1.26経済安保版秘密保護法の制定を許さないシンポ

知る権利・報道の自由を破壊するな

 【東京】1月26日、衆議院第二議員会館第8会議室で「経済安保版秘密保護法の制定を許さない」シンポジウムが行われた(共催:秘密保護法対策弁護団、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、「秘密保護法」廃止へ!実行委員会、許すな!憲法改悪・市民連絡会、憲法会議)。
 岸田政権は、戦争国家化・治安弾圧の一環として今通常国会でプライバシーの侵害・人権破壊に満ちたセキュリティ・クリアンス制度(SC/適格性評価制度)の導入を盛り込んだ「重要経済安全保障情報の保護及び利用の制限に関する法律(案)」を提出する。法案の全文は未提出だが、すでにSC制度に関する有識者会議の「中間論点整理」(23年6月)、提言案(24年)を公表しており、その実態は経済安保推進法(22年5月)の経済情報を秘密保護法体制に組み込むことをねらっている。法案は、特定秘密法改正案か、経済安保法改正案か、束ね法案か、単独の新法という形で提出されるのかわからない状態だ。
 いずれにしても現在の「特定秘密保護法」(防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野)のうえで経済情報も秘密にし、「秘密」に接触する対象を広げ、その個人と家族も含めて信条、信用情報、病歴などを適正評価し、差別選別排除リストを蓄積していくのだという。しかも漏洩した者を10年以下の拘禁刑を課すことを提案している。このような市民のプライバシー、知る権利の制限、報道の自由に対する圧力と萎縮にむけた権力乱用を許してはならない。

人権侵害法案を
絶対に通すな

 シンポの冒頭、福島みずほ参議院議員からあいさつがあり、「自民党ががたがたの中で法案審議ができるのか。SC制度導入が入っているのでなんとか上程させないように頑張っていきたい。大川原化工機事件は、経済安保法の先取りだった。公安警察が恣意的に暴走した。損害賠償請求が認められ、警察・検察の問題だという判決が出たにもかかわらず都と国は控訴した。これはSC法を成立させるために確定させなかったんじゃないかと言われている。秘密保護法反対運動では市民とともに反対運動を広げたが、それを上回る規模でSC法反対運動を取り組んでいこう」と発言した。
 シンポジウムのコーディネーターは、海渡雄一さん(弁護士)で「経済安保版秘密保護法は、日本政府の戦争準備の一連の法律の総仕上げだ。経済情報、ITに関する情報まで秘密にしようとしている。これは戦前の国家総動員法に匹敵するものだ。つまり人権侵害のための法律だ」と提起した。

3人のパネリ
ストから批判

 以下のパネリストから報告が行われた。
 ●金子勝さん(立正大学法学部名誉教授)/「経済安全保障に関する情報を『秘密情報』にする狙いについて」(別掲)
 ●岩崎貞明さん(日本マスコミ文化情報労組会議 MIC)/報道とSC法(別掲)
 ●海渡双葉さん(秘密保護法対策弁護団事務局長)/「経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する意見」(日本弁護士連合会/2024年1月18日)(別掲)
 最後に、許すな!憲法改悪・市民連絡会、憲法会議から連帯アピールが行われた。
(Y) 

金子勝さん(立正大学法学部名誉教授)

「経済安全保障に関する情報を
『秘密情報』にする狙いについて」

 SC制度に関する有識者会議の提言案は、「国家及び国民の安全を支える我が国の経済的な基盤の保護に関する情報」として①サイバー関連情報(サイバー脅威・対策等に関する情報) ②規制制度関連情報(審査等にかかる検討・分析に関する情報) ③調査・分析・研究開発関連情報(産業・技術戦略、サプライチェーン上の脆弱性等に関する情報) ④国際協力関連情報(国際的な共同研究開発に関する情報)を明記している。
 これらを経済安全保障に関する情報を「機密情報」にして、SCを適用できるようにしようとする狙いだ。なぜなのか。
 第一に、米の要求に応えるためだ。米は、日本に対してサイバー対策を求めている。「日米核同盟」強化のためだ。2023年1月11日に発表された「日米安全保障協議委員会(2プラス2)共同声明」は、「自衛隊サイバー防衛隊の新編を歓迎し、さらに高度化・常続化するサイバー脅威に対抗するため、協力を強化すると一致した。米は国家のサイバーセキュリティ態勢を強化する日本のイニシアチブ(自発性)を歓迎した」。(日経23年1月13日)
 日本がサイバー攻撃で危機に陥ったら米はアジアで動けなくなることを防ぐためだ。
 第二は、日本の先端技術の海外流出、特に中国への流出を防ぐためだ。「2027年米中戦争」への参戦の準備をしていると設定し、このプロセスにおいて日本の先端技術(軍事的・経済的技術)の中国への流出の阻止は絶対事項である。
 第三は、日本の社会基盤(社会インフラストラクチャー)をサイバー攻撃から護るためである。社会基盤をサイバー攻撃で乱されたら21世紀の戦争を続けることはできなくなる。経済の維持・発展も困難となる。
 第四は、日本企業の金もうけを助けるためだ。今のままだと外国の政府の公共調達入札に参入できない。外国の企業と軍事共同研究ができないなど。
 第五は、日本の軍事経済を確立するための条件整備の一環だ。
 第六は、日本の軍需産業を巨大化するための対策である。武器の日米共同研究開発並びに国際共同研究・開発が可能となる。
 以上のような理由から経済安全保障に関する情報を機密情報にして国家の保護の対象にしようとしているのだ。このような野望を許さず、SC法制定を阻止していこう。

