ブラジル・州政府をテコに根本的変革めざす労働者党(PT)の闘い

リオグランデドスル州の経験から(マーク・ジョンソン)

 ブラジルの大衆的労働者政党であるPTが、昨年のリオグランデドスル州知事選に勝利して州政府を獲得した。リオグランデドスル州はPT内左派が強力な基盤を持ち、州都ポルトアレグレではPT内の第四インター派が市長に就任している。リオグランデドスルの労働党組織は、徹底した大衆動員を基礎に中央政府と対決しつつ、民衆の要求を実現する政策のために闘っている。

民衆の利益を体現する政策

 一九九八年の激烈な選挙戦はブラジルのリオグランデドスル州の住民を二つの陣営に引き裂いた。右翼の諸政党は分裂し、混乱していた。その結果、新しい体制は一定の活動の余地を見い出した。
 昨年末、きわめて激しい選挙戦のうえで、オリビオ・ヅツラが五一パーセントの得票率でブラジル最南端のリオグランデドスル州の知事に選出された。
 知事に就任したヅツラが見いだしたのは州政府の惨澹たる状況だった。きわめて大規模に実施された民営化にもかかわらず、その前の保守派政府のもとで州政府債務は三倍になっていた。また一連の怪しげな取決めによって州政府の資源や権限が建設、製造および農業関連企業のグループに引き渡されていた。
 ブラジルの金融危機はその通貨レアルの価値を半分に下落させ、多くの州政府を破産寸前に押しやったが、この経済危機が到来する前の段階において新しい「民衆戦線」政府は異常な困難に直面した。
 野党はこれをとらえ、労働者党(PT)の選挙公約が実現できない無謀なものだったと非難し、「統治しなければならない時がきたのだ」とわめきたてた。
 副知事のもとで活動しているルイス・フェリペ・ネルソンは、そのような非難は不当であるとし、「右翼は州政府をにぎっていた三年ほどの間にできなかったことをわれわれに三ヵ月でやらせようとしている」と述べている。
 「われわれの主要な選挙公約は医療、教育および土地なし農民の住居を優先的課題にしている。われわれは独自の政策を開始したし、すべての分野でほぼ目標を達成している」。
 ブラジルのすべての州政府がそうであるように、リオグランデドスル州も資金不足である。ネルソンによると、徴税の改善が解決策の一部である。「脱税が常習化しており、前州政府によって導入されたさまざまな免税措置がある。リオグランデドスル州の主要企業は税金をまったく支払っていない」のであり、これらの免税制度が再検討されている。
 選挙キャンペーンにおいて、オリビオ・ヅツラは「法的に完全であり、社会的に正当な」取決めだけしか尊重しないと表明していた。新しい州政府は免税制度にある多くの抜け穴を確認しており、ネルソンによると「かなりの数の」免税措置が廃止されることになりそうである。
 ヅツラ州政府は社会的影響という観点から税制優遇措置と投資奨励措置についても再検討している。最近、リオグランデドスルの州都であるポルトアレグレの労働者党政府はラテンアメリカ最大の大型スーパーマーケットの建設を認可したが、その条件として大型スーパーの出資者は当該の建設予定地を占拠して住み込んでいた居住者のために別の住居を用意しなければならなかった。
 前州知事は大規模な自動車組立工場の建設を計画しているゼネラルモーターズとフォードに対して投資奨励措置を約束していたが、ヅツラ州知事は今年三月この優遇措置を中止した。
 資金は州政府の主要な優先課題である医療と教育の分野に振り向けられる。再配分される四億六千六百万レアル(三億ドル)によって三万千戸の住宅、三万六千の学校教室または五千二百の地域医療センターを建設することができる。資金の再配分によって、一万千六百五十の農民家族に新しい住居が用意される(州政府は今年中に一万家族に新しい住居を提供し、ヅツラ知事の四年の任期中に十万の新しい住居を用意することにしている)。
 本流の政治家たちは経済界とメディアに強力な支持基盤をもっている。だがリオグランデドスルの労働者党の支持基盤は選挙における支持者と労働組合だけである。ヅツラ州政府がその前途に横たわる障害を克服できないとき、あるいはその計画を支持する大衆的動員を維持することができないとき、PTの支持基盤は消滅するだろう。
 しかし、これまでのところ州政府のチームは大衆的信頼を確保している。労働者党のイグナシオ・フリッツェン組織部長は、ゼネラルモーターズとフォードに対する投資奨励措置を州政府が中止したことについてこう語っている。「非常に好ましいことだった。これはわれわれの選挙綱領で具体的に述べられていた。州政府によるこの決定は、それが取り組もうとする優先課題が前州政府とどのように違うかということを明確にする。選挙戦と同じように、この問題も州全体を大きく引き裂いた。開発と近代化をめぐって二つのモデルが対決しているのである」。
 ゼネラルモーターズとフォードとの取り決めの問題は州政府の補助が巨額であるということだけではない(インフラストラクチャ建設のコストが四十七億レアルで、租税免除が五十億レアルだった)。現実には、自動車生産への投資が他の経済活動への投資よりも少ない雇用しか創出しないものだったからである。
 州政府財務部によると、自動車にたいする百万レアルの需要は百三十九人の雇用をつくりだすが、同じ大きさの需要による雇用創出効果は農業および漁業で二百九十八人、衣料部門で二百七十三人、畜産業で二百五十三人、コーヒー産業で二百四十七人およびミルク生産部門で二百四十一人なのである。
 問題は何を優先するかということである。フォードとゼネラルモーターズとの秘密取り決めを暴露している州政府声明によると、「前州政府が四年間で公共医療制度に投じた額は二千万レアルにすぎなかった。他方、州政府がフォードとゼネラルモーターズに支払うことになっていた額は今年だけでその二十倍だった」のである。

