世界情勢 米国のネオファシスト運動と世界

対米自立迫られる欧州支配層
世界のカードを切り直す激動局面への突入
ジルベール・アシュカル

借りを返せ、がMAGAの論理

 MAGAとして知られる米国のネオファシスト運動が採用した「アメリカ・ファースト」の論理は、経済の国際関係史に馴染みのない者たちには合理的に見えるのかもしれない。トランプと彼の取り巻きに従えば、その同盟国、特にその中でも裕福な諸国、つまり地政学的な西側(特に欧州と日本)および湾岸のアラブ産油諸国を守って巨額を費やしてきた。
 借りを返す時がきている。これらすべての国は、米国へのかれらの投資を、またそこからの購入を特に兵器の購入を増やすこと(軍事支出の増額という欧州への一貫した圧力でトランプが言おうとしていること)で、勘定書に払わなければならない。このすべては必然的に、ネオファシスト・イデオロギーを特性づけている民族主義的な極端なのめり込みに調和する重商主義の論理の中に滑り込む。
 この考えから見た時、米国の軍事支出――それは米国の同盟国のそれを超えるだけではなく、世界の他の国全部を合わせた軍事支出にも一点でほぼ等しい――は、他の者の利益のための主な犠牲になってきた。
 同じ論理に従えば、米国貿易収支の大きな赤字は、米国の善意を利用している他の諸国の結果にほかならず、それこそが、かれらが米国から輸入する以上に米国に輸出している国全部に関税を課すことでトランプが赤字を減らしたがっている理由だ。彼はまたそうすることで、富裕層と大企業に利益を与える減税の手段による彼による国家所得減少を相殺する目的で、連邦の国家所得を高めようともしている。

米国第一の論理と現実は正反対

 しかしながら歴史的な真実は、ものごとに対するこの単純化された描写とは著しく異なっている。第1に、第二次世界大戦後の米国の軍事支出は、今もそうだが、米国資本主義経済の特殊な力学における主要な要素だった。それはそれ以来、「永久的な戦争経済」に基礎を置いてきた。軍事支出は、米経済の方向を調整する点で、また技術的研究と開発に資金を充てる点で、主要な役割を果たし、今も果たし続けている(後者の役割は、米国の伝統的な工業の相対的な衰退後に、米国を技術的な極の位置に戻したひとつの分野であるICT革命で傑出していた)。
 第2に、欧州、日本、またアラブ湾岸諸国の同盟国に米国が提供した軍事的保護は、封建制に似た関係の一部だった。これらの諸国はその中で、米国の専権的指令の下での軍事的ネットワークに参加することに加えて、この大君主に対し大きな経済的特権をも提供した。諸国による米国の利用に基礎を置いているとするような、米国の対同盟国関係に関するトランプと彼の取り巻きの描写と、真実は完全に対立している。ワシントンはその同盟国に、中でも特に富裕な諸国に、それを通じて米国がそれらの国を搾取する経済関係のひとつの型を押しつけてきたのだ。
 それは特に、結果としてこれらの諸国が直接また間接に米国の貿易収支と連邦財政の双子の赤字に資金を出すよう、国際通貨としてドルを押しつけることによるものだ。様々な国が保有する種々のドル建て財と並んで、米国の貿易赤字のドルは、そのいくつかは米国財務省に直接資金を充当しつつ米国経済に継続的に戻ってきていた。
 こうして米国は、それ自身がもつ手段をはるかに超えて暮らし、今も暮らし続けている。それはその貿易赤字の規模で明白な事実であり、それは昨年1兆ドルに達し、その巨大な債務の規模は、36兆ドルを超えそのGDPの125%に匹敵している。米国は、富裕な債権者に対する強者の支配という関係の中で、他の方法に代え、前者を犠牲にして暮らすという、大きな力をもつ債務者の終局的な典型だ。

