公共機関民営化に反対し公務員労働者が大闘争

香港・新自由主義と対決しブルジョア民主派との決別へ

 返還後の株価暴落以降、不景気から脱することができていない香港では、民間企業のリストラやベースダウンなどが毎日新聞紙面を賑わしていたが、香港政府とブルジョアジーは、危機打開のために本格的に公共機関の民営化に乗り出し始めた。それに対して、いくつかの公務員労働組合を中心とする労働者の抵抗が開始された。

公営住宅民営化政策と対決

 4月18日、政府機関の房屋署(公共住宅管理機構)の30の組合からなる房屋署労働組合大聯盟が、公営住宅の管理・保守業務を民間に委託するという房屋署の民営化推進政策に抗議して座り込みとデモを呼びかけた。この民営化政策が、今後公共機関で働く労働者全体に影響をおよぼす可能性があるという危機感から、香港公務員総工会がこの行動に支持を表明し、水務署、機電工程署、郵政署、衛生署、建築署、印務局、市政総署、渠務局、地政署、衛生署、消防處の労働者が多数参加し、参加者は当初の予想を大きく上回る九千人にのぼった。
 民営化の影響に直面しているもう一つの公共機関である水務署(水道局)からは、400人の労働者がこの抗議行動に参加した。また、機電工程署は、この8月から民間企業の参入によって、競争の圧力にさらされることになる。
 房屋署労働者の街頭での抗議行動をきっかけに、政府、ブルジョアジーと労働組合の論争が展開された。政府の報告書では、労働者の怠業行為や余剰人員による公費の「無駄遣い」がつぎつぎに報告された。
 民主党の立法議員で房屋委員会委員でもある李永達は、自分の住んでいる民間住宅がいかに快適で管理費も安いかを例に挙げ、公共住宅の管理を民間企業に任せれば、住民にとっても有利であると発言し、房屋署労働者が労働生産性を高める努力をしなければ民主党としてもかれらの要求を受け入れることはできない、と新自由主義経済の王道を行く主張をしている。
 組合側は、政府は91年から房屋署のある部門の事務員の新規雇用を控えており、退職などの自然減少などによって、以前は労働者一人当たり400戸の住民を管理していたのが、現在では1200戸以上を管理しなければならなっていると反論している。
 香港ブルジョアジーとその奉仕機関である香港特別行政区政府の真のねらいは、無駄遣いや赤字の削減ではなく、年間100億香港ドルにも上る住宅管理・保守という市場である。これは経済危機の中で打開策が見つからないブルジョアジーにとっては、のどから手が出るほど魅力的なものなのである。香港の22社ある住宅関連管理会社のうち15社が、元房宇署高級官僚の天下り先になっており、住宅の管理・保守が民間に委託されることになると当然、天下り官僚の会社がぼろ儲けすることになる。

一斉休暇・徹夜の座り込み

 先駆社を含む十数の労働NGOが結集する反失業聯席も、「強大なナショナルセンターのない香港で、比較的安定して力のある公共部門労働者たちが民営化攻撃に敗北するということは、民間部門の労働者にとっても大きな打撃になる、すべての労働者階級がこの反民営化闘争に連帯しなければならない」という主張のビラを配布した。
 5月5日には全房宇署労働者1万4千人のうち1700百人が一斉に休暇をとり、房宇署の前に結集して抗議行動を展開した。これには他の公務員組合や立法評議会議員なども駆けつけた。200人の労働者は徹夜の座り込みの抗議行動を貫徹した。
 しかし、公共住宅に関する一切の政策を決定する房屋委員会は、5月6日に住宅の管理や補修などを逐次民間に委託することを中心とした民営化案を採択した。組合側はこれに対してサボタージュなどで抵抗し、民営化のテンポは当初の5~7年から、10年に延期された。
 房屋署同様、民営化政策が進められようとしている水務署では、修理など一部を民間企業に委託するという政府報告書が出されている。これにより、少なくとも3000人、最大6000人が失業する可能性がある。水務署の労働者で構成される水務署労働組合聯席会は、5月27日に発表した声明で、水道事業の民営化に反対する立場を明確にし、民営化によって水資源が商品化され、水質管理の低下や水道料金の高騰を招き、600万の香港市民に多大な影響を及ぼすとしている。
 6月7日には、水務署労働組合聯席会の呼びかけで3000人を結集した集会とデモが行われた。デモ隊は特別行政区政府本庁舎で約6000人の署名用紙を政府関係者に手渡した。政府関係者は「水務署の民営化計画は、まだ諮問段階で政府としてはいかなる判断も下していない」としている。

