性暴力をなくすにはどうすればよいのか
谷口和憲さん講演 「戦争と性」編集発行人
PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会・東京例会 第2回
【東京】5月12日午後1時から、東京都戦没者霊苑で、谷口和憲さん(「戦争と性」編集発行人)の第2回講演会がPTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会・東京例会として行われた。
谷口さんは1988年に作られた「アジアの買売春に反対する男たちの会」の呼びかけの一部を紹介し、「戦時性暴力と今でも女性への性暴力がつながっている。男一人一人のあり方が問われている。自分自身を変えられれば、社会も変えられる」と提起し、次のようなテーマについて、それを裏付ける資料をもとに詳細に報告した。講演とその後の参加者の感想・意見を含めて4時間にわたる内容なので簡略に報告したい。
谷口和憲さんの講演から
以下、レジメと谷口さんの発言をもとに。
①被害者への人間としての共感。被害者のカミングアウト。元日本軍慰安婦の証言。
在日の宋神道さん。1日70人の日本兵の相手をさせられ、誰も分からない子ども2人を産んでいる。
川田文子著『皇軍慰安所の女たち』より
しかし、妊娠中でも容赦なく仕事はさせられた。それが祟ったのだろう。七ヵ月目の時に下腹に異常な鈍痛を覚えた。腹が妙に冷たかった。痛みは次第に激しくなり、こらえきれぬほどになった。部屋で神道は歯をくいしばった。声をもらすまいもらすまいと思っても呻めいてしまう。あられもない姿を人にみられたくはない。どうあろうとも一人で産まなければと思った。
激痛のきわみで片足が出てきた。逆児だったのだ。両方の足をひっぱらなければ身体が出てこない。激痛で思考力はほとんどなかったが、そう直感した。腹に力を入れ、いきんだ。どうやら両足が出た。それをひっぱったが、腹が減って力が入らない。部屋に置いてあっためしを喰った。めしを喰らって、力をつけていきんだ。長い時間かかってようやく頭が出た。ぶどう色をした子はすでに死んでおり、ナマコのようだった。臍の緒がぶどう色の小さな肉塊に絡まっていた。臍の緒が途中で切れて母体に残れば自分も死ぬ。臍の緒を注意深くひっぱった。運良く臍の緒は切れず胎盤が出てきた。疲れはてていたが身体はずっと軽くなった。
神道はナマコのような遺体を土に埋めた。
悪夢に悩まされたフィリピンのヘンソンさん。2度の強姦にあい、9カ月間監禁された。語ることで自尊心を回復していった。
別の女性。父親から性暴力を受けた。それは魂の殺人だ。男の側のポルノ・レイプ。男たちはあまりにも知らなすぎる。被害者は後々まで苦しめられる。
②戦時中の日本兵、男たちの加害性、暴力性、歪められた性。
戦場で性暴力を起こした男が帰国後、強姦殺人事件で死刑になったものもいた。軍医で、生体解剖をした人は、覚えていないと話す。忘れることで戦後を生きた。
③中国帰還者連絡会・高橋哲朗さんインタビュー。
戦犯として、罪を認めていった人の話。男の女に対する支配は、中国・朝鮮人に対する差別支配、そして米国が沖縄にした差別支配に通じている。
④青年を特攻隊へ、少女を慰安婦へとした日本という国家の責任。「美化」を許さない。
運命の中での男女、「恋愛ごっこ」。やむをえない悲劇と受け入れてしまう。「お国のために」という国家の美談。谷口さんは「国家によって利用されたことに非常に腹がたった」と発言。
吉武輝子さんは「個を変える、社会を変える」だけではなく、「国家・戦争を断っていく」、男も人権が奪われている。慰安所に並んでいる男も国家が作ってきた。国が男の性欲を管理していた、とインタビューに答えている。
⑤安倍元首相、橋下元大阪市長の発言。
橋下発言「慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」と記者会見(2013年5月13日)。石原元都知事や安倍前首相が「慰安婦が強制であったという証拠はない」「強制があったという河野談話は見直しが必要」と言い、そこには日本の戦争を美化しようとする偏狭なナショナリズムがある。
谷口さんは、自分が兵隊なら並んでいたであろう、買春したこともあるが、自分は自分を変えようと思い、活動しているが、橋下はそれを正当化している。男の本音、今でも風俗があり、性のあり方が管理されている。それを受け入れてしまっている。
欲望もまた
つくられる
⑥ポルノ・買春・性暴力とどう向き合うのか?
