6.2千葉:「PTSDの日本兵家族会」立ち上げ
「戦争加害」がもたらした「被害」に向き合うために
【千葉】6月2日、松戸市の稔台市民センターで「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会ちば」の立ち上げ会が行われ、地域の市民など約50人が参加した。主催はちば準備会。
松戸市内では昨年9月に「沖縄とつながろう!」 実行委員会の主催で「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」代表の黒井秋夫さんを講師に、ドキュメンタリー番組の上映と証言を聞く会を開催し、約70人が集まった。聞く会の準備過程で、実行委員会関係者にもPTSDの日本兵を家族にもった方がおり、「新たな非戦運動として大きな意義」を見出してきた。立ち上げ会は準備会の呼びかけ人で元松戸市議の吉野信次さんのこうした経過報告ではじまった。
兵士PTSDと医療
続いて上智大学教員の中村江里さんが「日本兵のPTSDと国府台陸軍病院の歴史」をテーマに講演を行った。国府台(こうのだい)陸軍病院は1872年に東京教導団兵学寮病室として創設、1938年に精神神経疾患対策のための特殊病院に指定され国府台陸軍病院と改称、終戦までに約1万人が入院、当時の精神医学エリート医師たちを徴集した。戦後は厚生省に移管され国立国府台病院となり、現在は組織再編により国立国際医療研究センターに属している。
中村さんは「日中戦争以降の精神疾患兵士の増加」の背景として、①戦争の拡大・長期化と兵力の大量動員、②大規模かつ苛烈な近代戦争による兵員の心身のリスクの増大、③私的制裁を含む軍隊内部の暴力的・抑圧的な構造、④選兵基準の低下(従来不合格となったようなものも徴集・召集の対象に)などがあることを述べた。戦地で発症し、送り返された患者は全体の2~3割程度で、入院できたのは全体からみれば例外的ケースだったと「内地還送の困難」さを説明した。また、1944年以降の「絶望的抗戦期」を生き延びた医療記録はほぼ残されていないことを吉田裕さんの研究をもとに報告した。
中村さんが2018年に上梓した『戦争とトラウマー不可視化された日本兵の戦争神経症』(吉川弘文館)は専門書出版社10社による共同復刊企画〈書物復権〉により復刊されている。中村さんは続けてきた兵士家族の証言を紹介、子世代の証言から孫世代による「当事者研究」も始まっており、当事者との関係が長期にわたって継続する家族の視点から見る重要性を訴えた。
PTSDの会ちばの活動案
地域の日本兵家族4人からの証言の後、吉野さんが5つの「準備会から立ち上げの提案」を行った。
①「PTSDの会ちば」が発足したことを多くの市民運動に関わる人々に伝える作業をマスコミに掲載された記事などを添えて周知していく。
②元日本兵のPTSD問題に関心を持つ市民たちとの連携を拡大していく。
③PTSD当事者の会を随時開催していく。
④研究者や「語り部たち」を招いた小集会を開催していく。
⑤11月頃に「証言集会ちば」を開催する。そのための準備を始める。
「立ち上げ会」は小薬祐子さんの閉会のあいさつ後に会場のレイアウトを変えて「当事者からの証言などを交えた懇談会」を行った。懇談会では、松戸在住のフェミニズム運動家の船橋邦子さんをはじめ、地域の参加者が「ウクライナやパレスチナ、スーダンなど現在進行している課題にも着目していく」「PTSDの問題はジェンダーの問題」、「PTSDと明治以降に強まった家父長制による家族被害の線引きの難しさ」、「関東大震災100年で味わった記録と記憶の継承の困難さ」なども語られた。
また、NPO現代の理論・社会フォーラム発行の季刊「現代の理論」編集委員の白崎朝子さん、同誌最新号の特集「戦争トラウマの世代関連を考える」に寄稿した大阪大学教員の北沢毅さん、アサーティブを学ぶ会の吉沢智子さん、黒井秋夫さんらも加わり、6月30日に予定している大阪証言集会、9月12日に予定している東京の証言集会など今後の計画が共有された。
二世、三世も加えた「当事者研究」
昨年8月15日の朝日新聞1面は「抜け殻だった父 心の傷いま知った」「戦争体験 子ども・孫も苦しむ」という見出し、黒井さんと父・慶次郎さんの写真……、「8月報道の主役が変わった」と思わせる記事だった。敗戦後78年、体験者が減り、沖縄、広島、長崎、空襲被害者らによる語り部は子、孫世代に引き継がれてきたことがここ数年の8月報道のテーマであった。世代の継承に加え、体験者と同時代のベクトルを保持しながらの「家族」の世代継承、二世、三世も加えた「当事者研究」に拡大したのだろう。これまで、東京、大阪で行われてきた証言集会を担う主体が千葉でも集まった。
(KJ/6月3日)
【参考】
PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会
https://www.ptsd-nihonhei.com/
集会は「今、問うことから始めてみませんか」と呼びかける(6.2)
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