公務員全体にリストラ攻撃

 房宇署や水務署以外にも、リストラ策をはじめとした攻勢が始まっている。郵便事業を統括する郵政署では、700人の非正規雇用労働者を一旦解雇してから、一年間毎の契約社員として賃金を1割から2割下げて再雇用するという計画が進められている。
 このリストラは、1年以内に三段階に分けて進められる。これに同意しない労働者は解雇される。すでに170人の労働者が第一段階の対象者としてリストアップされている。対象者のある労働者は「賃金が下がるほか、一方的な休日出勤やローテーションを強制される。雇用期間が満期になると解雇される」と不満を隠さない。
 陸炳泉郵政署署長は、「これは他の2000人の配達部門の労働者には影響を及ぼさないし、リストラやベースダウンもありえない。ただ仕事量と配置に影響するだけだ」というが、独立系ナショナルセンターの香港職工会聯盟(以下「工盟」)の李卓人事務局長は、このような公務員のベースダウンは民間企業に影響を及ぼし悪循環に陥るだろう、と懸念を表明している。
 公務員に向けられた攻撃は民営化だけではない。香港政府は「公務員改革」の名のもとに契約労働者の増員や勤務評定制度の導入をはかろうとしている。公務員の人事を管轄する公務員事務局は3月に公表した諮問報告の中で、来年度からすべての新規雇用の公務員を契約制として、勤務態度の良い者を長期雇用に切り替えるとしている。
 また、10年後には長期雇用者を三分の一に削減して、残りの三分の二を契約制にかえるとしている。

2万6千人が集会とデモ

 これに対して、公務員の労働組合の連合体が5月23日と30日に大規模な集会とデモを行った。
 5月23日は、公務員労働組合連合会の呼びかけで2万6千人が集会とデモに参加した。公務員労働組合連合会は、1984年に結成された組織で、それまで政府との交渉権を認められていたいくつかの労働組合連合体に不満を持った組合が集まって結成したものである。現在20を超す組合が結集している。集会では房宇署労働組合大聯盟、工盟のほかに、国民党系の港九工団聯合総会の代表も連帯のあいさつをした。
 公務員労働組合連合会の梁籌庭主席が読み上げた集会宣言では、政府の「公務員体制改革」を「偽改革」として、以下の3点を指摘している。
 まず現在進められているリストラ計画は、将来の民営化への道を掃き清めるものであり、民営化は失業やサービスの低下を招き、労働者だけでなく市民にとっても不利であること。
 二つ目に「偽改革」で提唱されている長期雇用の廃止と契約制の導入、勤務評定による賃金の決定は、公務員だけでなく民間労働者の雇用も流動化し、勤務評定の導入は事実上のベースダウンに他ならないこと。
 三つ目に、「偽改革」は「商人治港」(ブルジョアジーによる香港統治)の財官癒着によるベースダウン劇にほかならないこと。
 宣言は最後に「ともにスクラムを組み新時代の挑戦を迎え撃とう。生活のため、尊厳のため、市民のために『偽改革、真搾取』に抗議し、真の改革とサービスの向上を目指そう」と締めくくっている。
 デモ隊は「偽改革反対」「民営化反対」「契約制による安定性の破壊を許すな」「リストラ、失業反対」「房宇署労働組合大聯盟に連帯しよう」「財界と官僚のゆ着によるベースダウン反対」「公務員は団結して本当の改革に参加しよう」というスローガンを叫びながら特別行政区政府本庁舎前まで行進した。
 5月30日は、公務員労働組合連合体の香港政府華員会が集会とデモを呼びかけた。この華員会は、1948年に香港で「労働組合法」が成立し、翌49年に許可された15の工員組合の中でも代表的な労働組合で、68年には在外公務員の団体である西員会と非海外高級公務員協会とともに政府との交渉権を認められている団体である。現在は70の労働組合が結集している。
 集会では黄河華員会副会長が、「政府の改革案は一方的で事前の協議もなく、労働者との話し合いもなかった。現存する協議システムを重視せず、労働組合の地位も軽視したものだ」と批判した。これまでデモなどで訴えるという方法をほとんどとってこなかった華員会も、不安定雇用の導入によって自らの基盤を失うこと、そして今回の「改革」案の事前協議がなく、「政府公認の労働組合」という地位の喪失への危惧から今回の集会とデモを呼びかけた。