大衆動員で中央政府と対決

 「外国の多くの評論家はこの政府にたいする大衆的支持の度合を過小評価している」として、ネルソンは次のように指摘している。すなわち「選挙戦のあらゆる段階と州政府を獲得して以後も、住民は情報をあたえられ、相談を受けている。『参加型予算』――自治体レベルにおける直接民主主義のシステム――が非常に強固な支持基盤を作りだしている。われわれに対する支持の後退も当然ありうるが、われわれは大衆動員の新しい要素をつくりだすことができる」と。
 イグナシオ・フリッツェンによると、「労働者党の基本的役割は州政府のプロジェクトが確実に前進するようにすることである。このことは、かなりの社会的勢力をわれわれの選挙綱領の支持のために動員することを意味する。われわれの改革を実施するためには、かなりの努力と一定の時間が必要である。われわれは説明し、教育し、動員しなければならない」。
 フリッツェンは次のようにつづけている。「『向こう側の連中』に対立する州政府の政策はかならず衝突をつくりだし、メディアからの攻撃をまねき、混乱をもたらす。したがって住民との不断の対話がわれわれにとって必要である。労働者党はわれわれのオルタナティブを擁護する議論をあらゆるところで展開しなければならない」「労働者党は、政府が人民のために統治することを保証するために活動しなければならない。労働者党が州政府を獲得した他の州では、そのようになっていない。これは重大な誤りであり、われわれはこの誤りを繰り返してはならない。」
 労働者党のコミュニケーション部長のルシオ・コスタによると、そのためには「一九七〇年代初めにチリの左翼がアジェンデ政府のもとで行なったことと正反対のことをしなければならない。当時、とくにチリ共産党は『政府にその仕事をやらせる』ために大衆動員を抑制したのである」。
 コスタは次のようにつづけている。「われわれはその正反対のことを行わねばならない。参加型予算のために住民を動員し、リオグランデドスル州全体において参加型予算のプロセスを築きあげなければならない。このことは、左翼政党、労働組合、教会および住民組織の連合をあらゆる地域において組織することを意味する。労働者党がきわめて弱い遠隔農村部において、このことは重大な財政的、組織的、政治的な努力を意味する」「まさにこの大衆的参加によって、われわれは中央政府との対立を深める力量を獲得するのである。そうしないと、われわれは敗北することになる」。

