ヨーロッパ労働組合左翼の危機と新たな可能性
フランソワ・ベルカメン
99年一月一日から、単一通貨ユーロがスタートした。80年代から続く新自由主義的政策は、ユーロ導入をめぐって一層、強化されてきたが、社会民主主義の全面的右傾化と結びついた労組既成指導部の無力化は、労働運動全体を大きく後退させてきた。労働組合左翼の困難な闘いは続いている。
社民の全面右転換と労組指導部
1980年代初頭、西欧の社会民主主義諸政党は、拡大する新自由主義の攻撃の基本的要素を受け入れた。それは反社会改革であり、民衆の反動的イデオロギーによる「洗脳」であり、貧しい人びとから金持ちへの富の再分配であり、労働組合の意識的弱体化であった。
これは綱領的自律の完全な放棄であった。それは平時における、最悪かつ最も長期に及ぶ社会民主主義の「背信」だった。社会民主主義諸党は、「選挙で勝つ可能性」を捜し求めて、彼らの1930年代以来そのためにつくしてきた基本的諸政策--ケインズ主義経済政策、公共サービスの防衛、国家の介入、政府による社会的・経済的「プログラミング」、労働組合の一般的な社会的要求の一定のレベルにおける支持--を放棄した。
ベルリンの壁の崩壊とともに、社会民主主義者は熱心に、喜びさえをも持って欧州通貨統合(EMU)構想にしがみついた。彼らは自分自身と支持者たちに対して、EMUについてマーストリヒト条約が要求する(新しい)犠牲は、将来の新たな繁栄の時代の保証であると信じ込ませた。
ヨーロッパ大陸の主要労組連合の指導者たちは、それを支えるためにあらゆることを行なった。彼らは労働者の要求をEMUの統一基準が設定する限界内にとどめようとした。その一つの影響は、各国の労働運動をEU加盟諸国間の国民的競争の立場に追いやったことであった。明らかにそれは、あらゆるヨーロッパ規模のキャンペーンや動員やストライキを排除した。
労組指導者は、欧州統合を労働者を救うものとして押し出した。彼らは強力で活動的な欧州の労働組合運動が、自らの対案的な政治・社会政策を持つというオルタナティブな展望を破壊した。
労組指導者は、欧州労働組合会議の役割に制限を課した。それはロビー活動や圧力グループ以上のものではなかった。
この戦略に対する一般組合員からの反対は大きなものではなかった。ヨーロッパにまたがる左翼が登場してこなかったという事実は、労働運動の歴史的危機の深さを示している。
これは「不利な力関係」よりももっと悪いことである。伝統的な労働運動は、時期を問うことなく低迷している。この情勢はまさに劇的なものである。
勤労人民は、細分化と分割の力学の中で変形をこうむっている。このような新たな条件下で労働組合活動はどのような形態をとるべきなのだろうか。経済がますますグローバル化していき、超国家的な欧州権力センターがゆっくりと形成されていく中で、伝統的な政治的・制度的権力構造は希薄なものになっている。この情勢は、勤労人民の団結を可能にさせる要求を促進し(最善の場合)、進歩的な社会立法によって支援された百年の歴史を持つ労働組合の戦略をマヒさせている。そして、社会民主主義諸政党とのますます疎遠になっていく関係(一部の諸国では、労働組合官僚は伝統的な政治的言及や圧力から完全に切り離されたものになっている)が、そのプロセスを完了させてしまった。
労働組合内部の伝統的左翼もまた、こうした事態の展開によって弱体化してきた。現実には、きわめて少数の諸国を別にすれば、労働組合左翼は行動的で凝縮した勢力としてはもはや存在していないのである。
労働組合運動の再正統化めざし
われわれがこうした状況を終わらせたいのならば、共同の統一した活動の再建を可能にする分析、反省、綱領的提案が必要である。われわれは、すべての現実に根ざした解放運動が必要とする、基礎からの行動と組織化の方法の再定義、自律的な行動と反応の再発見を必要とする。われわれは、狭い職場内に閉じられた課題の外側で、そして資本-賃労働関係の外側で、労働組合活動の意義を再正統化する必要がある。われわれは社会のすべての被抑圧層の必要を統合する模索を進めなければならない。そこには、とりわけヨーロッパ労働組合が全体としてのレベルで含みこまれなければならない。
最近われわれは、二つの勇気づけられる発展を見てきた。ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ベルギーの労働組合運動の重要な部門の指導者たちが、1998年10月下旬にパリで労働組合左翼のEU規模の会議を組織した。
もう一つの良い知らせは、最近ミラノで行なわれた500人の左翼労働組合活動家の会議である。イタリアでのこの重要な会議は、ヨーロッパ規模の左翼の再編成をめざすグループが、各国において労働運動において持つことのできる潜在的に可能な力を示すものである。実際、労働組合における左翼の調整された活動のこの新局面は、失業労働者、労働組合活動家や、社会運動の再生を支持したその他の人びととと結びついたイニシアティブである昨年(1997年)の失業・周辺化・雇用不安に反対するヨーロッパ行進の調整の中である程度予示されたものだった。
この元気づけられる傾向が打ち固められ、労働者の闘争が全ヨーロッパ化することに希望を持とうではないか。政治状況は成熟している。欧州の新通貨であるユーロが1999年に導入される。これは初めて真の全欧州的執行権力を作りだすだろう。
他方、社会民主主義諸政党はスペインを除くすべての加盟諸国の政府を支配している。彼らは、自分たちが約束していた「社会的で経済的な」ヨーロッパを導入しないことに何の弁解もしないだろう。
プレッシャーを強め始めるべき時である! EUの各国首脳は、その発展の現状に再評価を加えるために1999年6月5日にドイツのケルンで会議をすることになっている。われわれの声が耳に届くことを確実にさせる対抗サミットと全ヨーロッパ的デモの構築を開始する時である。
(「インターナショナルビューポイント」98年10月号)
The KAKEHASHI
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