世界的な経済危機のなかで

 この2つの大規模な集会とデモは80年代、90年代を通じても稀に見る規模のものである。それは香港および世界的な経済的危機を反映するものでもある。
 アジア通貨危機の一環として、97年10月に起こった株式の暴落による経済危機の影響は、いまだ香港の労働者に大きくのしかかっている。IMFは、当初九九年の香港の成長率予測をマイナス1・0%としていたが、この4月にはマイナス1・3%に下方修正した。香港政府の発表した今年3月の総合物価指数は、5カ月連続の下落となり、昨年の同月に比べて2・6%の減少となった。経済回復の兆しはいまだ見られない。
 4月末に発表された99年1月から3月の失業率は6・2%で(98年8月から10月は5・3%)、失業者数は21万4千人に達した。失業者は1日平均およそ80人増の計算になる。なかでも建設、小売、飲食業、通信業での失業率の上昇が目立つ。しかし、親中国政府のナショナルセンターである香港工会連合会(以下「工聯会」)独自の電話聞き取り調査によると、失業率は13・9%に達するという報告が出ている。
 失業率の増大とともに失業期間も長期化傾向にある。98年11月から99年1月までに、失業期間が半年以上の人間は5万600人にのぼり、失業者総数の四分の一(ちなみに昨年同時期は1万3千人、18%)で、失業期間が長期化している。失業期間が半年以上の人間の五分の三はサービス業で働いている。製造業で働いていた人は19%、建設業は13%にのぼる。香港の新聞には、失業者の自殺や犯罪の記事がほぼ毎日のように掲載されている。
 「かけはし」98年10月5日号で紹介した香港テレコムは、4月20日に顧客サービス部門と回線業務部門の労働者4千人に対して自主退職の勧告を出した。この数字は全労働者の30%に相当する。自主退職者には、勤務年数一年ごとに半月分の賃金を特別金として支払うとしているが、香港最大の民間企業のリストラは他の企業のリストラを加速するだろう。
 会社側は、今回のリストラ策は強制的なものではないと断わっているが、「2000年まではいかなる強制的なリストラも行わない」という発言からも分かるように、それ以降は「強制的」なリストラが行われる可能性も十分にある。結局この自主勧告に応じたのは403人にとどまったが、香港テレコム労働組合は、経営陣が仕事量の増加と士気の低下を招くようなリストラを行わないように訴えた。
 現在香港では、香港人と大陸籍中国人との間に生れた子どもの香港定住権をかちとるために大陸籍中国人の座り込みやハンガーストライキが続発している。しかし、香港政府やブルジョアジーは、香港経済の悪化を理由にその要求をかたくなに拒み続けている。香港ブルジョア政党の自由党党首の田北俊は、香港定住を認めることになれば、失業率は30%に跳ね上がり、福祉や教育などに莫大な費用がかかるとして、香港人と大陸籍中国人の対立をあおっている。
 政府もそのデマゴギーに乗り、大陸籍中国人一世69万2千人のうち、7割の48万4千人が労働人口に加わり、そのすべてが失業することになると、香港の失業率は17・8%に達するという報告をまとめた。政府やブルジョアジーは、福祉や教育といった「コスト」のかかる定住権を持つ労働者よりも、より安価で搾取のしやすい外国人労働者を必要としているのだ。香港の労働運動は、このようなブルジョアジーのあからさまなデマゴキーに反対すると同時に、在香港の外国人労働者の権利をかちとる運動を進めなければならない。