大衆動員で中央政府と対決

 ブラジルの政治制度は州知事にかなりの権限をあたえているが、右翼の州議会多数派が民衆戦線州政府にたいする大きな制約になっている。ブルジョア・ブロックの反対グループと協議する若干の可能性があるが、州政府の統治能力を確保する主要な戦略は州議会に圧力をかける社会運動の展開である。
 州政府内外で活動している労働者党指導者は、労働者党とその他の左翼政党が州政府に対する支持を維持するために社会運動を動員しなければならないと強調する。州政府自身はその政策綱領の実施に努力を集中し、連邦政府と対立する他の勢力との連携につとめる。
 この分業は、党、労組および政府の役割についての労働者党の考えを反映している。ネルソンによると、「左翼政党は労働組合をコントロールするのではなく、社会運動の自主的組織化と自立性を発展させるべきであるが、それと同じことで、政府を獲得した左翼政党は党の役割と労働組合の役割を区別すべき」なのである。
 「州政府はさまざまな社会的グループに対して財源を分配し、これらの社会的グループを調停する。党はこのプロセスをどのようにコントロールするのだろうか。労働者党は州政府、労働組合および社会運動を率いている。われわれはこれら三つのものの役割をはっきりと区別しなければならない」。

「清潔な州政府」の維持を

 ブラジルは腐敗と恩恵依存関係が政治プロセスにおいて中心的位置をしめている国であり、リオグランデドスルの労働者党は「清潔な州政府」を維持することにしている。「前州政府は支持者のために大量の雇用をつくりだし、州政府関係請負によって支持者に報い、州機構を利用して支持者を動員してを州政府を握りつづけようとした。われわれの統治はこれと違ったものでなければならない」とネルソンは述べている。
 これは、州政府軽飲食予算を月間三万レアルから三千レアルに削減して公務員のコーヒーを自弁にすることを意味するだけではない。また、それは副知事公舎を参加型予算を統括する新しい部局に引き渡すようなジェスチャーにかぎられるようなものではない。しかし、これらは州政府の新しいスタイルを非常によく示すものである。州政府には政治的に任命することができる五千のポストがあるが、労働者党はそのうち約三千五百のポストに「信頼できる」人々を任命し、残りのポストは空席になっている。

ゆっくりと、しかし確実に

 ヅツラ州政府は前州政府から持ち越された債務を認めることを拒否することによって連邦政府と対決する方向にただちに踏み込まなかったが、このことはリオグランデドスル州外部の労働者党の活動家にとって意外なことだった。
 この点について副知事のミゲル・ロッセットは次のように述べている。すなわち「われわれは花火大会のような政府ではない。われわれは堅実な方式で新しいリオグランデを建設しようとしている。旧来のシステムを破壊し、われわれが望む未来を確認する不断のプロセスを確立しようとしているのである。前進のリズムは、生起する問題に対処し、過去から受け継いだ支離滅裂な状況を克服するわれわれの能力によって決まる」と。
 この根気強さは、新しい州政府と近い労働組合指導者荷も見られる。ある教員組合の指導者は次のように述べている。「ブラジル全体で公共部門の崩壊が進行し、公務員の給料が数ヵ月にわたって未払いになっている状況のもとで、労働者党州政府が首切り阻止と医療・教育・社会福祉サービスの現在の水準の維持のような最小限のことをおこなうならば、またこの州政府が前進しつづけようとするならば、この州の住民はその政府を右翼に明け渡すようなことを絶対にしないだろう」と。
 このような慎重なアプローチの結果、今年初めに奇妙な状況が発生した。すなわちミナスジェライス州知事である右翼のイタマル・フランコが連邦政府との関係で三人の労働者党州知事よりもはるかに対決的な姿勢をとったのである。このことについてネルソンは次のように述べている。
 「イタマル・フランコは大言壮語の人であり、州議会とミナスジェライス州の企業グループによって支持されている。彼は、ミナスジェライス州のためによりよい条件を獲得するために大いに勇ましくなることができる。彼が失敗しても、ミナスジェライス州の右翼支配にとってあまり大きな影響はないのである」。
 「しかし、われわれの状況は非常に異なる。オリビオ・ヅツラは五一パーセントの得票率で当選したのであり、われわれの民衆戦線ブロックは州議会の多数派ではない。主要な経済グループとメディアはわれわれと対立している。われわれができることは、住民を動員することであり、連邦政府に反対する用意がある他の州と連携しようとすることである」。
 リオグランデドスル州は常にブラジルでもっともラディカルな部分だったし、強い地域的独自性をもっている。連邦政府はリオグランデドスルとその州政府を孤立させようとしているが、それは成功していない。リオグランデドスルはブラジルで五番目に豊かな州であり、また州政府のラディカルな政策にもかかわらず、その州予算の状況は右翼支配下の他の多くの州よりもはるかに良好である。
 二月初め、ヅツラ州政府は七人の州知事――そのうちの三人は労働者党州知事――による共同政綱の発表に参加した。七人の知事による「ポルトアレグレ文書」は、連邦政府が各州との合意を順守し、また財源の配分で各州を平等に取り扱うように呼びかけている。連邦政府に対する州の債務はすべて統合され、その利子を六パーセントにすべきである。七人の州知事は輸出物品に対する売上高税の再導入を求め、さらに連邦政府に対する州政府の債務の支払いを強制するために連邦政府が州政府の基金を押収する権限を認めている連邦レベルの法律の廃棄を呼びかけている。