(1)井上輝子さん「女を性的な慰みものとして見下し、男の性欲に女を従わせるポルノ的性道徳の蔓延」(3)バックパッカーの男たちの買春体験。台湾でのクリスチャンの青年(性差別・性暴力)。
(4)男性意識調査(1998年・男性と買春を考える会)「買春はない方がよい」揺れ動く。「買売春は個人の自由」と答えた男性=60%、「買売春は必要悪」=50%、「買売春がない社会が望ましい」=70%(男自身の買春への疑問)。
(5)タイの駐在員「接待でポン引きのようなことをするのはイヤ」。買春者はどこにでもいる普通の男たち。「悪魔」ではない。だから根が深い。特別な男ではない。
(6)妻にとっての夫の買春「買春したことがあるかどうかは聞けない。あったとき、これまでの関係がガラガラと壊れてしまう」。「ベッドに連れてこないで欲しい」(仕方なく容認)。タイへ出張する夫との話し合い。
(7)「ポルノグラフィ」は、性的に露骨で、女性を従属的・差別的・見世物的に描き、現に女性に被害を与えている表現物。
(8)「欲望」が大事なものを見えなくする。欲望をたきつけるのが性産業。それを許す国家。欲望もまたつくられる。まったく知らない同士が、いきなり裸になることの不自然さ。乗り越えることが「男」、「男になること」、これは言い換えれば、性暴力の加害者になること、またそのような形に欲望をつくりあげることに繋がる。
(9)性売買における議論の中で、松井やよりさん「どういう社会にしていくか?」。性暴力をなくしていく「正義」。「不正義」の実態を明らかにする。
(10)「加害性」「暴力性」に焦点を当てることは、自虐でも自己否定でもない。広い視野に立つこと。「加害性」「暴力性」を見る勇気、力。買春では本当の意味で満たされることはない。
(11)「男性学」・メンズリブ=男の生きづらさ、「男らしさ」に焦点。楽に生きることの大切さ。それプラス、「加害性」に焦点を当てる。誠実に向き合う必要性。「自分の性について考えること、語ること」が出発点。
男の側からどう考え克服していくのか
男に都合のよい「フリーセックス」。広河隆一氏の場合。
『戦争と性』34号 金子雅臣さんインタビュー
広河氏の「自由恋愛」「フリーセックス」
――金子さんは東京都で労働相談の仕事をしてこられて、今はセクシュアルハラスメントに関する講師もしています。私も「アジアの買売春に反対する男たちの会」を1980年代後半に始めました。その頃から男性学やメンズリブの動きもあり、男の意識を変えようという運動がされてきましたが、結局、残念ながら啓蒙的なアプローチでは現状はなかなか変わっていかないというのが正直な思いです。
今回、報告書を読んでいて、男はいろいろなところから変わっていかなければいけないと思いますが、男の性意識について言うと、例えば広河氏はフリーセックスや自由恋愛についてかなり強調しています。「リベラル」を自称する男の人たちには、自分はフリーセックスで自由恋愛だという人が多くて、屈託がないというか、甘いというか、それは男にとって都合がいい「フリーセックス」「自由恋愛」ではないか。それが女性にとってどのようなものであるのか、考えていないところがあります。男が変わるということに関して、特に広河氏のフリーセックスや自由恋愛といった考え方についてどのように思われますか。
金子 ……彼の歩んできた道と私自身が生きてきた道は時代が重なります。私が学生時代には浮かれていた方で、フリーセックス論は女性解放にも家族解体にもつながると、共感し、皆がその風潮に染まっていました。今の私はそこから修正されていくわけです。セクハラ問題あり、メンズリブの運動もあり、さまざまなことに触れながら変わっていきました。
人権感覚は時代によって変わっていきます。彼(広河)はその変わり方を学ばなかったのではなく、結果的には知っていたのに知らん顔していた。一方で、時代の流れも含めて敏感に反応し、現実を突き付けられて、変わっていった人たちもいました。そのひとつがメンズリブだと思います。
私の場合、セクハラについて考えるようなった、入り口になったのはオーストラリアかどこかの映画で、強かんをテーマにした映画でした。これでもか、これでもかと女性をいたぶる場面が出てきて、男はなぜ相手がこれほど苦しんでいるのに快楽に感じるのかという、強烈なギャップを突き付けられました。アメリカで見たのですが、結構ショックを受けました。現実に突きつけられたことをキャッチして敏感に変わっていく、男性が女性から突き付けられた問題に答えていくことも含めて、自分のポジションで様々なことを突き詰めて考えないと変わりません。
⑦性教育 性教育によって、性暴力をなくしていかなければならないのに、安倍らによって学校での性教育がつぶされてきた。日野市の七生養護学校事件は、2003年に知的障害を持つ児童に対して行われていた性教育の授業内容が不適切であると非難を受け、東京都教育委員会が当時の校長及び教職員に対し厳重注意処分を行った事件。なお、裁判では教員側が勝訴した。今では統一教会、宗教右派によってコントロールされている。 今の日本では性教育はできていない。
⑧性に関する法律。強姦罪→性交強制罪→不同意性交罪。画期的。
売春防止法の問題点。売っても買ってもいけないと禁止するが、売る側に罰則を科し、買う側の男性には罰則はない。買春者処罰法=スウェーデン、フランス、韓国。処罰と意識変革の両輪が買春文化を変えていく。
講演の後、参加者全員から感想・意見が述べられた。ほとんどの人が今回の谷口さんの提起に賛同し、第3回目をやってほしいという要望が出た。私は三里塚労働合宿所事件から第四インター組織内ABCD事件、そして全国組織で起きた性差別事件に対する検証・討論を再度行っていることを紹介し、谷口さんの「男の側から、性暴力事件についてどう考えるか、どう克服していくのか」の提起が私たちの問題を考える上でもとても参考になり、今後とも考えていきたいと発言した。(M)


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