コソボ問題・多民族的・民主的解決に向けた長期的支援を

カトリーヌ・サマリに聞く

 3月24日に開始されてから78日間に及んだNATOのユーゴ空爆は、6月4日に停止された。計3万4千回以上に達した空爆は、数千、数万のユーゴ民衆を殺し、傷つけ、その生活基盤を破壊しただけでも、民族間の対立を修復不可能なまでに深刻化させた。ユーゴ治安部隊によって追い立てられていたアルバニア人難民の帰還が始まるとともに、今度はコソボから、何万のセルビアやロマ人が難民となって追い立てられつつあり、アルバニア人によるセルビア農民大虐殺も報じられている。以下のインタビューは、空爆が続いている時に行われたものである。


セルビア民衆の現在の意識

――セルビアの人びとは、コソボのアルバニア人に対する侮辱行為について知っているのでしょうか。

 本当のところは知っていません。幾つかの例外はあります。人権グループなどです。それに旧ユーゴスラビア全体の芸術家たちを結集した多言語的劇場の伝統があります。ベスナ・ペジッチの市民同盟のような一部の野党は、コソボでのセルビア人の暴力を批判してきましたが、アルバニア人の民族問題については認識していませんでした。進歩的なセルビア人の間には、ある種の反民族主義的な「市民」意識が存在しています。彼らはセルビア人とアルバニア人の民族主義を同等に非難する傾向があります。
 ボスニア戦争の恐怖は、セルビア民族主義者の一部を反戦陣営に押しやりました。ドブリツァ・コジッチのような知識人や、副大統領のブク・ドラシュコビッチなどです。彼らは依然としてボスニアやコソボを「セルビアの領土」と考えていますが、もはやそこでの民族浄化を支持していません。
 しかしセルビアの政治のねじれと転換によって、戦線は混乱してきました。ゾラン・ジンジッチの民主党はミロシェビッチに断固として反対してきたために、セルビアの指導者がボスニアを併合するという「大セルビア」構想と決別したとき、「民主」派はウルトラ民族主義者のラドバン・カラジッチとともにミロシェビッチに対抗するブロックを形成しました。
 コソボ解放軍(UCK)によるセルビア市民とより穏健なアルバニア人への襲撃によって、事態はまた複雑になりました。コソボのアルバニア人との対話を築き上げようとしてきたセルビア人は、今や「アルバニア人のテロリズム」についてのセルビア政府の主張を受け入れるようになっています。
 セルビア人の多くは、コソボからアルバニア人が流出している主要な原因はNATOの爆撃のためだという政権側の主張も受け入れています。もちろんミロシェビッチが民族浄化を認めるのではなく、NATOの爆撃の背後にそれを隠しているのは、こうした暴行への大衆的支持がほとんどないということを示唆するものです。セルビア人の青年は、コソボのアルバニア人を追放する闘争のために死ぬ用意はできていません。
 しかし、「国際社会」がクロアチアとボスニアからの二十万人に上るセルビア人の追放を受け入れ、セルビア人が居住するクロアチアのクライナ地方にいかなる自決権を与えることも拒否した後では、セルビア人のほとんどはコソボの分離を認める用意などありません。
 もちろんセルビア人の多くは、クライナ地方のセルビア人が近隣のクロアチア人に行った民族浄化を忘れてしまっています。しかしここでの主要な教訓は、この地域の本物のオルタナティブな政治は、旧ユーゴスラビアの全民族の自決権を明白に支持することを避けることはできない、ということです。

