5.26福島・子どもの教育を受ける権利を!集会

井戸謙一弁護士が講演

 【福島】5月26日郡山市で「教育への政治介入問題『福島県議会意見書』から考える学習会」が汚染水の海洋投棄を止める運動連絡会の主催で開かれた。同会は昨年8月の海洋放出を前後する時期に国と東電の説明を求め市民の意見を表明するつどいを県内各地で開いてきた団体。今年1月の日教組全国教研分科会で「汚染水」との表現を使って発表した教員がいた、との産経新聞報道に触れた自民党県議が県議会に意見書案を提出したことに対抗するアクションを行ってきた。

自民党の教育への政治介入に抗して

 会共同代表中路良一さんは開会あいさつで次のように述べた。
 「2011年3・11以前は、県は広報紙「アトムふくしま」発行、文科省・経産省は、原子力ポスターコンクール開催、東電はエネルギー資料館への動員を通じ宣伝を繰り返し、子どもたちをはじめ県民に原発安全意識を植え付けるキャンペーンを行ってきた。3・11後変わったかに見えたが、自民党と県当局は、原発事故がもたらした地域社会崩壊の現実を前にしても、自己正当化と原発推進のために教育支配を強めている。この攻撃に抗して教育研究の自由と子どもたちの学習権保障していくために本集会で学び交流したい」。

汚染水の海洋投棄は安全なのか

 続いて共同代表の片岡輝美さんが活動の経過を報告。
 「自民党が『教育現場におけるALPS処理水の理解醸成に向けたとりくみを求める意見書』を提出したことに、以下の理由で取り下げを求める県議会会派面談、議会傍聴、県庁前アクションなどにとりくんだ。①海洋放出の是非についてはもっと議論が必要。②国の出前講座は海洋放出が安全だとする立場で行われている。③放射線被ばく防護が教育の大前提。④国は教育現場に介入してはいけない。⑤2020年の県内市町村議会決議―59市町村の内7割が、反対または慎重の態度―を県議会議員は尊重すべきだ。
 採決結果は、自民党・公明・県民連合など与党会派の賛成で意見書は可決された。反対は共産党4人とONEforALLふくしま1人、県議会県民連合(立憲などで構成)は18人中2名が退席した。4月に県議に公開質問状を送ったところ、58人中22人が回答した。自民党は半数が回答を寄せたが、ほぼ同じ文章をコピーしたものが目立った。県民連合は3人しか回答せず、公明、維新は回答すらしなかった。ここに議員諸氏のスタンスと資質が示された。この回答一覧は会のホームページに掲載されている」。

政治権力が教育現場に圧力をかけるのは許されない

 講演に立った井戸弁護士は、2006年、金沢地裁裁判長として北陸電力志賀原発2号機の運転差し止め判決を行い、退官後は「子ども脱被曝裁判」「3・11子ども甲状腺がん裁判」などの弁護団長、多数の原発裁判の代理人を務めるほか「湖東記念病院事件」では再審無罪判決を勝ち取っている。
 井戸弁護士の講演は簡潔明瞭であった。「汚染水との表現は虚偽の情報であり科学的な根拠に基づいていない、適切な教育でない」として「処理水」と表現すべきと政治権力が教育現場に圧力をかけるのは、①旭川学テ判決で否定された「一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育」を生み出すことにつながり、許されない。②政治権力の公教育への事実上の権力的介入であって、教育基本法が示す「不当な支配」を志向する行為である。③教育の専門職としての学問の自由を侵す結果につながり憲法23条に反し許されない。④憲法26条が保障する子どもの「学習権」を侵害する結果につながる。とわかりやすく話された。
 そして、かつて東京都の七生養護学校の性教育に都議会議員の介入があり、現在、奈良教育大学付属小に介入と処分攻撃がかけられている中で、市民が権力側の攻撃に機敏に反応して抵抗していく活動はとても重要だと語った。

教育現場からの発言

 教育現場からは、原発立地双葉郡富岡町の富岡中学校教員で県教組放射線教育対策委員の日野彰さん、県立高教組特別執行委員の草野芳明さんが発言した。
 日野さんは、12年間避難生活を送り昨年春に富岡に戻った。2020、2021年と日教組全国教研の環境公害分科会の司会を務めた。 「県議会議員は男性ばかりで女性が少ない。そんな中での意見書だ。経産省・文科省は資料・パンフを送り付けてくるが、現場は多忙で余裕がなく関心も薄く使われていない。」「処理水を飲んで安全を実証した人はいない。予防原則に立ち、子どもたちに考えさせることが大事。放射線教育の実践を、総合的学習で取り組んだ。事故の実相、事実を伝え語り継ぐこと、避難者への差別偏見をなくすこと、放射線から身を守ること、多様な視点を身に着けることを基本とした。」と話した。
 草野さんは、「日教組教研でのリポートは、処理水・汚染水の両論併記であったが、自民党はその事実を見てもいない。この意見書採択で学校現場は放射線教育を避けて通る傾向が出てくる。街頭署名では風評被害を招く、と罵倒の声もあげられるが、署名に応じる若者がいるのであきらめない。ヒロシマ・ナガサキ、沖縄、水俣を語り継いでいきたい」と決意を語った。

学び合い運動を前進させよう

 講演と教育現場からの発言に対する質疑応答では何人もの参加者が発言した。
 最後に、閉会のあいさつにたつた片岡さんは、経産省の出前講座を聴いた後の高校生が、「薄めれば安全と繰り返していたが、そんなことはないことはみんな知っている」と言っていたことを紹介し、若者に期待するとともに、会場カンパが3万5千円余り寄せられたことを報告した。

海洋放出差し止め訴訟の取り組み

 そして最後に海洋放出差し止め訴訟のクラウドファンディングへの協力を訴えた。集会には県内各地から70人が集まった。
 憲法・教育基本法に立った判例と「国連教員の地位に関する勧告」「世界人権宣言」、『子どもの権利条約29条』「社会権規約」を学び、教育現場のとりくみを共有し意見を交流できたことは大きな成果であった。今後、自民党や保守政党からこの意見書の具現化を求める国会質問が行われ教育現場への圧力が具体化することも予想される。本学習会を起点として各地で取り組みを進めるとともに、全国的活動も求められることになろう。
 6月には海洋放出差し止め訴訟第2回口頭弁論が福島地裁で、東京では原発訴訟の共同集会が開かれる。7月7日には福島市での2回目の「国・東電の説明、意見交換会」が、同15日には、「海といのちを守るつどい〜海の日アクション2024」がいわき市で開かれる。連帯の輪を拡大し世論を変えて行く時だ。
       (世田)

汚染水海洋投棄・「原発安全教育やめろ」(5.26郡山)

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