2.3チェチェン連絡会議シンポジウム(下)

「侵攻から2年、ウクライナをめぐる課題と北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想」

 【東京】2月3日午後6時半から、チェチェン連絡会議シンポジウム「侵攻から2年、ウクライナをめぐる課題と北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想」が行われた。発言者は青山正さん(チェチェン連絡会議代表)、林克明さん(ジャーナリスト)、常岡浩介さん(ジャーナリスト)、岡田一男さん(映像作家)、谷川ひとみさん(北コーカサスの歴史を専門として博士課程在籍)。今号では岡田一男さんと谷川ひとみさんの報告を紹介する。発言要旨、文責編集部。    (M)

岡田一男さん
「北コーカサス山岳民共和国連邦再興構想とは何か」


 去年の8月1日~2日に、「第7回ロシア後の自由な民族フォーラム」が衆議院第一議員会館で開催された。イチケリア亡命政府首相などが参加して、マスコミにも取り上げられた。ロシアは何で日本政府は反ロシア政府の集まりを支援するかと怒っていた。会議は統一した見解はなかったがウクライナ政府が強く支援して成立している運動だ。われわれが参加していいものか迷ったが参加してよかった。
 亡命政府外相のイナム・シェリプが極めてユニークな人物だった。亡命政府は第一、第二次チェチェン戦争の経験者がほとんどだ。その中で、まったくこの戦争を経験していない。チェスのロシアチャンピオンになった。チェチェン戦争が始まった時にアメリカに行き映画産業に入り、アメリカ国籍を取った。戦費がいるということで、カネ集めに走っている。一点で125億円というすごい絵を持っている。それを何とかカネに換えて戦費の一部に当てたい。
 彼から聞いて印象的だったのは、ポストロシアの自由な民族運動。私は1年前にロシアは解体しなければいけないと言った。ロシアが小国家に分割されて帝国主義あるいは軍国主義から決別した民主主義国家群にならなければ自国の安全保障はないというのがウクライナの立場だ。これに一番激しく反対しているのはアメリカだ。アメリカは核の問題を非常に重視していて、ロシアが核を持った小国家あるいは中国家に分割されることに絶対反対。その中で、唯一双方の立場を満足させられるのは北コーカサス山岳民共和国連邦なのだというのがイナム・シェリプの思いつきだ。
 どういうことか。一つはロシアにとって北コーカサスはどういう場所か。核兵器をこの地域にロシアは置いていない。もう一つ重要なのは、われわれは支持しているので国家としてチェチェン共和国を認めているが1994年に、ロシア連邦条約に参加をチェチェン、カタールスタン、サハ共和国 の3カ国が拒んだ。ついにほかの2つは威圧され入った。自分たちの独立意識だけでは国家は成立しない。周りの国が支援しないかぎり、国家としては認められない。1918年に建国宣言をした北コーカサス山岳民共和国連邦をひっぱりだしてきた。数年後に、ソビエト政権によって武力介入されてこの共和国は消滅した。
 イナム・シェリプが例に出してきているのはバルト諸国は1917年から1937年まで独立国だった。それからソ連が併合している。独立回復するのは1990年。北コーカサス連邦は1918年当時、ウクライナ、トルコ、ドイツ、オーストリア・ハンガリー帝国、ブルガリア、ポーランド、ジョージア、アゼルバイジャンによって国家承認された。
 北コーカサス連邦の抱える問題。オセチアは清教徒がほとんど、アルハジアはジョージア領として現在ある。ロシアがちょっかいかけて、半独立国のようになっている。南オセチアも北コーカサス連邦の版図の中に入っている。これをどうジョージアとの間で解決できるのか。
 北コーカサス連邦が独立したならば、ただちにウクライナが軍事同盟を締結する。黒海から完全にロシアを排除する。アメリカが期待しているのは黒海から排除されたロシアはもはや世界帝国としての形にならなくなり、地域大国に転落する。ロシアを中国に対抗する熊の一つとして使おう、そういう意図がある。もし地域帝国に転落した場合に、北コーカサスだけが独立国家として成立して、他の地域はがまんしてろということには絶対になりえない。必ず、タタールスタンなどのウラル諸国、サハ共和国などが独立すると言い出すだろう。帝国の瓦解が始まるだろう。ただそんなことになってたまるかというロシアの現在の指導部の置かれている立場だ。彼らは必至となってそれを食い止めようとしている。
 ウクライナとロシアの双方にとってクリミアは重要な要素になっている。クリミアの解放がなければこんな話は夢物語だと私は思っている。近世において、ロシアによって最初の国家消滅を強いられたのが1864年までは独立国だった クリミア半島の対岸にあるチェルケシアだ。チェルケシアの敗北がどんなに悲惨なものであったか。チェチェンでも人口の半分とか3分の1とかが殺されたが、チェルケシアは人口の95%が殺されたか国外追放になった。北コーカサスに今いるのは70万人くらいだ。
 ウクライナが敗北したら、チェルケシアの運命をウクライナがたどることになる。だからこそ、ウクライナ人は絶対に降伏の道だとか、領土を譲って終戦をする、停戦をするということは受け入れられない。もしウクライナでロシアが有利な立場を占めるとだいたい夏にはバルト三国に行くだろうと言われている。もしロシアがうまくやるということは、中国も台湾に何かするという誤った幻想もある。まさに第三次世界大戦に突入していくような危険性すら存在しているのではないか。
 イナル・シェリプが新鮮な発想で、ウクライナとチェチェンの間にチェルケシアを噛ませて、ウクライナ、クリミア、チェルケシア、チェチェンを一線に結んだ。

谷川ひとみさん
「ウクライナと北西コーカサス」


 北コーカサスには2010年くらいから、ほぼ毎年行っている。ウクライナにも何度か行っている。山岳連邦は北コーカサスでは知られているテーマだ。北コーカサス山岳民共和国連邦を作ろうという試みがされているが、歴史の中では北コーカサスを統一しようというのは3回目の試みだ。北オセチアは親ロシア的と言われているが、ロシア兵で北コーカサスの駐屯地に居たという人の話を聞いた。徴兵されて2年間居たが私服で歩いていると問題はないが、仕事中に軍用車両で通っていると警察からも妨害されるし、軍服を着てお店に入ると物を売ってくれない。ロシア軍に対してはすごく北オセチアの人びとは厳しい。
 今回の組織の前身になっている1918年に独立宣言した山岳共和国について、博物館をいろいろ回ったが唯一ウラジカフカスの博物館だけが展示をしていた。カフカス人としての歴史を大事にしたい気持ちはオセチアの人もいるんだなと印象に残っている。歴史的に見ればロシアによってウクライナが支配されてから北コーカサスに来ている。この北コーカサスの併合の指揮をとったのはゴロンソという人だがこの人が北コーカサスの総督をする前はウクライナ南東部のノボリシアの総督をしていた。歴史的にはつながっている。
 山岳共和国連邦を再興するという話を聞いて驚いたがそういう発想になると、すんなり入ってきた部分もある。歴史的に見ると北コーカサスがロシアだった時期はそんなに長いわけではない。同じ時期に中央アジアもロシア帝国の一部になっていて、すでに独立している。この計画が成功するか分からないが、北コーカサスがロシアの一部が当たり前ということではないと考えていきたい。 

右から発言者の岡田一男さん、谷川ひとみさん(2.3)

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