ロシアの位置づけが変わった


 ウクライナ向けですら、これまでにその国に米国が与えた1250億ドル(そこで彼がこの関係で5000億ドルを費やしたと主張する、トランプの気まぐれな数字とはかけ離れた)は、英国、カナダ、さらに他の伝統的な米国の同盟国が拠出したものを数えなくても、EU単独で提供したものに等しい(EUのGDPが米国のそれよりも約30%小さいにもかかわらず)。
 事実を言えば、ウクライナの戦争推進への資金融通に米国が費やしてきたものは、帝国主義の競合相手としてのロシアを弱体化するというその政策に役立っていた。ワシントンは、ロシア内のネオファシスト的転形を促進し、隣国への侵略に導いた諸条件創出では第1の責任がある。また米国は、そのヘゲモニーへの欧州と日本の従属を確固とするために、冷戦終焉後、ロシアと中国への敵意を意図的に煽った。
 しかしながら、トランプと彼の取り巻きがロシアのウクライナ侵略に導いた情勢創出における前米政権の責任を認める場合、かれらはそれをかれらが偽善的に主張しているような、平和に対するかれらの愛(パレスチナに関するかれらの立場はかれらの偽善を示す最良の証拠だ)からしているのではなく、むしろ、ロシアを帝国主義国家のライバルと見ることから、プーチンをネオファシズムにおけるかれらのパートナーと見ることへの移行、という全体的な流れの中でそうしているのだ。
 ちなみに前者の見方は、ソ連邦の崩壊と世界的な資本主義システムという本道へのロシアの回帰にもかかわらず、1990年代以来ワシントンが益々追求してきたアプローチだ。そして後者の見方では、ロシアの大きな市場と大量の天然資源から利益を得ることに加えて、世界と欧州で極右を強化する点でプーチンと協力することが期待されている。

EUの対中国関係が重要焦点に


 かれらはEUの自由主義諸政権の中にイデオロギー的敵対者と経済的競争相手を同時に見ている一方、ロシアにはかれらと経済的に競争する能力のないイデオロギー的連携相手を見ている。
 他方中国は、トランプと彼の取り巻きから見て、最大の政治的敵対者であると同時に経済的で技術的な競争相手だ。バイデンは同じ政策に従い、中国に対する敵意に関しては、トランプの第1期と第2期の間に連続性を据えた。
 トランプチームは、1970年代に中国がソ連邦から切り離され米国と連携したこととまさに同じく、モスクワを北京から切り離すことを期待しているのかもしれない。しかしプーチンは、彼がかれらの国の支配権に対する米国のネオファシストの永続性に確信を持てない限り、敢えて先の道に踏み出すことはないだろう。
 今大きな問題は、EUの自由主義の枢軸が米国の庇護からの解放という道に踏み出す用意ができているかどうかだ。そして先の道は、中国への敵意におけるワシントンとの連携を止めること、および中国との協力的な関係を打ち固めることを求める。これはEU諸国にさらに、国際法の枠組み内で活動し、国連と他の国際諸機関の役割の強化に貢献するのに用意ができていることを求める。そしてこのふたつのことは、北京が一貫して訴えていることだ。
 EUの経済的利益は、この点でもちろん、特にEU経済最大のドイツ経済の利益の点ではっきりしている。そしてドイツ経済は中国と広範囲にわたる関係をもっている。皮肉なことに、中国は今トランプと彼の取り巻きがが採用した重商主義的アプローチに反対し、世界的な貿易の自由を防衛する点で、またさまざまな名称をもつネオファシストを特性づけている気候否認派を伴ったかれらの拒絶に反対して環境保護政策を防衛する点で、EUと力を合わせている最中だ。

大西洋自由主義システムの死


 ドイツの首相候補のフリードリヒ・メルツにより表現された、ワシントンを批判し、米国からの欧州の独立を訴える鋭い立場は、それらがこの道に従う実際の試みに導くならば、特にフランスの立場が同じ方向に傾きつつあるからには、中国に対するEUの姿勢に反映されるようになるかもしれない。
 これらの事項すべては、大西洋自由主義システムの死、および世界のカードを切り直す嵐のような局面への突入、を確証している。そしてわれわれは後者の始まりにいるにすぎない。
 来年の米下院選挙は、米国の諸制度に及ぼすネオファシストの権勢の強化に導くか、弱体化に導くかのどちらかにしたがって、先の進展を後押しするか抑制するかで大きな役割を演じるだろう。その中で米国のネオファシスト運動は、選挙民主制を次第に掘り崩し、米国の国家諸機構に対するその支配を永続させる努力としてそれらを確保する点で、様々な国のその仲間をまねし始めている。(「インターナショナルビューポイント」2025年3月6日) 

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