性暴力をなくすにはどうすればよいのか

谷口和憲さん講演 「戦争と性」編集発行人

PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会・東京例会

 【東京】3月10日午後1時から、東京都戦没者霊苑で、谷口和憲さん(「戦争と性」編集発行人)の講演会がPTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会・東京例会として行われた。
 谷口さんは「戦争と性34号」2021年春号で以下のような提起をされているので、参加した。

 「戦争と性34号」より

 性暴力をなくすにはどうすればよいのか? 性暴力被害当事者、法律家、研究者、教員、市民活動家など、様々な立場からの提言と、「自分ごと」として考える37名の読者からの投稿も含めた、「希望」に向けたメッセージ。

 [特集趣旨]
 本誌では、これまで性差別・性暴力を考える上で、「個」を問うこと、すなわち、自分自身を問うことの重要性を指摘してきました。とりわけ、男性の場合、自分自身の性の加害性や暴力性を問い、そのあり方を変えていくことが現在の男社会を変えていくことに繋がると主張してきました。
 その意味で、ジャーナリスト・広河隆一氏の性暴力事件は衝撃でした。広河氏はイスラエルのキブツ(共同農場)での体験の中からパレスチナ報道を始めた、自分自身の感性と思考を問い、他者の痛みや苦しみに寄り添う人権派ジャーナリストとして知られていたからです。彼の発行していた『DAYS JAPAN』では日本軍「慰安婦」問題や暴力ポルノの特集が組まれたこともありました。
 一方、2019年3月に相次いだ性暴力裁判における加害者への無罪判決、また、元TBS社員を告発した伊藤詩織さんに対するバッシングは、ジェンダーギャップが121位(153カ国中・世界経済フォーラム発表・2019・12)という日本の国際的評価と相まって、日本社会の女性の人権状況が惨憺たるものであることを示していました。
 このような状況に対して、女性たちが中心となって伊藤詩織さんへの支援運動やフラワーデモなどの日本版♯MeToo運動、そして、性交同意年齢の引き上げや不同意性交処罰などの刑法改正を求める取り組みが行われてきました。特にフラワーデモは、被害者自らが被害を語り、その場で聞いている人たちが♯With Youとしっかりと受け止める、自然発生的な運動として全国へ広がっています。
 本特集でも被害者の声を「自分ごと」として受け止めたいと思います。「自分ごと」の自分=「個」とは、「男」と「女」だけでなく、LGBTなど多様な性をもつ「個」です。「男とはこういうもの」「女とはこういうもの」という固定観念・偏見・二元論から脱して「個」として生きること。それは本誌がテーマにしてきた男の性の加害性・暴力性からの脱却にも繋がります。そして、そのためには被害者への共感が何よりも必要とされています。自分を愛するからこそ、他者を愛することができる。自己を肯定するからこそ、他者も肯定できる。性暴力のない社会にするために、「自分ごと」として考えていきましょう。

黒井さんから今
回の企画の説明
 PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会の黒井秋夫さんが「谷口さんは戦争と性、男の性の問題に向き合ってきた。性については自分自身でも説明ができない、触れないようにしてきた。学生の頃にウーマンリブ、女性解放があったが、それと自分は向かい合ってこなかった。慰安婦の問題は日本軍の戦争を考える時、切り離して考えられない。自分でも間違いなく慰安所を利用しただろう。PTSDを考える上でも非常に大事なことなのに会を立ち上げて6年になるがそのことがスポーンと抜けていた。この問題ときちんと向き合っていきたいということで今日の企画を行った」と発言した。

谷口和憲さんの講演から

「アジアの買売春と日本の男たち」


 私は「戦争と性」というミニコミ誌を発行している。34歳の時にこの問題を考え始めた。今日配布したスライドをパンフレット「アジアの買売春と日本の男たち」(1988年)としたものだ。「アジアの買売春と日本の男たち」は1988月12月に作られた。男の性の加害性をテーマにしたものは受けない。特に男たちには。自分の問題としてとらえる男たちがいなかった。何とか男たちに響くものができないか。「ノー買春イエスハート」のテレホンカードを作った。

 この後、自己史を述べられたが略します。

 1980年代、ウーマンリブ、フェミニズムの運動があり、いろんな女性たちの集会に行ったりし、それをどう受け止めていくのか考えていた。ある時、アジアの女たちの会がフィリピンからリサ・ゴーさんを呼んで集会を開いた。日本の男たちは買春ツアーをしたり、女性たちを呼び込んで性侵略をしているのではないかと問題提起をした。
 男としての加害性、作られていく「いわゆる昭和おやじ」としての自分を感じていた。それを作り直していかなければいけないという意識が出てきた。
 1980年くらいから、男の子育てを考える会をやっていた星建男さんと会った。セクシャリティの問題をどうしていくのかが課題だった。ポルノをテーマにしたりして連続講座をやっていた。その中で買春観光の問題をテーマにしてリサ・ゴーさんを呼んだ集会に行った。彼らと出会って、「アジアの買売春に反対する会」を作った。1989年から91年まで、海外の平和人権団体を訪ねて、「戦争と性を見つめる旅」として記録を出版した。1994年、韓国・台湾・フィリピンなどで買春の実態調査をした。買春する男性の性のあり方を見ようとした。中国で朝鮮人元慰安婦に会った。「性を買う男」として出版した。1997年に「戦争と性」を創刊した。