革命をめざす闘いのために

 たとえ経済情勢が悪化するとしても、労働者党と労働組合の指導者は労働者とヅツラ州政府が対立するようになると考えていない。コスタは次のように述べている。「十年間にわたる労働者党のポルトアレグレ州都政府のもとで、公共部門労働者のストライキが何度かおこなわれた。ブラジルにおける一般的慣行と非常に違って、ストライキ労働者に対する差別的措置や解雇はまったくなかった」。
 「避けがたいことだが、住民の一部が州政府と対立するとき、労働者党は州政府が住民の市民的権利と労働組合の権利を絶対的に尊重するようにする。しかし、公共部門の賃金は非常に低く、州政府には財源がないというのが現実である」。
 「このような状況のもとで、われわれは革命的指導部としてどうすべきだろうか。われわれの州政府は民衆のための政府であって、階級協調のための政府でないので、われわれはこの州政府を防衛する」。
 「労働者党内部の左翼は州政府と労働組合において重要な役割をはたさなければならない。賃上げのための財源がなければ、労働者の状態を改善し、労働者を民衆戦線の政綱に獲得するために他の手段を探さなければならない」。
 CUT労働組合連合のリオグランデドスルの指導者は次のように述べている。「問題は、賃上げがあるかどうかではなく、首切りがあるかどうかである。州政府は、解雇を回避し、サービスを維持するという選挙公約を守っている。他方、労働組合の側は教育システム内部における民主主義的コントロールの強化、カリキュラムの近代化と民主化、等々のために努力を集中すべきである」。
 右翼政党と労働組合内における彼らの支持者は、労働者党の活動家が労働者の利益を州政府に従属させ、労働組合にブレーキをかけているといって非難している。しかし労働者党の指導者は民衆運動内部で対立を解決することができると考えている。
 連邦政府とIMFは公共部門の削減と民営化をブラジルのすべての州政府に強制してきている。いくつかの州では、公務員に対する賃金未払いが六ヵ月にもなり、広範な住民層の初等教育と基本的医療サービスさえ否定されている。
 ある労働組合指導者は次のように述べている。「ブラジルの他の州であれば、われわれの多くはすでに解雇されているだろう! しかしリオグランデドスルの州政府はわれわれのものである。社会運動、労働者党、そして州政府のあいだに良好な有機的関係がつくられている。現実には、公共部門労働者がその状態を改善する唯一の方法はわれわれのプロジェクトに参加することである」。
 リオグランデドスルの労働者党がその足場を固めるにつれて、ラテンアメリカから多くの人々がここを訪れ、その活気に満ちた経験から学ぼうとしている。しかし、リオグランデドスルの経験は社会的闘争に取って代わるものではないし、また社会主義への近道でもないとして、ネルソンは次のように述べている。
 「ここで行なおうとしていることは公共サービスの公平な分配である。それは社会関係に挑戦するものではないし、生産手段の所有を転換しようとするものではない。われわれは、既存の社会システムから断絶によってのみ根本的前進が可能になるという考えを保持している」。
 「そのための闘争に対するわれわれの貢献とここで行っていることの独創性は、断絶に向かう可能性をつくりだすことができる社会的ならびに政治的闘争に広範な住民諸層をみちびく直接民主主義の確実なシステムを構築するところにある」。
(インターナショナルビューポイント」99年6月号)

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