ誘致撤回を求める運動にとってチャンスでもある。これまで大阪府知事選・大阪市長選や議会選挙でことごとく維新の勝利を許しつつも、「都構想」をめぐる住民投票では2回とも勝利を収めた経験を考慮するならば、この運動を安易に反維新と結びつけるのではなく、原則的な大衆運動の発展と拡大、広範な議論の喚起を追求していくことが必要ではないだろうか。
 一昨年の知事選・市長選を総括する中で指摘した以下の点は、現在もなお重要であると考える。
 「維新による新自由主義的な都市開発路線とポピュリズム的政策との併用は、住民の中に深刻な分断をもたらしたが、同時にそのことで利益を得る層をも作り出した。その結果、何があっても維新に投票するコアな支持層が存在する一方で、個々人に分断され、政治への無関心、諦めを余儀なくされている広範な人々をも生み出した。このため、多くの地方議員と首長、コアな支持層に支えられた組織的選挙によって、維新は連戦連勝を続けることが可能となっている」。
 「こうした状況を突破し、維新と真の意味で対峙するためには、さまざまな戦術的対応に終始するのではなく、維新的な政治・経済・社会のあり方と根本的に異なるオルタナティブを提起するとともに、維新政治のもたらす諸矛盾を徹底的に暴露して、それに対峙する大衆的な運動を持続的に展開していくしかない。その意味では、その道筋がいかに迂遠に見えるとしても原則的な労働組合運動、社会運動、市民運動の大きな流れを作り出すことが重要なのであり、そうした取り組みの中から左翼自らの再建を目指していくことがわれわれを含む左翼にとっての課題である」。
 万博中止、IR・カジノ誘致撤回を! 破綻しつつある大阪維新の看板政策に大衆的な「NO!」を突きつけよう。

「どないネットブログより」

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