ブルジョア政党との決別へ

 今年から香港では、5月1日が公休日となった。それは返還直前の97年6月に議会で採択され、返還後も中国派議員で固められた議会が覆さなかったからだ。もちろん「祖国」中国でも5月1日は公休日である。
 この日は悪天候にもかかわらず、前述の反失業聯席が午前中に集会を行った。房宇署労働組合大聯盟からも代表が駆けつけ、公務員労働者の闘いへの連帯を訴えた。午後からは工盟のデモが行われた。例年工盟のメーデーデモは三桁を超すことは稀なのだが、今年は厳しい情勢を反映して500人が集まった(ちなみに親中国系ナショナルセンターの工聯会は、「メーデーを祝う会」という千人規模のイベントを行った)。
 初めての公休日メーデーを前に、立法評議会でも最低賃金法案の審議が行われた。この動議を発動した工盟の事務局長で民主派政党の前線の議員でもある李卓人は審議の中で「労働者の賃金がこのような低い水準に切り下げられ、自由市場の効力が失われている」と訴えた。また民間の調査では85%の市民が同法案に賛成している。
 しかし、政府やブルジョア政党はそのような民意を無視するような反動的な立場に立つ。労工処(労働省)の張建宗処長は、「最低賃金の法制化によって最低賃金が最高賃金になるかもしれず、失業も増加するかもしれない」という前近代的で反動的な見解を明らかにした。また香港の経済団体の香港総商会の董建成主席は「最低賃金の法制化は、中小企業にとっては大きな負担になる」と語った。
 政府高官やブルジョアジーやその政党が最低賃金の法制化に反対するのは特に驚くにあたらない。しかし、4月29日、メーデー前日に行われた最低賃金法案の採決にあたり、採決を棄権した民主党の行為は特筆するに価するだろう。採決を棄権した理由として民主党議員の羅致光は「われわれは労働に尊厳が必要だというのには同意するが、最低賃金の法制化が最良の方法であるとは納得できない」と発言した。また、他の民主党議員は失業率の上昇を招くという理由を述べている。
 また、政府は公営業務の民営化や業務委託化を検討するために97年に新設された工商業サービス業推進署に、民営化政策とそれに関連する法律を専門に担当する副署長級の役職の増設とそれに伴う支出を求める法案を立法評議会に提出し、民主党を含む全てのブルジョア政党はこれに賛成した。これによって早ければ来年初めにも政府各部門の民営化案が立法評議会に提出されることになる。
 前述の房宇署民営化の際しての見解といい、一連の労働法案に対する敵対といい、今後香港の経済危機がますます深まっていく中で、民主党と民衆との距離はますます広がっていくことになるだろう。
 今回の民営化反対に端を発した公務員労働者の闘いは、70年代から80年代にかけて起こったベースアップや待遇改善のための闘争とは異なり、現在の香港経済の危機的状況のなかで進められようとしている香港ブルジョアジーの攻勢にたいする防衛的な闘争である。またこのような香港ブルジョアジーの攻勢の背景には、資本のグローバリゼーションのなかで全世界的に進められている新自由主義的政策がある。香港公務員労働者の闘いは資本のグローバリゼーションに抗する世界的な労働者階級の闘いの一環である。
 また、香港における公務員労働者の民営化反対の闘いは、同じ「国内」で一方的な民営化攻撃にさらされ、それに異議を唱えることも自らを防衛するために団結する権利も認められていない中国の労働者に対して、抵抗のための一つのモデルを提示している。もちろん香港の労働運動が直接大陸の労働運動と結びつくことは非常に困難であることには間違いはないのだが、大陸、香港、そして台湾をふくめた漢語圏の労働者の抵抗というグローバルな視点をもって具体的な連帯運動を進めよう。
 1999年6月20日 (早野 一)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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