セルビア内の民主的反対派

――セルビア内部の民主的反対派の現状はどうなっているのでしょうか。

 ミロシェビッチに反対する「ザイェドノ」(団結)連合はバラバラになってしまいました。「ザイェドノ」は一九九六年の選挙で目ざましい勝利を収め、冬季全体を通じて、とりわけ青年たちを中心にミロシェビッチが選挙結果を尊重するよう求めるデモが行われました。ミロシェビッチへの反対は、この脆弱な連合を固く結びつけるものでした。そこにはベスナ・ペジッチの非民族主義的な市民同盟(その起源は、アンテ・マルコビッチの改革党)と、二つの穏健な民族主義政党――ジンジッチの民主党とブク・ドラシュコビッチのセルビア再生党――が含まれていました。「ザイェドノ」は真の綱領的統一性がなく、破滅的な一連の権力闘争とベオグラードや他の市の行政府での腐敗スキャンダルで打撃を受けました。
 いくつかの小さな社会民主主義グループが形成され、「ザイェドノ」から分裂しました。しかしこれはきわめて周辺的な存在です。ミロシェビッチの政党がセルビア社会党を自称しているので、セルビアにおいて左翼であることは困難なのです。
 ミロシェビッチの妻のミリャナ・マルコビッチが、小さな「ユーゴスラビア左翼連合」(JUL)を指導しており、そこには多くのセルビア人反民族主義者やもともとのユーゴスラビア連邦の支持者が参加しています。ミロシェビッチはある時には自らを反民族主義者として押し出すためにJULを利用し、またある時には自らのセルビア民族主義的信条を打ち出すためにJULとは距離を取ります。JULの社会的基盤は農民と窮乏化した労働者であり、被保護者の支持構造を作り上げるために政権との結びつきを利用しています。
 極右はセルビア政治の中で大きな位置を持っています。ボイスラフ・シェシェリの急進党はまさしく民族浄化の党であり、血にまみれた大セルビアを建設する党です。シェシェリは、ボスニアのセルビア人の中のラドバン・カラジッチ派の主要な支持者でした。
 ミロシェビッチは一九九〇年から九三年にかけては極右と同盟していましたが、その後彼らとは距離を取るようになりました。しかしこの前の選挙でミロシェビッチは絶対多数を取ることができず、現在彼は社会党を中心的基盤としながら、極右派のシェシェリと左派のJULとの連合を結んでいます。ユーゴスラビア連邦のレベルでは、ミロシェビッチは彼の旧敵であるブク・ドラシュコビッチ(選挙をボイコットした、元「ザイェドノ」を構成していた党)との連合を結びました。
 純粋に政治的な側面を別にすれば、ミロシェビッチは警察、特殊部隊、準軍事組織に強力な支持基盤を構築してきました。彼は、ユーゴスラビア軍にはそれほど信頼を置いていません。軍はその考え方においてもっとさまざまな傾向を含んでいます。しかし軍は、クロアチア、ボスニア、コソボでほとんどの汚い仕事を遂行してきた極右派民兵に武器や制服を提供してきました。ユーゴスラビア軍は、ほとんどのケースでは民兵が殺害を行うのを支援する役割を好んで果たしてきました。
 セルビアの体制を理解するためには、合法的な顔と、腐朽した残虐な内情とのこの結びつきを分析しなければなりません。極右民兵のHVOが正規軍にもっと緊密に統合されていたクロアチアでは、きわめて似通った力学が存在しています。
 多くの小さなリベラル政党、社会民主主義政党が、とりわけベオグラードの外側、ならびにユーゴスラビアの中で最も多文化的で多民族的な地域であるボイボディナ〔自治州〕に存在しています。それらの政党のほとんどが最近、民主主義政党連合(SDP)を結成しました。その組織は、地域主義、分権化、反戦、反民族主義の要求と「迅速で公正な民営化プロセス」を提起しています。
 モンテネグロでは、地域の旧共産党指導部が、その観光収入のほとんどを自らの小共和国に確保し、自国にあるユーゴスラビアの唯一の海港により多くの支配権を行使することを望んでいます。分離主義への同調の拡大(NATOの空爆までの間)は、旧ユーゴスラビアの最も豊かな共和国だったクロアチアとスロベニアで見られたのと同様の力学を反映していました。
 セルビアにも多くのNGOや市民組織があります。その中には「ウィメンズ・イン・ブラック」などの平和グループ、「SOS虐待された女性たち」、独立労組、そしてさまざまな左翼知識人や同調者たちのグループがあります。こうしたグループは小さくて弱体です。しかし、ドイツやアメリカなど「民主主義」諸国での同様なグループの弱さを考えれば、私たちは進歩的なセルビア人が直面する真の困難さを認識すべきです。こうしたイニシアティブに対する国際的な連絡と支援が非常に重要です。