 スライドの上映

 谷口さんの講演の後、「アジアの買売春と日本の男たち―われ、“モンスター”と呼ばれて」 45分のスライドが上映された。

 第一部「男たちのささやかな出発」
 1988年、「ボク達が支える性侵略=今も続く買春観光を遅まきながら考えよう」というテーマの小さな集まりが持たれた。
(「買春構造を男から考える」の記事)「現在の男としての生き方、生かされ方に疑問を持つボクたちは自分の性、セックスのあり方がひどく歪んでいるのに気付き始め、このテーマにぶつかってその歪みの原点を見たように思ったのです。それは一つの衝撃でした」。

 第二部「アジアへの性侵略の歴史」―“モンスター”は何をしてきたのか」
 (女性たちの死体の山)
 「わけても非戦闘員とされる女性への暴行、凌辱は悲惨を極め、この戦争の持つ性侵略の性格を余す所なく露わにしました。日本の男たち、つまりボクたちの父や祖父が直接手を汚したのです」。
 (慰安所入口の垂れ幕)
 「そしてこの“陸軍慰安所”と呼ばれる場所で軍人軍属350万人にのぼる男たちが戦時の性欲を処理していたのです。『こうした慰安婦を連れ、戦場へでかけた軍隊は近代国家においては日本だけだった』と『従軍慰安婦』の著者千田夏光氏は書いています」。
 (並んで歩く従軍慰安婦たち)
 「『従軍慰安婦』と呼ばれた女性たちは、1945年日本敗戦の時点で約8万人いたと推定されています。うち朝鮮女性の数6万5千人。言うまでもなく全て強制連行されたものです」。
 この後のシーンでは、当時の韓国での「妓生パーティ」、日本の連れてこられた「ジャパゆきさん」、アジアからの出稼ぎ女性が映し出された。

 第三部「性侵略を一方で支える経済構造―ああ、わが金持ち“ニッポン”
 「ここでは、日本の男たちによって性侵略が経済の仕組みによって支えられている側面を追っていきたい」。

 第四部「性侵略反対を叫ぶ彼我の取組―体を張り続ける女性たち」
 「この国における性侵略反対の取組みは、女性たちによって担われてきた」。
 1973年に「キーセン観光に反対する女たちの会」が結成される。羽田空港で反対のビラまきが行われた。ウーマン・リブの機関誌「リブニュース」に何回も取り上げられた。「アジアの女たちの会」が創設され、機関誌「アジアと女性解放」というリーフが発行された。韓国金浦空港で女子大生が買春ツアーにデモをかけた。台湾の旅行業者が「恥」の広告を出し反省を促した。1987年タイ、台北でも抗議行動が行われた。

 第五部「今、ボクら男たちの“思い”―遅まきながら“モンスター”も発言する」
 「これまで見てきて気付くのは、男はいつも”加害者”の側にしかいないという事です。いつの時代にも男たちは性侵略者として登場しました。男として今言う事はないのか、この事態に対してどう思っているのか―その辺の所をボソボソ話し始めてみましょう」。
 ポルノやコマーシャルの女性差別的な表現を示した後に次のような男の話を映し出した。
 「男たち、何か一言ずつ。『自分自身の性を変えなければならない。そうしなければ、自分自身の生き方が出来ない。ここ数年そんな思いで過ごしてきました。この会に参加し、”アジアの買売春”を通して自分の中の男という性を見詰めてゆき、少しでも良い方向に自分自身を変えてゆきたいと思っています。しかし、余り深刻にならず“運動を始める”というより、“新しい友達ぎできた”という気分で、ゆっくりとやってゆきたいと思います』」。
(終電車の中①)
 「あー疲れた、眠いよ。ウチのやつ、もう寝ちゃったかな。『“アジアの買売春”という所から日本の、そして日本の男たちの歴史というものを振り返ってみて、日本の男の性、男の生活のありようという少なくとも自分とは異なる性に対して無いものとして済ますことができないほど自分たちの日常にくい込んでいるその歪みのさまが、口に熱い鉄棒を飲みこまされたかのような形で、問いとしてつきつけられている自分に気付きました。どうしたらよいかわかりませんが、そのように気付いている自分に気付いたということもって免罪符を与えることだけはすまいと考えています』」。

 自分たちの問題として

 このビデオをみて参加者からの質疑応答が行われた。このビデオは軍隊における性暴力の問題や現在でも行われているアジアへの買売春ツアー問題、そして構造的な日本とアジアの経済格差・侵略的進出の問題などを取り上げている。そして、この問題を何よりも男の暴力的性のあり方として捉え、それをなくしていくにはどうしたら良いのかと問うている。このビデオを見て、自分たちがこうした課題に積極的に取り組んでこなかったことも、組織内女性差別事件を起こした一因だと考えざるを得なかった。今後とも黒井さんたちはこの問題を深める討論会・学習会を企画するという。参加して、討論を深めたい。1988年10月に「アジアの買売春に反対する男たちの会」の呼びかけを掲載する。    (M)

 

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