2・3チェチェン連絡会議シンポジウム(上)
ウクライナをめぐる課題と北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想
ロシアウ クライナ侵攻から2年
【東京】2月3日午後6時半から千代田区富士見区民館で、チェチェン連絡会議シンポジウム「侵攻から2年、ウクライナをめぐる課題と北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想」が行われた。発言者は青山正さん(チェチェン連絡会議代表)、林克明さん(ジャーナリスト)、常岡浩介さん(ジャーナリスト)、岡田一男さん(映像作家)、谷川ひとみさん(北コーカサスの歴史を専門として博士課程在籍)。
青山正さんが最初に発言した。
「ロシアのウクライナ侵攻から2年目と言われるが、在日ウクライナ人の女性が侵攻から2年ではなくて、10年目だと指摘していた。2014年から、ロシアはクリミヤ半島などを占領しているわけだからその通りだ。昨年の6月にウクライナ側が反転攻勢を進めた。しかし、残念ながら膠着状態が続いて、その後東部一帯でロシア軍が攻勢をかけ、多い時は千人を超える死者が出る激戦が続いている。その一方で欧米の支援がだんだんと減っていっている。ウクライナは非常に厳しい状態にある。ウクライナ総司令官と大統領との不破説が流れている。ウクライナ内部も必ずしも一枚岩ではなくなってきている。われわれの視点からこの問題を考えてみたい」。そして後半には、「北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想」を話しあいたい。次に4人によるシンポジウムが行われた。発言の要旨を紹介する。今号では青山正さん、林克明さん、常岡浩介さんの発言を紹介する。 (M)
青山正さん
「ウクライナ問題から問い直す
日本の平和・リベラル主義」
日本のウクライナ戦争の見方がこの1年経ってさらに、ひどいことになっているとして、青山さんは三つの事例を上げた。『通販生活』(23年10月号)の冬号の表紙の文章が、ウクライナの人びとを踏みにじるものと批判され、発売元のカタログハウスがお詫びし一般書店での販売が中止になつた。二つ目。フォーク歌手の中川五郎の「パリャヌイツャ」という歌に込められたウクライナ批判について。この言葉がロシア語を話す人には発音が難しいということで、ウクライナにおいてロシア語話者を炙り出すために使われて、ちゃんと言えなかったらロシアのスパイとみなされ敵だと決めつけられたと歌われている。三つ目。月刊『世界』(24年1月号)の特集「ふたつの戦争、ひとつの世界」の「正義論では露ウ戦争は止められない―ウクライナからカラバフへ、拡大する戦争」(松里公孝著)という論文。あまりにもロシアに偏っている。
ウクライナでロシア軍が行っている残虐な戦争犯罪の数々の現実を直視せずに、この間国内において単純に「戦争反対」という観念的な思考だけでウクライナとロシアを同列に見て批判してしまう傾向があった。それどころか自らの反米意識からウクライナへの武器支援を行っている米国を嫌悪するあまり、結果的にロシアのプロパガンダに毒され、ウクライナへの批判を繰り返す人々もいた。そういう観念的な平和主義は無益どころか有害でさえあると思う。劣化した日本の平和主義をウクライナ問題を考える中で問い直し、再構築していく必要があるのではないか。
林克明さん
「チェチェン・ウクライナそして パレスチナ」
二つ言いたいことがある。第一は二重基準が蔓延していて滅茶苦茶になっている。パレスチナがひどいことになっているから、アメリカなどを批判することは分かる。その人たちがつい最近まで何をやっていたのか。ウクライナ人はファシストでネオナチでとんでもなくロシア話者を弾圧していて、低レベルな人たちだと批判していた。パレスチナ人の命を守れというその人たちを目の当たりにして、私はぞっとした。イスラエルのパレスチナ攻撃を批判するのは当然で私もそうだ。人道にもとることはしてはいけない。その一点でものを見ている。背後にアメリカがいるから、ロシアがいるからと言って、起きているとんでもない事実を見逃していることが多いと言いたい。
もう一つはロシアのウクライナ戦争の出発点はチェチェン戦争だ。北コーカサスの動きは非常に重要だ。思い出せば29年も前になるが1995年12月の段階で、チェチェンのグダーエフ大統領が「今チェチェンの少数民族を世界は見殺しにしているけれども、これをそのままにしておくと絶対にロシアは外に向かう、西側に向かう、ウクライナの方に向かう。その時期になって初めて世界は慌てふためくだろう」と言っていた。改めてこの言葉をかみしめたい。
常岡浩介さん
「ウクライナのでのチェチェン独立派の動向」
1998年夏くらいからチェチェン戦争の取材をやってきた。ウクライナに関しては2014年マイダン革命、今の政権ができるタイミングの2カ月くらい経ったあたりで、クリミヤがロシアに繰り入れられる最中に入った。いろんな施設がロシアに寝返ったという形でロシアに占領されていった。じわじわと自由がなくなっていく。ウクライナ人が経営しているホテルに潜伏して状況を見ていた。電車のどこの駅が使えなくなったという話が入ってきた。危険区域を通る最後の長距離列車に乗ってクリミヤを出た。
