6.8「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟判決

同性婚に対する憲法判断

 6月8日、福岡地裁(上田洋幸裁判長)は、同性カップル6人(男性カップル2組、女性カップル1組)が同性同士の結婚を認めていない現行制度は憲法に反するとして国に1人当たり100万円の損害賠償を求めた訴訟に対する判決を行った。
 
憲法24条1項に違反するか

判決の骨子はこうだ。
 判決は、「憲法24条1項の制定時において同性婚は想定されていなかった」と規定し、あえて「当該規定は同性婚を禁止する趣旨であるとはいえないものの」と述べながらも、ダメ押しで「『婚姻』は異性間の婚姻を指し、同性婚を含むものではない」と断定した。
 そのうえで社会認識状況の流れについて触れながら「諸外国において同性婚を法制度化している国が相当数あり、わが国においても多くの地方自治体においてパートナーシップ制度が導入される等同性婚について異性婚と同じく法的保護を与えようという動きや同性愛に対する偏見を除去しようとする動きがあることが認められる」と認定したが、「同性婚に対する価値観の対立が存在し、このような反対の意見の中には婚姻は依然として男女間の人的結合であるとのこれまでの伝統的な理解に基づくものと考えられるのであって、婚姻についての社会通念や価値観が変遷しつつあるとは言い得るものの、同性婚が異性婚と変わらない社会的承認が得られているとまでは認め難い」と否定した。
 判決は、「社会通念や価値観が変遷しつつある」などと理解するポーズをとりながらも、結局のところ自民党保守や宗教右派などの同性婚否定派に配慮する態度を示し、不十分な根拠、分析する姿勢を示しながら「同性婚が異性婚と変わらない社会的承認が得られているとまでは認め難い」と切って捨て、「憲法24条1項に違反すると言うことはできない」と居直った。

憲法13条に違反するか

 判決は、婚姻によって「種々の権利義務を発生させ」ることを確認し、さらに「私的な関係においても家族であることが公証されることで種々の便益を得られる仕組みが多数存在する」として、わざわざ「例えば」の文言を明記し、「(例えば、医療における家族への説明や同意権、不動産購入、賃貸借又は保険等の各種契約の審査における家族状況の確認、家族を共同名義人や保険等の便益の受取人に指定できること、職場の異動等における家族の状況への配慮、同じ墓の利用の可否等の冠婚葬祭への参加)」などを上げながら、同性愛者にとっても「人格的利益」、「公証の利益」が認められると述べた。
 だが、憲法13条の「幸福追求権・個人としての尊重」の観点から同性婚要請説へと踏み込むのではなく、「同性愛者の婚姻の自由や婚姻による家族の形成という人格的自律権が憲法13条によって保障されている憲法上の権利とまで解することはできない」と制限論を展開し、「幸福追求権」を定めた「憲法13条に違反しない」と断定し排除した。
 そもそも憲法13条は、民衆に対して国、権力が不当な権利制限、侵害してはならず、「最大の尊重を必要」とまで強調している。それにもかかわらず地裁の態度は、明確に矛盾しており、本質論的に言えば従来の家族主義、天皇制家父長制を擁護した不当な判決である。

 ◦第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

憲法14条1項に反するか

 判決は、「憲法13条に違反しない」立場のうえで「憲法14条1項「法の下の平等」について判断した。判決は、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する」と確認し、「立法府に与えられた上記の裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解される」と認定した。
 そして「原告らは婚姻制度を利用できずこれらを享受する機会を得られないことで重大な不利益を被っているといえる」とまで述べている。
 ところが、「憲法24条1項にいう『婚姻』は異性間の婚姻を指し、同条2項においては、異性間の婚姻についての立法を要請しているものと解することができる」と述べ、従来通り政府見解に依拠しながら「本件諸規定が立法裁量の範囲を超えるものとして、憲法14条1項に違反するとはいえない」と結論づけた。

憲法24条2項に反するか

 憲法24条2項は「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」として、「制度の構築」は「個人の尊厳と両性の本質的平等の要請」のうえで「国会の合理的な立法裁量に委ねる」と確認している。
 これらを踏まえて、「個人の尊厳」は、「同性愛者であっても変わりなく尊重されるべきものである」と述べた。
 「憲法13条に違反しない」という判断を踏まえ、再度、「原告らが婚姻制度を利用できない不利益は憲法13条に反するとまでは言えない」と確認しつつ、「上記人格的利益を侵害されている事態に至っている」と認め、「個人の尊厳に照らして到底看過することができないものである」と断言した。
 判決は、この判断を補強するために「同性婚の制度を導入する国は増加する状況」について、さらに国際連合の自由権規約委員会及び社会権規約委員会から「我が国に対しても、同性カップルの権利についての懸念と勧告が度々表明されている」、「登録パートナーシップ制度」の意義などを取り上げ、「婚姻は男女によるものという社会通念は現在においてなお失われていないものの、今日変わりつつある」とまで評価した。ところが同性婚について「立法府における議論に委ねることが相当である」としてあいまいな態度を示した。
 このようなあいまいなニュアンスは、結局、憲法違反だとする判断を示すことをせず、「同性婚に対する社会的承認がいまだ十分には得られていないとはいえ、国民の理解が相当程度浸透されていることに照らす」なとど両論併記するアプローチを繰り返した。
 だけれども「同性カップルに婚姻制度の利用によって得られる利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない本件諸規定はもはや個人の尊厳に立脚すべきものとする憲法24条2項に違反する状態にあると言わざるを得ない」と結論づけたが、やはりここでも「様々な検討・調整が避けられず、立法府における検討や対応に委ねざるを得ない」とし、「憲法24条2項に反するとまでは認めることができない」と断定した。

 婚姻平等法
   の制定を

 「結婚の自由をすべての人に」九州訴訟弁護団は、判決に対して「本判決は、同性カップルに対し婚姻制度による利益を一切認めず、自らの選んだ相手と法的に家族になる手段を与えていない法律の規定は、憲法24条2項に違反する状態にあるとの違憲判断を下し、国はこの状態を解消する立法措置に着手すべきと判示しました。
 結婚の自由がすべての人に認められる社会の実現に向け、更に大きな一歩となる画期的な「違憲状態判決」を得ることができました」と明らかにしている。
 福岡地裁判決を受けて「結婚の自由をすべての人に」訴訟団の取り組みは、高裁での取り組みとなっていく。すでに札幌地裁(21年3月/14条1項は違憲、24条2項は合憲)、大阪地裁(14条1項は合憲、24条2項は合憲)、東京地裁(22年11月/14条1項は合憲、24条2項は違憲状態)、名古屋地裁(23年5月/14条1項は違憲、24条2項は違憲)で判決が出ている。判断は、分かれているが、いずれにしても「様々な検討・調整が避けられず、立法府における検討や対応に委ねざるを得ない」などと丸投げの姿勢だ。
 岸田文雄首相は、同性婚の法制化を否定し、あげくのはてに「国が同性婚を認めていないのは、不当な差別であるとは考えていない」、「極めて慎重に検討すべき課題。家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせた上で判断することが大事」(国会発言)などと敵対発言を繰り返している。
 「結婚の自由をすべての人に」訴訟団の闘いの成果をバネに婚姻平等法(①異性または同性の当事者間で婚姻が成立する②特別養子縁組やその他の養子縁組に関する規定を整備③法令中の文言の「夫婦」「妻」「夫」を「婚姻の当事者」「親」へと性中立的なものに改める)の法制化を実現しよう。
      (遠山裕樹)

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