岩崎貞明さん(日本マスコミ文化情報労組会議〈МIC〉)

報道とセキュリティ・クリアンス制度
(SC/適格性評価制度)の導入


 MICは、「特定秘密保護法の廃止を求めます 」(2023年1月6日)という声明を出した。

「特定秘密」漏洩で
海上自衛隊員処分

 声明は、「防衛省は、大臣などが指定する『特定秘密』が含まれる情報をОBに漏らしたとして、海上自衛隊の1等海佐を12月26日付で懲戒免職処分にし、特定秘密保護法違反などの疑いで書類送検しました。
 『特定秘密』漏洩で処分者が出たのは初めてのことです。漏洩した『特定秘密』が何だったかについては、政府は明らかにしていません。
2014年に施行された特定秘密保護法では、『特定秘密』を漏洩した公務員らに対し、最高で懲役10年を科すほか、漏洩をそそのかした者なども懲役を含む罰則の対象としています。取材・報道関係者も『教唆』『共謀』『扇動』の対象となりうることから、メディアで働く労働者で組織する私たち日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は一貫して反対を表明し、『表現の自由、報道・出版の自由を束縛し、ジャーナリズムの衰退を招き、健全な民主主義社会を崩壊させてしまう危険性をはらんでいる法律』だとして、廃止に向けた取り組みを進めてきました。私たちは、改めて同法の廃止を訴えます。
酒井良海上幕僚長は同日の記者会見で、今回の処分による取材対応への影響を問う記者からの質問に対し『適正な窓口での取材というのは従来と同じく対応できるものと認識している』と述べています。そもそも、行政の担当者が取材手法の是非を論じること自体が報道の自由への侵害に当たるものだと言えます。取材行為が特定秘密保護法違反に問われる危険性が、ますます高まっているのではないでしょうか。
折しも政府は、防衛費の大幅増額と、その財源を増税で賄うことを表明して、次年度予算案を策定しています。今回の摘発は、政府が防衛力増強を目指す中で“綱紀粛正”を狙った『見せしめ』の疑いもぬぐえません。
特定秘密保護法は、特定秘密に指定することが適正かどうかを検証できる仕組みもなく、一般市民に対して都合の悪い事実を隠蔽することに利用されるおそれが強いものです。情報公開を通じて事実を検証しようとする報道関係者の行為を厳しく規制する特定秘密保護法は、やはり廃止するしかありません」とアピールした。
 MICは、この声明で基本的立場を明確にし、その延長でSC法に対しても反対していきたい。
 SC法の中に特定社会的基盤事業、すなわち報道関係(放送局ではNHK、民放6局)がその一つとして指定されている。すでに国民保護法の仕組みの中に指定公共機関と指定し、警報・避難指示・緊急放送を責務であると課せられている。放送局は防災無線と同じ位置づけだ。つまり、法律上、放送局は戦時態勢に取り込まれているということだ。SC法によってさらに強化され、統制が強まっていくだろう。このような流れを止めなければならない。

海渡双葉さん(秘密保護法対策弁護団事務局長)

「経済安全保障分野にSC制度導入し、厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する意見」(日本弁護士連合会/24.1.18)


 連合会のSC法反対の意見は以下の通りである。
 法形式の如何を問わず、経済安全保障分野にセキュリティ・クリアランス制度を導入し、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という)並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することについては、国民的な議論を経た上で、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という)に則し、少なくとも次の各項目について定めるなど、国民の知る権利及びプライバシー権が侵害されない制度的な保障がなされない限り、反対する。
  ① 政府の違法な行為を秘密指定してはならないと法定すること
  ② 公共の利害にかかわる事項を明らかにしたことによってジャーナリストや市民が刑事責任を問われることがないこと
 ③ 適正な秘密指定がなされているかどうかをチェックするための政府から真に独立した機構を作ること
 ④ 一旦秘密に指定した事項が期間の経過等によって公開される仕組みを作ること。

  SC制度に関する有識者会議の中間論点整理と経済安全保障担当大臣の記者会見における発言などからは、経済安全保障分野について、秘密保護法を改正してその中に取り込むか、あるいは経済安全保障法の罰則の法定刑を秘密保護法並みに上げるなど、その法形式の如何を問わず、経済安全保障分野にSC制度を導入し、秘密保護法並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することを内容とする新たな情報保護法案が準備され、2024年の通常国会に提出されることが見込まれる。
 当連合会は、秘密保護法の制定に強く反対し、秘密保護法の制定後も、繰り返し、その根本的な問題を指摘しつつ、廃止を求めてきた。また、仮に国民的な議論を経た上で法律が必要とされる場合であっても、ツワネ原則に則し、国民の知る権利及びプライバシーの保護の規定を明文化すべきであるとしてきた(2014年9月19日付け「特定秘密保護法の廃止を求める意見書」など)。  現在、政府が準備しているSC制度を含む新たな情報保護法制についても、国民の知る権利を侵害し、情報公開や国会の行政監視機能を阻害するおそれがあることは、秘密保護法と全く同様である。
 仮に、経済安全保障分野について、国民的な議論を経た上で限定的な秘密保護法制が必要とされる場合でも、ツワネ原則に則し、少なくとも意見の趣旨に記載した①から④までの項目について定めるなどして、国民の知る権利及びプライバシー権の保護のための制度的保障を明文化すべきである。
 当連合会は、このような制度的保障のないまま、その法形式の如何を問わず、経済安全保障分野にSC制度を導入し、秘密保護法並みの厳罰を伴う秘密保護法制を拡大することに反対する。
 

政府の狙いの重大な危険性が次々と指摘された(1.26)

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