当時すでにドネツク、ルハンスクで親ロシア派の武装蜂起が始まっていた。市の中心部は占領されていた。そちらの方に行った。当時すでにドネツクに、1994年からずっとチェチェン本土で戦っていたチェチェンの独立をめざす人たちが集まっていた。二つのグループが武装闘争をやっていた。ドダエフ大隊とシェルクマンスルー大隊。当時のドネツク、ルハンスクで戦っていたウクライナ正規軍は士気が高くなかった。強いのは右翼セクターやアゾフ大隊だった。
ウクライナ政府から許容されている民兵組織としてチェチェン人のグループが戦っていた。このグループの方がウクライナ正規軍よりも士気が高いうえにチェチェンで長いこと戦っていたので非常に強い。かなり中心になって戦っていた。それが2014年頃。その後2017年まで6回通い、チェチェンの人たちと会っていた。いま現在ウクライナで戦っているチェチェン人組織は8つある。おととしに、チェチェン独立派亡命政府がロンドンからウクライナのキーウに引っ越してきたような状態になって、すでに戦っていた一部も特別任務大隊に移ってこれが大きな組織になっている。千人ぐらいはいるらしい。
それ以外にウクライナ正規軍の中にチェチェン人がたくさん集まっている部隊もある。チェチェン独立派勢力の在ウクライナ部隊とか、それぞれ立場が微妙に違っている。チェチェン人は集まるとけんかを始めるが表面的には調和してウクライナ軍と連携していっしょに戦っている。
2014年から17年当時に、2つのチェチェン人グループに詳しく聞いたところ、チェチェン本土からウクライナに戦いに来ている人たちはいないんだと言っていた。受け入れる側が怖くて受け入れられない。ロシアから送り込まれたスパイではないか、今チェチェン本土はカリーロフという独裁者の支配になっている。このカリーロフの放ったスパイのような者がウクライナだけでなくて、ヨーロッパで独立派のチェチェン人を暗殺して回る事件が繰り返されている。
どういう形で集まっているか。多くがヨーロッパにいったん出て30万人ぐらいいる。ヨーロッパに難民として亡命した人たちがウクライナに移住して戦いに参加するケース。それからヨーロッパでなくて、シリアで反対派で戦っていた。ほとんどがイスラム過激派として扱われていた人たちがウクライナで戦っている。イスラム主義のような人は存在しない、世俗派のグループ。
シリアでもチェチェンの武装組織を取材していた。形の上ではイスラムと言うわけだ。おカネを出しているのは湾岸諸国のサラーフィー主義などの国々だ。おカネを出している富豪たちはカリフ制を打ち立てることが目的だと言い続けている。そういうグループにしかカネを出さない。チェチェン本土で第二次チェチェン戦争当時、独立派が主流派だったがだんだんイスラム過激派の方が目立つようになっていた。独立派の主流派は欧米から政治的支持を受けていたがおカネを出してくれる人はいなかった。主要な資金源にしていたのはチェチェンのマフィア、つまりロシアの中に資金源がいた。マフィアの資金源が閉ざされるとほぼ中東からの資金しか来なくなった。
シリアに移って戦ったがこれも同じような理由で過激派ばかりが資金をたっぷり持っている。シリアにも穏健派のグループがいたがそこにおカネがいかない。チェチェンのそういう人たちが主流でもおカネがないから活動主体が小さくなってしまった。
ウクライナでロシアに抵抗する運動はイスラム過激派が支援する運動ではなくて、世界の自由・民主主義を何とか支えようとする支援で成り立っている。チェチェン人の運動もロシアやソ連の支配から自由を回復しようという運動、もとに戻っているという感じがする。
最近、チェチェン人部隊がロシアと国境を接している北東部に出かけて行って作戦を決行した。シェルクマンスルー大隊がチェチェン本土で作戦をやっていると発表している。チェチェン本土ではチェチェン独立派が活動できていないと言われていた。カリーロフの締め付けが非常に厳しいと思っていたがそれが動画付きのチェチェン本土での活動を報告している。おそらくこれはチェチェン本土内で協力者がいないと出来ないことなので、チェチェン本土から受け入れないという旧来の方針は変わっている可能性がある。
武装活動をしているチェチェン人の人数も一つのグループで千人を超えている。活動がロシアの支配下まで及んでいる。ウクライナ反転攻勢がうまくいかなかったと言われているが、チェチェン人の活動にも影響が及んでいる。YouTubeで成果を発表していたがその頻度が減っている印象がある。資金がうまく入ってきていないのはチェチェンにも影響している。欧米の支援疲れはウクライナで戦っているグループのすべてに影響を与えている。 (つづく)
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