戦争の近隣諸国への影響は

――戦争は近隣諸国にどのような影響をもたらしているのでしょうか。

 マケドニアへのアルバニア語を話す難民の大規模な到着に対して、それがマケドニア人口の25%に上るアルバニア人マイノリティーの数を増大させ、自治や分離の要求を促すのではないかと危惧している保守的潮流は、危険なものと認識しています。一部の難民への虐待は、排外主義的興奮の気分が成長していることを反映しています。
 マケドニアは旧ユーゴ連邦の中で最も貧しい共和国(コソボよりも豊かでしたが)で、その南隣に位置するギリシヤから経済的差別を受けています。マケドニアの指導者は、セルビアとの良好な関係を保持するために闘っており、NATO軍がユーゴスラビアに対する侵略の基地として自国を利用するのを認めることに渋々の態度を取っています。マケドニアの弱さの兆候は、隣国ブルガリアの民族主義潮流によってつかまれ、利用されています。彼らはマケドニア語をブルガリア語の一方言として以上に認めず、150万人に及ぶスラブ系マケドニア人を支配するか、ブルガリアに併合しようという意図を持っています。
 アルバニア本国は、あっという間にNATOの中心的基地となりました。人道組織は、NATO軍が彼らをカムフラージュとして利用し、市民や難民たちを援助する彼らの活動能力を削減していることにすでに抗議しています。極度の貧困と、コソボからの膨大な難民の流入は、あらゆる種類のマフィア・スタイルの行為を促進してきました。
 スターリニスト体制崩壊後の腐敗と権力闘争は、アルバニアの中で暴力と蜂起を繰り返し引き起こしてきました。コソボ解放軍(UCK)は、この混乱から利益を得て、アルバニア北部(ならびにアルバニア人が多いマケドニア北西部)に多数の基地を建設しました。
 ボスニア-ヘルツェゴビナはふたたび爆発の瀬戸際にあります。アメリカは、ミロシェビッチを北と西から包囲するためにクロアチア軍を強化しようとしています。しかし米政権でさえも、クロアチアの独裁者フラニョ・ツジマンがボスニアのクロアチア人同盟者に対して限定された統制力しか持っておらず、もしそれが大クロアチア主義の利益にかなうならばボスニアを不安定化させようという意図を持っていることを知っています。
 米政権は、もしツジマンが西部ボスニアのクロアチア人分離主義者を統制し、クロアチア軍のトップにいる多数の戦争犯罪人をハーグの国際常設戦争犯罪裁判所に引き渡すならば、クロアチアのNATOへの加盟を歓迎することを申し出ました。
 アメリカはツジマンのHDZ(クロアチア民主同盟)に対して、ヘルツェグ・ボスナの在ボスニア・クロアチア人「国家」を、現在のクロアチア―ムスリム連合の中に解消するよう説得してきました。しかしボスニアのクロアチア人指導者は、モスタル地域における「クロアチア的現実」を再び要求し、そこではボスニアの分割の力学が強化されています。
 ボスニアのセルビア人支配地域では、シェシェリの急進党がきわめて似通った動きを強めています。ボスニア全土で行われた直近の選挙では、「インターナショナル」派(すなわち多民族的で、反民族主義)の候補が、クロアチア人とセルビア人の双方の民族主義者から肉体的襲撃を受けました。
 最近ボスニアから発せられた唯一の良い情報はさまざまな社会民主主義組織が再統一したことです。しかし、彼らの綱領には進歩的有権者を満足させるものはほとんどありませんでした。

即効的解決策提起は不可能

――それでは、この危機への解決策は何なのでしょうか。

 当面のところ、いかなる種類のものであっても進歩的「解決策」を提起することは不可能です。進歩的闘争のための条件を悪化させる、統制不能の力学を示す新しい証拠が毎日のように届けられています。
 したがって私たちは、緊急の連帯的課題を急いで果たし、現実には悲劇を悪化させるすべての「行動」提案への批判精神を保持すべきです。そして、心底において、全ユーゴスラビアの危機を解決する上で不可欠な多くの長期的問題に取り組み続けるべきです。
 ベルリンの壁は、資本と富の新しい壁に取り替えられました。東欧の人びとは、幻想的な安定への探究によりさまざまな民族主義体制の均衡を取る、NATOの「現実政治」に対するオルタナティブを求める位置にあります。
 欧州連合はシェンゲン国境協定を利用して、バルカンの難民や良心的な抗議者を排除しました。長期的には、私たちは異なった経済的ロジックを持った別のヨーロッパを必要としています。それは個人的かつ集団的な民主主義を伴ったものです。それは、大陸のすべての人びとが自らの将来について決定する権利を承認するものです。
 しかし私たちは、西欧の「民主主義的」条件の下でさえも、進歩的オルタナティブを構築する上できわめて限定された成功しか収めていないことを認めなければなりません。私たちは、バルカン諸国で登場する進歩的潮流が直面する困難を過小評価するべきではありません。
 私たちは、バルカン諸国で競い合っているすべての主張を同一のレベルに還元すべきではありません。支配している民族がおり、支配されている民族がいます。しかし彼らは、それぞれのマイノリティーが他のグループのポケットの中に入れられ、交互に搾取される世界のこの地域において、より混合されていく可能性があります。
 犠牲者にとっての展望を立てていくということは、混合と混交のアイデンティティーを主張する「コスモポリタン」の視点で事態を見るために、セルビアにおけるコソボのアルバニア人、クロアチアのセルビア人、ボスニアのムスリム、そして旧ユーゴスラビアのすべての人びとの視点で見ることを意味します。
 私たちは、新しい国境線を超えた市民、反民族主義者、労働組合、フェミニストの小さなつながりを打ち立てる、現存する苦痛に満ちたプロセスを支援していかなければなりません。なぜなら、外部から、あるいは上から押しつけることのできる「政治的解決」など存在しないからです。
 そして最も緊急の課題は明白です。コソボの人びとは自らを防衛する権利を持っており、私たちは難民や、追放された人びとへの物質的・政治的支援を組織すべきです。NATOの爆撃が、コソボのアルバニア人の生命や自由の防衛を保証するものではないこと、NATOの侵略の影響に苦しめられているのはミロシェビッチ政権よりもセルビア人であるということは、もはや明白です。空爆はやめられなければなりません。生命を救い、ミロシェビッチに対決する政治的空間を再開し、コソボでの犯罪行為を暴露する道は、NATOを除く多国籍的な保証の下に追放された人びとが帰還するプロセスを通じて現れるでしょう。(「インターナショナルビューポイント」99年6月号)

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